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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] エルサレムの閃光 モウゼズ・ワイン |
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ロジャー・L・サイモン | 出版月: 1989年09月 | 平均: 5.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1989年09月 |
No.1 | 5点 | クリスティ再読 | 2019/06/30 20:01 |
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ユダヤ教・イスラエル三連発のトリはモウゼズ・ワイン。周知のようにユダヤ人過激派アガリの私立探偵である。今回はロサンゼルスの「アラブ=アメリカ友好協会」の会長が爆殺された事件の捜査で、「アラブ人に雇われた」「不信心な」ユダヤ人ワインが、「ユダヤ防衛隊」メンバーの容疑者を追ってイスラエルに渡る話である。なので舞台のほとんどはイスラエル。毎回毎回舞台設定に凝る作家だが、今回はディープにユダヤ教の世界が味わえて、ケメルマンのラビシリーズは入門編に思えるくらいのもの。
ラビ・スモールの保守派はライトな世俗主義に近いけども、ユダヤ教は本当にいろいろ。本作だと神秘主義の強いハシディズムの宗派にも旧友のツテでワインがお世話になるから、それこそカバラ哲学の用語だって飛び交う。訳題の「エルサレムの閃光」の「閃光」だってカバラの用語から来ているようだ(原題は違うが)。ワインもつい周りに影響されて、ガールフレンドに「改宗しない?」なんて電話して即時却下されて目が覚める(笑)。で、ワインが追った容疑者は、メシア主義を信奉するようになっていた。この男結構イイ奴で、周囲からはメシアのような扱いを受けている...という超展開になる。まあこういう突飛な面白さがこのシリーズの持ち味なんだが、このメシアの動向を巡って、アメリカのキリスト教右翼のテレビ宣教師が利用しようとしているとか、事件に関係していそうなユダヤ教のラビは、イスラエルの議会に議席も持っていて、簡単にその過去や暗部に手出ししづらいとか、ナマ臭い話も立ちのぼる....まあ、ミステリだもんね。 評者のご贔屓シリーズなのに点が辛いのは、真相もワインの行動もモサドに筒抜けで、どうやらその掌の上で遊ばれていたようなところがあること。これやったらハードボイルドにならないんだよなあ。 ミスター・ワイン、きみの祖先の国を今度訪れるときはこれほどせわしくないように、また視野と心を大きく広げて来るように希望する。われわれも、きみように理想主義的な人間だということを覚えておいてほしい。しかし、理想的であるには、まず生き延びる必要がある。 と「タフでなければ生きていけない、やさしくなければ生きている資格がない」とモサドに説教されるのである。おいなあ。確かにこのシリーズ、ハードボイルドのパロディみたいな面はあるんだけどねえ。 |