皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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miniさん |
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平均点: 5.97点 | 書評数: 728件 |
No.508 | 8点 | 戻り川心中- 連城三紀彦 | 2013/10/28 09:53 |
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このサイトに集う方々には既に周知と思いますが、先日19日に連城三紀彦氏が逝去された
短編集「戻り川心中」を読んだのはかなり昔だったので、こんな形で追悼書評する事になろうとは残念 65歳とまだ書ける年齢だったんですねえ、謹んで哀悼の意を表します コアなファンには初期作だけで語られるのを良しとしない方もいらっしゃるとは思うが、中後期作を未読な私にとっては連城氏と言えばやはり花葬シリーズである こんなのを書ける作家は他に居ないでしょう、直木賞受賞も肯ける 表題作の「戻り川心中」なんて、もう真相のひっくり返しがどうのなんて事よりも、作中の詩歌が全て作者の創作という事に驚かざるを得ない ”ミステリー小説とはパズルでもいい”を標榜する某サイト主の方は、”物語は誰でも創れるがパズルを創る才能は特別なもので希少だ”みたいな主張をしていたが、この方はパズルというものに対して神聖視し過ぎだと思う パズルなんざぁ誰だって創れるんだよ、物語を創る方が数段難しい 「戻り川心中」は他の誰にも書けない短編だろう 1つだけ不満を言うと題名である、当初はシリーズに合わせて「菖蒲の船」を予定していたが変更したらしい やはり花葬シリーズらしい題名にして欲しかったですね、短編自体は「菖蒲の船」として短編集全体の題名を「戻り川心中」とする手もあったんじゃないかなぁ 「桔梗の宿」は集中でも傑作の1つだが、ちょっと気になる点が この発想の根源は、戦前には珍しい某本格派作家の有名な短編を思わせる 連城氏はこの戦前の短編を知っていたのかなぁ 傑作揃いの前半に対して後半の作には、無理にシリーズに合わせようとして謎と世界観との融合が上手くいってないと感じるものもある 例えば「白蓮の寺」だが、謎と世界観とのバランスは相変らず見事だが、何となくトリックに合わせて物語を創った感が有るんだよね、トリックが見えた時点で花の色が褪せるような 前半の作は真相が分かったら益々花の色が濃厚になるのに 氏が花葬シリーズを長続きさせず葬ったのも止むを得なかったのかも、でもだらだらと続けなかった事が後世に残る伝説的名短編集になったとしたら仕方ないよね合掌 |
No.507 | 5点 | 北リアス線の天使- 西村京太郎 | 2013/10/25 09:55 |
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本日発売の早川ミステリマガジン12月号の特集は、”あまちゃんとローカル・ミステリの魅力”
ローカル・ミステリだからトラベルミステリーから選ぼうと思い、まず未読の内田康夫を読みたいと思った ところが浅見光彦シリーズには”あまちゃん”に似合う作品が見当たらなかったので断念、そこでトラミスったら京太郎先生かなと思い検索したら、おぉ!あまちゃんっぽいのが有るではないか、題名は「北リアス線の天使」、これだ! 私はとある作家に入る場合、本領から外れた作品だけを読む読み方は嫌いなんだよね 例えば明らかに本格派の作家じゃないのに、本格派しか読みたくないからと言って、その作家としては例外的な本格派作品だけを読むという行為はしたくない 読むならその作家の本領分野の作も合わせて読む、逆にその作家にとっての異色作だけを読むくらいなら最初からその作家に手を出さない、これが書評者としての私のモットーである したがって西村京太郎だと、初期の「殺しの双曲線」のようなものだけを読んで、トラベル系は嫌いだからと十津川警部シリーズは一切読まないみたいな姿勢は私は取りたくないのである ただねえ題名の「天使」てのは海女さんじゃないよ、看護士の女性か、あるいは現地で見かけた謎の天使のような女の子、のどちらか、あるいは両方か この看護士さんが癌で余命告知された高名な画家の老人に付き添って最後の傑作を描く為に三陸海岸の”浄土ヶ浜”に行く訳、この辺の序盤の展開はかなり強引(笑) 敢えてわざとトラミスと承知で読むのだから、トリックがどうのなんかではなく旅情に浸りたいわけね ところがだ、三陸復興国立公園(旧陸中海岸国立公園から改称)でも北山崎海岸と並ぶ屈指の景勝地である浄土ヶ浜だというのに、情景があまり浮かんでこない、京太郎先生本当に現地取材に行ったのでしょうか そう言えば十津川警部ってのもその人物像が全く思い浮かばないほど描写があっさりしている、まぁこれがシリーズものが長続きする秘訣か とにかく時刻表トリックもアリバイ崩しも一切出てこないヒューマンドラマ的な話で、かえって一応真犯人が最後に指摘されるのが蛇足に感じるくらいだ これはこれで面白かったが、時刻表トリックでも何でもいいから、これぞ王道の旅情ミステリーってのも読んでみたい気もした |
No.506 | 5点 | 螺旋階段の闇- エリザベス・ルマーチャンド | 2013/10/22 09:51 |
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デビューが極端に遅かった女流作家と言うと、アメリカ勢ではクリスティも敬愛したエリザベス・デイリイが有名だが、英国勢でこれに対抗する女流作家が偶然名前も同じエリザベス・ルマーチャンドである
名前だけでなく両者共60歳を超えてからの遅咲きデビュー作家であるが、デビュー作が1940年のデイリイと1967年のルマーチャンドを単純に比較は出来ないだろう ルマーチャンドは90年代近くまで作が有り、これはもう現代本格と変わらない執筆年代である 森事典や海外クラシック中心の某ブログでも、伝統的な謎解きミステリー的と断定しているが、う~ん必ずしも同意できないなぁ 作者が高齢だからそういうイメージで語られがちだが。例えばクリスティの晩年の作などもただ懐古趣味に徹しているわけではなく、社会風俗への時代の変遷を感じさせる描写は有る 「螺旋階段の闇」も1976年の作だけに、これを単純に黄金時代風と見るのは正しくないように感じた 探偵役が警察官ということもあってか、どちらかと言えば警察小説か現代本格風の趣がある ところで上記で言及した某ブログでは、一般的に登場人物一覧表というのは日本の出版社が読者への便宜として記載しているかのような記述があったが、これも厳密には正しくないと思う 元々の原著に一覧表が付されているものも少なくなく、有名なのはナイオ・マーシュの登場人物一覧表で、実際に登場する人物は端役の警官まで表記するが、伝聞でしか出てこない人物はそれが物語中でどんなに重要人物であっても記載されないという劇の配役表の様ないかにも演劇人マーシュらしい一覧表である ルマーチャンドの一覧表はそこまで極端では無いが、森事典や文庫解説にもあるように、見取り図掲載なども合わせてみるとたしかにマーシュ風とは言える ただそれをもってルマーチャンドを黄金時代本格を髣髴とさせるという解釈は必ずしも正しくないように思えた さて問題は、黄金時代風なのが本格として価値が有り、現代本格風なのは雑味成分が多くて駄目だとか、私はそういう風には思わない 現代本格は現代本格としての良さが有ると思う そこでルマーチャンドだが、その点どうも中途半端感有るんだよなぁ この作の真相に私はそれ程唖然とはしなかった、別にこの真相でそれはそれでいいのだけれど、黄金時代的にも現代本格的にも特に魅力が有る感じはしなかった |
No.505 | 6点 | らせん階段- エセル・リナ・ホワイト | 2013/10/18 09:56 |
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「バルカン超特急」は本は所持してるんだけど積読中
こちらの方が先に書かれているのでまず「らせん階段」を読んでみた エセル・リナ・ホワイトはサスペンス小説作家として一応知名度は有るが、事実上は小説で有名になったというよりは単に映画の原作者として読まれているという印象だ 英米でも読まれているのは、ヒチコック監督作品として超有名な「バルカン超特急」と、3度も映像化リメイクされた作者のもう1つの代表作「らせん階段」の2作のみみたいな扱われ方だ 未訳で他にもう1作知られた作が有るが、それもチャンドラーが脚本を書いた映画の原作である 「らせん階段」は一言で言えば”ゴシックロマンス風サスペンス小説(のパロディ?)”である 狙われる若きヒロインのメイド、怪しげで思わせ振りな黒い影、閉じ込められた館の中、館の住人同士の心理的確執と葛藤 もう絵に描いたような設定で、絵に描いてはいないが実際に映像化されてるわけだしね このヒロインの内面心理描写が読み処なのだが、何となくユーモア調に感じられるのは私だけだろうか、”パロディ?”と書いたのはそれが理由である 小柄な若きヒロインだけに他の住人やかかりつけの若き医師に頼りたいのだが、次第に八方塞になっていく過程が、どちらかと言えば切迫感と言うよりも半分笑ってしまうような筆致で描かれる 緊張感有るんだか無いんだか(笑)、でも暗い心理サスペンスを苦手な読者には合うかも(苦笑) 作者が活躍したのは本格黄金時代の只中、30~40年代前半にかけてなので、少々見え透いているとは言え最後まで真犯人の正体を隠すなど、サスペンス小説とは言えど館ものを好む本格派読者が読んでもそれなりに楽しめそうだ |
No.504 | 8点 | 螺旋階段- M・R・ラインハート | 2013/10/18 09:55 |
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先行情報によると、来年のいつになるか分からないが、論創社からM・R・ラインハートの中編集「The Amazing Adventures of Letitia Carberry」が予定されている
長編は細々とではあるが一応翻訳されていたラインハートだが実は未訳の中短編集の数はかなり多く、未知の分野に着目した論創社スゲ~な HIBK(もしも私が知っていたら)派と言うと、各ネット書評などでも否定的意見ばかりである、やれ苦手だ、登場人物が知っている事を隠しているのがフェアじゃない、とかさ これら否定的意見を眺むるに気付くのは、ほとんどが本格派視点、つまり本格を期待したが裏切られたみたいな言い分なのだ はっきり言うが、これはHIBK派が悪いのではない、本格派視点で読む読者側が悪いのである ではそもそもHIBK派って何なのか? 大まかに言えば、1910~20年代にかけてアメリカだけで大流行した扇情的大衆向けロマンティックサスペンス風ミステリー小説である しかいこう書くともうそれだけで敬遠する読者も多そうだから少々説明が必要だろう HIBK派で前提として知っておくべき要素が2つ有る 1つはHIBK派は本格派ではない、あくまでもサスペンス小説の一種であり、例の森事典でもラインハートは『サスペンス編』の方に収録されている もう1つは、HIBK派の初期の作は主に新聞雑誌連載小説として書かれたものが多いという点だ、これについては説明が必要だから「螺旋階段」の書評と合わせて書いてみよう HIBK派の中心作家メアリ・ロバーツ・ラインハートの初期代表作「螺旋階段」であるが、頁数も少ない短い長編である しかし短い割にはおそろしく章の数が多い、異常に多い、当然ながらその分1章あたりの分量が極めて少ない どう考えてもこれは各1章分が新聞連載時の1回分に相当するものであろう ところで以前に聞いた事が有るのだが、俳優と脚本家とでは連続ドラマと単発ドラマとで、新人とベテランとに反比例の関係があるのだと言う 名前と顔の売れていない新人俳優・女優でも連続ドラマなら何とかなると言う 毎回視聴者が見ているうちに覚えてもらえるわけだ、例えば宮本信子と小泉今日子は知っていても、女優の能年玲奈を『あまちゃん』放送開始以前に知ってた人がどれだけ居るだろうか ところが単発ドラマでは事情が違う、一回限りの放送で観る人に印象付けられる新人俳優と言うのは余程の魅力が無いと無理だ、やはり名の通った大物俳優じゃないと演じきれない 一方の脚本家は全く逆である、新人脚本家であっても単発ドラマなら何とか書ける、脚本一般募集コンテストも単発だから新人が応募出来るのだ しかし連続ドラマの脚本はベテランじゃないと難しい、何故ならただ単に全体を各放送回分に切り分ければ良いというものではないからだ 各放送回毎にいわゆる”ヤマ場”というものを設けて、しかも連続ドラマ全体を通して纏めていかなければならない、これには脚本家としてかなりの腕前が必要なのである 新聞連載小説という発表形式は連続ドラマの脚本作業と似ている、飽きられないように毎度単発的にヤマ場を用意しなければならない 「螺旋階段」では各章毎に次章へ読者の興味を繋ぐ工夫がされており、全体の分量を考えたら事件が次から次に起こって多過ぎるくらいだ こんなのを長編第2作目で書いちゃうラインハートって恐るべきテクニシャンである サスペンス小説として高得点を付けざるを得ない理由がここにある |
No.503 | 6点 | 夜の旅その他の旅- チャールズ・ボーモント | 2013/10/07 09:58 |
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先月26日に扶桑社文庫からチャールズ・ボーモント「予期せぬ結末2 トロイメライ」が刊行された
『予期せぬ結末』叢書シリーズは早川書房異色作家短篇集の再現を狙った扶桑社文庫の企画で、その第2弾がこのボーモント、第1弾目はジョン・コリアだった 今年6月にリチャード・マシスンが亡くなったが、マシスンはTVドラマ『トゥワイライト・ゾーン』の脚本を担当した経歴がある そのマシスン同様に脚本などに関わり並び称されていた作家がチャールズ・ボーモントである 高齢で亡くなったマシスンと対照的にボーモントは若くして逝った悲運の天才作家だった 作家としてだけでなく多芸多才で、作家活動でも短い執筆期間にしては数多い短編を書いている、まさに生き急いだ作家というイメージだ 異色短篇作家チャールズ・ボーモントの特徴は一言で言えばムードを描く作家である オチや捻りという面では乏しく、そういう要素を期待するような読者向きではない しかし独特の雰囲気を持っており、特にカーレースやジャズといった趣味の世界に没頭したような世界はボーモントならではだ 早川の叢書の1冊であるこの「夜の旅その他の旅」にしてもらしさが遺憾なく発揮されている、特に表題作とも言える巻末作は他の異色短篇作家では書けない味わいだろう このような叢書を企画するならラインナップには絶対落とせない作家の1人である |
No.502 | 3点 | ヒルダよ眠れ- アンドリュウ・ガーヴ | 2013/10/04 09:58 |
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先月25日に論創社からアンドリュウ・ガーヴ 「殺人者の湿地」が刊行された、論創社がガーヴを手掛けるのは初めてじゃないかな
ガーヴは翻訳には恵まれた作家で、中期の「The Narrow Search」を除けば未訳なのは殆ど後期作に偏っており、「殺人者の湿地」も中期から後期にかけての作である ただガーヴの未訳作を出すなら、1957年という最も脂ののっていた時期で唯一の未訳作である「The Narrow Search」にして欲しかったなぁ 某有名掲示板で、”Aを出すなら、BかCを出せ”という意見が出るとすぐに反論する人が居て、曰く”AだけじゃなくてBもCも出るんだから”などと屁理屈を言う 分かってねえ奴だよな、出版社だってAを出すのに労力を使ってるのだから、その労力が勿体ねえんだよ Aを優先したがためにBもCも永久に出ませんでしたみたいになる可能性もあるのだ、やはり選別は慎重にやらなければ それ出すならこっちを出せ、みたいな意見があるのは当然なんだよ ガーヴみたいに恵まれてる作家はまだいいが、海外では評価高いのに全著作の1~2割程度しか翻訳されておらず不当に無視されまくりの作家だっているのだ さてガーヴの初期作いやデビュー作が1950年の「ヒルダよ眠れ」である ガーヴは初期には本格っぽいのを書いていたのは有名で、ガーヴの本領が発揮されてくるのは中期の50年代後半の作である ガーヴについて私が思うのは、物語の進行過程を丁寧に描く”計画とプロセスを楽しむ”タイプの作家だと思う 例えばさ、小学生とかが明日遠足に行くので前の晩にバッグに何を詰めて持っていこうかいろいろリストアップする楽しみってあるでしょ、案外と遠足当日は大して楽しくなかったりしてね(苦笑) 「ヒルダよ眠れ」もまさに被害者の性格がだんだんと暴かれていく過程の面白さはたしかにあることはある しかしガーヴはこれを本格のカテゴリで書いているのが失敗なんだと思う、作者の資質に合ってない だからプロセスももう一つ面白くない、謎解きは中途半端、いや全てが中途半端な作になってしまっている やはりガーヴの本領は冒険精神とサスペンスの絶妙なバランス、どうしようこうしようと画策するワクワク感が持ち味なんだろう 私はガーヴは3作しか読んでいないが、定評ある「メグストン計画」と「ギャラウエイ事件」が評判通りの2トップなんだと思う しかし当サイトの書評では「メグストン」は1件、「ギャラウエイ」は書評0件である、これは残念 私の好みでは「メグストン計画」よりも特に「ギャラウエイ事件」の方がメチャ面白かった、これを読んでいただければ、比較論として私がなぜ「ヒルダ」にこうも低い点数を付けたのか分かってもらえると思う |
No.501 | 5点 | 闇からの声- イーデン・フィルポッツ | 2013/10/01 09:58 |
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今年も秋恒例の創元復刊フェアの真っ最中、相変らず読者側のニーズを全く無視したような古書市場でも安価で入手容易なものばかりが選ばれている
「闇からの声」の復刊なんて誰が喜ぶのだろう?創元だったら「灰色の部屋」とか「溺死人」とか他に選ぶものはあっただろうに いや、そもそもフィルポッツなんか選ぶ必要性が乏しい しかしなんである、「闇からの声」は「赤毛のレドメイン家」の陰に隠れてはいるが、意外と面白い フィルポッツという作家はミステリー史などでは本格長編黄金時代の作家みたいに位置付けされる事が多いが、それは「赤毛」と「闇からの声」が1290年代前半に書かれているからだと思う ところがミステリー長編は1890年代から書いていたらしく、ミステリーなのかは不明だが晩年には戦後の1950年代の作まであるという驚くほど息の長い活動歴だ 第1次大戦を跨いで前世紀から書き続けた最後の作家みたいな感じで、悪く言えば前世紀の遺物 つまり作風が古臭いのも当然なわけで、本格黄金時代の他作家とと同列に扱うのもためらわれる そう考えると乱歩御大が「赤毛」をまるで黄金時代を代表するかのように喧伝したのがフィルポッツにとって良くなかったと思えて仕方が無い 「闇からの声」にしても、謎解き的に見れば”闇からの声”の正体などたしかに馬鹿馬鹿しいのだが、これは主人公を事件に引き込む為の単なる導入部であって、これを謎の核心部と捉える方がおかしい 森事典で森英俊氏はこの部分を酷評しているが、森さん、それはちょっと視点がずれているような 「闇からの声」は1925年の作だが、結局のところ主眼は犯人との心理闘争であり内容的には1910年代のサスペンス小説を引き摺ったものと割り切れば腹も立たない 作者にとっては「赤毛」はどちらかと言えば異色作で、本来はこういうのを書きたかった作家なんじゃないかなぁ 少なくとも「赤毛」よりは面白かったという点ではTetchyさんと同感 ところでフィルポッツの未訳作を今後出すとしたら、長編なら森事典でも言及されている「The Jury」あたりだろうけど、それよりも”クイーンの定員”にも選ばれた中編集「フライング・スコッツマンの冒険」が気になる、1作しか収録されてないのかな? |
No.500 | 8点 | 笑う警官- マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー | 2013/09/30 09:58 |
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先日25日に角川文庫からひっそりと、シューヴァル&ヴァールー「笑う警官」の柳沢由実子氏による新訳版が刊行された
同時に角川文庫で刊行されたクイーン「エジプト十字架」の陰に隠れて話題になってない様だが実はある驚きがあるのだ 「笑う警官」は過去に書評済みなのだが、一旦削除して全面的に改稿することにした、その理由とは? さて注目は翻訳者が”柳沢由実子氏”という点だ この翻訳者は現在は中年のおばさんって感じだが上智大学卒の後にストックホルム大学にも留学している そう、日本では珍しいスウェーデン語の専門家なのである、最近ではへニング・マンケルやインドリダソンの翻訳などでも御馴染みだ、それがどうして重要な要素なのか? 英米独仏語圏以外の翻訳には時々有るのだが、世界的な話題作だと一旦英語に翻訳されて英米で刊行されたものをテキストにして日本語に翻訳する場合がある 実は「笑う警官」旧訳版も英語版から訳されたものなのだ つまり今回の柳沢訳は初めてのスウェーデン語オリジナル原著からの翻訳なのである やはり一旦英語を介しての翻訳だとスウェーデン語本来のニュアンスが微妙に違っている可能性も有り今回のは待望の新訳だとも言える こう書くと旧版の高見浩訳が良くないみたいに聞こえるかも知れないので、誤解されないように言っておきたいのだが、私は高見浩氏の翻訳が大好きなのである プロンジーニの名無しのオプシリーズなどの翻訳でも素晴らしい仕事をしていたが、特筆なのはカーである 高見氏はどちらかと言えばハードボイルドやサスペンスで本領を発揮する訳者でカーの翻訳は少ない、その数少ないカーの訳書の1つが「魔女の隠れ家」なのだ 「魔女の隠れ家」は内容よりもその青春小説のような瑞々しい感性のヴィヴィッドな文章が魅力だった カーの中でも文体の異色作という認識だったのだが、高見氏による他のカー長編の翻訳はあまり無い事を考慮すると、「魔女の隠れ家」の異色性は訳文のせいなのかも、う~む 何が言いたいのかと言うと、要するに作家との相性に関係無く高見浩氏の翻訳は素晴らし過ぎるのである しかもヘミングウェイに関する著書も有るくらいだから高見氏の本領はアメリカ文学であろう、そう言えば「笑う警官」旧訳もちょっとアメリカっぽい感じがする という事はだ、旧訳のアメリカ風の活き活きとしてちょっと切ない感じは本来の文章のタッチと差異が有るのか?という点が気になる スウェーデン語のオリジナル原著はもっとしっとりして落ち着いた文章なんじゃないか?という疑惑も湧くのだ、だからこそ今回の角川文庫の新訳復刊は注目なのである 内容はと言うと、中盤で多角的に行なわれた捜査が一旦行き詰る、その後それら多角的捜査が一点に向かって収束していく様は圧巻、これぞ警察小説の醍醐味 |
No.499 | 7点 | ハヤカワ・ミステリ総解説目録〈1953年‐1998年〉- 事典・ガイド | 2013/09/27 09:55 |
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発売中の早川ミステリマガジン11月号の特集は、”ポケミス60周年記念特大号”、特大号というだけあって2300円、雑誌の値段じゃねえよ(笑)
実は高いのには訳有りで総解説目録が併録されているのだ、目録はそれ自体を単行本的に出したとしても1000円位するだろうからある意味妥当な値段だろう、という事は今後も単体の解説目録を発行せずにミスマガの特集でやる予定か? だとすると年鑑ランキング本から撤退したのと同じ手法だな ところで特集の目玉はベスト3アンケート特集だろう、一見するとちょっと奇を衒ったような選択をする回答者が多い印象が有る これはおそらく後でミステリ文庫に入ったものは省き、ポケミスの形態でなければ読めないという限定条件から選ぶという姿勢の方が多かったんだと思う、だとすれば心憎い配慮だな 文庫の方は別に特集やればいいんだもんね、早川さんそのうちやってよ さて早川も創元も総解説目録は出しているが両社には違いがある 創元のは豪華保存版的性格のもので、解説目録と資料集との2分冊で両冊を同時収納出来る函入りである 対して早川のはポケミス風装丁のカジュアルなやつで、5~10年を目安に改訂版を出している 総解説目録の性質から言ってこれは早川の考え方の方が正しいのではないでしょうかね、だって次から次へと新刊が追加されるのだから、ある特定の時期に豪華保存版を出しても意味が無いような、まぁ創元の場合は分冊の資料集の方に価値を置いているのかも知れんが 早川のポケミス総解説目録で現在一番新しいのは2003年版だが古本市場でもまだ高い、その前が1998年版でこれは格安 比較的新しいものはある程度知ってるから、やはり古いのにどんなものが有るのかが知りたいという向きにはこの1998年版で充分だと思う どうせ2003年版を入手してもそれ以降から現在までに出たものは載ってないんだから 目録の宿命で紹介文のフォントが小さいので少々見難いが、眺めているだけでも幸せな気分に浸れるのもミステリー読者の性でしょうか(苦笑) ただ気付いたのは、当初はポケミスでの刊行だったが、後に早川ミステリ文庫に収録されたものも半分位は有る 早川ミステリ文庫の総解説目録も欲しいところだ、たしかSFなども含めた販促用のやつとか抜粋版はあったかと記憶しているのだが、ちゃんとした総解説目録が欲しいんだよね あつ!それと絶版解消も頼むよ、ニーズの低いものばかり復刊フェアに入れる創元もアレだがしてくれるだけマシなんだから |
No.498 | 4点 | 殺人者はへまをする- F・W・クロフツ | 2013/09/25 09:57 |
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今年も創元社の復刊フェアが始まったようだ、毎年恒例の行事で創元はやってくれるなぁ、と言えれば良いが、毎年のように復刊要望の期待を見事に裏切るセレクトなのも恒例になっている(笑)
数年前に増刷したやつとか、古書市場でも全くレア感の無い入手容易な作ばかりよく選んだなと思える悉くニーズを外したラインナップには悪意さえ感じさせる(笑) さて今年のリストの1冊がこれ、クロフツを復刊するなら「フローテ公園」「海の秘密」「英仏海峡」とか他に優先すべきものは有るだろうに それにしてもクロフツは本国英国でも今や忘れ去られた作家だろうに日本では未訳作は殆ど残っていない状況でどう考えても優遇され過ぎだと思う こういう作家を全作翻訳する労力がもったいない、アリンガムやマーシュには冷遇なのに ただそうは言うもののクロフツがつまらないと言ってるわけじゃない、こういう地道な捜査小説は好き だがしかしこの「殺人者はへまをする」は私には合わない そもそもミステリー小説とは読者挑戦の為のパズルだなどと思った事が無い読者なので、クロフツにこういうの求めてないんだよなぁ やはりクロフツは地道な捜査の長編を読みたいな |
No.497 | 6点 | 大いなる殺人- ミッキー・スピレイン | 2013/09/24 09:53 |
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明日25日発売予定の早川ミステリマガジン11月号の特集は、”ポケミス60周年記念特大号”、
さてクイズ、記念すべきポケミスの通し番号第1番は何か? 答をご存知の方も多いと思うが、正解は”存在しない”である そう、存在しないのだ、なぜなら通し番号は1番から始まっておらず”第101番”からスタートしたからだ 1~100番はいずれ定番古典作品あたりで埋める予定だったとの噂も有ったが、結局現在まで欠番のままである 結果論だが、全体的方針に縛られない奔放な叢書となってるとも言える そして通し番号101番、つまり実質的第1冊目がスピレイン「大いなる殺人」であり、続く102番がハメット「赤い収穫」である つまり1953年のポケミスの創刊は、古典本格などではなくハードボイルドから始まったのだ 面白い事に後れること6年、1959年に創刊したライヴァルの”創元推理文庫”の最初の4冊中にもロスマクの「凶悪の浜」が含まれており、これを見ても本格派だけを偏愛しハードボイルドを無視するという姿勢は読者として間違っているのではないかと思える さらにえっ!と思うのはスピレインでも処女作の「裁くのは俺だ」ではなく、ハマーシリーズ第4作目の「大いなる殺人」という妙に中途半端なセレクトなのだ 「裁くのは俺だ」が翻訳権とかの問題で刊行が大幅に遅れたとかなら分からないでもないが、通し番号105番でちゃっかり刊行されている とある作家を手掛ける場合、律儀にその作家の処女作から順番に刊行したがる創元と比較して、ええい!出せるものから出しちまえ的な感じが早川らしいのかも あーあ、「大いなる殺人」の感想まだ書いてねえや、一応書評しておくと、いつものハマーシリーズらしく安心して読めます、終り(苦笑) じゃあまりにも何なんで、今回はお約束の黒幕以外は悪党が殆どプロの悪党ばかりなので、ハードボイルドファンにしか向かないと思います、スピレインを初めて読むならやはり「裁くのは俺だ」からでしょう 私はこちらの「大いなる殺人」の方が好みですけどね ちなみに通し番号106番にはJ・H・ウォーレス「飾窓の女」が入っている 聞いた事も無い作家作品だがどうやら映画化絡みのセレクトっぽい、今で思うと既に創刊初期に後の名物企画”ポケミス名画座”の萌芽が見られるのも興味深い |
No.496 | 4点 | 仮題・中学殺人事件- 辻真先 | 2013/09/20 09:56 |
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本日20日に創元社から辻真先「戯作・誕生殺人事件」が刊行される、創元のHPによれば文庫ではなく四六製版だ
スーパー&ポテトシリーズは40年に渡って20作近くが書かれ、最も最近作からも15年以上間が開いている そして今回の作がスーパー&ポテトシリーズ最終作とのことだ まぁ辻氏も80歳を超えてもうこの辺で打ち切ろうと思ったのでしょうか 全体的に見れば辻氏の業績はミステリー作家と言うよりアニメ脚本家である、それこそ日本のアニメの半分は何らかの形で辻氏が関わっていたんじゃないかと思えるほどの存在だ、例えばアニメ『サザエさん』の第1回目も辻氏の脚本というのには驚きだ 漫画もアニメも殆ど観ない私としては辻氏は縁の無い存在なのだが、このスーパー&ポテトシリーズ第1作「仮題・中学殺人事件」だけは既読だった、 他は未読なので詳しくないが、このシリーズの初期3作は都筑道夫の某作と並んで意外な犯人設定で有名である、この第1作も”○○が犯人”というパターンを提示した最も初期の1つであろう さらに青春ミステリーなのに作中作にアリバイ崩しのトラベルミステリーを挿入するなどアイデア満載である ただ辻氏はアイデアは容易に思い付くがその活かし方がもう一つ上手くない印象があって、アニメ界ではプロット創りの天才と言われていた氏だが、アニメでもプロットの上手さと言うよりアイデア優先な人だったんじゃないかなぁ それと肝心な青春ミステリーの部分がちょっと読めたものじゃない 私は元々が青春ミステリーというジャンルが嫌いなんだけど、読んでるこっちが恥ずかしくなるような感じでさ、これは私には合わない作家だなぁと思った |
No.495 | 6点 | 観月の宴- ロバート・ファン・ヒューリック | 2013/09/19 09:55 |
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中秋節に隣県の羅(ルオ)知事から高名な詩人等を招待しての観月会に招かれた狄(ディー)判事、しかしその前に市井の殺人事件に立ち会うことになった
今回は羅知事の管轄地なので友人として協力捜査という形になった狄判事だったが、羅知事が苦しい立場に立たされることに… * 本日は十五夜だからね 元々十五夜は中国の中秋節という行事がが由来である 不思議なのは日本では”七夕”は新暦の日付そのままで行なわれる地方が多い、もちろん有名な”仙台の七夕”は旧暦に合わせた8月に行なわれるが、まぁ東北地方だと7月7日じゃ梅雨が明けてねえもんな、賢明だよな でも東北地方以外だって7月7日ってなかなか天気の良い年は少ないんだよな、七夕こそ真夏向きの行事だから旧暦に合わせりゃいいのにと思うのであった その点”十五夜”は珍しく旧暦に合わせているんだよな、本来の中秋節はそれこそ8月の行事だったらしい これなんか旧暦に合わせた9月だと秋雨と重なりやすく、月見が出来ない年などもよくある、もっとも日本では8月も夜空が澄んではいないからなぁ、今宵は月見に向いた天気となりますかどうか 今回は「江南の鐘」「紅楼の悪夢」でもチョイ役で登場したあの憎めないお調子者の羅判事が準主役級の出番となる ネット上ではシリーズ中でも謎解き的に評価が低めなこの「観月の宴」だが、たしかに「紅楼の悪夢」のような複雑な真相ではなく中盤で動機など事件の背景はかなり見えてしまっていて少々物足りなさはある しかしフーダニットな意味では、ミスディレクション的に工夫が感じられ惑わされる むしろ例えば「白夫人の幻」あたりの方が狙い過ぎて真犯人の正体はやはりそれかよ(笑)みたいに見当付き易くなってるもんなぁ、比較すれば私は「観月の宴」の方を上に採りたい 全体に詩がテーマになっていて文学的な上品さが感じられる点など、代表作とは言えないかも知れないが私はシリーズ中でも特に低く評価される作でもないんじゃないかと擁護したい |
No.494 | 6点 | 狼は天使の匂い- デイヴィッド・グーディス | 2013/09/13 09:53 |
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”13日の金曜日”、という原題ではなくクレマン監督での映画化時の題名である
ちなみにセバスチャン・ジャプリゾに「ウサギは野を駆ける」という作品がありポケミスでも翻訳刊行されているが、実はグーディスのこの作品を脚本化したものである 1913年生まれ、今年が生誕100周年作家を漁る、第3弾は番外編として映画監督ルネ・クレマン監督の2回目、クレマン監督も生誕100周年である、「狼は天使の匂い」は後期の監督作品だ ノワール系のアメリカ作家の中には本国アメリカよりもフランスで受けた作家が存在する、同じクレマン監督の代表作『太陽がいっぱい』の原作者パトリシア・ハイスミスもそんな作家だ ただ世界的な人気作家ハイスミスに比べるとデイヴィッド・グーディスは本国でも人気作家とは言えずフランスだけの人気作家それも映画絡みといったところだろう 空さんも述べられているように全体に内面心理描写が多く、行動中心に描くか内面描写に踏み込むかがアメリカ人受けとフランス人受けとを分ける1つの要因なのかも知れない |
No.493 | 6点 | 名探偵群像- シオドー・マシスン | 2013/09/06 09:56 |
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今年6月にリチャード・マシスンが亡くなったが、マシスンと言うともう1人居る
1913年生まれ、私的読書テーマ”今年が生誕100周年作家を漁る”、第4弾はシオドー・マシスンだ シオドー・マシスンの代表作である短編集「名探偵群像」の各短編が発表されたのはEQMMで、クイーンが熱意溢れる序文を書いている 時代ミステリー自体は全く珍しいものではないが、短編で、それも短編毎に時代設定を変えるというのはなかなか珍しい しかも時代だけではなく国籍もバラバラで、歴史ミステリーと言うよりむしろ”地理ミステリー”とでも表現したくなる この時代・地域の書き分けが見事で、クイーンの熱の入れようも肯ける 惜しむらくは謎解き的にややワンパターンなのと、探偵役の歴史上の人物が依頼されて事件解明に乗りだすパターンが半分位を占めている点だ 依頼されて調査に首を突っ込むというのでは、ホームズパターンとあまり変わらなくなってしまう この魅力的な基本設定を活かすなら、大部分を探偵役が事件に巻き込まれて止むを得ず探偵活動に乗り出すというパターンにして欲しかったかなとは思った ちなみに全部が歴史上超有名かというと、何でこの人物を選んだのか?という名前も含まれている 「ドン・キホーテ」の作者セルバンテスあたりはまぁメジャーだろうが ウマル・ハイヤームは11~12世紀セルデューク朝ペルシアの天文学者 エルナンド・コルテスはメキシコのアステカ文明を滅ぼしたスペイン人の新大陸征服者としてある意味悪名高い人物 デフォーの名は知らなくても「ロビンソン・クルーソー」は有名だろう、私はデフォーが探偵役の話が集中では出来が良いと思った ダニエル・ブーンは日本人には馴染みの無い名前だろうが、アメリカ西部開拓時代の冒険家として知らなかったらアメリカ人とは言えないような存在 やはり作者がアメリカ人だなぁという選択を感じる |
No.492 | 5点 | エラリー・クイーン Perfect Guide- 事典・ガイド | 2013/09/02 09:57 |
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明日3日に論創社から飯城勇三「エラリー・クイーンの騎士たち 横溝正史から新本格作家まで」が刊行予定、論創だから取次ぎがバラツくかもしれない
”飯城勇三”という名前を聞いて知らない読者はクイーンのファンとは言えないぞ ファン・クラブの会長として評論集ガイド本などをいくつも出している有名な人物である 今回の論創社版のは、横溝、鮎川、松本清張から、笠井、綾辻、法月、北村、有栖川、麻耶雄嵩といった錚々たる名前が並ぶ作家たちがクイーンから受けた影響をテーマにした評論らしい 対して飯城勇三監修になるライト感覚のクイーン解説本がこの「パーフェクトガイド」である 当初ムックだったが、ぶんか社文庫で文庫化されていて装丁版型からして軽い、価格もリーズナブル、取り合えずクイーンに入門するガイド本ならこれがベストだろう 編集者としての仕事を含む全著作解説はもちろん、日本の各作家によるアンケート回答、各人の選ぶクイーン作品のベストなど、たしかに書名通りの完璧さだ 私のような特にクイーンに思い入れの無い読者にとっては便利な本である 中でも法月綸太郎の回答は面白かった、全て短編から選び、1位に選んだのが「ガラスの丸天井」とは、のりりんらしいねえ 逆にこいつは合わないと思ったのは依井貴裕、依井の作品は未読だが多分私には合わない作家だろうと推測した ところでクイーンという作家は、”意外性”を狙う作家じゃないという意見が巷にあるみたいだが私は必ずしも賛成出来ない ちょっとロジックに目を晦まされているような気がする 初期のクイーンは犯人設定に”属性”を多用しており、どうしたらその属性の人物が犯人足りえるか?、を追求している ところが段々と”属性”がネタ切れになってくると、今度はプロットの捻りで意外性を演出する方向に変化している ただいずれにしても、クイーンの本質はロジックよりもまずは意外な真犯人ありき、な作風に思えるのだよなぁ 余談だがこの本の中に『クイーン好み』というクイーン自身が書いたエッセイが載っているのだが、この中でヴァン・ダイン、チェスタトン等と並べて私も名前だけは知っているアンソニー・アボットやミルトン・プロッパーの名前が有るのに気が付いた アボットって当時は知られた作家だったのかな さらにコートランド・フィッツシモンズって?初めて聞いた、 |
No.491 | 6点 | マイアミ沖殺人事件- デニス・ホイートリー | 2013/08/30 09:55 |
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先日24日発売の早川ミステリマガジン10月号の特集は、”ミステリ・ゲーマーへの道”
私はPCゲーム自体を殆どしないのでミステリ・ゲームも滅多にしない、そもそも推理パズル本の類にも全く興味が無い読者である したがってミステリ・ゲーマーじゃないから便乗企画のしようがない、と思ったらこれを思い出した 1930年代は黄金時代の通称通りでミステリーの爛熟期であった 爛熟期の常としてキワモノ系や変種が登場するものである そんな中やはり登場したのが、捜査過程の現状写真・証拠物件の写真・関係者の身元調査などの捜査資料文書、といったものを添付させた通称”捜査ファイル・ミステリー”である これは読者に臨場感を与えあたかも捜査陣の一員になったかのような気分にさせる効果が有る あのP・クエンティンにも作例が有るのだが、クェンティンって本当に流行に敏感と言うかミスターアメリカンミステリーだよな クェンティンのもどこかの出版社が紹介してくれるといいのだが、あっその時は証拠写真などオリジナルの雰囲気をちゃんと再現したものにしてね、中途半端は駄目だよ さてこの分野で現状日本で読めるものと言えば英国作家デニス・ホイートリーの捜査ファイルシリーズ全4冊である その内唯一文庫化され最も知られているのが「マイアミ沖殺人事件」であろう 原案者は他に居るのでホイートリーは小説部分だけを執筆担当したのかも知れない 解決編が袋綴じになっていて、私は古本屋でほぼ未使用品と袋綴じが破られていたものの両方を見付け入手しておいた、保存用と読書用である 最初からゲーム性の強いパズルとして創られているので物語性は薄いが、参考資料として容疑たちの身元照会文書などにはドラマ性が有り案外と無味乾燥ではない むしろ犯人当てパズル性にしか興味が無い読者には、全体の8割以上を占める尋問シーンの連続に冗長さを感じるかも知れない 私はパズルだけを求める読者じゃないから期待してなかった割には面白かった 文章が横書きでページのめくり方がいつもと逆なのも新鮮だった 惜しむらくは肝心の手掛りが写っている写真が小さ過ぎて、これじゃ推理出来る読者は殆ど居ないんじゃないかな シリーズで文庫化されたのはこれ1冊、他の3冊はもっと大きな版型のまま文庫化されなかったのも当然と思った、ある程度図版が大きくないと肉眼では判別し難いんだよね |
No.490 | 8点 | シャーロック・ホームズの冒険- アーサー・コナン・ドイル | 2013/08/29 09:56 |
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先日ジョージ・ニューンズ社から「ストランド版 シャーロック・ホームズの冒険 上」が刊行された、上下巻それぞれ6編づつ収録
ジョージ・ニューンズ社と聞いてすぐ分かる人は一応のホームズ通だ、そうあの雑誌ストランド誌の発行元である この時のストランド誌掲載版の雰囲気を再現しようという試みらしく、新訳日本語だが横書きで、つまりオリジナル版の英語をそのまま日本語に置き換えた感じだ もちろんシドニー・バジェットの挿絵も当時の雰囲気そのままに再現されているらしい これで価格が800円台なのだからホームズファンは間違いなく買いだろうな 「ホームズの冒険」を書評するなら今でしょ!という事で書評済だったけど今回のタイミングに合わせて一旦削除して再登録 ドイルという作家の持ち味は伝奇ロマン志向だ 作中でホームズがワトスンに対し、”理知的推理を君が枝葉をつけて物語が過剰になってる”と非難する件がある つまりは作者ドイルも自身の持ち味を分かってたんじゃないかな、ドイル自身は戯画化されたホームズよりもワトスンに近いタイプだという説は昔から有るしね この伝奇ロマン志向が無かったら魅力半減だろうしね あまり言及されない短編についてちょっと 「花婿の正体」は低い評価が多いが、これは○○トリックが嫌われているのが理由だろうが、昨今は異常に○○トリックを忌み嫌う読者が多いな、それだとクリスティなんか読めないよな(苦笑) 私は割と○○トリックにアレルギーが無いので気にならなかった、むしろ「花婿の正体」こそミステリー短編のエッセンスって感じがするんだよな だいたいさぁ、「花婿の正体」の○○トリックを批判しておきながら、「唇のねじれた男」に対しては好意的な風潮なのは解せないよな 「技師の親指」は地味だが私好みな短編で、朧気な場所の推定などは面白い 「緑柱石宝冠事件」も話題にならない作だが、雪上の足跡から推論を巡らす件などホームズ式捜査の特徴は出ているんじゃないだろうか 「ぶな屋敷」はいわゆる館もので舞台設定的には私の好みじゃないが、後の時代に数多く書かれるお屋敷ものの原型を創ったんじゃないかな |
No.489 | 6点 | ミステリーゾーン3- リチャード・マシスン | 2013/08/26 09:57 |
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先日24日発売の早川ミステリマガジン10月号の特集は、”ミステリ・ゲーマーへの道”、小特集として”追悼リチャード・マシスン”
今年6月に亡くなったマシスンの追悼特集は絶対やるだろうとは思っていた、早川はお世話になってるんだから追悼特集組まなかったら不義理だしね 呼応するかのように明後日27日には扶桑社文庫からマシスン「縮みゆく男」の新訳版も刊行予定だ 1959年に放送が始まったアメリカのTVドラマ『トワイライトゾーン』、日本ではTBS系で『ミステリーゾーン』と名を変えて放送された 多くの脚本を書き番組のホスト役でもあったのがロッド・サーリングである、しかしサーリングだけでは間に合わなかったのか原作を一般公募した しかしこれは企画倒れで一般公募された原作で採用されたものは殆ど無かった 結局のところプロの作家頼みになるのだが、その中心的作家がチャールズ・ボーモントとリチャード・マシスンの両名である 『トワイライトゾーン』の原作脚本は、凡そ45%を主幹ロッド・サーリングが担当、ボーモントとマシスンで25%づつを担当、残り5%を単発的に何名かの作家が分け合うという感じだったようだ 原作となった短編から選んで全4巻に編成したのが文春文庫の好企画ミステリーゾーン・シリーズであり、第1と2巻ではロッド・サーリング中心に、第3と4巻ではボーモントとマシスンの担当したものが中心になっていて、それに別の作家の単発作が2作ほど収録されている サーリングは根っからの作家じゃないから先行脚本からのノベライズも含まれているかも知れないが、他は全て原作が先に有ってドラマ化が後である 従ってドラマ化にあたって設定などが変更された作も有る 収録作の選定はドラマの出来は無視し、原作の出来を優先する方針で、ドラマと無関係に普通に短編集として楽しめる選択になっている Amazonではマシスン単独の本みたいに登録されているが、実際はこの第3巻ではボーモントとマシスンの作が半々位である 当サイトでの登録方法は迷ったがAmazonに従った 両者に追加して単発作としてヘンリー・スレッサーとデーモン・ナイトのSF短編も1編づつ収録、しかしこの両作の出来が良い 元々アイデアとオチ勝負なスレッサーだが収録作のは作者の持ち味が良く出た作だ、スレッサーはミステリー作家でもあるからミステリー観点で読んでも面白い もう1人デーモン・ナイトは純粋にSF作家なので知らない作家だったが、収録作のオチには戦慄&爆笑である 中心のボーモントとマシスンの諸作は、もしかするとTVドラマ化を意識し過ぎたせいなのか、両作家としては水準作レベルなんだろうけど、これも持ち味は出ていると思う |