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[ クライム/倒叙 ]
9・11倶楽部
馳星周 出版月: 2008年07月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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文藝春秋
2008年07月

文藝春秋
2011年06月

No.1 7点 Tetchy 2013/10/27 13:55
本書は一種変わったクライム小説だ。救急救命士という真っ当な職業に就く人物が主人公であると変化球を見せれば、新宿に蔓延る中国マフィア連中によって翻弄されるいつものパターンもある。そして最後には都知事爆破を企むというクライムノヴェルの様相を呈していく。

しかし根っこにあるのは家族を喪った心に獣を飼う男と貧しくも逞しく生きる、東京に親を剥奪された子供達との適わなかった幸せだ。
この救急救命士の織田と云う主人公は暗黒小説の雄である馳氏の作品とは思えないほど、クリーンだ。昔消防士だった頃に地下鉄サリン事件で妻と子を亡くしたという苦い過去を持つ男だ。

特に織田の人生が破綻していく動機が他者のためであるのが特徴的だ。今までの馳作品の主人公は己のエゴや黒い欲望のために他人を出し抜き、一攫千金を夢見て、のし上がる、もしくは理想の楽園へ逃れようと実に利己的な動機だったのに対し、織田は親を祖国へ強制送還され、自分たちだけの力で生きていかざるをえなかった明たち不法就労者の残留児たちの生活を守るために、悪事に手を染め、安定した救急救命士という職を擲ち、窮地に陥っていくのだ。彼が求めたはかつて持っていた家庭と云う温もりと長きに亘った孤独への別離。明や笑加を筆頭にしたたかにも逞しく生きる子供らとの生活が長く続くことを願ってやまなかったことだ。

そしてさらには呪詛の羅列のような唾棄すべき内容の文章だったのが、ここでは織田と笑加、明たち少年たちの交流を瑞々しく描いている点だ。彼らは生き抜くために犯罪に手を染め、大人を出し抜き、更には自分たちの不遇を呪って都庁爆破と云うテロを企てているという、いわばとんでもないアウトローの集団なのだが、実の素顔は日々不安を抱えて生きている少年少女であり、それが子供と妻を地下鉄サリン事件で亡くした織田にとっては何物にも代えがたい宝石となっているのだ。
その心温まる交流が随所に挿入され、テロを計画するという陰謀とは裏腹に家族愛を感じさせるのが皮肉だ。
まさにこれは馳流大家族ドラマとも云えよう。

これは家族を守ろうとする一人の男の愛の強さを描いた物語だ。しかし馳氏の手に掛るとその愛の強さはテロをも生むのだ。安定した生活を擲って家族のために犯罪に手を染めていく不器用で愚直な織田に、どこか昭和の男の香りを感じてしまった。


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