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[ ハードボイルド ]
ストレート・マン
モウゼズ・ワイン
ロジャー・L・サイモン 出版月: 1988年03月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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早川書房
1988年03月

No.1 6点 クリスティ再読 2019/05/11 19:04
モウゼズ・ワインのシリーズは、作品ごとに背景を変えて、突飛といっていいくらいの変化に富んでいるのだけど、今回はアチラのお笑いの世界である。「ストレート・マン」というのは要するに「ツッコミ役」のことで、「ボケ」は「ファニー・マン」というのだそうだ。メインの事件は漫才のペアのうち、「ツッコミ」が謎の転落死して自殺でとりあえず片づくが、麻薬漬けの「ボケ」が精神病院から失踪して、兄であるニューヨークの麻薬王のもとに行ったらしい。何かキナくさい背景があるようだ..
で、この漫才ペア、ベルーシ&エイクロイドがモデルっぽい。しかしボケ役のベルーシが黒人で、エディ・マーフィーが入ってる感じ。しかも強烈な毒舌芸。

アフリカで(飢えで)人が死ねば死ぬほど、おれたちは妙なものを食べる。もうすぐアフリカ大陸では全員が死に、おれたちはウースター・ソースをかけたアイスクリームを食べるだろうよ

「スタンダップ・コメディ」だ...だから、シモネタ・政治ネタ・宗教ネタが満開で、自虐的人種ネタとか放送できない級の過激芸である。
「モウゼズ・ワイン」というと、そもそも話の辻褄を合わせるよりも、ノリよくカラフルでスピード感のある冒険譚といったものだから、こういう「スタンダップ・コメディ」と隣合わせのようなものだ。今回はこっちのテイストにそもそも話を振っているので、話の辻褄ははっきり言って、どうでもいい。「ハードボイルド探偵」をメタに、かつ自虐的に皮肉ってみるクールさが、本作でも突出する。作中で自分を探偵作家の「ロバート・パーカー」だって詐称するんだよ(苦笑)。当時の日本の流行りの言い回しだと「スキゾ」が言い得て妙。形式として「ミステリ(ハードボイルド)」を採用した風俗小説みたいに読んだ方がいいだろう(「フーコーの振り子」かな)。
本作だと売れないスタンダップ女性芸人を助手として採用して一緒に動くのだが、この助手、捜査の内容をスタンダップのステージで演じちゃってバカ受けするとかね、融通無碍に作品とお笑いの間を行き来する作品になっている。まあちょっとした怪作だけど、やはり面白さを味わうには、アメリカンジョークで笑える、というハードルの高さがあるかな。まあ80年代くらいのサブカルのネタがそもそも分かってないとキビシイし。ワインもヒッピーからヤッピーになってしまい、鏡に映るその顔は自嘲に歪まざるを得ないわけで、批判的な自意識は黒人に仮託された自己批判になる。スタンダップだからこそ自己言及的に言いうるだろう、「リベラルな過激派」ワインを信じるな。

白人を絶対に信じるなってことだ。どんな白人でもな。モータウンを聞いたり、ヒューイー・ニュートンをかばったり、ストークリー・カーマイケル(ニュートンもカーマイケルもブラック・パンサーの幹部)をほめたり、ジェシー・ジャクソンを応援したり、黒ん坊女を取り換えたり、おれたちを助けてやろうとするリベラルな過激派どもを信じるな。こいつら下司野郎どもは二十年前にどっかの行進に参加したからって、おれたちを所有していると思ってやがる。


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