皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
|
[ 短編集(分類不能) ] 夜の旅その他の旅 異色作家短篇集 |
|||
|---|---|---|---|
| チャールズ・ボーモント | 出版月: 1961年01月 | 平均: 7.50点 | 書評数: 2件 |
![]() 早川書房 1961年01月 |
![]() 早川書房 1974年01月 |
![]() 早川書房 2006年07月 |
| No.2 | 9点 | クリスティ再読 | 2025/11/26 16:35 |
|---|---|---|---|
| さて早川「異色作家短篇集」の本書ではアンソロの1+3冊を残すだけになった。ボーモントは未読なんだけども、評判のあまりの良さに最後にとっておいたんだよ。で皆さんのおっしゃる通り素晴らしい。大好き。
何というのかな、「典雅」というのが適切か。ブラッドベリの弟子みたいな存在だそうだが、SF度は低い。まあSFといえばタイムパラドックスを扱った「お父さん、なつかしいお父さん」は誰もが艶笑ギャグとして知ってるオチを使いながらも、主人公の変人キャラ設定が上手なあたり。タイムマシンならぬスペースマシンとアメリカ美学党政権の話を扱った「かりそめの客」はSFとしてはヘンに中途半端でそれ以上にアーチストがアメリカの大統領府を乗っ取った政権の方が印象的。要するにオチの人ではないんだ。それ以上に世界の奇妙な実相に讃嘆の目を見開く幼子のような感性がとにかく印象的。そこらへんが確かにブラッドベリに共通するのかな。 とはいえヘミングウェイ的に闘牛を扱った「黄色い金管楽器の調べ」は罠に向かって堂々と歩む主人公の姿が印象的だし、引退間際の自動車レーサーの勝負を描いた「人里離れた死」もヘミングウェイ好みの題材。こういうのはオチも仕掛けもないがそれがいい。こういうので勝負できる作家なんだ。この路線の頂点は「鹿狩り」。映画「ディア・ハンター」を英語の洒落で「優しさの狩人」と評していたのを思い出すような出来。まさに「鹿は一発でしとめなければならない」話。ボーモントってこういった名セリフがないあたりが特徴なのかな。 とはいえオチのある話もあって、アメリカらしい悪魔崇拝ホラーの「越してきた夫婦」がある一方、白人住宅地に引っ越した黒人夫妻が迫害に怯える「隣人たち」、修道院に囚われた男の真実がオチになる「叫ぶ男」、あるいはスポーツクラブの会員が連続自殺する「引き金」ならミステリとしての結構を備えているわけで、そういう話もしっかり描ける。しかしそれ以上に新婚旅行専用の客船の最後の航海を描いた「淑女のための唄」が、泣ける。ブラッドベリを上品にしたファンタジーテイストの話。いいな、こういうの。 だから結構泣ける話が多いんだ。老境に入った旅の手品師の失意を描いた「魔術師」もそう。抑えた筆致で情感がダダ漏れする。そして表題作にもなる「夜の旅」。27歳クラブという有名な表現があるわけだけど、なぜか優秀なミュージシャンが不幸であること、どうしようもない変人が多いことの話。スタンダード曲が多数登場する。 いや最後に持ってきてよかった。好み。 一応本書で早川異色作家短編集はアンソロを残すだけ。ここでお気に入りベスト5してもいいかな(順不同)。「くじ」シャーリー・ジャクソン、「レベル3」フィニイ、「一角獣・多角獣」スタージョン、「壁抜け男」エイメ、「夜の旅その他の旅」ボーモント。たぶんこのシリーズのお気に入りは選ぶ人の個性が出まくりになるんじゃなのかな。評者意外にもファンタジー寄りの結果でびっくりしている(苦笑) |
|||
| No.1 | 6点 | mini | 2013/10/07 09:58 |
|---|---|---|---|
| 先月26日に扶桑社文庫からチャールズ・ボーモント「予期せぬ結末2 トロイメライ」が刊行された
『予期せぬ結末』叢書シリーズは早川書房異色作家短篇集の再現を狙った扶桑社文庫の企画で、その第2弾がこのボーモント、第1弾目はジョン・コリアだった 今年6月にリチャード・マシスンが亡くなったが、マシスンはTVドラマ『トゥワイライト・ゾーン』の脚本を担当した経歴がある そのマシスン同様に脚本などに関わり並び称されていた作家がチャールズ・ボーモントである 高齢で亡くなったマシスンと対照的にボーモントは若くして逝った悲運の天才作家だった 作家としてだけでなく多芸多才で、作家活動でも短い執筆期間にしては数多い短編を書いている、まさに生き急いだ作家というイメージだ 異色短篇作家チャールズ・ボーモントの特徴は一言で言えばムードを描く作家である オチや捻りという面では乏しく、そういう要素を期待するような読者向きではない しかし独特の雰囲気を持っており、特にカーレースやジャズといった趣味の世界に没頭したような世界はボーモントならではだ 早川の叢書の1冊であるこの「夜の旅その他の旅」にしてもらしさが遺憾なく発揮されている、特に表題作とも言える巻末作は他の異色短篇作家では書けない味わいだろう このような叢書を企画するならラインナップには絶対落とせない作家の1人である |
|||