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[ クライム/倒叙 ] 沈黙の森 |
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馳星周 | 出版月: 2009年10月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
徳間書店 2009年10月 |
徳間書店 2012年01月 |
No.1 | 7点 | Tetchy | 2014/01/14 22:21 |
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軽井沢と云えば皇后家ゆかりの地。ここにはやくざはおらず、その手の取り締まりも厳しいそうだ。そんな金持ちの別荘地である軽井沢が戦場と化す。馳版『マルタの鷹』ともいうべき本作では5億円をやくざから持ち逃げした投資ファンドの男を追って、東京から極道が、中国系マフィアが大挙してくる。馳氏に掛かると閑静な富裕層たちの避暑地も血で血を洗う修羅場となるのだ。
物語はかつて20年前に新宿で大暴れした四人の男を軸に回る。田口健二、城野和幸、山岸聡、徳丸尚久。 この田口健二というキャラクターは今までの馳作品の中でも最強ではないだろうか。今までのキャラクターには悪人でありながらも対抗勢力に対しての恐怖心、自分と云う存在が消されることへの怖れ、また守るべき物、大切にしている物、よすがとなっている物を持ち、良心が感じられたが、田口はそんな一切の弱みはなく、痛みや脅しが一切通用しない。また人を殺すセンスに溢れ、殺人に対する躊躇いが全くない。とにかく自分の前に立ち塞がる者を、それがやくざであろうが警察であろうが、全て殺すのみ。しかも一切の手心を加えずに、再起不能となるまで、いや既に死んでいるように見えても、更に死者を嬲り殺すように徹底的に破壊する。冷酷な殺人マシーンと書くだけ以上の怖さがある。 馳作品の特徴は疾走感を持ちながらも複数の登場人物が錯綜し、それぞれが有機的に絡み合って破滅と云う名の交響曲を奏でるという実に複雑なプロットが持ち味であるのだが、本書はそんな複雑な構図は鳴りを潜め、単純明快に物語は疾走していく。本来であれば作品に最後まで関わっていくであろう配役たちが早々に退場していく。それは田口と遠山と云う二人の獣の一騎打ちという非常にシンプルな結末に向けて次々と現れる障害物を薙ぎ倒していくかのようだ。今までの馳作品は上に書いたような複雑な構図を持ちながらも、結局最後はとち狂った主人公による大量殺戮で敵味方関係なくぶち殺されていくというプロットの破綻とも云うべき流れだったのに対し、本書は逆に明確に目指す所に向かっていくというシンプルなところがいい方向に出ているように感じた。 そんなかつての馳氏を髣髴させる血沸き肉躍るヴァイオレンス巨編だが、細部や設定の甘さに少々失望したのは否めない。 例えば馬場紀子が自信の職業をカメラマンと述べているのには違和感を覚えた。フォトグラファーと自称するくらいの性格付けはしてほしかった。またカメラマンと云ってもヴィデオグラファーやシネマグラファーなどその対象によって様々な呼称がある。上にも書いたようにこれでは単純に田口が獣に目覚めるためだけにあてがった生贄に少し肉付けしたにしか過ぎないではないか。馳氏の作品は人が簡単に死ぬだけに単なる物語を動かす駒にしか過ぎないように思え、人物描写や造形に詰めが甘いのが残念だ。 また達也が実は田口の息子だったという設定には正直辟易した。馳氏の作品には血の繋がりがもたらす業の深さや運命の皮肉、因果応報が色濃く出ているが、達也については紀子同様、登場時からフラグが立ちまくっている。紀子への凌辱、達也を殺害することで子殺しの親という忌まわしい過ちという二段階の奈落を設定することで田口が過去の殺戮者に戻るためのスイッチとしたことは解るが、これでは明らかに読者に見え見えである。 本書の疾走感はそれまでの馳作品の中でも随一であることは認めよう。しかしそれだけに最後の田口と遠山との一騎打ちがなかなか始まらなかったのは、物語を意図的に引き延ばそうとしていたようにしか思えなかった。どういった意図によるのか解らないが、駆け抜けていくのであれば、とことん最後まで休まずに全力疾走してほしかった。 |