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miniさん
平均点: 5.97点 書評数: 728件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.408 6点 フランス鍵の秘密- フランク・グルーバー 2012/09/27 09:52
* これは書評済だったけど一旦削除して再登録(苦笑)

戦後に流行した通俗B級ハードボイルドだが、戦前戦中にかけてこの分野の先駆者となった2人の作家を忘れるわけにはいかない
1人目は言うまでもなくジョナサン・ラティマーだが、もう1人がフランク・グルーバーである
どちらも通俗臭の強い作風で、ハードボイルドとしては謎解きパズラー色も強いという面でも共通している
1つ大きな違いはラティマー作品にはビル・クレインという私立探偵が登場するが、グルーバーの有名な探偵役はフレッチャーとサムの名コンビが私立探偵という職業では無い事だ
テキ屋っぽいアマチュア探偵であるこの2人が事件に巻き込まれ、否応無く事件の真相を探らざるを得ない状況に追い込まれるのだ
グルーバーはラティマーほど文章がお下品ではないが、ドタバタ度ではむしろ優りテンポが良い、私は両者共に好きな作家だが
ハードボイルドミステリーというのは文学性、精神性みたいな面で捉えるような分野ではないのではないかとずっと思っいて、英国作家に対抗してアメリカ作家が個性を出そうとして生み出した成果という気がするんだよなぁ
グルーバーなどはそれが良い方向に出た一例だろう

No.407 5点 フランス白粉の秘密- エラリイ・クイーン 2012/09/27 09:50
本日27日に創元文庫から「フランス白粉の謎」の中村有希による新訳版が刊行となる
創元では昨年も「ローマ帽子」の同訳者による新訳版が出ており、どうやら創元の国名シリーズは全面改訂の予定らしい、個人的には旧版の井上勇訳が活気があって好きだったんだけどなぁ
翻訳者にも相性が有って、文章がす~っと頭に入ってこなくて私はどうも中村有希は苦手な翻訳者の1人なのだ
* 「フランス白粉」は書評済だったが便乗企画として一旦削除して再登録

ロジック面でしか語られない事の多いクイーンだが、風俗小説的な面も見逃せない
クイーンはよく冒頭で、”その年のブロードウェイは誰々の話題でもちきりだった”みたいな文章から始めて、当時の大都会の現代社会風俗や季節感を活写しようとの意図が窺える
劇場、デパート、病院といった舞台設定もそうだし
結構、書き出しに気を配る作家だよなぁ

謎解き面での初期クイーンの特徴は犯人の設定だ
別作品での書評中でkanamoriさんが”属性による意外性”という表現を使用されてましたが、流石はkanamoriさん的確で鋭い表現ですね
そう”人物の属性”ですよね、クイーンほど犯人の設定に”属性”を利用した作家は少ないでしょう
後には”プロットの展開”によるパターンも書いてるけど、その手法だとどうもクリスティやカーほど上手くない
やはり”属性”有ってのクイーンな気がする
この「フランス白粉」でも結局は”属性”パターンの一種で、クイーンはこのパターンがお好きなようで、しかもストレートには使わず他の某国名シリーズ作品同様にアレンジして使っている
”属性”が決まれば後はいかにして1人に絞り込むかをお膳立てするかで、まさにその作法通りの作だ
その意味では「ローマ」「フランス」「オランダ」ともに同工異曲であり差は無い
ただ私はミステリー小説を読者挑戦パズルという認識で解釈しておらず、ミステリー小説に於いてロジックを重要だと思った事がない読者なので、もう少し物語性が欲しいなぁ

No.406 6点 幽霊探偵からのメッセージ- アリス・キンバリー 2012/09/25 09:57
本日25日発売の早川ミステリマガジン11月号の特集は、”ブックショップの事件簿”
ビブリオ・ミステリーという分野の作品は多いが、それだとちょっと特集とは違うよな
”ショップ”という語句が付いてる以上は、単に”本にまつわるetc”じゃなくて、はっきり”書店”じゃないと駄目だよな
書店主が探偵役と言うと、ジョン・ダニングあたりを思い浮かべる人も居ようが、それよりもコージー派に多い印象がある

ミステリー書店系コージー派
ミステリー書店主を探偵役に据えたアリス・キンバリーの幽霊探偵シリーズは、コージー派の中でも面白い趣向を持っている
40年代に仕事中に撃たれて命を落とした私立探偵が現代に甦り、ミステリー専門書店の女店主ぺネロピーにとり憑くのである
過去に死んだ私立探偵の幽霊と現代に生きるぺネロピーが、脳内で会話をかわしながら事件の調査をするのが基本設定だ
ぺネロピーは探偵役としては全くのド素人だけに、私立探偵の幽霊がプロの目から見たアドバイスを贈る訳である
それだったら幽霊が自ら謎を解けばいいわけだが、何分にも幽霊なので地縛霊のように死んだ場所から動けずに行動範囲が書店に限られるのである
そこで幽霊と違って足が有るぺネロピーが情報をかき集め、幽霊との二人二脚で事件の検討をするわけだ

こうしたジャンルミックス的趣向はややもすると中途半端で趣向倒れにおわりがちだが、このシリーズはそれが上手くいっているんじゃないだろうか
コージー派とハードボイルドというと従来から水と油みたいな対立関係に有るわけだが、それを融合してしまうとはよく思い付いたものだ
基本はコージー派なんだけど、コージー派とハードボイルドの良いとこ取りって感じで両ジャンルとも読む私のような読者には、シリーズ第1作のこの作も面白く読めた
謎解き面にもうちょっとセンスが有ればさらに高い点数付けたんだけどなぁ

No.405 6点 悪魔を呼び起こせ- デレック・スミス 2012/09/21 09:40
”本の雑誌社”というベタな名前の出版社が在る、本に関する話題がテーマのその名も月刊『本の雑誌』という雑誌を出していて、最新号で採り上げているのは国書刊行会だ
もちろん一般的文芸の出版社としての採り上げ方なわけだが、我々ミステリー読者からしてみれば国書刊行会には足を向けて眠れません的な出版社である事は説明の要はないだろう
国書が先鞭をつけたから論創社などの後続の商売が成り立ったんだろうしね
国書の世界探偵小説全集だからこそ出せた作品はいくつも有るが、「悪魔を呼び起こせ」もそんな1冊

* 今年の私的読書テーマの1つ、”スミス姓の作家を漁る”の1人

ミステリー作家にはアマチュア作家も数多いが、デレック・スミスは自身が密室作品コレクターで、密室好きが高じて自分でもこんなん書いちゃいましたってのがこの作だ
良い意味でたしかにいかにもアマチュアのマニアが書きましたって感じの丹念な密室本格である
残念ながら私は密室トリックはほぼ分かってしまった、事件の概要からして、こいつが○○○で、こういう風な手順で行なえば成立するのではないかと推測したら大体はその通りだった
部屋の鍵の後処理まで気を回せば完璧に見破れたのになぁ
第2の事件の方も、要するにあれじゃなくてこっちを○かせば成立するのではと思ったらやはりその通りだった
アマチュア作家って、大真面目に書く人と、おふざけで書く人と両極端な印象が有るが
この作品は真面目に書き過ぎて、よく考えれば見抜けてしまうが、その真面目さが取り柄となって佳作になったのだと思う

No.404 6点 ミス・メルヴィルの後悔- イーヴリン・E・スミス 2012/09/18 10:01
* 今年が生誕100周年にあたる作家シリーズは一応区切りをつけて終了する事にして、今年の私的読書テーマの1つ、”スミス姓の作家を漁る”シリーズを再開しよう

イーヴリン・E・スミスのミス・メルヴィルのシリーズは、アメリカの現代ミステリーではよく名前が出るので、かなり人気シリーズなようだ
作者は意外と高齢で60歳近くになってのミステリーデビューだからかなり遅咲きのくちだが、実は他のジャンルでは以前にかなりキャリアが有り、ミステリーに手を染めるのが遅かったというタイプだ
だからかミステリー第1作「ミス・メルヴィルの後悔」では、第1作らしい初々しさが微塵も無く、妙に小説に手馴れた印象を受けるのもその為だろう
普通に謎が解かれるタイプの作品しか読まないような読者には全く合わないが、この作品は従来のミステリーの形式に全く縛られていない事こそが魅力だ
ミス・メルヴィルは中年のオールドミスで名家の生まれなのだが事情が有って一文無しになる、食う為に始めたのが”パーティーもぐり”、こんな言葉初めて聞いたよ、その会場で偶然会った殺し屋からスカウトされて殺し屋に転身
という内容だがこれは単なる発端ではない、それから殺し屋を続ける過程など全てが物語なのだ
つまり全体を貫く謎というものは無いのだ、いや一つだけ有る、元締めの黒幕は誰かという謎だが、別にこの謎を巡って話が進むわけじゃない
要するにミス・メルヴィルが殺し屋になる経緯とその後が紆余曲折有りながらも語られるだけなのだ、しかしそれが面白い
”悪人なら抹殺されても仕方が無い”という言い分を、作者がマジな気持ちで書いているとしたら法治国家の住人としてとうてい賛同出来無いが、やはりこれパロディとして書いているんじゃないかなぁ
何となくローレンス・ブロックの殺し屋ケラーの中年女版みたいな感じもするが、古い時代劇ファンだと必殺仕事人を連想する人も居るかも

No.403 6点 メリー・ウィドウの航海- ニコラス・ブレイク 2012/09/18 09:56
* 今年の生誕100周年作家シリーズも終りになるので、今年の私的読書テーマの1つ、”船上ミステリーを漁る”シリーズを再開することにする
この作は書評済だったんだけど、一旦削除して再登録

冒頭はギリシア観光クルーズ船に乗り込む場面から始まりワクワクさせるんだが、実は案外と船上ミステリーじゃないんだ(苦笑)
エーゲ海上の島などの観光スポットに上陸する場面が意外と多く、船上シーンは全体の半分強程
ネタバレしないように慎重に書くが、しかも謎や伏線も船上だけでなく観光名所で下船してからの舞台も絡んだりしているので、”100%純粋に船上ミステリー”とは言い難いのだ
でも関係者容疑者は全員が乗客の中に混ざっており、一応は船上ミステリーの体は成しているので良しとしよう
本格として無難に纏まっていて、kanamoriさんも述べられたような”まずまずの佳作”という表現がしっくりきますね
イネス、ヘアー、クリスピン等と並ぶ英国教養派を代表する作家ブレイクにしては普通の本格過ぎる印象
黄金時代風本格そのままな感じで、私のように作家それぞれの個性を重んじるタイプの書評子には、ちょっとありきたりだと思うな、これぞブレイクと思わせる要素が欠けている
推理分析の濃厚さと教養がマッチした「殺しにいたるメモ」と、特異なプロットを持つ「野獣死すべし」の強烈な2トップに比べると、「メリー・ウィドウ」の淡白さは否定出来ない、代表作とは呼べないでしょう
まぁ逆に言えば、型破りなものが苦手な保守的な読者には、「野獣死すべし」とかよりもこっちの方が合うかも

No.402 6点 赤毛の男の妻- ビル・S・バリンジャー 2012/09/14 09:57
* 1912年生まれ、つまり今年が生誕100周年にあたる作家は意外と多い、今年の私的読書テーマ、”生誕100周年作家を漁る”、第3弾ビル・S・バリンジャーの3冊目
多分、今年の生誕100周年シリーズはこれで終りになるかな

「赤毛の男の妻」は私が読んだバリンジャー作品の中では最も人物描写が濃厚で感動と読み応えがあった
ただバリンジャーと言うとどうしても”叙述な仕掛け”がどうのだとかの視点で語られがちなので、ちょっと語ろう
「消された時間」や「歯と爪」は、誰が読んでも作者の狙いというものは読み取り損なうことはないだろう、もし理解出来ない人が居るとしたら、ミステリーを読むだけの自身の理解力の欠如を疑った方がいい
つまり上記2作を読み解くには、別段の特殊知識は必要無いわけだ
しかしだね、この「赤毛の男の妻」に関しては少々の補足説明が必要なんじゃないだろうか
理解するには前提となっているアメリカ社会ならではのある知識が必要で、それが無いと頭が良い人でもラストのオチの意味が分り難いと思うからだ、特に日本人にはね
実際に作中でも”分かる人には分かる”的な書き方がされてるし

* 未読な人でネタバレが気になる読者は以下の文は閲覧しない方がいいかも

異説も有るが、昔からアイルランド人には赤毛が多いという俗説がある、題名の赤毛もこれを意識しているんだろう
さてその昔、アメリカ大陸へ欧州から沢山の移民が海を渡ったのだが、その欧州の国々や人種は数の多少は有れど様々であり当然ながら言語も違う
しかし英国系移民を中心に次第に英語に統一されていくわけだ
もちろん例えばルイジアナ州などフランス系移民の影響力の強い州も在るし、隣国カナダなどはフランス文化の比率は高い
でもやはりアメリカは英語圏なわけだ、そうなるとフランス系、ドイツ系、スペイン系、イタリア系(マフィアや刑事コロンボなんかがそうだよな)の移民などは英語を話す必要に迫られることになる
ところがアイルランド人はケルト民族なので英国人とは人種は違うが、英国とは隣国でもあり、まぁ訛りは有っても基本英語は話せるわけだ
だからアイルランド人は仮に特技が無かったとしても公務員などに採用されやすいという利点が有ったのだ
歴史的にアイルランド系移民はアメリカ社会の中で、消防士や警官などの職に就く比率が高い事はアメリカ社会の定説の一つである、アイルランド人種は背が高く体もがっちりしてるしね
つまり”赤毛=アイルランド系=警官”というのはアメリカ人のイメージの中では当時としては象徴的な図式だったのである
対して○人のイメージはというと、○人=犯罪者みたいな偏見が持たれるのもアメリカ社会である
この「赤毛の男の妻」という作品はそういうことなんでしょ、追う警官と逃亡者との逆転構図オチ
ネット上でも単にラストの刑事のオチだけを論じて”だから何?”みたいな書評をよく見かけるが、赤毛の男と対比しなくちゃ意味無いし刑事の正体だけだと作者の意図を半分も解ってないんじゃないかなぁ

No.401 3点 メソポタミヤの殺人- アガサ・クリスティー 2012/09/11 09:55
本日11日夜にWCアジア最終予選、日本Vsイラクの試合が行なわれる
イラク監督は元日本代表監督のジーコなので、新旧日本代表監督決戦となるわけだ
イラクが舞台のミステリーと言うとクリスティの2冊、「メソポタミヤの殺人」と「バグダッドの秘密」となるわけだが、「バグダッドの秘密」は未読なので今回は「メソポタミヤの殺人」だ

「メソポタミヤの殺人」を読んだのはすげ~前でさ、しかも印象が薄くて内容を殆ど覚えてなかったから軽く読み直しちゃったよ
何でそんなに印象が薄かったのかと言うと、一つには考古学的発掘現場という一種のクローズドサークルな舞台なので、中近東ものらしいエキゾチズム漂う魅力に欠けるという理由もある
でもやはり犯人とトリックがありきたりだからというのが最大原因だからだろう

*! 以下は直接のネタバレではないが、「葬儀を終えて」と「満潮に乗って」のどちらかが未読な人にはネタバレになるので避けてた方がいいです

昨今は”○○トリック”や”○り○○し”トリックや”○れ○○り”トリックというものをやたらと忌み嫌う読者が多い気がするが、私は○○トリックに格別のアレルギーは無いのであまり気にしないタイプである、しかしだ、この「メソポタミヤ」はいただけない
当サイトでのseiryuuさんや空さんの書評で御指摘の通りで、これは無理があるな
「葬儀を終えて」や「満潮に乗って」は強ち不自然だとも言えないと私は思う、関係者とっては”よくは○らぬ○○”だったりするわけだからね、滅多に合わない遠い○○なんて顔も覚えてないなんてざらにあるしね
でも「メソポタミヤ」の場合は全くの○○じゃ無いんだぜ、普通気付くだろ
「葬儀を終えて」には難癖付けておいて、この「メソポタミヤ」に寛大な読者が居るとしたらダブルスタンダードもいいとことろだ
殺害トリックもつまらないし内容をすっかり忘れていたのも当然だなと自分自身で納得した

No.400 6点 マルタの鷹- ダシール・ハメット 2012/09/07 09:57
本日27日に早川文庫から「マルタの鷹 改訳決定版」が発売される
新訳じゃなくて改訳、という事は早川だから旧版と同じ小鷹信光訳になるわけじゃな
え?、旧小鷹訳って何か問題が有るように言われてた訳だったっけ?、単に小鷹センセ本人が完璧を期したいという意向なんでしょうかね

ハメットを代表するキャラはコンチネンタル・オプである
ハメットは長編数が少なくしかもそれぞれに特徴が有るが、短篇群ではノンシリーズ以外ではやはりオプものの短篇は多い
それに比べてサム・スペードの登場する短篇は少なく数編しかなくて、唯一の長編が「マルタの鷹」である
オプとスペードとの決定的違いは、オプが探偵社に勤める組織の一員という立場だという事だ
作者自身も元探偵社社員だっただけに言わば勝手知りたる世界であり、オプみたいのは他の作家ではおそらく書けないだろうし後続の作家に真似が出来ないという事は元祖にならないという意味でもある
「マルタの鷹」の意義はここに有るのではないだろうか、戦後に大量に書かれた私立探偵小説のプロトタイプとして、正統ハードボイルドの礎を築いた作品という意味で
事件や人物以上に舞台となる街が主役みたいな感覚も、後続のハードボイルドに影響を与えているのではないか?
作者らしくない作とも言えるのでハメットの代表作とは見なせない、しかし歴史的意義では相応の評価をされるべき作だと思う

それにしても当サイトでの私の書評が5件目って、有名作な割に読まれてねえんだなぁ

No.399 6点 英国風の殺人- シリル・ヘアー 2012/09/03 09:45
ロンドン五輪は閉幕したがパラリンピックが始まった、ロンドンでなく地方都市でだが英国はパラリンピック発祥の地らしい
ワールドカップと違い五輪は都市単位開催なので、ロンドンのみと英国全体とは意味が違うが、ここは英国にちなんだ作品を、そのものズバリ「英国風の殺人」だ、読んだのはすげ~前だから忘れてたよ

この作品の肝は題名通りのまさに”英国風な動機”なのだ、他の国では通用しない特殊な動機であり当然ながら日本人にも意味を成さない
しかしである、だから動機が理解出来ずつまらないかと言うと、全くそんな事は無い
英国独特な制度はちゃんと説明されてるし日本人から見ても理解できるし、他の作では見られない面白い動機だ
舞台設定が純然たる”雪の山荘テーマ”なのが個人的には気に入らないのだが、ヘアーの代表作とまでは言えないものの十分に評価出来る佳作だと思う
イネス、ブレイク、クリスピンらの英国教養派は、”教養”という語句とは裏腹に案外と重厚感よりも軽妙洒脱が売りなのだが、その英国教養派の1人ヘアーらしい小粋な作品だ

※ そう言えばNHK公式五輪テーマソングは『風がふいている(いきものがかり)』だけど、シリル・ヘアーにも「風が吹く時」という作品が有るのも何かの縁か

No.398 4点 ツーリスト・トラップ- ジュリー・スミス 2012/08/31 10:06
* 今年の私的マイブームの1つ、スミス姓の作家を漁る

ジュリー・スミスは馴染みの無い作家かも知れないが、90年代以降のアメリカ女流作家の中では時々名前が挙がるのでそれなりに人気作家なのだろう
主人公は女弁護士で、80年代後半に登場し活躍時期が90年代である事から見てもリーガルサスペンスブームに乗って登場した作家かなとも思った
ただ読んで見ると、たしかに後半には裁判シーンが続くが、リーガルサスペンス作家達に比べると場面が軽く、あまりその分野らしさは感じられない
そうかと言ってこれも活躍時期が近いP・コーンウェルの検視官シリーズのようなその道のプロ的意識も感じられない
どうもそれらのブームに乗っかって、女性を主人公にしたのを書きたかったという事なんだろうけど、シリアルキラーを描きながらも全体に軽いノリで、リーガルものとしてみても、P・コーンウェルの亜流としてみても中途半端さは否めない
また主人公はプロなのだから軽いからといっても決してコージー派では絶対ない
日本で言うところの、女弁護士が主役の2時間サスペンスドラマの原作みたいなイメージだった
ジュリー・スミスには他にも女刑事を主役に据えたシリーズがあるらしく、広い意味でプロの女性が主役の軽いシリーズ作家という捉え方でいいのではないだろうか

No.397 6点 逃げる男のバラード- シェリイ・スミス 2012/08/31 09:59
* 今年の私的マイブームの1つ、スミス姓の作家を漁る

* 1912年生まれ、つまり今年が生誕100周年の作家は意外と多い
今年の私的読書テーマ、”生誕100周年の作家を漁る”、第2弾シェリイ・スミスの2冊目

お伽噺風本格の趣だった「午後の死」とはかなりイメージが違い、一般的なサスペンス小説である
シェリイ・スミスという作家の本質は案外とこういう路線なんじゃないかなと思った
サスペンス小説が苦手で本格派しか読みませんてな視野の狭い読者には”館もの”風の「午後の死」の方が合うだろうが、サスペンス小説に偏見の無い読者にはこっちの「逃げる男のバラード」の方が面白いんじゃないかなぁ

No.396 5点 怪奇小説傑作集3- アンソロジー(出版社編) 2012/08/28 09:55
発売中の創元「ミステリーズ! vol.54 AUGUST 2012」の特集は、”真夏の夜に楽しむファンタジー&怪奇の調べ”
夏に幻想と怪奇特集組むのは早川ミスマガの専売特許かと思ったら創元もやるんだな、早川には早川版、創元には創元版のアンソロジーで合わせよう

さて第3巻の特色はと言うと、他の書評を閲覧したら一応アメリカ作家を中心にしているというのだが・・
そうかぁ?、アメリカ作家は第1巻から第3巻まで万遍なく混じっているし、この第3巻目も結構英国作家は多いぞ
結局のところ全3巻通じて”古今英米”ゴチャ混ぜで中途半端な気がするんだよな、1巻だけはアメリカ作家で固める手も有っただろうに、だから創元のアンソロジーって嫌いなんだよ

でこの第3巻だが、ホーソーン、ワートン、コリンズ、ラヴクラフト、デ・ラ・メアなど、第2巻に比べて割と1作1作が長めな短篇が多く、その分全作家数が若干少なめな印象を受ける
そのせいか全3巻の中では比較的にゆったりと話が展開される作品が多いように感じた
ただし長めだからコクが有るという意味ではなくて、コクという点では第1巻の方が古めな分そりゃこってりしている
じっくり読むならこの第3巻だが、一般的には第2巻の方が面白く読めると思う、ただし第2巻はモダンホラーが合うかどうかに左右されそうだが

第3巻の目玉作家はやはりラヴクラフトという事になるだろう
怪奇小説という分野への影響度と今の知名度を考えると、生前は無名に近い存在だったというのが信じられない
しかしクトゥルー神話のようなスケールアップした世界観は怪奇小説の枠を超えてSF的発想に近付き過ぎてしまっている印象も無くは無い
読者にもよるだろうがミステリー読者が素直にラヴクラフトを楽しめるかというと疑問も有り、むしろミステリー読者からして見ると第2巻収録のL・P・ハートリイのような路線の方がまだ合うのではと思ってしまう
何て言うのかなぁ、例えば
本格以外でもとにかく最後に説明を求めたがるミステリー読者が読むような、例えばJ・P・ホーガンみたいなSF作家を好むような読者にはラヴクラフトは合うと思う
一方曖昧な終わり方も気にしないタイプの読者ならハートリイみたいな方向性の方が合うと思う
J・P・ホーガンなんて興味無い私は後者だ

No.395 6点 怪奇小説傑作集2- アンソロジー(出版社編) 2012/08/27 09:57
発売中の創元「ミステリーズ! vol.54 AUGUST 2012」の特集は、”真夏の夜に楽しむファンタジー&怪奇の調べ”
夏に幻想と怪奇特集組むのは早川ミスマガの専売特許かと思ったら創元もやるんだな、早川には早川版、創元には創元版のアンソロジーで合わせよう

この創元の全集、1巻~3巻通じて古今東西ならぬ”古今英米”って感じでどの感も雑然としているんだよ、例えば内1巻はアメリカ作家のみで纏めるとか、古典作品だけの巻と20年代以降の巻とは分離するとか方法は有ったはず

まぁそれでも各巻の特色が全然無いかと言うと多少は有って、第1巻が古色蒼然気味とは言え古典的怪奇小説の代表作を集めていたのに対して、この第2巻では当時としては怪奇小説の新しい波であるモダンホラー作家を何作か入れて特色は出している
ただし新旧取り混ぜと言えば聞こえは良いが、アンソロジーとしてはやや雑然とはしている
この第2巻の特色であるモダンホラーだが、ハートリイ、コリア、カットナーなどはその典型的な作家達で、L・P・ハートリイ「ポドロ島」、ジョン・コリア「みどりの想い」の近代ホラーの名作2編を冒頭にもってきている
特にモダンホラーの代名詞とも言える作家L・P・ハートリイの「ポドロ島」は、最後にきっちり説明して終わらないと気が済まない読者には全く合わないが、このモヤモヤ感こそが魅力のモダンホラーでは必読の傑作である
ヘンリイ・カットナーは数多くの筆名を用いてジャンルを問わず書きまくった多作の作家で、ミステリー専門作家だとジョン・クリーシイみてえな奴だが、収録の「住宅問題」も多作とは思えぬほどイマジネーション豊かだ
どうしても最後にちゃんと説明して欲しいタイプの読者にお薦めなのが、S・H・アダムズの「テーブルを前にした死骸」
アダムズは本業が推理作家なので、本格派推理小説のようにちゃんと真相解明していますよ
この話、どこかで聞いたことがあるんだけどと思った貴方、もしかして稲川淳二では?、稲川センセ、この小説をパクったんじゃねえの?

まぁ概ね定番揃いだが、それだったらF・M・クロフォードは有名な「上段寝台」の方を収録して欲しかったかな、定番過ぎて避けたのかも知れんが
収録ワースト1はH・G・ウェルズの「卵型の水晶球」、これは怪奇小説的発想じゃなくてSFだと思う
もちろんSFっぽい怪奇小説なんてざらにあるが、両者の違いは人間の心理面に立脚しているかどうかだと私は思うが、収録のH・G・ウェルズ作品はSF的発想に偏り過ぎており、またプロットも纏まりが悪く時代を考慮したSF作品として見ても出来が悪い
こんなの収録するならウェルズの代わりに別な作家入れて欲しかったなぁ、例えばモダンホラーとの対比で古典派最後の大物怪奇作家といわれるH・R・ウェイクフィールドなどはぜひ収録して欲しかったな

No.394 5点 山口雅也の本格ミステリ・アンソロジー- アンソロジー(国内編集者) 2012/08/24 09:55
明日25日発売予定の早川ミステリマガジン10月号の特集は、”山口雅也責任編集 Masaya Yamaguchi's Mystery Magazine”
このパターン、今後は他の作家のもやるんだろうか
収録作家も、トリック一発屋スティーヴン・バーからアーサー・ポージス、ブラッドベリ、シェクリイといかにも山口らしい選択
バーはあの「最後で最高の密室」以外の短篇が読めるとは

そう言えば山口雅也自身の新作『《謎》の謎、その他の謎』が本日発売となるが、リドルストーリーを中心に据えたものらしい、好きだねえ
ストックトン「女か虎か」、モフェット「謎のカード」の題名をモジった作品が入ってるが、本の題名自体もC・ボーモント「夜の旅、その他の旅」をモジったものだろうね

便乗企画として山口雅也編集によるアンソロジーを、過去に書評済だが削除して再登録
これは角川文庫の企画で北村編、有栖川編、法月編が既に先行している
後発の山口としては使いたかった短編を先行3者に先に採用されてしまい苦しい選択になってしまったようで、それで本格かどうか微妙なリドルストーリー特集とか組まざるを得なかったんじゃなかろうか
しかしリドルストーリーの3大名作とそのトリビュート作など計5点が1冊で読めるのはなかなか他に無いので意義は有ると思う
その有名な3大リドルストーリーとは、フランク・R・ストックトン「女か虎か」「三日月刀の促進士」の2作と、もう1作がクリーヴランド・モフェット「謎のカード」である
そしてこの「謎のカード」のトリビュート作がE・D・ホック「謎のカード事件」なのである
これは最早パロディではないだろう、つまり謎のカードという初期設定に基づいて、ホックならどう解決するかという一つの回答だからだ
それにしてもホックは上手いと思う、たしかに解法がくどいのは否めないが、細かい所まで不自然でないように説明している
探偵役がレオポルド警部でもサム先生でもなくスパイのランドなのは内容的に当然だろう

ところでスティーヴン・バーの「最後で最高の密室」も収録されているんだな
今では早川がポケミスの形で復刊させてしまったので希少価値は薄れたが、私は別のアンソロジーで既読だった
これ読んだときは驚いた、究極の密室解法ではないかと思ったものだ、これに比べたらあくまでもトリックだけで言えばロバート・アーサー「51番目の密室」なんて誰かが思い付きそう
ただ後で知ったのだがスティーヴン・バーは典型的なアイデア一発屋型の二流作家だったらしい

No.393 5点 怪奇小説傑作集1- アンソロジー(出版社編) 2012/08/20 09:57
発売中の創元「ミステリーズ! vol.54 AUGUST 2012」の特集は、”真夏の夜に楽しむファンタジー&怪奇の調べ”
夏に幻想と怪奇特集組むのは早川ミスマガの専売特許かと思ったら創元もやるんだな、しかも今年亡くなったブラッドベリ追悼小記事もちゃんと載せてるし、早川ミスマガの方はブラッドベリには冷遇だな
早川には早川版、創元には創元版のアンソロジーで合わせよう、これ一応書評済だったんだけど削除して再登録

怪奇小説の翻訳で有名な平井呈一が解説も担当
全5巻という編成は、あの乱歩編『世界短篇傑作集』の怪奇版という線を狙ったものだろう
4巻はフランス編、5巻は独露編、1~3巻が英米編
毎度創元のアンソロジーにはケチ付けて申し訳無いが、やはりこの英米編も編集が気に入らない
創元の嫌いな理由の1つに、こうした何巻かに分ける場合、無理に各巻の本の厚みページ数を統一しようと画策し過ぎる傾向が有る事だ、チェスタトンの短篇集然り
第1~3巻が英米編って何だよ、第4巻と5巻が国別に分けてあるんだから、第1~3巻の内の1巻はアメリカ作家だけで纏めるとかすべきだろ
多分1巻だけアメリカ作家だけで纏めると、他の2巻より本が厚くなるのを避けたのかも知れん、いいじゃないかそれでも
とまぁ不満も多いのだが、1人1作で古今の代表的な作家作品を集めており、怪奇小説入門には絶好のアンソロジーである

サイト的にジャンル違いでは?との疑念を抱く人も居ようがそれは早計である
この第1巻では古典作家中心だが、怪奇小説の古典作家達が活躍したのはポーからドイル前後の時代で、当時はミステリーと怪奇幻想とは未分化な面もある
そもそもさぁ、ポーだって謎解き作品なんてごく一部で基本的に怪奇幻想小説の人だし、ドイルもホームズだけ書いていた訳じゃなくてホラーや伝奇ロマンもかなり多い
例えば第1巻収録のジェイコブズ「猿の手」なんて確かにホラーではあるが、このセンスはミステリーそのものでしょ

第1巻目は古典作家が中心で、冒頭のブルワー・リットンだけは流石にゴシック風で古色蒼然としているが、他は今でも読むに耐えると思う
M・R・ジェイムズ、マッケン、ブラックウッド、レ・ファニュなど、怪奇小説黄金時代を代表する成る程これらは落とすわけにはいかないよな、てな名前が並ぶ

No.392 3点 アクナーテン- アガサ・クリスティー 2012/08/17 10:01
今年は1年間に渡って”ツタンカーメン展”が開催される、皆様ご存知でした?
上半期は大阪が会場だったが、4日からは会場を東京”上野の森美術館”に移して開催されている
東日本在住の皆様、黄金のマスクを見るのは今がチャンスですよぉ~
さらに六本木ヒルズでは9月17日まで”大英博物館 古代エジプト展”も開催されている
今年の日本はエジプト・イヤー、ってのは大袈裟か(苦笑)

「アクナーテン」はクリスティ晩年に書かれた戯曲シリーズの1作で、アクナーテンとは宗教改革で有名なアメンホテプⅣ世ことイクナートンその人である
そのアクナーテンの娘婿であり、スメンク・カ・ラーを間に挟んで2代後のファラオがツタンカーメンなのである
脇役ではあるが戯曲中にも少年ツタンカーメンは登場する
アクナーテンは古代エジプト歴代ファラオの中でも変人として有名で、それまでの多神教を捨て一神教を奉じ都までも遷都した
遷都された都では新しい写実的な芸術も生まれアマルナ芸術と呼ばれている
その急進的な改革により反発も多く、死後は墓さえもまともに造られなかったりそんなファラオは存在しなかったみたいに歴史から葬り去られそうにもなったという説も有る
アクナーテンの死後に都を元へ戻し旧来のアメン信仰を復活させた張本人が本人の意思だったかは謎だがツタンカーメンなのだ
さらに戯曲中には軍人ホムエルヘブも登場するが、ホムエルヘブはツタンカーメン時代には将軍となり後に血は繋がっていないが自らファラオとなって政治を執ることになる
さて問題はアクナーテンがなぜ宗教改革に邁進したのかという動機だが、クリスティは従来通りの解釈である、それまでのアメン神を奉じる神官の政治的腐敗から脱却する為にアテン神への一神教に帰依したという説に則り話を展開する
つまりアクナーテンを理想に燃える若き英雄として捕らえているわけだ
アクナーテンの王妃であり古代エジプト3大美女の1人ネフェルティティも心やさしい人物に描かれている
ちなみに3大美女の2人目はラムセスⅡ世の妃ネフェルタリで、ずっと時代は下るが3人目がクレオパトラである
3人の中にハトシェプスト女王を入れる説も有るが、ハトシェプストは美女というより政治家のイメージだからなぁ

さて以前TBSだったと思うが、地中海での世界最大規模の火山噴火に関するドキュメンタリー番組が放送された
この噴火によって地中海周辺は何年にも渡って噴煙による日光遮蔽が起こり暗い日々が続いたそうだ
アクナーテンが即位したのはこの大噴火の影響がまだ有った頃と時代が合致しており、一神教への改宗への動機になっているのではという推論を番組ではしていた
なるほど面白い説だ、アテン信仰とは要するに唯一太陽神への信仰であり、暗い気象から末法思想的に光を求めていた当時の雰囲気が伝わる
そう言えばさ、末法思想が蔓延すると多神教よりも一神教にすがろうとする風潮は平安末期の阿弥陀信仰と通じるものが有るな
アクナーテンは現実の政治などは省みず一心不乱に祈っていただけの王だったという説も有る
クリスティの戯曲よりもこのテレビ番組の方がミステリー的に面白い解釈だと思えてしまうのだった

No.391 7点 ローラ殺人事件- ヴェラ・キャスパリ 2012/08/14 09:45
題名がすご~く微妙~
あたしのことじゃないよぉ~\(^o^)/
本当は原題だとただ単純に”ローラ”だよ~
でも映画に合わせて殺人事件なんて付けちゃっつたのかな
本格と間違えて読んじゃう人も居そう
これサスペンス小説だよ~
でもイイ感じ~OK!
手の動きが文章で表現出来なくて残念~
福田彩乃ちゃんはその点有利かな~
中盤でちょっとしたどんでん返しがあるの
でもそれがメインじゃないんだよぉ~
今日だけちょっと涼しいけど
夏の暑さに魘されたような話なの~
都会の中のお伽噺って雰囲気~
でもイイ感じ~
活躍年代がミラーやアームストロングと被るから
アメリカ3大女流サスペンス小説作家の中に
マクロイの代わりに入れとこぉ~っと
OK!、バイバ~イ! \(^o^)/

No.390 8点 悪党どものお楽しみ- パーシヴァル・ワイルド 2012/08/06 10:02
人気も夏までみたいに言われているけど頑張ってるぜぇ~
この間も本買った時に貰った書店のカバーを破ってやったぜぇ~
後で粘着テープでつなげて再装着してやったぜぇ~
ワイルドだろぉ~

ワイルドって言うと「検死審問」だけじゃないぜぇ~、短篇集だってあるんだぜぇ~
「悪党どものお楽しみ」のテーマが賭博なので、テーマ性ばかりが語られがちだが、それは残念だぜ~
さらに残念なのは、ひっくり返しがどうのとかだけが重要みたいに言われる事だぜぇ~
本業がヴォードヴィル劇作家である事を考慮しなければ意味無いと思うぜぇ~
と言うかこれだけ読んでも意味無いぜぇ~、「検死審問」も合わせて読んで欲しいぜぇ~
両方読めば作者の”お洒落なセンス”が分かるぜぇ~
オチや反転がどうのなんて事より、そっちの方が重要なんだと思うぜぇ~
だって作者がワイルドだろぉ~

No.389 4点 死が最後にやってくる- アガサ・クリスティー 2012/08/03 10:02
今年は1年間に渡って”ツタンカーメン展”が開催される、皆様ご存知でした?
上半期は大阪が会場だったが、明日4日からは会場を東京”上野の森美術館”に移して開催される
あれ?同じ上野公園内でも国立博物館じゃないの?、と思ったら後援がフジテレビか、上野の森美術館ってフジサンケイ・グループが設立したという裏事情なわけね
東日本在住の皆様、黄金のマスクを見るのは今がチャンスですよぉ~
さらに六本木ヒルズでは9月17日まで”大英博物館 古代エジプト展”も開催されている
ロンドン五輪の男子サッカー決勝トーナメントの初戦もエジプト戦だし、今年の日本はエジプト・イヤー、ってのは大袈裟か(苦笑)

中近東ものをいくつも書いているクリスティだが、その中でも最も異色作なのがこの「死が最後にやってくる」だろう
古代ローマよりさらに前、古代エジプトが舞台という、おそらくは最も古い時代設定の1つと言える
時代性もあって、”妻”と”妹”を同義語的に使用したりでちょっとその辺がややこしいが、当時は近親結婚も普通だったりという事情なんだろうね
こんな設定で書けるのは、夫が考古学者のクリスティならではだ

しかしなんである、内容は案外とオーソドックス
ロマンス小説風なヒロインに訳知りな老婆といった人物設定、話の展開、謎の解明など、いつものクリスティの定番に沿っていて、あまり異色性が無いのだ
舞台設定をこのまま現代に置き換えても通用するような話で、舞台が超異色で有る事がかえって浮いている感すらある
また謎めいた後妻の若い女性の過去について謎のまま放ったらかしなのもどうかと思うし
タイプとしては館もの一族ものに順ずるような話なのも私の好みではなかった

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