皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ サスペンス ] 犯罪の進行 |
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ジュリアン・シモンズ | 出版月: 1961年01月 | 平均: 6.50点 | 書評数: 2件 |
早川書房 1961年01月 |
No.2 | 7点 | 人並由真 | 2018/09/26 16:46 |
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(ネタバレなし)
その年の11月5日。英国の片田舎の町ファー・ウェザー。地方新聞「ガゼット」の若手記者ヒュー・ベネットは、そこで行われる特別仕様のガイ・フォークス祭を取材に赴く。だが同地で彼が夜陰のなかで出くわしたのは、土地の顔役ジェイムズ・レントン・コービーが、数人の少年らしきグループに刺殺されるその現場だった。犯人と思われる少年グループは逮捕されるが、それと並行して事件の情報はロンドンにも届き、大物新聞「バンナー」の上層部が関心を抱いた。「バンナー」は「フリート街きっての事件屋」と異名をとる敏腕記者フランク・フェアフィールドをファー・ウェザーを派遣。複雑な事情がからむ少年犯罪として探らせようとする。一方、スコットランドヤードからは、苦い過去を秘めたベテラン警部フレデリック・トイッカー警部が出向。多くの者の思惑と疑念が渦巻く中で、グループの中の誰が主犯か共犯か、従犯かの疑念が高まる。やがてそんな中でもう一つの殺人が……。 1960年のイギリス作品。翌61年度MWA最優秀長編賞に輝いた一作。『二月三十一日』がすごく面白かったシモンズだから本作も楽しめるだろうと思ったが、予想以上の充実感だった。誰だ、シモンズが「評論家としてはともかく作家としては……の眼高手低」と言ったの?(正解は石川喬司だったと思う。)いやそういう評者も、大昔に読んだ新潮文庫の二冊(『殺人計画』と『ホームズの復活』)は、まあ悪くはないがそれなり……程度の感触ではあったけれど(笑)。 名前が出てきてメモを取った登場人物の総勢が54人にも及ぶ一大群像劇で、リーガルサスペンス。さらには少年グループ内のキーパーソンである若者レスリー・ガードナーの姉ジルと恋仲になってしまった主人公ヒューの恋愛模様や、捜査官トイッカー警部の過去の悲劇まで浮上してくる濃密な一冊である。(ちなみにトイッカーの過去設定って、昨年翻訳された某・大作警察小説の主人公のルーツじゃないかと? そっちの作者が意識したかどうかは知らんけど。) ラストは、ミステリがミステリとして落着する定型のなかでどうしても読めちゃう部分はあったけど、実に重量感のある秀作であった。いいなあ、シモンズ、残りの作品も楽しみだ。 余談:シモンズの(この作品だけ?)悪いクセについて、ひとつ言及。地の文をふくめて先にハウスネームだけ情報として出して、あとでファーストネームを明かす書き方はいい加減にしてほしかった。人名メモをとるのが実に面倒で。ただでさえ登場人物が多いのに。これは翻訳のせいではないよね? 翻訳そのものはさすが小笠原戸豊樹。時たま聞き慣れない言葉は出るが、全体的にはとても読みやすかった。 |
No.1 | 6点 | mini | 2009/07/11 09:31 |
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未訳だった幻のデビュー作「非実体主義殺人事件」が少し前に論創社から刊行されたジュリアン・シモンズは、ミステリー評論家として有名である
評論家としてはアメリカのA・バウチャー、英国のシモンズが双璧だろうが、作家としてのバウチャーにはいささか不満が残るのに対し、シモンズは作家としても優れている シモンズは評論中でパズル小説の衰退を説き、ミステリーは犯罪小説の方向へ向かうと主張したことで有名 ただしMWA賞も受賞し最高傑作とも云われるこの「犯罪の進行」は、犯罪小説として生々しいスタイルではなくて、犯罪事件に関連した周辺関係者の動向が中心で、事件そのものよりもライバル社との競争で新聞社が事件をどう扱うかといった話が続く おそらくは本格しか読まない読者などは、何かピントのボケた話にしか感じられないだろうが、これこそシモンズの目指した犯罪小説なんだろう ところで幻のデビュー作「非実体主義殺人事件」だが よく本質的に本格じゃない作家が書いた数少ない本格とかって、作者の本領じゃないのに不思議とその手の作品だけが手に取られたりする傾向だが、シモンズも「非実体主義殺人事件」だけが読まれて他作品は見向きもされないのだとしたら寂しい |