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[ 本格/新本格 ]
密室偏愛時代の殺人 閉ざされた村と八つのトリック
密室黄金時代シリーズ
鴨崎暖炉 出版月: 2024年07月 平均: 6.00点 書評数: 3件

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宝島社
2024年07月

No.3 7点 人並由真 2024/08/13 16:25
(ネタバレなし)
 解明不能なトリックの密室殺人の完遂によって、本命の容疑者すら捕縛を免れる世界。「僕」こと高校三年生の男子・葛白香澄は、幼なじみで大学三年生の女性・朝比奈夜月の誘いで、奥多摩の内地に出現するというニューネッシーを探しに現地に向かう。そこで葛白たちは、巨大なトンネルの向こうの広域の鍾乳洞の中にある辺鄙な村落「八つ箱村」に紛れ込んだ。そこはかつて昭和二十年代に、新鋭気鋭の若手ミステリ作家八人「昭和密室八傑」が不可解な死を遂げた惨劇の場でもあった……。そしてまた現在、当時の惨状を甦らせるような、謎の犯人による連続密室殺人事件が巻き起こる。

 「密室黄金時代シリーズ」(←作者ご本人公認の公称ね)の第三弾。
 待ってました! という気分の、二年ぶりの新作登場である。

 お笑いの大設定は一定以上のレベルで愉快なものの、正直なんか、30年前の新本格黎明期にはやったパロディものパズラーの焼き直しという感じ。とりあえずそこら辺の戯作性に、さほど寄りかかっただけの作品ではない。

 期待通りのイカれたトリックの連発は今回も相当に楽しく、特に和風密室のバカミス度加減はハイレベルだが、作品全体を俯瞰するとよくもわるくもネタをぶっこんで並べただけの感じがしないでもない。
 料理に例えるなら具の種類の多い、ひとつひとつは栄養価の高い野菜をいくつも使いながら、もうちょっと煮込んで溶け合わせたらいいのにな、というクリームシチューみたいな食感? ただし一方で、この料理はそのシチューの中の具の野菜ひとつひとつに旨味と歯応えもあるので、決して悪い仕上がりではない。ある意味で、煮込みをほどほどにしたところが魅力の料理でもあった。

 あんまり書いちゃいけないけれど、最後の大技とさらにそのあとの……も作者なりのサービス精神の発露。送り手がこういう形で具現した深いミステリ愛をそこら辺に感じて、ちょっと胸が熱くなった。
(未読の方の興味を削がないように書きたいけれど、中盤の、あっちを優先すると、こっちが……のあたりのくだりも、本作ならではの文芸設定の活用で楽しい。)

 最後に文生さんのレビューの「社会派パズラー舐めんな!(大意)」は読んでいてまさに自分もそう思った箇所で(笑)、さすが文生さん、よくわかってらっしゃる! 
 ただまあ、この作者・鴨崎先生クラスにとんがった作家の場合、その程度にはスキがあった方が人間臭くて良い。これでもし鴨崎先生が、社会科とパズラーの分水嶺まで冷徹に知悉していたら、なんかもう若いくせに可愛げないもんねえ。そのくらいに油断があってイイのよ。
(まあもしかしたら御当人、すべて承知の上で、自己演出しておられるのかも知れませんが?)
 
 何はともあれ今回も、しっかり楽しませていただきました。シリーズ第四弾も楽しみにしております。(次は最低でもトリック9個がノルマなのですか……。)

No.2 4点 文生 2024/07/15 09:18
シリーズ第3弾の本作は、昭和密室八傑による8つの密室トリックに多重解決の趣向、そしてなんといっても、最後に明かされる壮大すぎるトリックといった具合に、今まで以上にアイディアがぎゅうぎゅうに詰め込まれていました。それだけに、一つ一つが練り込み不足でアイディアを垂れ流しているようにしか思えないのが残念です。最後の大トリックにしてもイメージの壮大さに反し、使われ方がなんだかみみっちくてバカミス的な魅力が全く伝わってきませんでした。それに、一見奇抜な動機もミステリオタ的にはむしろ凡庸で読んでいてうんざりしてきます。

あとは、今までも指摘してきた、「使う意味がないと蔑まれてきた密室トリック」「密室トリックが解明できなければ被告は無罪という判決に日本中が騒然とした」「日本ではそれまで密室殺人は起きたことがない」といったミステリーに関する一連の言説の乱暴さについてですが、今回は「社会派の作家に密室トリックは考えられない」というセリフが引っ掛かりました。森村誠一とか読んだことがないのかと。

とはいえ、アイディアや発想には光るものがあるだけに、それらをもっと練り込んで完成度が高まっていくことを期待しつつ、今後も作品を追っていきたいと思います。

No.1 7点 nukkam 2024/07/12 14:15
(ネタバレなしです) 2024年発表の密室黄金時代シリーズ第3作となる本格派推理小説です。私は過去のシリーズ作品を2作とも読んでいますが、本書を読んで「何かパワーアップしていない?」と感じました。単純に密室トリックの数のことだけではなく、まさかの驚愕トリックの連打に衝撃を受けました。舞台が「八つ箱村」という名前からして思わず笑ってしまいます(ユーモアもパワーアップしています)。横溝正史の「八つ墓村」(1951年)を読んでいなくても大丈夫な内容ですけど、ちょっとパロディー要素もあるので読んでいた方がいいですね。無理だろ、強引だろ、それはないだろと呆れさせるトリックもあり(「血染め和室の密室」、「人体発火の密室」、「地下迷路の密室」など)あまりにも無茶苦茶なので馬鹿らしくて付いていけない読者もいるとは思いますが、その突っ込みどころも含めて個人的には大いに楽しめました。


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鴨崎暖炉
2024年07月
密室偏愛時代の殺人 閉ざされた村と八つのトリック
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