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[ サスペンス ] 地獄の群衆 英国ではハリー・パターソン名義 |
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ジャック・ヒギンズ | 出版月: 1987年08月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
河出書房新社 1987年08月 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | 2022/05/06 07:48 |
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(ネタバレなし)
アメリカ人の青年土木技師マシュー(マット)・ブレイディは、およそ1年近く前にロンドンで知り合ったドイツ娘で保母のキャティ・ホルトと婚約した。マシューは彼女と所帯を持つため、クウェートの現場で大きな仕事につき、その間の収入を恋人に送り続けるが、ロンドンに戻った彼を待っていたのはキャティが金を持って逃げたらしいという現実だった。失意のマシューの前にひとりの30歳前後の女が現れ、一晩の宿を提供するが、やがてマシューは身に覚えのない殺人事件の犯人にされていた。さらに刑務所に終身刑で服役するマシューの命を、別の囚人が狙う。マシューは好々爺の囚人仲間ジョー・エヴァンズの協力を得て決死の脱獄を果たし、自分をはめた真犯人を捜そうとするが。 1962年の英国作品。原書はハリー・パターソン名義。 今夜はミステリを読み出すのが遅かったので、薄めの本書(文庫本で200ページ強)を手に取ったら、一時間半も掛からず読了してしまった。 初期のヒギンズ作品、先に本サイトにレビューを書いた『復讐者の帰還』と同時期の一冊だが、これもおおむね似たような感じ。 つまりは詩情があんまり感じられないウールリッチみたいな、そんな趣のサスペンススリラーで、話の作りもかなり荒っぽい。 いや『復讐者~』のように、都合よく関係者がセッティングされているといった極端なご都合主義は今回はないものの、脱獄したマシューが事件に関係ありそうな人物を訪ねて行ったら、芋づる式にほぼ100%真相に近づく何かしらの成果がヒットするというのは、やはりウソくさい。 ただしその分、お話としては非常にテンポよく進むし、途中でちょっとだけ読者の予断の裏をかいたヒネリみたいなものもあるので、そういう意味では『復讐者~』よりはマシ。 さらに脱獄後のマシューは、かつて職場で親友だった男の遺児である娘アン・ダニングの世話になり(というか、その辺は読み物として、アンの方が積極的にマシューを助けてくれる)彼女自身も事件の渦中にからんでいくが、それでもクライマックスにはこれ以上、彼女に迷惑はかけられないと一人で黒幕らしい者のところに乗り込んでいく。 この辺はパターンではあるけれど、ちょっと良い。 185ページの本文5行目、マシューが何回もアンに置き手紙を残しかけながら 「考えてみれば、書くことは何もなかった。」 と締めるところなど、地味に泣ける。 ラストは大甘、というか、ああ、通俗スリラーだな~、エンターテインメントだな~という感じで笑みが漏れるクロージングだが、なんかこれはこれでいい気がする。 ヒギンズ習作時代の佳作。その尺度で、嫌いではない。 余談ながら、裏表紙のあらすじでは、マシューは裏切られた恋人キャティのために「三年。」働いてカネを送り続けたとあるが、実際の本文を読むとクウェートで労働して仕送りしたのは10ヶ月。なんでどこでサバ読んだんだろ。よくわからん。 |