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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 極北が呼ぶ |
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ライオネル・デヴィッドスン | 出版月: 1996年05月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
文藝春秋 1996年05月 |
No.1 | 6点 | クリスティ再読 | 2019/05/01 21:18 |
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評者ご贔屓イギリス冒険スリラーの巨匠ライオネル・デヴィッドスンの全8冊の長編でも最後のもの。その前の「チェルシー」が1978年なんだけど、本作は 1994年とずいぶん空いている。が、多分デヴィッドスンでも最長編で、文春文庫で上下2冊で出ている力作だ。
本作はデヴィッドスンでも「チベットの薔薇」に近い、閉鎖的な地域に潜入して帰還する冒険スパイ小説...で今回の舞台はシベリアでも極東管区になるサハ共和国、北極海に注ぐコルイマ川をさかのぼった街チェルスキーと、その近傍にある設定の閉鎖的な研究所に主人公が潜入する。まあおよそ日本人には馴染みのない地帯なんだけども、この主人公は職業スパイでも何でもなくて、才能のある言語学者でかつ生理学者、ジョニー・ポーター教授なのである。ターゲットの研究所で死に近づいた旧知の所長からの、暗号による手紙による要請に応えて、はるばるアメリカからソ連・シベリアの軍事機密研究所を訪れるのだ。 と英国作家らしいアマチュアリズムなんだけども、この主人公が一筋縄ではいかない。人種からしてカナダ・インディアンで、トーテムはワタリガラス(レイヴン)、トリックスターを象徴するクランの出自だが、インディアンとしては実学的な林学から生物学を収め、転じてインディアン諸語の研究からシベリア少数民族の言語研究のためにロシアに招かれて...と大した学歴を持ち、しかもインディアンの権利を守るために活動するアクティヴィストの面も持つ。ちょいとしたスーパーヒーローだ。シベリアの多くの先住民の言語・習慣に通暁して、しかも見た目も彼らの間に紛れ込んで目立たない、うってつけの人材である。(CIAの最初のアプローチへの返事も「クソ喰らえ、スパイども」なのがナイス) その手紙の暗号といのが、聖書に基づくものなので解読結果が「あの男を送れ/北の家族の言葉を話すものを」と蒼古の記憶を揺さぶるようなものだし、所長が伝えたい秘密はシベリアのツンドラの中で見つかったネアンデルタール人の冷凍死体に関わるもの。最後は人類のグレート・ジャーニーを再現するかのように凍結したベーリング海峡を横断してソ連を脱出する...と、人類学的な興味が非常に強いのが、デヴィッドスンらしい味付けである。 まあもちろん、潜入・調査・脱出のエンタメ要素もしっかり完備。ヒロインに当たる医療監督官コマローワもいい味出してるし、文章もタイトなハードボイルド風で、外さない。まあ、所長の秘密がヘンなSFなのがご愛嬌だが、シベリアの風土・風物がもの珍しい。 と、デヴィッドスン全8長編だが、1作は未訳、1作は入手困難な「スミスのかもしか」なので、6作やって評者の中ではコンプ、としよう。この人バカバカしくないスケール感があって、ほぼハズレのない優良作家なんだからね、もっと読まれていいよ。 |