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[ 時代・歴史ミステリ ]
紅楼の悪夢
ディー判事
ロバート・ファン・ヒューリック 出版月: 2004年06月 平均: 7.00点 書評数: 4件

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早川書房
2004年06月

No.4 10点 ポラ丸 2026/04/01 07:50
都への出張の帰途、盂蘭盆会の楽園島に宿をとるはめになった狄(ディー)判事と馬栄(マー・ロン)。明日挨拶に行くつもりの金華県の羅(ラオ)知事が島を訪問中であることを喜んだが、なにやら逃げるように島を後にする羅知事に事件を押し付けられてしまう。

その事件とは父親が諫議大夫、最近殿試に主席合格し国子監(国立大学)の博士(教授)に任命されたばかりの青年の自殺事件だった。事件を調べるうちに同じ密室で青年を袖にしたと噂の妓女の秋月の死体が見つかる。さらに30年前同じ部屋で島の実力者が死んでいた。紅色の密室で起こった三つの事件を結ぶ糸はなにか。判事は禍々しい予感に包まれながら捜査を開始するのだったが・・

本書はロバート・ファン・ヒューリックの「アジアへの共感」に満ち溢れた作品です。そのこめられた想いは多層的で一言では言えません。書評ではあまりそういう書き方はしないのですが、箇条書きでヒューリックの真意を読み解きます。(ネタバレ)

1.この本のテーマは「盂蘭盆会」そのもの。提灯が揺れ、街の要所要所には死者があの世で困らないように大きな盆(供物台)が設えられます。地獄の門が開き、生者と死者が一緒に暮らすひと月です。

2.楽園島が舞台なのは現世(ウツシヨ)の人間の欲を「盂蘭盆会」と対比させるため。

3.「紅色」も「盂蘭盆会」の風景の象徴。軒先に揺れる紅色の提灯、川を流れる灯篭、夏の終わりの風景でもあり、人間の欲望の寂しさの喩えでもあります。

4.三つの死の真相は、正当防衛、自死、病死であり、他殺は一件もありませんでした。古今東西のミステリーでも本作のみでしょう。しかも他殺ではないのに判事は真相を追い続けます。

5.ディー判事シリーズの多くの作品では、殺人そのものの経緯を解き明かすことが目的ではなく、登場人物の人間性を明らかにして、その上で事件の全貌を示すことが目的のように見えます。本作では特に生者と死者の混じり合う季節であり、その死者たちの物言わぬ真実を見つけだし、その魂を在るべき場所に還すことがテーマとなります。

6.判事の捜査が進むにつれ登場人物の真の姿が徐々に明らかになり、最後の「どんでん返し」の後では全ての人物の立ち位置が定まります。

7.30年前死んだ陶番徳の父も清廉潔白ではありませんでした。馮里正と娘の玉環も虚偽を申し立てていますがその底意を汲んだ判事に許されます。

8.「冷血漢」「自殺する人間じゃない」と評価された李博士の自死の潔さは本作の白眉ですが、周囲の評価の元となったふるまいは、自身の病気の疑いに気づく前のことですから、かならずしも博士の評価を覆すものではありません。むしろ琅娘によりその「侠気」を賞賛される父李進士の「侠気」がどのような性質(タチ)のものだったのか疑わせるところに繋がります。

9.そういう落ちていく人間像と違い、蟹やんこそが真の「侠気」という作者の見立てなのでしょう。蟹やんや小蝦どんの非凡さは無いものの平凡さを自覚する銀仙カップルに注がれる作者の目は暖かいですね。

10.さてここまで書いてきましたが、作者の一番大事な「アジアへの共感」はまだ書いていません。それは何でしょうか。

それは意外な二人の人物から、しかも「反語」の形式で語られます。

最初は141ページ、蟹やんが小蝦どんの息子を語る部分。「すくすく育ったいい若いのだった。4年前に釣りに行って軍船にぶつけられておぼれちまった」「それ以来せがれの話がでるたびに小蝦どんがおいおい泣いて、それで息子が午後帰ってきても会えるように、夜番にしてもらったんだよ」

もう一つが165ページ、琅娘が李進士に二人の間の息子のことを話す部分。「でも、病気が治ってから流産してしまったの。妾たちの息子はきっと美しくて、勇敢だったでしょうね。あなたそっくりに!」

アジアの人々の「帰ってこない者を待つ気持ち」こそヒューリックを感動させたのでしょう「たとえお盆だけでも帰ってきてくれて嬉しい」という欧米にはない盂蘭盆会の風景がヒューリックの最も心を打ったことなのです。そしてそれが彼に本作を書かせた動機となりました。

逆説的で凄惨な光景ではあるのですが『琅娘のもとに李進士が還ってきた』ことが実はこの作品の象徴だったのですね。

No.3 5点 nukkam 2016/09/23 00:34
(ネタバレなしです) 1964年発表のシリーズ第9作の本書では密室内での死が扱われていますが自殺を前提にして物語が進むので不可能犯罪として謎を膨らますようなプロットにはなっていません。トリック的には30年前の密室トリックが印象的です。ユーモアに満ちたシーンもありますがどちらかといえば重い読後感を覚える作品で、ルオ知事やマー・ロン副官の明るいキャラクターをもってしてもそれを完全には払拭しきれていません。

No.2 6点 2015/09/05 13:49
ディー判事は、立ち寄った楽園島で起きた密室事件をルオ知事に押しつけられて、部下のマーロンとともに捜査することになる。そして次の事件と、さらに30年前の事件も。
歓楽地の事件で、里正(村長、元締めみたいなものか)、花魁、妓女、博士、書生、骨董商など、雑多な人物たちが登場する。歓楽地で骨董商というのもなんか変な感じだな。

トリックよりもおもに人間関係の面白さがある。
いかにも悪そうなやつもいれば、そうでないのもいる。人物間のどろどろ感もある。マーロンたちのアクションの見せ場もある。
ディー判事の最後の謎解きはちょっとした驚きだった。伏線は軽すぎて忘れていたw

国内の安っぽい2時間ドラマにそのまま使えそうなストーリーだった。
総合的に見ても、軽さと、重さと、滑稽度(挿絵によるものか?)と、男女のせつなさとが混在したような、なんかバランスがイマイチのように感じた。
まあでもプロットには変化があって楽しめたほうかな。

No.1 7点 mini 2010/08/13 10:19
* お盆の時期だからね(^_^;) *
盂蘭盆(うらぼん)の時期だった為、ここ楽園島内の宿屋はどこも満室で、狄(ディー)判事一行がかろうじて泊れた部屋は何やら怪しげな部屋だった
一泊して翌日に隣県のルオ知事に挨拶に行く予定であったが、そのルオ知事が楽園島に来ていて半ば強引にある事件の解決を代理で依頼されてしまう狄判事

江南にある第3の赴任地時代の話で、題名の出典は述べるまでもないだろう
今回の舞台は、酒場・賭博場・娼館が立ち並び、水路に囲まれたその名も”楽園島”、まぁ古代中国のラスベガスと言ったところか
話の展開も真相も珍しい舞台と良く合っている
過去現在含めて全部で3つの密室事件が出てくるのだが、トリックに期待しちゃ駄目よ
密室トリックが主眼ではなくて、なぜ密室事件が3つも起きるかってぇーと、それは自殺か他殺かを読者に混乱させるのが狙いだろーて
登場する副官も酒と女には目が無い馬栄(マーロン)1人なのは必然だ
しかし今回の馬栄、腕っ節を見せる場面もあまり無く、終いにはほろ苦い結果に・・
ほろ苦いのは真相も同様で、3つも密室事件が起こる割には話の展開が分かりやすくトータルバランスに優れ、暗く重い真相が舞台設定と良く調和しており余韻が心に沁みる
前期5部作を除く読んだ中後期作の中では最も出来が良い
それにしても”小蝦どん”の荒業すっげぇぇぇ~!


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