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miniさん
平均点: 5.97点 書評数: 728件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.168 7点 海外ミステリ名作100選 ~ポオからP・D・ジェイムズまで- 事典・ガイド 2009/09/29 10:33
この手のベスト100やガイドと言うと、ジュリアン・シモンズ選サンデー・タイムズ紙ベスト99やクイーン&ハワード・ヘイクラフト選のものなどが有名だが、キーティングのベスト100はその線を狙ったものだろう
私はこの種のベストものは海外評論家によって選ばれたものが好き
たしかに日本人編集者選定の方が翻訳出版事情に準拠しているので実際に本を探す際には便利ではある
海外選定のものは未訳作品が含まれていたりで現実問題として本を読むのに参考にならないこともある
しかし少なくとも海外での作家の位置付けというものが分かる
何が言いたいのかと言うと、日本だけで人気のある作家と、日本では人気薄だが海外では評価が高い作家の違いを感じることができるのだ
例えばロジャー・スカーレットやフィルポッツなんて海外での名作表では滅多にお目にかかれない忘れられた作家で、日本での妙な人気が異常だと言える
乱歩の弊害だな
クロフツなども本国英国より日本での方が人気で翻訳にも恵まれ過ぎな印象がある
むしろ密室好きな日本人受けと思われがちなカーは、案外と海外でも普通に人気作家だったりするし、アリンガムなどは完全に海外での評価の方が高い

で、作家としても有名なキーティング編のベスト100だが、ジャンル別には分類せず純粋に年代順なので、シモンズ選のよりもミステリーの歴史が概観し易い
ただキーティングの論評は仔細に読むと結構類型的であまり目新しさは感じられず、その割には作品選択にちょっと奇を衒い過ぎな印象も一部に見受けられた
本格以外の分野で言うと、キーティングが英国人だからなのか、ハードボイルド私立探偵小説系よりも、サスペンス小説の選択に特色があって参考になった

No.167 5点 シャーロキアン殺人事件- アントニー・バウチャー 2009/09/26 10:09
昨日25日発売の早川ミステリマガジン10月号の特集は、”ドイル生誕150周年”
150周年なんて区切り方があるとは思わなかったよ
便乗企画としてシャーロキアンな話を

バウチャーと言えばアメリカを代表するミステリー評論家で、アントニー賞という賞もこの評論家を記念したものだ
SFも書いているがガチな本格も書いている
ただし現在普通に入手出来るものは無く、潰れた現代教養文庫とは言え最も古本屋で入手し易いのはこれだろう
ミステリー作家としてのバウチャーが活躍したのは、アメリカン本格が衰微していって貧血状態に陥っていた時期で、この作品を読んでもそれは感じられる
後に本格の主流がイネス、ブレイクらの英国教養派に移っていったのも仕方ないことだろう
この作品も完全にすれからし読者向きで、ホームズすら読んだ事がないような読者が読んでも面白さは分からない
ただしバウチャーにしては意外と文章は読み易い
アンソロジーでバウチャーの短編はいくつか知っていたが、文意がすっと頭に入ってこない文章を書く作家なので、長編だからなのか幾分マシな感じである
謎解き面も評判ほど悪くもなく、最初の事件などは映画会社なのを考慮して私は真相を見破ってしまったし、第二の殺人未遂事件も多分そうかなと見抜いたけど、ある重要な人物が登場人物一覧表に載ってないのを不思議に思っていたが、なるほどそういう事かよ

No.166 6点 思考機械の事件簿Ⅱ- ジャック・フットレル 2009/09/24 10:19
明日25日発売予定の早川ミステリマガジン10月号の特集は、”ドイル生誕150周年”
150周年なんて区切り方があるとは思わなかったよ
便乗企画としてホームズのライヴァルたち

創元文庫のホームズのライヴァル企画の内、思考機械だけは全3巻もあって唯一優遇されている
まあ他のライヴァルに比べると、オカルト色が有ってトリック中心という日本の本格読者がいかにも好みそうなタイプだもんな
Ⅰ巻目でも述べたが思考機械シリーズは案外とトリックはちゃちなものが多くて、トリックの質だけならソーンダイク博士シリーズの方が断然優れている
ソーンダイク博士はトリックが解明されると”へぇ~”って感じだが、思考機械はネタが明かされると”なぁ~んだ”となる
思考機械の持ち味はトリックそのものではなくて、現象の見せ方プレゼンテーションが際立っている点だ
このⅡ巻目収録でも「幽霊自動車」や中編「呪われた鉦(かね)」などはその典型例
「幽霊自動車」はトリックの真相は予想通りだったが、不可思議性をこれでもかと説明する演出は持ち味が良く出ている
もう一方の「呪われた鉦」は、この第Ⅱ巻のみならず他の思考機械シリーズと比較しても特に素晴らしく、真相は”なるほどね”程度だけれど、オカルト風な演出の上手さの面に脱帽で、ラストなどはカーの某有名作をさえ思わせる
中編の分量なのがネックだが、読者によっては「十三号独房の問題」よりも、この「呪われた鉦」を代表作に推すかもしれない
ちなみに”鐘”ではなくて”鉦”なのは、音程の違う複数の鐘がセットになった銅鐸みたいなものだからだろう
ラストの「幻の家」は、メイ夫人が書いた問題編に夫のフットレルが解決編を書いた合わせ技
本来は別々の作品扱いなのだが創元編集部で「幻の家」という仮の総合タイトルを付けたもの、勝手にこんな事しちゃっていいの?創元
謎の家の老人が足音も立てずに歩く謎までは解明出来ていないのが惜しいが、でもフットレルの解決編は上手い
しかしそれ以上に見事なのがメイ夫人の問題編で、夫より筆が立つんじゃねえの、怪奇小説を専門に書いてたらそれなりに名を残せたのではないかな

No.165 7点 ソーンダイク博士の事件簿Ⅱ- R・オースティン・フリーマン 2009/09/23 10:28
明後日25日発売予定の早川ミステリマガジン10月号の特集は、”ドイル生誕150周年”
150周年なんて区切り方があるとは思わなかったよ
便乗企画としてホームズのライヴァルたち

創元文庫のホームズのライヴァル企画はフットレルの思考機械だけが全3巻と優遇され過ぎているが、他に複数巻あるのがフリーマンのソーンダイク博士全2巻で、重要度から言ったらこちらは妥当だろう
Ⅰ巻目は原著第1短編集と倒叙短編集「歌う白骨」との折衷で、これは分離すべきだったんじゃないかな
Ⅰ巻目を第1短編集と他の重要短編との混載、Ⅱ巻目を「歌う白骨」完全版という編集にした方が良かったと思う
これだから創元の編集は下手糞なんだよな
結局Ⅱ巻目はその他重要短編の寄せ集めみたいになっちゃってⅠ巻目より意義が薄いものとなってしまっている
しかしだね、個々の短編の質的にはⅠ巻目を上回っている面もあるのだよな
フリーマンの倒叙短編は案外とそこそこで、普通の謎解き短編の方が面白い
短編ではフーダニット形式ではあまり複雑なものは狙い難く、ハウダニット一本勝負な方が短編という特質を活かし易いから、トリックメイカーのフリーマンには合っているのだろう
例えば「フィリス・アネズリーの受難」などはまさにトリックだけの話だが、短編一本を支えられるだけの大掛かりなトリックなので、フリーマンの真骨頂って感じだ
「ポインティング氏のアリバイ」は、トリック以外のプロットや謎解き面で初期作に比べて技巧の進歩が見られ、読者によってはソーンダイク博士短篇の代表作に推す人も居るかも知れない

No.164 5点 シャーロック・ホームズの災難(上)- アンソロジー(海外編集者) 2009/09/19 09:32
近日25日発売予定の早川ミステリマガジン10月号の特集は、”ドイル生誕150周年”
150周年なんて区切り方があるとは思わなかったよ
便乗企画としてホームズにちなんだ書評を

クイーンは編集者・アンソロジストとしての側面も見逃せないが、このホームズ・パロディ集は曰くがあって、ドイルの遺族に反対されたらしい
ホームズのパロディはそれこそホームズの第1短編集が刊行された直後から存在したようで、全部集めりゃ膨大な数になるんだろうな
その中から編集者クイーンが厳選したわけだが、アンソロジストとしてのクイーンはちょっとメタなものを好むようで、他のクイーン編纂アンソロジーにもその傾向がある
特にこのアンソロジーは嗜好が強く出ており、正統派の物真似パスティーシュっぽいものは少ない
パロディ作品中でも有名なヴィンセント・スタリット「稀覯本『ハムレット』」でも正攻法過ぎ位に思えちゃうもんな
例えばキャロリン・ウェルズ、バークリー、スチュアート・パーマーあたりはもう悪ふざけで編者クイーンの好みが出てるなあ
キャロリン・ウェルズは古典時代の女流大衆作家で、J・S・フレッチャーやエドガー・ウォーレス同様に多作な大衆作家って翻訳の盲点になっているので、どこかの出版社に頑張って欲しいものだ
意外にがっかりだったのは第ニ部の著名文学者編で、純文学者でホームズのパロディ書いた作家なんてもっと居そうだけどなあ
ブレット・ハートはミステリー専門作家じゃなかったんだ、知らなかったな、早川版「ホームズのライヴァルたち」にも収録されてるし、クイーンの定員にも入っていたし

No.163 2点 快盗ルビイ・マーチンスン- ヘンリー・スレッサー 2009/09/16 10:38
異色作家短編集には名前が無いヘンリー・スレッサー
全集から外された理由は要するに”異色”じゃないからだろう
スレッサーはヒチコックにも好まれた短編の名手である
しかし短編作家としては”奇妙な味”という形容詞は相応しくなく、オチの効いた切れ味鋭い普通のクライム・ストーリーを得意とする

私は短編に必ずしも切れ味鋭いオチだけを求める読者ではないし、意外な結末だけを重要視してはいない
しかし相手は天下のスレッサーであり、良い面が出た短編を私は知っているし、スレッサーなら少なくともオチの切れ味はあると期待するのも当然だろう
ところがこのオチがつまらない
短編作家としてのスレッサーは重厚感のある作風ではないから、オチに切れ味が無かったらスカスカで、登場人物・話の展開・結末、全てに魅力無し
特に酷いのが犯行計画の杜撰さで、おそらくは素人怪盗らしさを演出したかったのだろうと多少は弁護するが、素人の失敗譚のドタバタ顛末の面白さという点でも突き抜けているわけでもなく中途半端
ドラマ化の時、ルビイを男性から女性に設定変更したらしいが、キャラの魅力を考えればそりゃ妥当だ

No.162 8点 特別料理- スタンリイ・エリン 2009/09/12 10:50
異色短編作家スタンリイ・エリンはデビューしたのがEQMMで、この短編集も序文をエラリー・クイーンが書いている
あまり読んでないのだが、何巻か読んだ他の異色短編作家と比べてエリンの特徴は、例えばダールとかのような人を食ったような感じが無く、生真面目で直球勝負な作風だなという印象である
読んだ異色短編作家の中でも最も硬派なイメージだ
特に得意なのが解決を読者に委ねる手法で、こういうリドル・ストーリー的な手法を普通の作家がやると気障っぽさが目立ってしまうのだが、エリンの場合は真面目で真摯な態度によって嫌味を感じさせない
スパッと割り切れる解決を好む読者向きでは無いし決して切れ味のある短編作家では無いが、深層心理を赤裸々に語るような重厚かつ緻密な作風は、数多い異色短編作家の中でもある意味逆説的に異色である

No.161 3点 呪われた町- スティーヴン・キング 2009/09/07 10:00
キング・オブ・ホラーことスティーヴン・キング
恥ずかしいのだがキングは初読みで、先入観でもっと視覚的イメージに溢れたサスペンスフルなホラーなのかと思っていたらそうでもなかった
プロットは単純で、小さな町を蹂躙しようとする吸血鬼に対し、町の有志が対峙するというそれだけな話
この昔ながらのモチーフを現代の視点でどう書くか、というのが主眼で、作者を弁護すればこういう古いテーマ性というのは「呪われた町」だけで、他の作品はもっとモダンなテーマを扱っているらしいのではあるが
登場人物の会話を中心にしたエピソードの羅列といった印象で、プロット全体でグッと迫ってくるものが無い
例えば年月日を一々表記したりとかリアリティの描出には気を配っていて、こうした個々の場面の具体的な描写には精彩がある
断片的な個々の描写は上手いのに、全体が纏めきれていない感じだ

ジャンルによって評価範囲を変えるのはしない主義なので、点数が低いのは超自然を扱っているからではない
レ・ファニュとか古典的な怪奇小説などは好きなんだけどねえ

No.160 5点 コフィン・ダンサー- ジェフリー・ディーヴァー 2009/08/28 10:15
発売中の早川ミステリマガジン10月号の特集は、ジェフリー・ディーヴァーのツイスト
便乗企画としてライムシリーズ第ニ弾

明らかに本格派作家ではないのに、妙に本格偏愛読者に人気がある現代作家がディーヴァーだ
ライムシリーズの中でも最も定評があるのがシリーズ第2作の「コフィン・ダンサー」だろう
ディーヴァーと言えば意外性だけど、シリーズ第1作「ボーン・コレクター」でも強烈なサプライズはあったが、あれは意外性の為の意外性みたいなもので、後付けのような唐突感に素直には納得出来ない感があった
その点「コフィン・ダンサー」のはプロットと有機的に結び付いた意外性なので、前作よりは遥に”なるほどね”って感じではある
とにかく殺し屋ダンサーに関する意外性たるや強烈で、特に殺し屋を過去に唯一目撃していた人物の正体には本格中心な読者でもびっくらすると思う
むしろ最後に明かされる依頼人である黒幕の正体の方が平凡で全然面白くない
黒幕の正体は私も最初から疑っていたし、読んだ人の半分以上は気付くんじゃないかな
ただダンサーに関する意外性だけど、アレがバレる恐れもあるのだから、こんな計画を立てるかなあという疑問もあるけどね
まあでもディーヴァーという作家が好きじゃないから5点にしたけれど、あくまでも”強烈な意外性だけ”なら6点以上でもおかしくはないと思う
ミステリー読み慣れてる私でも驚いたもん

No.159 6点 醜聞の館-ゴア大佐第三の事件- リン・ブロック 2009/08/24 10:13
ヴァン・ダインの「ウィンター殺人事件」には評論のようなものが併録されているが、その中にリン・ブロックという名前が出てくる
このリン・ブロックは戦前から名前だけは知られていたようで、以来何度も翻訳出版の噂が立っては消えた幻の作家であった
第1作と2作は未だ幻のままだが、この第3作が順番は悪いが数年前についに翻訳され、海外古典における論創社の貢献度は計り知れない
第1作ではなかったのは、何か権利関係とかの都合でもあったのだろうか?

さていざ読んだ人の間では賛否両論のようで、案外とがっかりしたという意見もあるようだが、しかしそれは1930年代のクイーンやカーみたいなのを期待するからだろう
リン・ブロックは活躍時期が20年代であり、若干前の時代の作家なので、比べるべき作家達が違う
それどころか20年代真っ只中の他の作家と比べたらはるかに現代的なのに驚く
内容は全く本格ではあるが、後に30年代に興隆となるハードボイルドを思わせるような雰囲気や、男女の倫理観など、時代を先取りしている
まあ日本の読者の悪い習性で、トリックがどうだとか、そういう観点でしか見ない人が多いからなあ

No.158 6点 泥棒は選べない- ローレンス・ブロック 2009/08/22 10:09
ローレンス・ブロックは読みたい作家ではあったのだが、私が酒が苦手なのでマット・スカダーものには手が出なかった
そこで作者を代表するもう一つのシリーズ、泥棒バーニー・ローデンバーを読んでみた
ローレンス・ブロックは文章が独特で、流れるような文体は決して読み難くは無いのだが、ちょっとひねくれた注釈をいちいち差し挟む感じは好き嫌いが分かれるかもしれない
ミステリーとしては期待以上で、私は見破ってしまったのだが、本格しか読まないような読者が読んでも楽しめるような意外な真相解明が待っている
と言うか探偵役の職業が泥棒という設定だけで、半分は本格として書かれているだろ、これ
ブロックのようないかにもな職人気質な作家は敬遠されがちだが、いやどうして良い意味での職人技だし、今やアメリカを代表する現代ミステリー作家という一般的評価は全く妥当だ

No.157 5点 血は冷たく流れる- ロバート・ブロック 2009/08/22 10:03
異色短編作家ロバート・ブロックは、ヒチコック監督映画にもなった「サイコ」が最も有名だが、長編だと「サイコ」以外は他にあまり一般的高評価なものは無く、本質はやはり短編向きな作家なのだろう
特に得意なのが言葉のマジックで、”単語”に意味深なニュアンスを含ませる技巧が鮮やかである
ただし悪く言えば単なる言葉遊び駄洒落ネタに陥っているのもあり、先に書評を書いたジョン・コリアに比べるとちょっと格が落ちる気がしないでもない
むしろ「針」のような純粋にホラーとして書いた短編の方が本領が発揮されていると思った
もう一つの得意技が、演劇や映画業界に題材をとった作品群で数も多い
中でも「最後の演技」は戦慄の短編で、アイデア一発芸なのだが、このオチには思わずのけぞった
この短編集はどちらかと言えばミステリー寄りだが、もっとホラー短編の比率を増やした方が全体の水準が上がったのではないかな

No.156 7点 炎のなかの絵- ジョン・コリア 2009/08/20 10:14
異色短編作家ジョン・コリアは、英国作家らしい気品とユーモアと皮肉な切れ味で、本場アメリカの異色短編作家達とは一線を画している
特に得意なのが擬人法で、読者によっては擬人法という手法を好まない人もいるみたいだが、コリアの擬人法は代表作の1つ「みどりの想い」を見ても素晴らしいものである
残念ながら「みどりの想い」はこの短編集には収録されていないが、代わりに「マドモアゼル・キキ」や「ギャヴィン・オリアリー」といった「みどりの想い」さえ上回るような傑作短編が入っている
その他の短編もコリアの持ち味が存分に発揮された粒揃いの短編集だ
ところでこの異色作家短編集という全集の中でもコリアのは収録短編数が20編と多い方らしく、コリアの場合は各短編の長さが他の作家に比べて短めであるということだね

No.155 5点 脅迫- ビル・プロンジーニ 2009/08/13 10:35
発売中の早川ミステリマガジン9月号の特集は、”密室がいっぱい!”
便乗企画として本格"以外"の密室ものを

名無しシリーズの中でも密室ものとして有名な作品
しかし密室という語句に魅かれて本格偏愛者が読んでもあまり面白くは無いかもしれない
基本的にネオ・ハードボイルドの人だし
しかもハードボイルドとしては「殺意」の方が魅力があったし、終盤のスリルは「死角」の方があったし
結局「脅迫」の場合はハードボイルドから見ても本格から見ても中途半端感は否めず

それにしてもプロンジーニって、マルツバーグとの共作作品だけで語られてしまう悪しき風潮なのが残念
「裁くのは誰か?」だってプロンジーニ作品として読まれているのではなくて、叙述サプライズ系ばかり探してる類の読者に読まれてるって感じだもんな
日本の読者ってよくよく叙述な仕掛けばかり求めるんだよな

No.154 6点 白夜に惑う夏- アン・クリーヴス 2009/08/10 10:00
夏だからね(^_^;)
シェトランド四重奏の二作目は夏の観光シーズンが舞台だが、原題にはsummerの文字は無い
一作目がblack、二作目がwhite、今後翻訳予定の三作目がred、四作目がblueと色で統一している
解説にもある通り前作「大鴉の啼く冬」に比べると共通点も多いが、若干違いもあって、章単位で視点となる人物を代えて話が進むのがシリーズの特徴らしいけれど
前作ではそれを四人に絞り込んだのが緊張感を生み素晴らしい効果を挙げていたのだが、今回は多彩な人物の視点だったり、主役ペレス警部の章が連続したりと、プロット的にやや散漫な印象を受けるのが難
それと解決編で真相が告白証言によって明らかになるのを興醒めに感じる人もいるかも知れないが、弁護すると探偵が推理を述べて真相が明らかになる解決編だけが全てではないし、そもそも探偵の推理自体が結構当てずっぽうてのはよくあるし、特にこのシリーズは途中経過を楽しむ話だと思うので

No.153 4点 夏の稲妻- キース・ピータースン 2009/08/04 10:30
夏だからね(^_^;)
本名のアンドリュー・クラヴァン名義は登録済みで既に書評書かれた方もいるようですね
クラヴァンはマンネリを嫌う性格なのか、せっかくピータースン名義の新聞記者ウェルズもので人気を得てMWA賞ペイパーバック賞まで受賞したのに、シリーズを4作で止めてしまった
その後クラヴァン名義ではサスペンス調に転向したり、色々な傾向のものを書いているようだ
同時にいくつものシリーズを並行して書いているのではなく、どうも同じシリーズを続けるのが好きじゃないのだろう
ピータースン名義のウェルズものは事件記者という職業だが、内容はハードボイルドと思って間違いない
主人公の熱い性格にハマル人もいると思うが、私はちょっと苦手
ラストなど感動的なのだが、途中でこの展開だったらこう締め括るよりないんじゃないのと予想した通りで、やはりキャラ萌え出来るか否かが勝負のシリーズですな
ちなみに同僚の女性記者ランシングは、ハードボイルド史上最も萌え~な女性キャラとして有名だが、そこまで魅力的なのかなあ?

No.152 7点 密室- マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー 2009/07/31 09:50
発売中の早川ミステリマガジン9月号の特集は、”密室がいっぱい!”
便乗企画として本格"以外"の密室ものを

前作で負傷し入院したマルティン・ベックは、退院後の病みあがりなので1人だけ一見すると地味な自殺事件の担当に割り振られたが、それは密室殺人事件だった
一方他の主要メンバーはブルドーザー・オルソン検事の陣頭指揮の元、派手に銀行強盗を追うのだったが・・

今回はオルソン検事のワンマンショーと化してる(笑)
はっきり言ってこれギャグだろ(さらに笑)
ストレートな警察小説だった前期の「笑う警官」とはタイプが違い、社会制度の矛盾とかの要素を入れるようになった後期の作
題名の”密室”というのも、そのまま密室殺人事件の意味と、社会の閉塞感の両方に掛けている
密室トリックに過大な期待をしちゃ駄目よ(最後に笑)

No.151 6点 殺意の夏- セバスチアン・ジャプリゾ 2009/07/27 10:04
* 夏だからね(^_^;) *
1作だけのイメージで語られてしまう不幸な作家はよく居るが、ジャプリゾも「シンデレラの罠」しか読まれていない風潮があって、トリッキーな作家と誤解されてるようだ
全体としては普通にサスペンス作家らしいようで、そもそも「シンデレラの罠」だって一人四役という宣伝文句で本格を期待して読む読者が多いが、あれはどう見てもサスペンス小説でしょ
作者自身もミステリーとして書いたのは初期の2作だけだと語っていたし、「シンデレラ」以外の作の方が作者の本質である可能性が高いが、実際「殺意の夏」を読むとそう思う
一般文学として書かれたような感じだが、ミステリー小説だとも言えなくは無い
あるガイド本では最高傑作とあったが、その評価分かるし、この作品こそ作者の本質なんじゃないかな

No.150 6点 殺意の楔- エド・マクベイン 2009/07/25 10:06
本日発売の早川ミステリマガジン9月号の特集は、”密室がいっぱい!”
便乗企画として本格以外の密室ものを

私が初めてこのサイト訪れた時に登録済みの海外作家名で驚いたのが、とにかく本格に偏ってるなぁという印象
本格だと書評書く人いるのかいな?と思うようなマイナー作家まで細かく拾ってる割には、巨匠であっても本格以外は無視されチャンドラーもハメットも登録されてなかったりで、唯一ロスマクの名はあったが、どうも本格の延長という観点で読まれてる風だし
警察小説もスルー状態で巨匠マクベインの名も無かった
現在でもマクベインの書評は私がこれ書く前はたったの1件
とは言うものの、警察小説が好きな私でもマクベインはちょっと苦手なんだよな
じみ地道な捜査過程が好きな私としては、警察小説とは言ってもやや方向性が合わない感じでね
でもマクベインの名が無い総合書評サイトなんて考えられないので一応書く
「殺意の楔」は半分は密室ものである
あとの半分は87分署を脅迫に来た女によるサスペンスで、この互いに無関係の二つの事件が交互に同時進行で進むモデュラー型だ
題名の「楔」というのが実に意味深

No.149 7点 泣き声は聞こえない- シーリア・フレムリン 2009/07/22 09:39
創元文庫創刊50周年記念フェアの時に国内の各作家が推薦した作品が復刊されたが、桜庭一樹の推薦作がこれだった
サスペンス小説はアメリカの専売特許と思われがちだが、英国にも良い女流サスペンス作家は居るのだ
シーリア・フレムリンは活躍時期こそルース・レンデルと近いが作風は全く違い、レンデルのようなこってり型ではなく、ヴェルヴェットタッチなやさしいサスペンス
レンデルがCWA賞を受賞しているのに対して、フレムリンは同じ英国作家なのにデビュー作「夜明け前の時」はMWA賞を受賞しており、アメリカ作家っぽい作風がアメリカの評論家に受けたのだろうか
この「泣き声は聞こえない」も、はらはらドキドキ型とは正反対の穏やかな展開の果てにラストでは意外な真相が隠されているという魅力的な作品だ
桜庭一樹のファンには合うという意見もあるようだが、私は桜庭は未読なんでその辺は分かりません

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