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[ サスペンス ]
二月三十一日
ジュリアン・シモンズ 出版月: 1955年01月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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早川書房
1955年01月

早川書房
1955年04月

早川書房
1955年04月

No.1 7点 人並由真 2016/07/15 06:28
(ネタバレなし)
 第二次大戦終戦から数年後のイギリス。ヴィンセント広告会社の企画部長で40代の男アンダソンは、元雑誌編集者の28歳の妻ヴァレリイ(ヴァル)と二人暮らしだった。そのヴァレリイがある夜、自宅の地下室に降りる階段の下で死体で見つかる。夫の故殺あるいは謀殺の可能性も取りざたされたが、結局はヴァレリイが転落事故で頭の骨を陥没させたということで落着した。上役や同僚が不幸を気遣う中、元の仕事に復帰するアンダソンだが、そんな彼の周囲で、生前の妻からのかなり日数が経った手紙が届いたり、卓上の組み換え式のカレンダーがいつのまにか妻の命日を表示していたり、ささやかな、しかし奇妙な事態が続発する。そんな折にアンダソンの前に現れたクレス警視は、匿名の密告書がアンダソンが妻殺しの殺人者だと訴えていると語るのだった!?

 気になる未読の旧刊を消化しようと思い立って読み始めた一冊だが、これは予想以上に面白かった。 
 奇妙な怪事が続く中、少しずつ精神の均衡を失っていく主人公アンダソンの叙述と併行して、当時のイギリス広告界の職場での猥雑な人間模様が語られ、これが一種の「業界もの」風な興味を醸し出す。その辺の普通小説(サラリーマンもの)的な部分も面白いが、決してそれだけではない。当時の英米の雑誌の書評はミステリとしておおむね好評な反応を寄せたようだが、それもうなずける。
 ミステリの流れが最終的にどういう方向に行くかはもちろん書けないが、小説の後半はもろもろの要素が絡み合って強烈な加速感を増し、終盤の真相に驚き、そして(中略)には掛け値なしに慄然とさせられた。なるほどこういう作品だったのか! と個人的にはかなりスキなタイプの一冊である(笑)。全体の印象としては、マーガレット・ミラーか初期の日下圭介、あのあたりに通じるものがある。

 ちなみに本書ポケミス版の翻訳の悪さはよく囁かれるが、当初からそのつもりで若干の気構えを込めて読むなら、筋立てや描写がわかりにくい個所は実のところそんなにはない。読む前は自分もそうだったのだが、初版では作者の和名が周知のとおり、本邦初紹介ゆえ「サイモンズ」表記だったのも、訳文そのものがかなりダメという悪印象をなんとなく与えているのではないか。実際にはそんなこともないのだけれど。
 とはいえ出来れば平明な現代の訳文で多くの人に読んでもらいたいなぁ、コレ。いまの創元あたりが版権切れを狙って新訳で出すとか、出来ないかな。

 ところで題名の意味は、作中の事象としては、ある時アンダソンの卓上カレンダーに表示されていた、もちろん現実にはありえない架空の日付のこと。作中ではその具体的な含意は語られないが、読者の観念や想像力を刺激するタイトルだ。


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