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ミステリの祭典

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YMYさんの登録情報
平均点:5.91点 書評数:386件

プロフィール| 書評

No.86 5点 湖のほとりで
カリン・フォッスム
(2020/02/06 20:03登録)
湖のほとりで村の15歳の少女アニーの死体が発見された。長身で美しいアニーは村の家庭でベビーシッターもして、誰からも愛されていた。セーヘルは部下のスカッレとともに捜査に取り掛かる。
アニーの複雑な家庭環境や、アニーのボーイフレンド、ハルヴォールのつらい生い立ちと屈折した心情などが綿密に描かれていくと同時に、セーヘルの個人的な生活や悩みも語られ、物語に引き込まれる。丹念な筆致で描かれる捜査過程や人間模様が読みどころ。


No.85 5点 怪談飯屋古狸
輪渡颯介
(2020/01/29 21:04登録)
時代ホラー専門の作者の手になる新シリーズ。
曲がったことが嫌いで、幽霊が苦手な虎太。看板娘のお悌に惹かれて、一膳飯屋「古狸」に入った。そこは実話怪談を聞かせると、飯が無代になるという、奇妙な店だった。さらに怪談の現場を検証すれば、何度も飯が無代になる。常連の隠居の階段を聞いた虎太は、お悌と無代の飯のため、幽霊を見た住人が次々と死ぬという長屋に乗り込むのであった。
一膳飯屋が怪談を求める理由にも工夫があり、設定が実に凝っている。さらに虎太は、幾つかの幽霊騒動にかかわるのだが、これがひとつに収斂していく。もちろんミステリ要素があり、非合理と論理が入り交じった、独特の作品になっている。すっとぼけた虎太のキャラクターが、恐怖を中和してくれるので、ホラーが苦手な人でも大丈夫。先が楽しみなシリーズ。


No.84 8点 ジェノサイド
高野和明
(2020/01/21 20:34登録)
死んだ父からのメールを発端に、創薬科学を学ぶ日本人大学院生と米国人傭兵の人生が交差する。かつて内向きの日本人には手が届かなかったフレデリック・フォーサイス風の情報小説が、力量ある作家の手にかかれば、今やごく自然に書かれることを示した。
このワールドワイドな物語が評判を呼んだのは、私たちの興味や現実の在り方が的確に捉えられているからに他なるまい。


No.83 5点 強盗こそ、われらが宿命
チャック・ホーガン
(2020/01/13 20:14登録)
強盗を生業とする四人組を描いたアウトロー小説。強盗団のリーダー、ダグが押し入った銀行の女性支店長に本気で恋をしてしまってから、彼らの運命は大きくゆがみ始める。
スリリングなラストの攻防はもちろん、ダグの純粋な恋心、仲間同士の丁々発止のやり取りなど、巧みな筆致で引き込んでいく。切なさを漂わせた幕切れもいい味を出している。


No.82 8点 屍人荘の殺人
今村昌弘
(2020/01/08 19:52登録)
神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と明智恭介は、同じ大学の探偵少女・剣崎比留子と共に、映画研究会の夏合宿に参加する。「今年の生贄は誰だ」という脅迫状が届き、辞退者が続出していたのだ。合宿一日目の夜、みなで肝試しに出掛けるが、そこで生死を分ける極限状況に直面し引き返す。やがて部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。
閉鎖された環境での密室殺人を探偵少女が名推理で解き明かす・・という、ありきたりな設定だが、本書が異色なのは、誰もがみな命を狙われる状況にあるということ。死と対峙する絶望的な状況下で、なぜ犯人は殺人を犯すのかが大きく問われることになる。このロジックが実に緻密で面白い。


No.81 4点 逃亡医
仙川環
(2019/12/30 20:10登録)
世間から見ればエリート中のエリートである心臓外科医は、なぜ逃げなければならなかったのか。失踪した人物が独特なキャラと過去を持っているため、どこか奇妙な味を持つ作品だ。追う者、追われる者の物語が交互に描かれるシンプルな構造ながら、さまざまなエピソードが効果的に配されている。尻すぼみ感はあるが、人間ドラマとしてはまずまずの面白さ。


No.80 6点 背後の足音
ヘニング・マンケル
(2019/12/23 18:35登録)
今回、ヴァランダーは長年の不摂生がたたり糖尿病と診断されてしまう。喉の渇きや疲労感と戦いながら、身を削るようにして犯人を追い詰めていく姿は人間臭く、共感を覚えた。犯人の視点からの不気味な描写を挟みながら、クライマックスになだれ込む展開もスリリング。厚い上下巻だが一気読みだった。


No.79 5点 堕落刑事
ジョセフ・ノックス
(2019/12/19 19:36登録)
押収品のドラッグを盗んで停職になった刑事の物語。彼は麻薬組織への潜入捜査を命じられ、さらに有力政治家の娘を組織から引き離す任務まで負うことに。
薬物汚染、警察の腐敗、性と暴力。社会の暗部をはい回る。堕落した刑事の陰鬱な魅力が、しっかりした捜査の物語と、犯人捜しのミステリを支えている。


No.78 5点 吊るされた女
キャロル・オコンネル
(2019/12/14 11:28登録)
刑事マロリーシリーズ。美しくも冷徹な主人公マロリーの古い知り合いスパローが首をつられ、自分の髪を口に詰め込まれたうえ、周囲のハエの死骸が大量にばらまかれている、という異様な事件現場で幕を開ける。
発見時は息があったスパローだが、救急のミスで植物状態に。連続殺人事件と主張し、過去の類似事件を洗うマロリー。相棒のライカーは、現場に残されていたウエスタン小説の本とストリートチルドレン時代のマロリーとの関係を調べ始める。
マロリーを含め、愛に飢えた登場人物が切ない。過去と向き合うヒロインの心の氷が、ほんの少しでも溶けてくれたらと、祈りたくなった。


No.77 5点 州検事
マーティン・クラーク
(2019/12/09 19:59登録)
出来の悪い兄と優等生の弟の古典的な対立、メイスンの恋愛と結婚生活、人生の残酷な皮肉、思春期の娘との関係、黒人の州検事補カスティスとの厚い友情。それらが主人公のメイスンを軸にじっくり描き込まれている。
「良心を行動の規範とする」とき、法という正義をどこまで貫くべきか?作者はこの作品で一つの答えを与えている。ラストの「人生は一筋縄ではいかない」という言葉が深い余韻を残す。


No.76 6点 特捜部Q 檻の中の女
ユッシ・エーズラ・オールスン
(2019/12/04 20:17登録)
胡散臭い経歴のアサドと気難しいカールのコンビが最高に楽しい。偏屈で頑固だが、実はピュアで要領の悪いカールの人物像は魅力的。さらにミレーデをその過去と心情にまで踏み込んで緻密に描いているせいで、ラストの感動はひとしおだった。


No.75 5点 昏い季節
チェルシー・ケイン
(2019/11/29 19:53登録)
川が氾濫し、水が猛威を振るう米国オレゴン州ポートランドで、手のひらに小さな傷痕のある奇妙な死体がいくつか発見された。相棒の刑事までもが標的となり、アーチーや同僚の刑事たち、新聞記者のスーザンは、意図的に痕跡を残していく大胆な犯人に迫ろうと、必死に謎を追う。
ついに真相に辿り着いた時、堤防が決壊し、町も人も水にのまれる。重い過去を引きずるアーチーと、屈託のないスーザンとの微妙な関係からも目が離せないサスペンス。


No.74 5点 夢幻諸島から
クリストファー・プリースト
(2019/11/23 10:03登録)
著者が描き続けてきた架空世界「夢幻諸島」の学術的ガイドブックの体裁を取っている。はじめは島々の奇怪な生物や不安定な政治状況の解説の形になっているものの、次第に異様な物語が立ち上がり興奮させられた。
英国SF協会賞、ジョン・W・キャンベル記念賞を受賞。


No.73 6点 カリ・モーラ
トマス・ハリス
(2019/11/16 13:56登録)
トマス・ハリスといえば、ハンニバル・レクターの生みの親。この作品は、レクターを登場させずに、軽快な犯罪小説に仕上がっている。
マイアミに麻薬王が残した豪邸。コロンビア移民の女性カリ・モーラは、邸宅管理のアルバイトがきっかけで、麻薬王が残した金庫の争奪戦の渦中に飛び込むことに。
レクターが登場する作品に比べれば小粒だが、タフなヒロインと、怪しげな悪役たちの織りなす犯罪活劇を堪能できる。


No.72 5点 ケイトが恐れるすべて
ピーター・スワンソン
(2019/11/12 22:36登録)
見知らぬ街で半年間暮らすことになった女性が、隣人の不審な死に巻き込まれるサスペンス。
同じ出来事を複数の人物の視点から語ることで、意外な事実を少しずつ明かし、一方で謎と緊張を増幅させている。物語を語る視点と順序に工夫を凝らして、比較的シンプルな事件を五里霧中の迷宮に仕立て上げた作品。


No.71 5点 リトル・ブラザー
コリイ・ドクトロウ
(2019/11/02 10:07登録)
大規模テロが発生した現代のサンフランシスコを舞台に、国土安全保障省を向こうに回して、監視社会に抵抗する高校生ハッカーたちの戦いを描く。
題名が暗示するように、下敷きはオーウェル「一九八四年」。伊坂幸太郎作品を彷彿とさせる青春サスペンスであり、SFでもある。SFが苦手な人にも、ぜひ読んでほしい。


No.70 5点 いたって明解な殺人
グラント・ジャーキンス
(2019/10/26 09:44登録)
異常な妻との苦痛な結婚生活に耐えていたアダムだが、週末を愛人と過ごして帰ってくると妻が撲殺されて死んでいた。アダムは弁護士である兄に頼り、法廷闘争を繰り広げ始めるが。
徐々に明らかにされる過去の秘密と現代の事件が絡み合い、二転三転と最後まで続くサプライズが小気味よい法廷サスペンス。


No.69 6点 フランクを始末するには
アントニー・マン
(2019/10/20 10:33登録)
ブラックユーモアたっぷりの短編集。冒頭の「マイロとおれ」は犯罪現場に赤ん坊を連れていき、ピュアな視点を捜査に生かす(天真爛漫)計画を導入した警察の話。
買い物リストだけが羅列された「買いもの」からは、背筋の寒くなる行為が鮮やかに浮かび上がる。奇妙な味わいの作品が好きな方にはぜひお薦めしたい。


No.68 7点 キングを探せ
法月綸太郎
(2019/10/12 13:23登録)
著者と同姓同名の探偵が登場する法月倫太郎シリーズの長編。
交換殺人をもくろむ四人がトランプのカードを引き、誰が誰のターゲットを殺すのかを決めるシーンから始まる。犯人は初めから分かっている。だがこの後、とてつもなく難解なパズルのような仕掛けが用意されている。トリックが明かされても、謎解きの切れ味があまりにも鋭いため、すぐには理解できなかった。何度もページを遡り、巧みに張り巡らされた伏線を確認してしまった。
結局、最後まで翻弄されっぱなし。しかし、ミステリでは、この完璧な敗北感も至上の喜びとなる。


No.67 5点 生、なお恐るべし
アーバン・ウェイト
(2019/10/05 08:26登録)
妻とともに馬を飼育しながら暮らしている54歳のハントは、裏の商売の麻薬受け渡しを保安官補に目撃され、逃亡する羽目になった。おまけに麻薬組織からは殺し屋が送り込まれる。その逃走劇がスピード感たっぷりに描かれていくが、それを個性的かつ感動的にしているのは「人は自分のしたことを自分なりのやり方で償う」というテーマ。登場人物たちそれぞれの背負うものが心にしみた。

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