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[ 本格/新本格 ]
すみれ屋敷の罪人
降田天 出版月: 2018年12月 平均: 6.40点 書評数: 5件

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宝島社
2018年12月

宝島社
2020年01月

No.5 7点 ことは 2024/06/11 01:31
過去の出来事が、複数の証言で浮かび上がってくるミステリ。
ミステリを読み込んでいる人には、全体の構図は途中の段階で思いつくもので、どんなことがあったのかという点には意外性はない。焦点は登場人物のドラマだろう。これは、なかなか切なくて滲みる。
配置されたエピソードの組み上げ方も複雑で、構築感があってよくできている。良作。

No.4 6点 パメル 2023/04/14 07:37
戦前は名家の一族が住んでいたが、今では廃屋と化している旧紫峰邸の敷地から、二体の白骨死体が発見された。その翌月、かつて紫峰家の使用人だった八十一歳の栗田信子のもとを、県警の刑事という青年・西ノ森が訪れる。彼に問われるまま、信子は六十五年前の思い出を語り始める。昭和十一年、彼女は親戚の紹介で紫峰家の女中となった。西洋風の屋敷には、当主の紫峰太一郎、葵・桜・茜という三人の美しい娘たち、そして執事や女中頭や書生などの使用人がいた。貧しい農家で育った信子にとっては別世界のような豪邸での優雅な暮らしだが、葵の婚約披露パーティーの日に、唐沢七十という新しい女中がやってきた頃から、紫峰家を不吉な暗雲が覆う。
西ノ森は当時を知る元使用人たちを訪ねて廻るが、彼らの証言は遥かな時の流れの中で美化されたり、あるいは故意に事実を伏せた部分もある。早い時点で勤めを辞めた信子の知らないことは、別の人物に訊かなければわからないし、その人物も事態のすべてを知っているわけではないので、西ノ森は彼らから訊いた情報を多角的に検討しなければ事実に行き着けない。
最初は浮世離れした桃源郷めいて紹介される紫峰家だが、使用人や関係者が戦死するなど、彼らを取り巻く環境は悪化し、三姉妹のあいだにも亀裂が生じてゆく。そして戦後、ある人物が紫峰家の関係者のうち三人が行方不明になっていると証言したというが、それと二体の白骨死体の関係は。
複雑に入り組んだ謎が解けてみると、そこに立ち現れるのは戦時中だからこそ成立するトリックであり、現代ではあり得ない関係者の心境である。ゴシック・ロマンス的な道具立てに精妙な謎解きを融合させた作品である。

No.3 8点 虫暮部 2020/08/04 11:36
 いわゆる叙述トリックは使われていない(よね?)が、証言の積み重ねで視点人物がコロコロ変わる、いかにも仕掛けのありそうな形態。なので、ついメタ的な方向への警戒に余計なリソースを割きつつ読んでしまったことが悔やまれる。もっと素直に物語自体に没入して大丈夫だった。
 多面的に語られる群像劇。人の世の光と影。見え方を二転三転させる構成も良く出来ている。そしてその上で、作者の筆は人物の“情”に重きを置いており、私はその熱量にこそ撃たれた。技術の使い方を知っている人、だと思う。

No.2 7点 makomako 2020/03/29 17:47
こういった一つの事象に対してかかわった人が次々と証言していくという形式は、推理小説の中では古来よく使われてきた技法のひとつです。
 この方法は述べる人物が変わることによって、登場人物の性格やお話そのものががらりと変わってしまうことがあるため、お話が極めて意外な展開となりますが、一つ間違えると作者がご都合主義的にお話を捻じ曲げてしまうといった印象を受けてしまいます。
 この作品は良く練り上げたプロットで読者にこういった不満が起きることなく上手にまとめ上げていると私的には感じました。
 登場人物もエキセントリックそうで実は普通の感覚を持っており、読んで共感が得られました。
 なかなか良いです。

No.1 4点 HORNET 2019/05/02 19:53
「女王はかえらない」でデビューを果たした、このミス大賞を受賞した2人組のユニット作家。
 咲き誇るスミレに囲まれた洋館、紫峰一家が住む紫峰邸は、昭和十年代当時は名家として名を成した家柄だった。当時紫峰家には3人の美女令嬢がおり、多くの使用人を抱えながら華やかな生活を送っていた。
 それから六十年以上の時を経て時代もすっかり様変わりした現在、旧紫峰邸から2人の白骨死体が発見される。2人の身元調査を依頼された「西ノ森」は、依頼にあった元使用人の栗田信子、岡林誠、山岸皐月から当時の状況を聞き取りに向かう。調査を進める中で、華麗なる一家であった紫峰家が、度重なる事件により凋落していく様が明らかになってくる―

 次々に明らかにされていく新たな事実に、情報を整理しながらついていくのが結構しんどかった。華族華やかなりしころを舞台にした話は本格っぽくて面白かったが、最後の凝った騙しのために長々と話を作っている感じもして、途中はよく言えばスラスラと、悪く言えば淡々と読み進めてしまう。せっかく好きな雰囲気の舞台設定なのに、最後に残ったのは仕掛けだけだったような気がする。


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