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[ クライム/倒叙 ] 長恨歌 不夜城完結編 不夜城三部作 |
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馳星周 | 出版月: 2004年11月 | 平均: 5.00点 | 書評数: 2件 |
角川書店 2004年11月 |
角川グループパブリッシング 2008年07月 |
No.2 | 5点 | レッドキング | 2023/05/22 21:47 |
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日台ハーフの主人公:劉健一物語の第三部にして完結編。第一部:「不夜城」の "傷だらけのダークヒーロー"が、第二部:「鎮魂歌」で "操りのアンチヒーロー"に反転し、この第三部:「長恨歌」では "暗黒のラスボス悪魔"の容貌さえ帯びる。
貧しき大地より経済先進国たる我が歌舞伎町に流れ込んだ、中国マフィアの凄惨な抗争・・は遠く前世紀の光景となり、今や我が国に十倍する人口相当の国力を蓄えつつある中国。それでも故郷からあぶれ、麻薬ビジネスを糧に、この異郷の地でネズミの様に棲息する中国プチマフィア達。歌舞伎町を舞台に日本ヤクザも絡んだグループ間抗争が、主人公:劉健一の戯画の様な脱中国チンピラをワトスン語り役に展開し、いったい、誰が何を目論んで何を起こしているのかの、Who・Why・Whatミステリが完結する。 |
No.1 | 5点 | Tetchy | 2013/03/19 19:10 |
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鮮烈なデビュー作となった『不夜城』も『鎮魂歌』を経て3部作と云う形で本書を以て完結を迎える。足掛け8年に亘っての完結だ。
作中でも書かれているように、新宿を生きる中国系マフィアの状況も劉健一がしがない故買屋だった頃からは様変わりしている。北京、上海、台湾といった大きな勢力が組織だって抗争を繰り広げていた頃とは違い、東北や福建から流れてきた連中が4,5人集まっては犯罪を犯し、また方々へ散っていく。 そして劉健一も2作目からさらにその得体の知れなさに拍車がかかる。全てを見通すかのように部屋に籠っては情報を集め、彼に関わる人たちの過去を、秘密を暴いていく。物語の前面に出るわけではなく、あくまで影の存在として情報を操作し、人を、いや物語を操る。 概ね馳氏の主人公にはかつて愛した女を喪った過去を持つ。それは汚れてしまった現在の自分が生まれることになった愛と云う純粋なものを信じていた時代から訣別を意味するのだろう。ある者は人生から転落し、ちんけなチンピラになってしまい、ある者は愛を捨てることで成り上がった者もいる。しかし共通するのは汚れてしまった人間になってしまったということだ。馳作品の主人公は過去の女性への喪失感がトラウマになっていることが多い。 相変わらず裏切りと血と暴力の物語で救いがないのだが、今までの諸作とは明らかに変わっているところがある。 まず必ずと云っていいほど織り込まれていた過剰なセックス描写が本作では全くないことだ。ヒロインは必ず複数のやくざに凌辱され、薬漬けにされ廃人と化す。物語の初めに美しく、そしてしたたかな女として描写され、物語の中で血肉を得られた頃に、いきなり公衆便所のように男たちの性欲処理の対象まで貶められるのが今までの馳作品における女性の扱い方だった。しかし本書ではヒロイン役である藍文慈の扱いは全く違うものになっている。 『不夜城』シリーズは劉健一の物語。だからこそ完結編である本書で劉の始末をつける必要があったのだ。しかしそこにはいわゆるシリーズの結末が着いたことで得られるカタルシスや爽快感はない。劉健一という人物が最後の最後まで報われない存在だったことを思い知らされるだけだ。これほど救いのないシリーズも珍しい。 通常何もかも喪った人が再生もしくは復活するというのが小説の題材であり、また主題となるが、馳氏は何もかも喪った人がさらに堕ちていく様を容赦なく描いていく。それは異国で生活する下層社会の人間の厳しい現実を知るからかもしれない。しかしそれでも小説と云う作り物の中では希望のある話を読みたいものだ。こう考える私は馳作品を読むべき人間ではないかもしれない。 |