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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
シロへの長い道
ライオネル・デヴィッドスン 出版月: 1978年10月 平均: 6.50点 書評数: 2件

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早川書房
1978年10月

No.2 7点 クリスティ再読 2018/04/05 09:14
本作の主人公は文献学者で、死海文書などの研究者だったりする。だから本作は「文系冒険小説」とでも言うべき作品。ナグ・ハマディ文書とか近いところではユダの福音書を巡る騒動を見ても、学者の功名争いと投機的な古文書ブローカー、それに国家遺産として所有権を主張する出土地の文化機関が三つ巴四つ巴となって、スパイ小説まがいの暗闘を現実に繰り返してきたあたりを見るにつけ、本作の世界はリアリティが結構、ある。
七肢の燭台メノーラはユダヤ教を象徴する聖具だが、西暦70年のユダヤ戦争の結果、ローマに略奪されたとされている。しかし奪われたのは偽物で、本物はその最中に地下に埋められて隠蔽されたのだ、とする記録文書が出土した。イギリスの文献学者の主人公はその「勘の良さ」を買われてイスラエルの某筋に、メノーラの捜索に雇われた。その記録文書の記述は曖昧で、いろいろと矛盾もしている。同じ文書がほぼ同時にヨルダン側にも渡ったようだ。主人公にも妨害の手が伸びてくる...
という話である。主人公は学者だが、ヨルダン側のメノーラ捜索隊の侵入を撃退する戦争小説風の部分もあり、巻き込まれスリラー並みの肉体アクションもあり、暗号解読の妙味あり、荒涼たるユダヤの地の物珍しい風土描写あり、といろいろな興味を詰め込んだお買い得な作品。死海にぷかぷか浮かびながら主人公が逃亡するのがクライマックスで、これが印象的。
キャラ造形・デテール描写の上手な作家なので、大学教授の知性もきっちり小説の中に再現できている。イギリスでのゴールド・ダガー受賞は納得の出来だが、日本でも多少ユダヤ・キリスト教の知識があると面白く読めること間違いなし。

No.1 6点 mini 2010/07/26 10:11
CWA賞を三度も取ったライオネル・デヴィッドスンは前から読みたい作家だったのだがやっと初読み
私にとっては得体の知れない作家だった
何となく冒険小説系統かなと思っていたが作品によっては諜報謀略小説のようでもあるし
初めて読んでみた感じではこれは諜報謀略小説では絶対無い
組織が絡むような場面は一切無く、終始個人に視点が当てられる
好き好んで巻き込まれる冒険小説の一形態と言ったところで、気品のある筆致といい、英国伝統の冒険小説の香りが濃厚だ
でも一般的な冒険小説とは何となく違う
結局は読み終わっても謎の作家のままなのであった(苦笑)
訳者はフランシスでもお馴染みの菊池光だが、デヴィッドスンの文章は格調はあるがフランシスのような切れのある文章ではないから、ちょっと直訳調の菊池光には合わない感もある


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ライオネル・デヴィッドスン
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