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[ ハードボイルド ]
モルグの女
ビル・クレイン/別題『盗まれた美女』
ジョナサン・ラティマー 出版月: 1950年01月 平均: 6.75点 書評数: 4件

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新樹社
1950年01月

早川書房
1962年01月

早川書房
1979年12月

No.4 5点 nukkam 2023/08/19 19:40
(ネタバレなしです) 1936年発表のビル・クレインシリーズ第3作のハードボイルドです。ホテルで自殺したらしい死体が2年前に行方を絶った娘ではないかという大富豪の依頼で死体確認のためにモルグ(死体置場)を訪れますが、番人が殺されて死体が盗まれる事件に巻きまれてしまいます。最後に番人と会っていたのがクレインということで(最後に会っていたのは殺人犯だというクレインの主張が正しいのを知っているのは読者のみ)、警察から疑われるだけでなくギャングから死体をどこに隠したと追われる身分になります。早い段階で披露される(利き腕に関する)クレインの推理は素晴らしくて、ここだけなら本格派推理小説として十分合格レベルですが複雑な真相が明らかになる解決場面はちょっと強引で説得力十分とは言い難いように思います。映像化したら見応えありそうな場面が豊富という点ではシリーズ全5作中のナンバーワン作品だと思います。

No.3 8点 人並由真 2020/10/08 14:35
(ネタバレなし)
 1936年の8月。ニューヨークの探偵事務所の一員ウィリアム(ビル)・クレインは、シカゴ市のモルグ(死体安置所)に来ていた。用向きは事務所の所長ブラック大佐がNYの富豪コートランド家から請け負った依頼によるもの。実はコートランド家の令嬢で現在20台前半のキャスリンは、オペラ界の大物である母エヴァリンと2年前に諍い(いさかい)を起こし、家を出ていた。そして先日、シカゴのホテルで若い娘が自殺したが、それがどうもキャスリンらしいので確認してきてほしいというものだった。だがクレインが十全な確認を終えないうちに、モルグの係員オーガスト・リープマンが何者かに殺され、ホテルで死んでいたブロンドの美女「アリス・ロス」の遺体はいずこかへと盗まれてしまう。さらにそんなクレインの前に、死体の正体は自分の関係者だと称する人物が何人も登場。しかもそのなかには、クレインが死体を盗んだと疑いをかけるものもいた。ブラック大佐が派遣した仲間たちを迎えて、クレインはNYで調査を続けるが。

 1936年のアメリカ作品。
 大昔に、死体愛好者っぽい登場人物が印象的とかなんとか囃した乱歩の文章を読んだような記憶があり、それゆえラティマーの実力は十分に知っているつもりの評者でも、なんとなくキワモノっぽい感じがしてやや敬遠していた? 一冊。

 まあ私立探偵クレインならすでにシリーズは2冊楽しんでいるし、これも手堅く楽しめるだろうと思って読んでみる。ちなみにコレも少年時代にどっかの新刊書店(たぶん早川と縁のある大手)で売れ残りのポケミスを買ったまま、書庫で眠らせていた一冊だ。

 しかしまあ、とんでもなく面白かった。ポケミスの登場人物一覧には20人強の名前が並ぶが、メモをとると実際には名前がでてくるキャラクターだけでその倍の数はある。
 その登場人物の総数に比例してお話の方も錯綜するが、一方で<結局、盗まれた死体の美女「アリス・ロス」>とは何者なのか(あるいは自分の身内だと称している連中の言い分のどれに該当するのか)? という主眼の謎、さらには<なぜ死体は盗まれたのか?>というホワイダニットの謎、その双方が明確なので、お話はまったくブレない。
 クレインとその仲間2人による主人公トリオはハードボイルド探偵らしい足を使った調査で事件に切り込んでいくが「(なくなってしまった)死体は誰だったのだ?」の謎の牽引力は、デクスターの『キドリントン』に匹敵する感さえあった(我ながら、ややぶっとんだ連想だとは思うが~笑・汗~)。

 前述のように込み入った筋立てではあるが、登場人物メモを作りながら読んでいったこちらは、まったく淀むところなどはなく、むしろ後半はページをめくるのがもどかしいほど。小休止を挟みながら、ほぼ一気に読んでしまった。
(これはラティマーが、ハードボイルドとパズラーの作法を心得ながら、さらに職人作家としても一級で、場面場面ごとにユーモアやスリルで退屈させないことも大きい。)
 ちなみに先述の死体愛好者うんぬんのくだりは、実際には大してグルーミーな描写でも、不快な場面でもなかった。まあ軽いブラックユーモアの域というか。

 終盤の謎解きは真相を明かされてから「ああ、あの伏線にもっとちゃんと留意しておけばよかった!」と思わされるような、パズルミステリとしてもイキなもの。ちょっとだけ情報の後出しの気配もあるが、もしかしたらそれはこっちがどっかで伏線や布石を読みおとしていたかもしれない。いずれにしろ山場では、連続して何回かうならされた。

 訳者の佐倉潤吾(時代の変遷で使う言葉が古くなってしまっているのは残念だが、基本的にはとても良い翻訳家だったと思う)があとがきで思い入れを込めて述べているとおり、この時代のNYの風俗を取り込んだ都会派ミステリとしての空気感も素敵。

 論創さんのおかげもあって、近年また再評価されているラティマーだけど、これはもっと多くの人に読んでもらいたいよねえ。
(何十年も放っておいた自分が、今さら何を言ってるんだか・汗w)

No.2 5点 kanamori 2010/09/01 20:51
私立探偵ビル・クレインが登場するシリーズ第3弾。
文体はハードボイルドですが、内容は集団探偵ものの本格ミステリです。
モルグから消えた美女の正体や、事件の真犯人も意外で、パズラーとして充分楽しめます。探偵役三人組のブラックなアメリカン・ユーモアに溢れた会話が一番の読みどころだと思いますが、訳文がいまいちで良さがうまく伝わってきません。出来れば新訳で再読したい作品です。

No.1 9点 mini 2009/02/18 09:36
モルグとはもちろん死体公示場の意
ハメット全盛の戦前ハードボイルドにあって、早くも戦後のB級ハードボイルドにも繋がるおちゃらけた雰囲気の作家が登場してくる
やや遅れて登場したフランク・グルーバーもそうだが、ジョナサン・ラティマーはその下品な会話といい、ハメットやホイットフィールドのシリアス路線とは一線を画すものだ
ラティマーと言うと本格好きな人はすぐに”本格とハードボイルドを融合した作家”というイメージで認識しがちだが、むしろラティマーの特徴は、”お下劣な会話文が醸し出すユーモア調”にあると言って良いだろう
謎解き面ではたしかに本格だが、文章だけを見れば紛れようもなくハードボイルドの文体そのものである
代表作はなんと言っても不朽の名作「モルグの女」ではないだろうか
軽快なテンポ、複雑で魅力的なプロット、鮮やかな謎解き、良い意味で下品な会話と雰囲気、楽しんで読めるハードボイルドとしては最高峰のものだ


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ジョナサン・ラティマー
2018年12月
精神病院の殺人
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2018年10月
サンダルウッドは死の香り
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1965年01月
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1961年01月
黒は死の装い
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1950年01月
モルグの女
平均:6.75 / 書評数:4