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ミステリの祭典

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雪さんの登録情報
平均点:6.24点 書評数:586件

プロフィール| 書評

No.266 6点 謎まで三マイル
コリン・デクスター
(2019/11/12 07:50登録)
 オックスフォード大学ロンズデール学寮の試験委員ブラウン=スミスは七月十日木曜日の朝、なんとも奇妙な、興味をそそられる一通の手紙を受け取った。――娘が卒業試験の合格者リストにのっているかどうかを知らせてくれれば、まったく人に知られるおそれのない性的スリルを満喫させよう――
 誘いに応じて迷路のような歓楽街ソーホーに引きこまれた彼は、やがてラッセル・スクエアの手入れのよいマンションに導かれる。そこでイヴォンヌと名乗る女に迎えられたスミスは巧妙に薬を飲まされ昏倒するが、そんな彼を不似合いなサングラスをかけた謎の男がじっと見つめていた。
 それからちょうど二週間後の七月二十三日水曜日、オックスフォード運河からわずか三十ヤードばかり離れたはしけ〈ボート・イン〉から男の遺体が揚がる。そして、にごった水から引き上げられた死体の四肢と頭は切断されていた・・・
 「ジェリコ街の女」に続くモース主任警部シリーズ第6作。前々作、前作とたて続けにCWAのシルヴァー・ダガーを受賞してきたデクスターですが、1984年度の本作では候補に挙がったものの惜しくも無冠に終わりました。首無し死体一発勝負と若干シンプルなのが祟ったのでしょうか。とはいえ簡単に真相にはたどり着けないよう工夫が凝らされています。
 一九四二年十一月、北アフリカのエル・アラメインの戦いから始まる異色の構成。警察関係者以外の登場人物はごく少数なので身元はすぐ判明しそうなものですが、これがなかなか判りません。ああでもないこうでもないと頭を抱えているうちに、容疑者たちがバンバン死んでゆくというとんでもない展開に。
 ただこのストーリーには賛否両論あるでしょう。作者の自信は分かりますが、最後に問題の死体だけが残るのは露骨。渾身のサプライズも結果的にあまり生きていません。容疑者たちを何人か残した方が謎がより深くなったと思います。
 「死者たちの礼拝」でも感じましたが、デクスターという作家は謎を作るのは上手くても、プレゼンというか効果的な見せ方についてはあまり得意ではない。クロスワード・パズルの達人という経歴から来るものでしょうか。初期シリーズのスクラップアンドビルドの繰り返しは、そんな彼が編み出した策略なのかもしれません。

 追記:第7章にはこのような記述があります。
 骨の折れる一学年がやっと終って、大学全体が団体で昼寝をしているかのようだった。老齢で一人暮しの指導教官の二、三人を殺すにはこんないい時期はないなとモースはふと考えた。
 (中略)実際、彼らがいなくても、だれも気にかけない――十月の中旬までは。
 オックスフォードという大学都市の特殊性をフルに生かしたトリックです。


No.265 6点 転落者
トニイ・ヒラーマン
(2019/11/09 15:03登録)
 婚約者ジャネットの望みに応え警部補代理に昇進したジム・チーの元に、この夏引退した伝説の存在、ジョー・リープホーン元警部補が再び現れた。先ごろナヴァホ族の霊山シップロックで見つかった死体の件について聞きたいのだという。山頂に白骨となって横たわっていた男の名はハロルド・ブリードラヴ。大牧場の御曹司で、チンル署に勤務していた11年前、リープホーンはシェリー峡谷で起きた彼の失踪事件を担当していたのだ。
 ハロルドの事故はちょうど彼が遺産相続年齢になる前後のことで、また遺体の発見後、夫妻の登山ガイド役だったエイモス・ネズが何者かに撃たれたのも気にかかるという。ネズ老人は軽症だったが、なぜ襲われたのかはまったくけんとうがつかないらしい。
 上司のラーゴ警部に頻発する家畜泥棒事件の解決をせっつかれながらも、チーはリープホーンの要請に応えようとするが、なぜか恋人の弁護士ジャネットはこの転落死事件に不自然なほどの関心を示すのだった・・・
 早川書房のミステリアス・プレス文庫から出版元を移して刊行された、「聖なる道化師」に続くナヴァホ・ネイションシリーズ第12作。ただしシリーズ翻訳自体は1996年発表、9冊目の本作で打ち止め。2006年刊行の第18作"The Shape Shifter"が最終作なので、これまでに半数の作品が邦訳されたことになります。
 警部補代理として慣れない管理職をこなしつつ部下に対応しながら、ジャネットの反応に違和感を覚えるチー。一方リープホーンはチーの恋敵である大物弁護士ジョン・マクダーモットに打診を受け、生前ブリードラヴ家と対立状態にあったハロルドの転落について、大金二万ドルで私的調査を請け負うよう要請されます。
 牧場内のモリブデン鉱山開発のほか、幾重にも思惑や欲望の絡んだ事件。メイン事件の幕引き担当はリープホーン、家畜泥棒の解決はチーですが、両方とも捻っておりどちらにも見せ場があります。このへんのバランス感覚は今までで一番良いですね。伝説的存在ながら一匹狼のリープホーンと、意外にも管理能力に優れ部下たちと繋がる後継者チーの対象も良い。メイントリックは過去作の応用ですが、遺産相続の条件と絡めてうまく差別化しています。
 大庭忠男さんからの翻訳者の交代を問題視する声もありますが、気にする程ではありませんでした。シリーズ作品として見ても纏まった仕上がりです。評価高いとはいえ、翻訳が本書で途切れたのはホント残念。


No.264 5点 泥棒は深夜に徘徊する
ローレンス・ブロック
(2019/11/05 11:23登録)
 古書店主にして熟練の泥棒バーニイ・ローデンバーは、旧知の実業家マーティン・ギルマーティンから仕事の依頼を受けた。彼から愛人マリソルを寝取った美容整形医クランドール・メイプスに大打撃をこうむらせて欲しいのだと言う。マーティンはメイプス邸で募金パーティーが行われた際、傾いた絵の裏側にたまたま壁金庫を見つけていたのだ。
 依頼を受けたバーニイは下見の為リヴァーデイルに赴くが、問題の屋敷は予想以上の難物だった。彼はひとまず退散するが、衝動に駆られ別口の仕事をしようと深夜の通りを徘徊する。目をつけた褐色砂岩のアパートの一室に首尾良く侵入したバーニイだったが、仕事中に運悪く階段を上がってくる足音を聞きつけベッドの下にもぐり込む。だが部屋の住人バーバラ・クリーリーは昏睡レイプ犯に連れられて自宅に戻ってきたのだった。
 散々な成り行きの翌日、ランチを食べながら事の顛末を相棒キャロリン・カイザーに語るバーニイ。だがその場に腐れ縁の刑事レイ・カーシュマンが踏み込んでくる。実は偶然バーバラ宅近辺で別件の強盗殺人が発生しており、街角の防犯カメラにはタイムリーに夜の街を歩きまわるバーニイの姿が映っていたのだった。殺人容疑を掛けられたバーニイは自らの嫌疑を晴らすため、強盗事件の真相を突き止めようとするが・・・
 『泥棒はライ麦畑で追いかける』に続くローレンス・ブロックの泥棒シリーズ第十作。2004年発表。しょっぱなから細かな偶然が続きますが、この後バーニイのアパートが問題の強盗犯に荒らされ、古書店に現れた客が路上で射殺されて本を奪われ、その本がまたメイプス邸の壁金庫から出てくるという目まぐるしい展開で混乱は頂点に達します。
 ラトヴィアの戦争犯罪者とかも絡んできて複雑ではあるんですが、魅力的な謎に見合った真相ではないですね。ニューヨーカーらしい小粋な会話は良いんですけど、最終作一歩手前なせいかメイプス邸攻略の手口以外トータルだとあまり冴えません。バーニイというキャラクターに馴染んでいればまた違うのかもしれませんが。まあもう少しシリーズを読んでみようかと思います。点数は6点未満の5.5点。


No.263 6点 首のない女
クレイトン・ロースン
(2019/11/02 16:16登録)
 この夏最初の熱波に見舞われたマンハッタン島。「世に不可能事なし」を豪語する奇術師、グレート・マーリニの〈奇術の店〉に「首のない女がほしい」という美女がやって来た。最新式の奇術装置の見本を今すぐ、たとえ相場の倍出してもいいというその女、ミルドレッド・クリスティンにマーリニは興味を持つ。彼はミルドレッドに理由を話すよう求めるが、それを断った彼女は尾行を撒くついでに「首のない女」を店から持ち去ってしまう。ガラスは破られ、デスクの文鎮の下には三枚の百ドル紙幣が置かれていた。
 マーリニは彼女の身元を推理し、ウォーターボロで野外興行中のハンナム・サーカスに目をつける。彼は相棒の作家ロス・ハートと共にサーカス会場にたどり着くが、そこで待っていたのは団長ハンナム少佐の事故死の知らせだった。だが問題の自動車事故には不自然なところが目白押しだった――
 「天井の足跡」に続く奇術師探偵グレート・マーリニものの3作目で、発表は1940年。登場人物が多いのは難ですが、話のテンポがスピーディーなのでまあよろしいかと。ミルドレッドこと少佐の娘ポーリンが「首のない女」に執着する理由が後出しなのはずるいやんと思いましたが、これが有力な手掛かりになるのが後で分かって納得。読者が半分目隠しされて進むのがいかにもこの作者らしいです。
 別口でホーマー・ガヴィガン警視の握ってる情報が手に入らないと解けないんですよねこの謎は。警視もマーリニに邪魔されたくないんで、遠慮はいらないから刑務所にブチ込んどけとか言ったりします。まあマーリニなので何のこともなく脱獄しちゃいますが。
 大詰めでは私立探偵オハロランの仮説に加え、ガヴィガン警視、ロス・ハート、そして真打ちマーリニの解説と一種の推理合戦みたいになります。とはいえ真相や推理は手堅く地味めで、他のシリーズ作品より安定感アリ。サーカス舞台のストーリーの動きが派手なんで、この二つを両輪にしてバランスを取っています。
 それにしてもホープシリーズの「小さな娘がいた」よりだいぶ前の話なのにほぼ同じ状態。サーカス団員の旅から旅への移動生活ってほんと変わらないのね。あっちは本書から60年あまり後の作品だけど。


No.262 5点 敵は海賊・短篇版
神林長平
(2019/10/31 03:16登録)
 書き下ろし作品を含む長めの4短篇を収録した「敵は海賊」シリーズ初の短編集。番外編ながら本編ともいうべき最初期のパイロット版「敵は海賊(海賊・匋冥ではなくラテルが主人公)」は、処女短編集「狐と踊れ」に引き続いての収録。
 SFミステリと言うか未来世界ミステリとしてそこそこな出来の、その「敵は海賊」がやはり一番。世界のシステムを侵す海賊と、それに対抗して部分的な生殺与奪権を含む圧倒的な権限を付与された、海賊よりも海賊らしい〈宇宙海賊課〉とのせめぎあいを描いた作品。宇宙中のたいていのコンピュータといつでも接触し割り込んで、最優先で権限を押し通すインターセプター〈横取り装置〉に代表される、海賊課の存在そのものをトリックに使用したものです。
 火星連邦の一都市アモルマトレイから海賊課に、失踪した叔父を探してくれとの依頼が届く。ケイマ・ヒミコという名の若い女は宇宙キャラバンの一族で、二年前海賊に襲われ彼女と叔父のほかは皆殺しにされたのだという。二人は追跡を逃れるため偽名でアモルマトレイに住み着いたのだが、宇宙船内で育った彼女は地上生活になじめず、一か月ほど家出したあと帰ってみると叔父は消えていたのだった。そしてアパートのアンドロイド管理人夫婦を含む都市の全データからは、叔父の情報は全て抹消されていた。
 ここは特殊な街で、連邦のデータ端末からは独立して中枢コンピューターによる中央集権的管理体制をとっている。全体主義的な旧都市体制だが、逆にもしこの都市を乗っ取りたければ中枢コンピュータを奪えばよく、それは決して不可能な事ではない。あるいは市当局そのものがこの事件に関わっているのか? ラテルチームはヒミコと共にアモルマトレイに乗り込み、事件の解明に挑むが――
 「敵は海賊」シリーズは何冊か読みましたが、やはりこういうカッチリしたのが好きですね。もしくはメタな構成優先の長編「敵は海賊・海賊版」みたいなの。あとがきで作者が「実験小説的な構造を試みたりしている」と述べていますが、そういうのはどうも合いません。〈妖麗姫(宇宙の船幽霊みたいな超存在)〉や「神」とかのデウスエクスマキナをいきなり出されても、どうとでもなるから困る。短編集「プリズム」みたいに世界の構造が読者に提示されてれば問題無いですが。
 そういう訳で「わが名はジュティ、文句あるか」と「匋冥の神」は除外。次点は雪風シリーズとの共演作「被書空間」ですかね。ただどうにも「敵は海賊」シリーズのギャグは合わない。やはり神林作品はシリアスなのが好みです。


No.261 6点 今宵、銀河を杯にして
神林長平
(2019/10/30 11:20登録)
 地球人とネコ型異星体バシアンとが終わりなき戦闘を繰り返す惑星ドーピア。そこにあるあまたの戦闘車輛の中で最も長いパーソナルネームを持つ戦車の名は、マヘル-シャラル-ハシ-バズと言った。いわくMahershalalhashbas。その意味は"戦利品のところへ急げ"。
 トラブル発生とサボタージュを目的に名付けられたそのパーソナルネームは、既に一度連隊本部コンピュータの頭を発狂させていた。操縦士のアムジ・アイラ一等兵と火器管制士のクアッシュ・ミンゴ二等兵も問題児扱いで、二人と一台はドーピア赤道方面軍団-第48装甲騎兵中隊隊長・バルサム大佐の頭痛の種だった。彼らは大佐に(おまえらなど砂漠の砂になってしまえ)と思われていた。
 そんな折、マヘルの下敷きになって死亡した戦車長ミルトン少佐の代わりにはるばる地球からやってきた青年、カレブ・シャーマン少尉が五代目車長として任命される。自称天才の彼は自らの理論を実証するため、また戦争を終わらせるために、惑星ドーピアでの実地フィールドワークに志願したのだ。
 だがはちゃめちゃなドーピアの現実と二人と一台の行動は、彼の予想を遥かに超えていたのだった・・・
 雑誌「SFアドベンチャー」誌上に1985年5月号から1987年3月号まで不定期掲載された連作長編。神林ファンいわく「陽気な雪風」。「意思を持つ兵器とその搭乗員の物語」という設定は共通していますが、こちらはギャグテイスト。コンピュータが野生化して繁殖衝動を持ち、自己プログラムを強制的に他のコンピュータプログラムに組み込んで「子供」を生み出す世界。人類が平和維持軍として支援する現地アンドロイド「オーソロイド」もイドの導きのままに、ひたすらセックスに勤しんでいます。
 維持軍もバシアンも今更引くに引けず、ダラダラと惰性で戦っている状態。第721連隊長・ペサリ准将にはホモ疑惑があり、主人公のろくでもない部下二人は"自分たちがいかにして安全に後方でサボるか"に腐心しています。ただ彼らの関係は悪くなく「何とか面倒見てやらないと」と、お互いにフォローし合っています。
 人類+オーソロイドVSバシアンに、オーソロイドが造った昆虫人型のドールロイド及び反逆したドールロイドゲリラ、精神攻撃をする謎の原住生物アコマディアンも加わって最早グチャグチャ。カレブはドーピアを支配する原理を見極めるべく、部下たちと一緒に地球移民オーソリアンが残した古代遺跡グランパートを目指すのですが、そこで彼らの滅亡の原因が明かされます。
 生きるって素晴らしい、セックスって素晴らしい、お酒はもっと素晴らしいというお話。タイトルはアムジとミンゴが乾杯するときのセリフですが、戦闘描写はあるものの基本的には能天気。
 全8話のうち最初の3話が各単独で、中盤から終盤にかけての5話がグランパート行き。中ではカレブ少尉がホームシックにかかる第三話「想い募りて」(ややミステリ風味)と、本書を象徴する第7話「時を超えて、乾杯」がベストでしょうか。ファンも多い作品ですが個人的には雪風の方が好きです。


No.260 7点 柳生武芸帳
五味康祐
(2019/10/27 04:59登録)
 昭和三十一(1956)年二月、一般週刊誌の先駆けとして発刊された雑誌『週刊新潮』に、柴田錬三郎の「眠狂四郎無頼控」と併せ創刊号から掲載された時代小説の金字塔。1956年2月19日号~1958年12月22日号まで連載の未完作品。Wikipediaでは「あまりにも錯綜したストーリーであり、連載中断。その後の作者死去のため未完に終わった」 とバッサリ切り捨てられていますが、内容はそこまで複雑という訳でもない。
 徳川二代将軍秀忠の時代、後水尾帝に輿入れした女(むすめ)和子は高仁親王・若宮の二皇子を産むが、皇室に徳川の威勢が及ぶことを怖れる天皇は密かに将軍家指南役・柳生宗矩に命じ皇子たちを死に至らしめる。宗矩はこれを実行した柳生一門の名が記された巻物を保身のため三巻に分かち、それぞれを帝・柳生・そして柳生分派の佐賀藩主鍋島勝茂に納める。巻物「柳生武芸帳」には一筋縄ではいかぬ謎が隠されており、また全て揃えねば暗殺実行犯の名は明らかにならない。
 次の三代家光の御世、この武芸帳を狙い柳生石舟斎の相弟子である唐津藩の武芸者・山田浮月斎に波多氏の血を引く双子の忍者、霞多三郎と千四郎の兄弟を加えた陰流一派が動き出し、これに公卿方の武芸帳保持者・中ノ院大納言通村の実子道長が絡んで、新陰流VS陰流VS公卿方の三つ巴の巻物争奪戦が始まる――というのが主なあらすじ。
 道長は浪人・神矢悠之丞と名を変え、天下の御意見番・大久保彦左衛門邸に居候する。大久保屋敷には柳生の巻物を狙う霞兄弟も浪人として紛れ込んでいる。暗殺事件に絡んで上野の寛永寺に幽閉されている中ノ院大納言を巡り一騒動あったのち、柳生宗矩は三男宗冬に人工の義歯を付けさせる「くの一の術」を施し、公卿方の武芸帳を奪わせる為、兄の十兵衛と友矩を護衛に付けて東海道を京へと向かわせる。それを追う霞兄弟との間に知恵伊豆こと松平信綱の追っ手も加わり、さらに道中で暗闘が繰り広げられる――
 この争いが京都・宇治橋での弟子たちを従えた宗矩VS浮月斎の全面対決で一応収束し、さらに第二部として将軍愛妾・於万の方(神矢悠之丞こと道長の元恋人)の江戸城からの突然の失踪に続き、秀吉時代からの恨みを含む朝鮮人たちの存在が明らかになる所で物語は終わります。
 基本巻物の奪い合いですがとにかく登場人物が多い。春日局・天海僧正・宮本武蔵・松平信綱あたりはワキですが、多三郎と恋仲になる永井信濃守の娘・清姫(知らずして元武芸帳保持者)や配流された家康の六男・松平忠輝の軍師である日華蓮真、それに尾張の柳生兵庫(長女が鮮人・柳生主馬と縁組)もこれから本格的に関わってきそうな雲行き。よく書かれる竜造寺一族の遺児・夕姫はそれ程大きな役回りではありません。まあ作者が風呂敷広げまくったとこで早死にしたので、今では類推しか出来ませんが。
 読み辛いのは各人物の登場後、「こいつはこんなに凄いんだぜー」という挿話が原稿用紙十枚も二十枚も語られるから。典拠も非常に多く、これらの要素がしばしば流れを断ち切ります。週刊誌でこれやってよく正当評価されたもんだ。確かに格調高いけど、昔の読者は辛抱強かった。
 立川文庫タイプの講談を一新し、中里介山「大菩薩峠」と現代剣豪小説を繋ぐ作品。チャンバラはスピード感がありますがあんま数はなく、それよりもその場その場の危機を躱す立ち居振舞いの方がメイン。「柳生の兵法」ちゅーやつですね。そんなこんなでなかなか読むのに苦労しました。


No.259 5点 塙侯爵一家
横溝正史
(2019/10/25 05:14登録)
 雑誌『新青年』昭和七年七月号から四回連載の表題作、及び女性向け雑誌『新女苑』に昭和十二年七月号から三回連載の「孔雀夫人」の二中篇を収録。両作品とも五・一五、二・二六事件直後の微妙な時期の発表ですが、それらしき要素が含まれるのは表題作のみ。ロンドンの安酒場で酔い潰れた画家崩れの自殺志願者・鷲見信之助がどん底の境遇から拾い上げられるシーンで始まり、盛名高い塙侯爵家の跡取り候補・安道との入れ替わりを強要されると、二三の描写ののち舞台はすぐ日本の神戸に移ります。
 ここからはスケキヨフェイスの犠牲者が出るわ不具者のライバルが登場するわ、あげくに当主の老将軍が八十五回目の誕生日に白昼テントの中で射殺されるわと波乱の連続。「鬼火」「真珠郎」などの発表以前なのでまだ本調子ではありませんが、「本当のものを書きたい」と意気込んだだけあってそれなりに凝っています。真犯人の意外さが取り上げられていますが、むしろ操りテーマの特異性が本作の主題でしょう。この時期の横溝は初の長編「呪いの塔」を発表して本格的な作家稼業に入ったばかりで、まだ特筆すべき作家にはなっていません。当時の『新青年』では谷崎潤一郎「武州公秘話」が連載され、大阪圭吉が「デパートの絞刑吏」で華々しくデビューしています。
 「孔雀夫人」の方は女性誌掲載作らしく初々しい新婚夫婦に仕掛けられた罠を暴くスリラーもの。ストーリーはミエミエですが、ラスト付近の泣き落としと劇的展開で凡作化を免れています。日華事変でそろそろ「新青年」も戦時色が出てきた頃。1937年は海外ミステリだと黄金時代ですが、この頃の日本ではとても意欲的な作品は書けなかったでしょうね。


No.258 6点 真夜中へもう一歩
矢作俊彦
(2019/10/23 09:47登録)
 県警本部捜査一課の二村永爾は、横浜医大の解剖学教室に勤務する旧友から、生理解剖用の遺体紛失事件の調査を依頼された。ホトケは一ヵ月ほど前動脈剥離で死亡した同大生・江口達夫で、生前に献体志願の遺書を残していたという。屍体を持ち出したのが彼の同級生ではないかというのが大学側の危惧するところで、また噂を聞きつけた遺族が確認に訪れるおそれもあった。関係者はいずれも医療方面の有力者たちだ。
 学生の一人・石山啓二の別荘へ向けて山中湖畔に愛車を走らせる二村だったが、別荘を離れる途中のオープン・カァと接触事故を起こしてしまう。オースティン・ヒーリィのすらりとした体つきの女性は仁科冴子と名乗り、バンパーの修理を約束すると夜気をふるわせて去っていった。彼女は医大理事長・仁科敦一郎の一人娘だった。
 別荘に到着した二村は石山ともう一人の学生・田沼漠に詳細を尋ねるが、二人とも心当たりは無いという。彼はその晩『山中湖グランド・ホテル』に投宿するが、ホテルのバァ・カウンターには冴子がいた。彼女にも聞き込みを行う二村だったが、興信所の職員と思い込まれすげなく撥ねつけられてしまう。その直後ホテルの自室前で彼は襲われ、散々に殴り倒された後この件に関わらぬよう忠告される。バス・ルームの入り口には口止めのつもりか、タオルと一万円札が五枚、転がっていた――
 一九七七年の三月から五回に分けて、ハヤカワ・ミステリ・マガジンに連載された二村永爾シリーズ第3作。死体の数は少ないですがヤバさはシリーズ随一。冒頭のエピグラフで嫌な感じはしてましたが、医療関係者が殆どということもあって少々病んだ雰囲気なのがこの作者としては異色。主人公も何回も殴られ、クルマに細工されて命を狙われ、あげくの果てに怪しげな精神病院に患者として叩き込まれます。二村永爾は警官らしくない男ですが、危機がハンパでないので今回は暴力的。若干キレ気味です。
 内容的には割とシンプルな真相に大掛かりな事件が食い付いた構図。執筆中に何度もプロット類似の事件が起こり軌道修正を余儀なくされたせいか、社会問題的な部分は背景に退いています。そのせいかメインの事件は結構読み易いですね。若い世代が中心なので『マイク・ハマーへ伝言』からの学生サークル的なムードもちょっとあります。ただ好みからいくとやはりロング・グッドバイ以降の作品が練れてて良いかな。
 後何でもかんでも萬金油で治療するのは止めた方がいいと思います。30年以上経って警察辞めてもおんなじなんで、多分一生このままでしょうが。


No.257 4点 最後の希望
エド・マクベイン
(2019/10/19 09:20登録)
 誰もが望んでいたような夢のような天候が続くフロリダの一月、サマヴィル&ホープ法律事務所のオフィスに美しい顔立ちの青い目の女性が訪れた。三十四歳のジル・ロートンは離婚手続きのため、仕事を見つけるという名目で北に旅立った夫ジャックを探し出して欲しいという。彼は半年前、共通の友人クレア・フィリップスにばったり会ったのを最後にぷっつり音沙汰なしだった。
 その晩十一時、ノース・ガレイ・ロード付近にあるカルーサの浜辺でジャック・ロートンという男が撃たれて死んだとの知らせを受け、マシューは現場に駆けつける。死体は半裸で四肢に針金のハンガーが巻きつけられ、顔面にショットガンを見舞われていた。だが現場で身元確認を行ったジルは、マシュー・ホープとモリス・ブルーム刑事に告げる。それはジャックではないと――
 1998年発表のホープ弁護士シリーズ最終作。第6作『シンデレラ』同様分類だと 倒叙/クライム 寄りの作品。巡回でたまたまカルーサ・カドペド美術館へと回ってきた〈ソクラテスの杯〉なる時価二百五十万ドル相当の美術品を、最新の防犯設備を掻い潜って盗め!という強奪物に「誰が最後に笑ったか」テイストをプラスしたもの。タイトルこそ"THE LAST BEST HOPE(ホープ・シリーズ最後にして最良の作品)"ですが、看板には偽りアリ。
 アイソラ美術館で件の物件を目にしたジャックが強奪計画を立て、バイの同棲相手メラニー・シュワルツが裏でジルと組みそれを横合いからかっさらおうとする。ジルの依頼も偽装。他方ではジャックの仲間の一人で金庫破り専門のキャンディ・ノウルズが、リーダーの素人臭さに見切りを付け始めている・・・
 こういった状況に現場に偶々居合わせた主人公ホープが絡むのですが、全然いいとこなし。前妻スーザン共々恋人にフられるは殺されかけるわで、完全に心折れて終わります。「いっそ弁護士も辞めようかな」みたいなことも匂わせたりして。〈最後の事件〉にしてはあんまりですね。モースに続いて今度はホープにアタックしたんですが、前者とは差がありすぎます。
 元々〈殺人童話〉としてスタートしたこのシリーズ。離婚やネグレクトなど生々しいアメリカの現実に晒される子供たちを主題に猟奇的な犯罪を描いたものですが、縛りのキツさから枷を外したことで逆に執筆の意義を見失ってしまったようです。「どうせ同じキャラ物なら87分署の方読めばいいじゃん」と。当初はマクベインも本シリーズに意欲的でしたが、版元の要請が厳しかったとも聞きます。
 スティーヴ・キャレラも調査に協力させてサービスしていますが、やはり第10作「メアリー・メアリー」以降の凋落をリカバリするには至りませんでした。この後87分署シリーズ第48作「ビッグ・バッド・シティ」ではキャレラ側がホープに協力を求めるそうですが、ヒーロー失格した彼が少しでも立ち直ってくれてることを望みます。4.5点。


No.256 6点 教皇の手文庫
中村正䡄
(2019/10/16 06:16登録)
 ローマ陥落が間近に迫った一九四三年十月、イタリア首相ムッソリーニの勢威のもと国家主権を得たばかりのヴァチカン市国は、自身の将来に危惧を抱きはじめていた。戦後の国際社会で枢軸国との濃密な関係をソ連に糾弾されれば、ただの宗教本山の地位に突き戻されることも十分にあり得たのだ。
 同じころキリスト教徒の守護を目的とする世界結社「地下墓洞の守護者たち(ザ・ガーディアンズ・オブ・ザ・カタコーム)」は、敗戦迫る枢軸圏からの教徒脱出を請願するため、時の教皇ピウス十二世に密使を送り込む。使者となったドイツ陸軍少将フランツ・フォン・カルルスブルッフは首尾良く教皇に面会し密命を賜るが、帰途戦闘機ムスタングに撃墜されアドリア海の藻屑と消えたかに見えた。
 それから五十数年後、二十一世紀まで僅かな年数を残すのみとなったヴァチカンでは、コンクラーベに選ばれたばかりの新教皇が執務区画の書庫から黒檀の美しい手文庫を発見していた。教皇は情報機関プロ・デオ総長マウリツィオ・ゲリ枢機卿に、手文庫の銀の鍵に結び付けられていた筒状の紙片の解読を依頼する。ラテン・アメリカ班パオロ・ナオト・ナカウラ司祭の手によって部分的に判明したその内容は、故ピウス十二世とカルルスブルッフの戦中秘話と、ヴァチカンと「地下墓洞の守護者たち」との繋がりを示すものだった。さらにゲリの耳にはこのところラテン・アメリカ諸国で、カルルスブルッフの署名と符合するF.v.K.ファンドなる資金の動きが聞こえていた。
 麻薬取引の疑いにより連行されたプロ・デオ神父を救うと同時に事の仔細を探る命を受けたナカウラ司祭は、一路南米コロンビアの首都サンタ・フェ・ボゴタへ飛ぶが、奇妙な偶然から「イベロ・アメリカ先住民権利回復運動(IMF)」指導者のラモン兄妹と、アメリカ人旅行者ブライアン・ヘンダースンに邂逅する。そして彼らそれぞれの目的はラテン・アメリカと「地下墓洞の守護者たち」の現在の活動に、奥深くで結ばれていたのだった・・・
 『アリスの消えた日』に続く著者4作目の長編小説。雑誌『宝石』一九九三年六月号から一九九四年一月号に連載されたものを改稿し、後半部分を加筆したもの。最初に描かれる第二次大戦中のヴァチカン秘話はすぐ背景に退き、その後は現代ラテン・アメリカを舞台にした活劇がメインになります。
 ペルーの共産ゲリラ、センデロ・ルミノソによるハイジャック事件を掻い潜り、絡まりあい結びつくナカウラとヘンダースン、そしてラモン達。基本テーマは前短編集『四つの聖痕』の延長ですが、ヴァチカン国章を暗示する金銀二つの鍵(金は信仰を、銀は富を表す)と「賜りし聖なる御物」「それを奉じる者」の謎が、最後に壮大なプロジェクトとなって明かされます。
 ベネディクト16世が辞任し名誉教皇となり、アルゼンチンから南米初の現教皇フランシスコが誕生したのが2013年3月。作者七十歳時の作品ですが、その年齢で的確に時代を先取りした慧眼は賞賛されてよいでしょう。


No.255 5点 眠れる美女
ロス・マクドナルド
(2019/10/13 15:52登録)
 パシフィック・ポイントの海岸一帯を脅かす石油漏出事故現場で、リュウ・アーチャーは痛めつけられたかいつぶりを胸に抱きかかえた美女に出会った。鳥の死を見届け岩の上で泣きむせぶその女、ローレル・ラッソは事故を起こした石油会社の社長、ジャック・レノックスの一人娘だった。
 彼女をアパートの自室に連れ帰るアーチャーだったが、ローレルは致死量の睡眠薬を持ってそこから姿を消してしまう。アーチャーは夫トムの依頼を取り付けると共にレノックス一族の協力を得ようとするが、やがて事故の始末に忙殺される父ジャックの元に、十万ドルの身代金を要求する電話が掛かってきた。
 祖母シルヴィアの委託を受けて受け渡し場所に赴くアーチャーだったが、同行したジャックは彼を銃で脅したあと単独での取引を図り、逆に犯人に撃たれてしまう・・・
 『地中の男』に続くリュウ・アーチャーシリーズ十七番目の長編。ベトナム戦争終結の翌年、1973年の発表。それに加えて環境事故や沖縄戦から続く因縁を背景に据えた、どう転んでも明るくなりそうもない病めるアメリカの話です。
 アーチャー物はずっと以前に代表三作を読んだきりなんですが、その一つ『ウイチャリー家の女』の一文

 「この女のひと、いくつ?」「三十九か、四十です」
 「命とりになった病気は・・・・・・?」「人生です」

 これを読んで思わず「うわあああ」と、その辺を転げ回りそうになった記憶があります。素晴らしいんだけどイマイチ人気が出ないのも分かるなと。まあ人それぞれだからいいんですけどね。ン十年ぶりですがやはり苦手意識は変わりませんでした。この作者の魅力は一にも二にも暗い美しさを湛えた文章だと思うんですが、本作の場合それを通り越して形容詞とかもニューロティックになっちゃってるなと。あんま読んでて楽しくありません。中に一人だけ、前を見ようとしてる女性が出てきますけど。
 「ロスマク作品中一、二を争う複雑なプロット」という評もありますが、それほどには感じませんでした。会話とか伏線は張ってありますが、ラスト近くの二転三転もどうにでもなるような気がします。かろうじて力技を成立させていますが、全盛期の『さむけ』『縞模様の霊柩車』などと比べるとトータル何枚かは落ちるでしょう。主人公の態度も好みからは外れるのでこの点数。この作品あたりのリュウ・アーチャーは、他者に良い影響を与える人間には見えませんね。


No.254 7点 フィルムノワール/黒色影片
矢作俊彦
(2019/10/12 04:08登録)
 神奈川県警警務部嘱託(本人曰くパートタイムの警察職員)の二村永爾は、以前の上司である小峰捜査一課長に頼まれ、映画女優・桐郷映子とホテルで落ち合った。戦前からの映画監督である父・寅人の最後のフィルムを落札するため、香港に飛んだまま行方を絶った俳優を探してくれとの依頼を断る二村だったが、まもなくそれに付随した事件が起きる。
 横浜のケヤキ坂団地で香港から流れてきた中国人・楊三元が、白昼銃撃されたのだ。現場に居合わせた二村はアクシデントの末おかっぱ頭の犯人を取り逃がしてしまうが、そこで奇妙な行動を見せた中国残留孤児の老婦人・珠田真理亜こそ失踪した俳優・伊藤竜也の実の母親だった。さらに射殺された楊とそれに先立つ町田駅での銃撃事件の被害者・榎木圭介の両者にも、竜也との繋りが浮かぶ。榎木は竜也と同部屋の俳優だったのだ。連続殺人はチャイニーズマフィアの犯行と推定された。
 事件を解決するため改めて映子の依頼を受け、一路香港へ飛ぶ二村。だが彼を待ち受けていたのは、案内役の香港人・麥條ことスキップに始まる射殺死体の数々だった・・・
 雑誌「新潮」二〇一〇年一月号~二〇一二年九月号までの連載に大幅加筆改稿したのち二〇一四年刊行された、二村永爾シリーズ第5作。前作「THE WRONG GOODBYE ロング・グッドバイ」からさらに十年後の発表。これだけ遅々とした歩みを続けるシリーズも他にないでしょう。今回のコンセプトは「日活アクション映画の世界に二村永爾を放り込む」こと。甘粕正彦や共産党工作員・ゲリラや草創期の映画人たちが蠢く旧満鉄映画からの因縁を軸に、洋の東西を問わぬ銀幕薀蓄てんこ盛り。日活100周年記念作品ということで、エースのジョーこと宍戸錠も特別出演。
 悪名高い九龍城を横に潰したようなウサン臭い事この上ない建造物・阿城大廈のモヤシ栽培プールに浮かぶ死体を皮切りに、景気良く転がるオロクの数々。何故かアフリカの呪術師に雇われてクリケットやったり、売り出し中の映画女優アリアーヌ・ヤウと恋愛もどきをしたり、前作ロング・グッドバイの黄昏れ様は何だったんだってくらい好き勝手してます。二村に散々振り回される小峰課長と、香港警務処本部のフリスク・ロー刑事は本当に気の毒。
 ワイズラックの冴えは今までで一番。これほど生きの良い会話がまだ書けるのは素直に凄い。前回同様過去と現在の事件が絡む構成ですが、今回は過去の方が大きい。基本フィルムの奪い合いですが、趣向はそれほど凝っていません。続けての千枚超の割には前作ほど複雑な筋立てではなく、比較すると若干物足らなくもあります。双方を足してプラスマイナス7点。ロング・グッドバイの方は7.5点でも良かったかもしれません。


No.253 6点 黒い風
トニイ・ヒラーマン
(2019/10/07 08:15登録)
 アリゾナ州ブラック・メサの砂漠地帯ウェポ低地でセスナ機が、深夜の着陸に失敗し大破した。偶然居合わせたナヴァホ族警察巡査ジム・チーは機体に駆け付けるが、まもなく息絶えたパイロットを含め死亡者は2名、生存者はいなかった。チーは新たにウェポに入植したホピ族用の風車破壊事件を解決するため、現場で見張りを続けていたのだった。彼は墜落音の他に銃声と、車が走り去りだれかが土手をよじのぼって逃げる音を聞いていた。セスナは麻薬取引のため密かに低地に侵入したと思われた。
 捜査を仕切る麻薬取締局捜査官T・L・ジョンソンはチーに共犯の疑いを掛け、暴力で麻薬のありかを聞き出そうとする。犯人はセスナ機誘導役の弁護士ジェリー・ジャンセンをも射殺し、現場から逃走していたのだ。時価二千万ドルと言われるコカインの行方はわからないままだった。
 上司のラーゴ警部から捜査権の無い麻薬事件に関わらぬよう厳命を受け、強制的に休暇を取らされたチー巡査は、友人のホピ族保安官補、カウボーイ・ダッシーの協力を得て己の疑惑を晴らそうとするが・・・
 1982年発表のナヴァホ・インディアン・シリーズ第五作。ジム・チー巡査ものとしては1980年の"People of Darkness"に続く二作目。タイトルの〈黒い風〉とはナヴァホの定義で、人間の心に入り込み判断力を破壊するもののこと。メインのコカイン密輸と持ち逃げ犯探しを軸に、チー本来の担当事件である風車破壊と交易所からの貴金属盗難、およびダッシー担当のナヴァホの身元不明死体事件を絡ませる構成。ロバート・レッドフォードが映画化権を獲得し、1991年「ダーク・ウィンド 砂漠の刑事ジム・チー」として公開されました。作者ヒラーマンいわく「プロットの出来が良いもの」だそうです。
 地味なナヴァホシリーズの中でもわりと展開は派手目。セスナ事故から住居のトレイラーを勝手に捜索され、殴打されたのち脅され、さらに正体不明の相手に追跡されるチー。大金が絡むだけに白人の誰もがうさんくさい行動をしてきます。
 主人公のキャリアを利用したトリックは単純ながら効果的。三作読んできましたが、ミステリ要素は一番あります。リープホーンものに比べると主人公が若いだけにやや重厚さには欠けますが。全てを押し流すラストの奔流といい、インディアンという題材が受け入れられれば確かに映画向きの作品でしょう。


No.252 10点 アンクル・アブナーの叡智
M・D・ポースト
(2019/10/05 20:54登録)
 シャーロック・ホームズやブラウン神父ものと並び称される名シリーズ。作品数は両者より少ないものの、各篇いずれも開拓初期のヴァージニアを舞台とした力強いドラマ性と重厚なタッチ、風景描写と何より卓越した探偵像が光る。15Pから多くても僅か20P程度の分量にこれだけの要素を盛り込むのは凄い。そういう訳で、読むなら断然ハヤカワ文庫版の方を推します。エドマンド・クリスピンの簡にして要を尽くした序文も収録されててお得。
 収録全18篇中主要な10篇が創元版とのダブり。本文庫独自収録は世界短編傑作集収録の「ドゥームドーフ殺人事件」を除き、手の跡/死者の家/第十戒/金貨/血の犠牲/奇跡の時代/禿鷹の目 の7篇(配列は発表順)。中では有無を言わせぬ証拠を提示する「第十戒」と、「養女」のストーム医師初登場の「金貨」が読み応えありました。いずれも甥っ子のマーチン君が登場する作品。初期は彼が主な語り部なので、覚えておくと配列が見分け易くなります。ブラウン神父ものと同じく1911年からの連載ですが、あっちには全然子供の影がありませんね。
 発表誌は『サタデー・イブニング・ポスト』と『メトロポリタン・マガジン』がほぼ同数。次いで『The Red Book』が数篇に、『Pictorial Review』に「奇跡の時代」が掲載。更に「禿鷹の目」が初版刊行時のボーナストラックとして付属。これに創元版収録の4編が加わります。〆て全22編。
 ベストは法の源泉を露にして燦然と輝く名編「ナボテの葡萄園」、次いで秀逸な手掛かりを扱った「神のみわざ」。この2篇はトリックのみならずドラマ的にも優れています。その次に来るのはアンソロジーピースの「ドゥームドーフ殺人事件」でしょうか。焦点トリックばかりが云々されますが、本編に代表されるようにそれに加えて、舞台設定とテーマが完全に一体化しているのがアブナーシリーズの魅力です。
 他にも証拠解釈の絶対性に意義を唱える「黄昏の怪事件」、論理性で皆さん推しの「藁人形」、巧みな小道具使いの「養女」など佳作クラスも多数。自治の精神と法とは何か?というテーマ性、善意に裏付けられた力強さの必要性を訴える、ミステリ史上のマイルストーンです。久しぶりにお腹一杯。


No.251 6点 悔恨の日
コリン・デクスター
(2019/10/02 15:32登録)
 一九九八年七月十五日、休暇中のモースは自宅にストレンジ主任警視の訪問を受けた。ストレンジは彼に、約一年前コッツウォルドのロウワー・スウィンステッドで起こった殺人事件の再捜査を命令する。
 〈チョウゲンポウ〉と名づけられたジョージ王朝風の自宅のベッドで、裸に手錠をかけられさるぐつわをかまされて横たわっているラドクリフ病院の正看護婦、イヴォンヌ・ハリスンの死体が発見された事件。発見者は夫のフランクで、妻の様子がおかしい、すぐ帰るようにとの電話を受けて自宅に急行したのだった。家じゅうの部屋にはあかあかと灯がともり、玄関は開けはなたれ、するどく青い光をはなつ盗難防止装置のベルが鳴り続けていた。
 犯人の挙がらぬまま長らく放置されていたのだが、一週間ほど前、ストレンジの自宅に捜査の再開をうながす匿名電話が二度掛かってきたというのだ。電話の内容には、新聞報道では知り得ないことがふくまれていた。
 気乗りしないモースに代わって捜査を受け持ったルイス巡査部長は、電話の指示に従い犯行当時〈チョウゲンポウ〉に不法侵入していた泥棒、ハリー・レップの追跡を試みる。模範囚として刑務所から早期釈放された彼を車で尾行するも、巧みに撒かれてしまうルイス。レップはそのままどこにも姿を現さなかった。一方モースは、廃棄物処理場の埋立て地に彼の死体が搬入される可能性があると推測する。だが、やがて捨てたばかりのごみの中から発見された男は、レップではなかった・・・
 1999年発表のモース主任警部シリーズ最終作。かなり厚めの作品ですが、登場人物たちの意外な関係を軸にしたトリックに加え、周到な伏線が張られています。ただ出来ればもう一押し欲しかったところ。「最後の事件」としての捻りは申し分無いですが。
 気が進まないと言いながら、悉くルイスの調査に先回りする主任警部。彼の怪しい動きが作品のスパイスとなり、ボリュームたっぷりながら無理なく読めます。久し振りにゴリ押しで活路を開くというか、モース以外には解決出来ないであろう事件を最後に用意してくれたのが嬉しい。タイトルも"THE RE(MORSE)FUL DAY"と洒落ています。


No.250 5点 時を盗む者
トニイ・ヒラーマン
(2019/09/29 07:38登録)
 腫瘍手術中の感染症と致命的な凝血で愛妻エマを失ったジョー・リープホーン警部補は、ナヴァホ族警察に辞表を提出し、二週間の特別休暇を過ごしていた。そんな彼を心配した旧友サッチャー取締官は、リープホーンにある女性人類学者の捜索の助力を依頼する。エリナー・フリードマン=バーナル博士は古代部族アナサジの壺の研究者で、遺跡盗掘者たちとのトラブルに巻き込まれたと思われた。アナサジ陶器の良品は一個が数万ドルにもなる。彼女が組織的な盗掘にかかわっているという匿名電話が、国土管理局が捜索に乗り出した理由だった。エリナー博士が行方を絶ってから、既に二週間が経過していた。
 同じ頃、ウィンドウ・ロックから数十マイル離れたシップロックに勤務するジム・チー巡査は、モータープールからトレイラーが盗まれた事件の犯人を追っていた。修理工場への聞き込みからチーは、伝道師スリック・ナカイの主催する〈真実の福音〉に辿りつく。エリナーの部屋にあった競売カタログのメモにもまた、ナカイの名があった。ナカイは信者からアナサジの壺を集め、信仰者たちの運営資金にしていたのだ。
 交錯する失踪事件と重機の盗難。チー巡査はナカイの話から遺跡の目星を付けダブル・タイヤの跡をたどるが、終点の人骨ちらばる集落遺跡には、射殺された盗掘者たちの死体が転がっていた・・・
 1988年発表のナヴァホ・インディアン・シリーズ第八作。タイトルの"A Thief of Time"とは墓荒らしのこと。訳者あとがきには「彼の最大傑作」「絶賛」「アメリカ探偵作家クラブ賞に再度ノミネイト」「ベストセラー上位に進出」とありますが、読んだ感じさほどのものではありません。この後のシリーズも売れ行き好調だったので、本作がブレイクの切っ掛けとなったのは確かですが。取っ付き悪いけども癖にはなるシリーズですね。
 妻を失ったベテラン警部補と行動的で恋に揺れる若々しい警官を対置し、「死者の舞踏場」に比べ格段に事件エリアを拡大したのが成功の理由でしょうか。埃っぽく広大なユタ・コロラド・アリゾナ・ニューメキシコの四州国境地帯全域を舞台にし、奥行きもより増したように見えます。
 ただ傑作かというとやや疑問。「舞踏場」同様謎めいた展開を冒頭に配置し引っ張りますが、地味なのは相変わらずでそれほど優れた構図でもありません。細かい部分が色々と緩いですし。前作「魔力」と共にインディアン居留地という題材の面白味とその一般化に貢献した作品。リープホーンが再生を決意する〆は爽やかでいいですが、推理要素よりも土地の空気や生活サイクルが肌で感じられるのが、最大の魅力です。1989年度第3回マカヴィティ賞受賞作。


No.249 6点 メグレと死者の影
ジョルジュ・シムノン
(2019/09/28 11:50登録)
 万聖節の季節、夜の十時。メグレ警視は管理人からの電話を受け、ヴォージュ広場前のアパートに急行した。中庭からは建物すべての人々の姿が灯のともった窓越しに見えるのだが、いちばん奥の建物に見える男の影が、机に向かってつんのめったまま動かないのだ。事務所の中では男が肱掛椅子に座ったまま、胸のどまん中に弾丸を一発受けて死んでいた。
 レイモン・クシェ、四十五歳。リヴィエール博士に血清開発の資金を提供し、一躍国内有数の製薬会社社長に成り上がった男だった。彼の背中はうしろの金庫にふたをした形だったが、その中にあるはずの三十六万フランの現金はなくなっていた。
 メグレはその後現場に現れた被害者の愛人ニーヌ・モワナールに好意を持つが、ピガール・ホテルの彼女の隣室に住んでいたのは、偶然にも殺されたクシェの息子ロジェだった。更に彼の母親でクシェの前妻マルタン夫人もまた、現場となったアパートの居住者だったのだ。
 現クシェ夫人ジェルメーヌ、ニーヌ・モワナール、そしてマルタン夫人。八百万フランにのぼる莫大な財産を残した死者をとりまく三人の女たちをめぐり、メグレは真実を突き止めようとするが・・・
 1932年発表のメグレ警視シリーズ第12作。「三文酒場」と「サン・フィアクル殺人事件」の間に位置するごく初期のもの。息子のロジェが恋人共々エーテル中毒だったり、前妻マルタン夫人が再婚した哀れな小役人の夫マルタン氏を、クシェと比較しながら日夜いびってたり、アパートにねじけた立ち聞きばあさんや狂女がいたりとか、全体に病んでギスギスしててあまり好きではないんですが、再読してみるとやはり初期作だけのことはあるなと。
 アパートの住人たちの動きが全部シルエットになって映るのは凄く魅力的な設定ですが、これはあまり生きていません。むしろ殺害現場がマルタン夫妻の部屋の窓から手に取るように見渡せることが、より直接的に事件に関わってきます。
 金銭欲とどうにもならない感情が絡んだドロドロに醜悪な犯罪で、終盤になるにつれ、登場人物の感情もまたヒステリックなほどに高まっていく。第十章に挿入される逃走シーンは、短いですが緊張感があります。不発に終わったシルエット設定を生かすために、各要素を分解し組み立て直したのが第二期の「メグレと超高層ホテルの地階」になるのかな。作品としてはこちらの方が明るくて好きです。
 それなりに凄みのあるストーリーですが、好みからはちょっと外れるので6.5点。幸薄そうだけど健気なニーヌの存在が、物語の救いになっています。


No.248 8点 あ・じゃ・ぱん
矢作俊彦
(2019/09/25 05:45登録)
 史実より急速度でソ連が侵攻し、東西に分断された架空の日本国。1990年代後半には、東半分は書記長・中曽根康弘が独裁する共産圏の優等生となり、西半分は吉本興業一族が支配する経済大国として発展を遂げていた。だが既にソ連は崩壊し、富士山もアメリカの核誤爆により醜い姿を晒したままであった。
 アメリカ爆撃調査団の一員であった親日家の黒人兵を父に持つ〈私〉は東日本官話の堪能さを買われ、CNNの現地レポーターとして国境である《壁》を越えることになる。東日本では昭和天皇の崩御を機として、政治的変動が始まっていたのだ。技術者や党幹部の西日本への脱出、越境者の飛躍的増加――
 さらに西日本の皇居蛤御門に集まった弔問客のなかには、紋付き袴にソフト帽を被った一人の老人が映っていた。新潟の山奥で四十年以上も戦い続けている東日本の反政府ゲリラ、独立農民党の党首・田中角栄。農民党は名指しでCNNとの接触を希望してきたのだった。
 そして角栄の斜めうしろには、父の永遠の女性〈ハナコさん〉が四十年以前の写真と変わらぬ姿で映っていた。生前の彼は、彼女が〈私〉の本当の母親だと話していた――
 90年代の矢作俊彦を代表する畢生の大作。自動車雑誌『NAVI』1991年1月号から2年半にわたり連載された後、4年をかけた校正ののち、1997年末に刊行されたもの。上下巻にして1000P以上、二段組にしてギッチリ詰めても777Pの厚み。
 書き出し部分は一応記述しましたが、ほぼ意味はありません。四部構成で第一部は獅子文六『てんやわんや』や井上ひさし『吉里吉里人』系独立国家シミュレーション、第二部はハードボイルドで、第三部は小栗虫太郎テイストを挟んだポリティカル・フィクション。最後の第四部は『薔薇の名前』か『黒死館』かという幻魔怪奇探偵小説から一気に昭和特撮へ、ラストは某名作風に〆て終わります(オチに関連するので秘匿)。だって本当にこんな小説なんだもの、仕方無いじゃない。
 田中角栄に始まり三島由紀夫、中曽根康弘、笠置シヅ子、渡辺美智雄、アーネスト・ヘミングウェイ、エドウィン・ライシャワー、李香蘭、佐藤昭子、長嶋茂雄、川内康範、天本英世、和田勉、石原慎太郎など、実在人物・事象を縦横無尽に登場・改変させ、しょうもないギャグにアホほど昭和ガジェットを鏤めて展開します。チョイ役・言及のみに至っては志村けん含め数知れず。
 『黒死館殺人事件』はこの作品の核となる要素の一つで、作中にも〈降矢木残徹〉なる重要人物が登場。さらに作中で語られる小栗虫太郎の架空の遺作『死霊』のあらすじに従い、ストーリーは進行します。なんでも法水麟太郎が折竹孫七に助けられ、地底の大洞窟に乗り込んでいく話だそうですが、病膏肓といった感じ。マンガ原作『サムライ・ノングラータ』で同名主人公を登場させてることから見ても、かなりのマニア臭いです。
 その筋ではえらい評価の高い作品ですが、読んだ感じ世界文学級とは全然思いません。タダゴトでないのは確かですが。それに敬意を表して1点プラス。1998年度第8回ドゥマゴ文学賞受賞作品。


No.247 6点 喉切り隊長
ジョン・ディクスン・カー
(2019/09/22 16:56登録)
 一八〇五年夏の終わり、ドーヴァー海峡を睨むブーローニュのオードルー断崖上の陣営に、興奮した十五万の歩兵と九万の騎兵がもう辛抱できないというようにわき返っていた。前年五月に即位したフランス皇帝ナポレオン・ボナパルトはその絶頂期にあり、その影はヨーロッパ全土に長々と暗い影を投げかけていた。集結した二十四万の大陸軍は、果たしてどこへ向かうのか? 対岸のイギリスか、それともヨーロッパのいずこへか? それは各国のみならず、当の兵士たち自身がもっとも知りたがっている事だった。
 停頓する状況にいらだつ軍営内に、ある噂がひそかに広がっていく。〈喉切り隊長〉と呼ばれる殺人鬼がいずこともなく現れて歩哨を刺し殺し、幽霊のように消え去るというのだ。衆人監視のなか犠牲者はすでに四人を数え、後にはただ"ごきげんよう、喉切り隊長"と書いた挨拶状が残されていた。
 悪名高き警務大臣ジョゼフ・フーシェは皇帝の勅命を受け、逮捕されたばかりのイギリス人スパイ、アラン・ヘッバーンを使い喉切り隊長の正体を探ろうとする。が、アランの目的は他にあった。ナポレオンの懐に飛び込み、大陸軍の進路を探ろうというのだ。
 それぞれの目論見を秘めて対峙する二人に絡む、アランの妻マドレーヌと女スパイ、イダ・ド・サン=テルム。そしてアランを敵視する大陸軍一の剣の使い手ハンス・シュナイダー中尉と、お目付け役のギー・メルシエ大尉。五人の男女は一路ブーローニュの三十彫像園へと向かう。
 フーシェの真の目的とは何か? そして〈喉切り隊長〉の正体は?
 1955年発表の「ビロードの悪魔」に続く歴史もの。カーには珍しくナポレオン戦争時のフランスが舞台。美味しい要素てんこもりですが、前作に比べて出来はチグハグ。フーシェは大好きだけどナポ関連はそうでもない、イギリス大好きだけどフランスはちょっとねという、作者のジレンマが出た感じ。
 大枠は冒険スパイ・スリラーで、様々な妨害を掻い潜った主人公アランが気球繋留場の囲みを突破する所は良いのですが、宿敵シュナイダー中尉とサーベルを抜いて騎馬で駆け違うという、最高に盛り上がる場面で物語は突然フェードアウト。次章、伝聞の形で決着がウヤムヤとなった事が語られ、その後シュナイダーは唐突に退場。伏線の為とはいえ、チャンバラ小説としては若干もにょる結末です。
 反面ミステリとしては物凄く綺麗に着地しており、読み終えると「ああこれがやりたかったのか」と分かるのですが、肝心なところを潰して奉仕させてるので素直に喜べません。チャンバラも良し、推理要素も悪くないというのが、この人の歴史ものの味だと思うのですが。
 タレーランとかも意味ありげにちょろっと出て来るので、伏線はそっちに任せて素直に両者を対決させるべきだったでしょう。作者のフランスへの興味の無さがこのへんに出てる気がします。考証がダメな訳ではないし、決してつまらなくはないんですけどね。あのオチに執着し過ぎたのかな。「五つの箱の死」のリベンジと考えれば、まあ分からない事もないけど。

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