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聖少女
三好徹 出版月: 1968年01月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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文藝春秋
1968年01月

文藝春秋
1976年05月

No.1 6点 2021/01/27 10:04
 野坂昭如の名作「アメリカひじき」「火垂るの墓」と共に、第58回直木賞を受賞した表題作ほか三篇を含む初期作品集。収録作は 聖少女/背後の影/汚れた天使/鋳匠 。データが無いので確言出来ないのだが、焼失した鎌倉の古刹の鐘に纏わる鋳金師同士の相克と、秘められた戦慄の犯罪を扱った「鋳匠」は、宝石社から1964年に刊行された第一作品集(たぶん)「ナポレオンの遺髪」にも収められているので、おそらく収録作中では最も古いだろう。これを除けば残りの三作はいずれも女性の純粋さと無垢な惑わしをテーマに掲げたものばかりである。
 新聞記者を主人公に据えたミステリが多いが、著者自身も1950年読売新聞に採用試験首席入社した社会部記者。ちなみにこの時の次席はあのナベツネこと渡邉恒雄だった(年齢的には渡邉の方が四つ年上)。なお文藝春秋刊の初版本巻頭には、同社の先輩作家である菊村到・佐野洋両氏への献辞が掲げられている。
 ミステリとして良質なのはいわゆる〈青ヒゲ〉事件を扱う「背後の影」。雨の日の夜、Y紙記者・香月は夜勤の帰りがけ、馴染みの喫茶店から送ってくれた女性・飯沼美奈子にまったく不意にキスされる。二人の関係はそこで一応終わるが、それからしばらくして彼は喫茶店のマスター・瀬川から美奈子が結婚し、しかもその後わずか半月余りののちに行方が知れなくなったと聞かされる。そして彼女の夫である五十年配の男・菊本も直後に家を手放し、そのまま姿を晦ましていた。香月は新聞記者の立場を利用し、いなくなった二人の行方を追うが・・・
 筋立てはさほど凝ってはいないが、雨の夜の一瞬のキスシーンと亡き美奈子の残像が、主人公だけでなく読者の心にも深い影を残す、集中では最も印象的な中篇。
 同じく中篇「聖少女」は、どちらかというと普通小説に近い。表題作はある家庭裁判所の調査官が、十八歳の少年・丹野敬太が犯したホステス殺しの逆送(刑事処分相当と認めて検察庁へ送致すること)の可否について調べるうち、犯行前後彼が同伴していた上流階級の少女・立花英子のイメージを死んだ娘に重ね合わせ、執拗に追求していくストーリー。世代間の断絶と、単なる悪女とは隔絶した英子の見せる二面性が読み所である。純粋さと汚穢が同居するその魅力は、港ヨコハマに棲む「汚れた天使」の米兵娼婦アンジェラこと木沢則子において、さらに濃縮されている。


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三好徹
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