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[ サスペンス ]
アリスが語らないことは
メイン州ケネウィックもの
ピーター・スワンソン 出版月: 2022年01月 平均: 7.00点 書評数: 4件

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東京創元社
2022年01月

No.4 7点 ◇・・ 2023/07/19 20:28
父親の死を不審に思った大学生の主人公ハリーとその美しい継母アリスを巡る物語。アリスの過去が次第に明らかになっていくとともに、意外な犯人が浮かび上がってくる。
作者の第四作にあたる長編だが、現在と過去を交互に描くことで生まれるサスペンスやプロットの捻りだけではなく、印象的な土地の風景描写、陰影の深い人物の登場など、これまでにない風格を感じさせられた。

No.3 7点 YMY 2023/03/08 22:31
父を亡くした若者と、その継母の物語。
父が事故死したと知らされたハリーは実家に戻る。警察によると、殴られた痕跡があったという。死の真相に触れたがらない若い継母のアリスに、ハリーは疑念を抱くという現代の章と、アリスの生い立ちを語る過去の章が交互に並ぶ。
アリスの過去と現在との間に横たわる空白への関心が読者をひきつける。意外な驚きに満ちたサスペンスである。

No.2 7点 HORNET 2022/08/29 22:46
 大学生のハリーのもとに、離れて暮らす父が崖から転落死したとの知らせが。警察の話では、父の死体には殴打の痕があったという。ハリーは父の後妻であり継母である、美しい容姿のアリスにかすかな疑念を抱く。父の真実を探っていく中、背後にある驚愕の人間関係が明らかになる―
 過去と現在が入り交じった2部構成が巧みに編まれ、ハリーの父の裏の顔と、継母アリスの経歴が開陳されていく展開は絶妙。それぞれに過ちを犯している登場人物たちなのだが、誰が主体的な「悪意」をもっている本当の「悪」なのか、分からない(という思いがますますページを繰らせる)。

 結末まで読むと結局アリスは悪女だったのか、そうではないのか、判断が下しがたい。物語の前半に、いち「黒歴史」のように描かれていた事柄がラストの締めにもってこられるなんて。いろんな意味で絶妙なラストと感じた。
 大がかりではないが、意外性のある仕掛けも施されており、ミステリとしても味わいがある。相変わらずのリーダビリティと考えられた構成で「かなり楽しめた」。

No.1 7点 人並由真 2022/07/07 15:19
(ネタバレなし)
 アメリカはメイン州ケネウィックの町。中堅規模の古書店を営む50台の男性ビル・アッカーソンの転落死が伝えられた。ニューヨークの大学で卒業間近だったビルの息子ハリーは慌てて帰郷し、ビルの後妻である30代の美しい継母アリスから事情を聞く。だがハリーはしばらく実家に留まりながらも、父の葬儀の前後から不穏な気配を感じた。一方で物語は、アリスの少女時代からの半生を並行して語り出してゆく。

 2018年のアメリカ作品。
 日本でも近年人気なような作者スワンソンだが、評者は初めて著作を読む。
 ノンシリーズのサスペンスものだが、巻末の解説によると先行作『そしてミランダを殺す』と同じ架空の町ケネウィックを舞台にしているらしい。

 各章の冒頭に「現在」「過去」の標記を設けて、ハリーの動きを主軸にした前者と、アリスの過去をメインとする後者が、ほぼ交互に並行した小説として語られる。
 ちょっとあのビル・S・バリンジャーを思わせる趣向だが、向こう(バリンジャー)は表向きはメインキャラを共通させないような書き方という印象もあるので、似てるようで違う? かもしれない。

 文庫版で400ページ以上とやや長めの作品だが、創元文庫としては文字の級数も大き目な方であり、訳文も平明で読みやすい。最後はちょっと疲れたが、それでも深夜から読み始めて朝には読み終えてしまった。
 
 この作者を初読みなこともあって、どの程度にトリッキィなミステリ面での趣向を繰り出してくるか不明だったため、終盤でそれなりの大技にはまんまと引っかかった。

 もちろんあまりここでは詳しくは言ってはいけない内容の作品だが、過去と現在の二つの時勢のストーリーの中核に最もいる登場人物がやはりアリスであることぐらいは、言ってもいいだろう。Amazonのレビューの中のひとつで、そのレビューのタイトル(感想記事の見出し)が言いえて妙である。

 ラストも伏線というか、前もっての仕込みをムダなく回収している。
 全体にソツなく、優等生的にまとめた感じの作品。
 まあ、また、Amazonの一部のレビューにあるように、過去時制と現在時制の同一キャラクターの描写に断続感というか、同じ人物に思えない? ような箇所がまったくないというわけではないのだが、そこはグレイゾーンでギリギリ……という余地もある。

 ちなみに本作は古書店の主人だった父ビルと息子で男子主人公のハリーがとも大のミステリファンで、我々にもおなじみの作者名や作品名がたっぷり出てくるのがとても楽しい。この描写がホントウなら、現在のアメリカでもちゃんと87分署シリーズは現役で読まれているようである(笑・楽)。
 なおビルはリスト魔でもあり、趣味で「大学が舞台の犯罪小説ベスト5」なるものも作成(笑)。
 作中でその作品名が羅列されているが、具体的には『学寮祭の夜』(セイヤーズ)『金蠅』(クリスピン)『失踪当時の服装は』(ウォー)『ニコラス・クィンの静かな世界』(デクスター)。邦訳があるこの4冊(評者はセイヤーズのみ未読だ)に、未訳のはず? のドナ・タートなる作家の「シークレット・ヒストリー」が挙げられて全5冊。
 気になるので、この最後の一冊も、ぜひとも創元文庫で出してください。東京創元社さま(笑)。

【2022年8月30日追記】
 上記のドナ・タートの『シークレット・ヒストリー』は1994年に扶桑社文庫から上下巻で邦訳刊行されていた。わ、恥。
 さらに2017年には『黙約』と改題されて、新潮文庫にも入っていたらしい。機会があったら、どんな作品か、ちょっと覗いてみよう。


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