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[ ハードボイルド ]
誓いの渚
モウゼズ・ワイン
ロジャー・L・サイモン 出版月: 1999年02月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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講談社
1999年02月

No.1 6点 クリスティ再読 2019/09/02 08:29
「渚の誓い」じゃなくて「誓いの渚」である。未訳(Director's Cut, 2003)がまだ1冊ワイン物にはあるんだが、頑張れジロリンタン!と祈るばかりだ。まあ、作者のサイモンも、小説家というよりも政治評論家みたいになってるようで、このネオハードボイルドでも異彩を放ったシリーズはフェードアウトしちゃうんだろうな....
で、本作だとヒッピーにして左翼過激派だったワインも、経営者に成り下がっている。そこそこ成功して人も雇っている探偵社を経営しているのだが、相変わらず恋人をとっかえひっかえ。シリーズ最初ではワインがオムツを変えていた子供たち、長男ジェイコブは作家修行中だが、ゲイなのをカミングアウト。で、問題の次男サイモンは、前の作品だとグラフィティに凝って警察沙汰も起こすという、この親にして...という育ち方をしているのだが、本作だと環境テロ・グループのリーダーとして、森林事故をわざと引き起こした容疑で指名手配、でワインがいきなり刑事の訪問を受けるところから始まる。ワインの元妻で弁護士として活躍中のスザンヌも合流して、サイモンの容疑をはらすべく奮闘する...という話。
「ヒッピーからヤッピー」を体現したこのワインなんだけど、子供の世代から見るとねえ、ロスマクとは大違いでややこしいんだ。

親父たちはすべてのことを先にした...セックス、ドラッグ、ロックンロール、政治。何でも知ってると思ってる。でも、いつも知っているわけじゃない。(略)「自分のやりたいことをやれ」と言ってきた親父がどうなったか見てみろよ。(略)通りにはホームレス、議会にはギングリッジ。親父たちは失敗したんだよ。それにお袋のほうはもっとひどいよ...ニュー・エイジの流行とか、導師とか、心霊術なんかで人生の半分をほとんど無駄に過ごした。

とワケ知り顔の親たちに痛烈な批判をぶちかますわけだ。この批判、当たってるからどうしようもないや。でしかも、ちょいとした哲学問題にワインは頭を悩ます。ワインの世代は「反抗の世代」なのだが、その「ワインの世代に反抗する」、子供たちの「反抗への反抗」とは一体何なのか?という話だ。それが環境保護とかさらに過激な政治性なくらいだったらまだマシで、「反抗への反抗」が警察への協力や密告だったら目も当てられない.....サイモンの家のカレンダーに貼ってあった電話番号がFBI捜査官のものなのを見つけたワインは、この疑惑で内心オタオタすることになる。
だから本作、シニカルなコメディとして楽しむのがいいわけだよ。もともとワインは「ハードボイルドの道化」みたいなもので、「ハードボイルド」に斜に構えて「男の美学」なんて嘘っぱちだ、というあたりから始まっているわけだが、リアルな政治背景を背負った主人公として20世紀後半を駆け抜けた結果、グダグダな人生を送ったことにしかならないモウゼズ・ワインの肖像というものが、極めて皮肉。まあ、ハードボイルドから遠く離れて、こんなとこまで来ちゃったわけである。
まあそれでも、この親の子は親の子だ。本作の決め台詞は...

「死ぬ真似を誰から習ったんだ?」おれは尋ねた。
「親父からだよ」サイモンが言った。


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