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ミステリの祭典

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YMYさんの登録情報
平均点:5.91点 書評数:386件

プロフィール| 書評

No.106 6点 11 eleven
津原泰水
(2020/06/03 20:16登録)
幻想的な作風で知られる著者の、そのエッセンスを堪能できる戦慄と感動に満ちた11編の短篇集。
話のトーンも各話ごとに全然違うタッチで描かれている。「五色の舟」がおすすめ。


No.105 5点 教会の悪魔
ポール・ドハティ
(2020/05/27 20:20登録)
妹を誘惑された金匠が相手の男を殺害して、教会に逃げ込んだ。だが、朝になって彼の首つり死体が発見された。国王じきじきの書記コーベットは、不審な点を発見し、じりじり真相に迫っていく。
読みどころは何といっても、中世ロンドンの猥雑極まりない生活ぶりでしょう。そして、妻子をペストで失い孤独なコーベットが魅かれる酒場の経営者の美女との恋愛も切ない。歴史ミステリ好きの方に是非。


No.104 5点 あの日に消えたエヴァ
レミギウシュ・ムルス
(2020/05/21 20:24登録)
レイプされ、姿を消した恋人エヴァ。彼女とおぼしきインターネット上の写真を親友から見せられたヴェルネルは、その行方を捜そうとする。
やや重苦しい物語。ミステリに意外性を求める方にとっては必読の一冊。丁寧な伏線による強烈な驚きが何度も押し寄せる。予想外の展開と、重い読後感が、忘れがたい余韻を残す。ただ、ややご都合主義か。


No.103 5点 白い悪魔
ドメニック・スタンズベリー
(2020/05/15 20:06登録)
ローマで暮らす若く美しい女性ヴィッキーと兄ジョニーは、政治家と有名女優の夫婦に近づくが、やがてヴィッキーの周辺で不審な死が...。
ローマから米国のリゾート地と、華やかな舞台で繰り広げられる物語だが、人々の運命が狂っていく様子と、その奥底に流れる歪んだ心情の救いのなさが、冷え冷えとした印象を刻む。


No.102 6点 ヘッドハンターズ
ジョー・ネスボ
(2020/05/06 19:06登録)
北欧発の痛快なクライムノベル。やり手のヘッドハンター、ロジャーは妻が経営する画廊の赤字を埋め合わせするため、絵画の窃盗を副業にしていた。
そんな時、顧客企業の重役候補にうってつけの男が現れ、しかも幻の名画を持っていることも分かった。一石二鳥の幸運に有頂天のロジャーだったが、甘くはなかった。
アクション、知恵比べ、どんでん返しなどお楽しみが詰まっている。


No.101 6点 義弟
永井するみ
(2020/04/26 17:32登録)
血のつながっていないい姉弟の危機とその切迫した状況の推移がサスペンスプルに展開していく。個々のエピソードが丁寧に描写されているため、心の機微やとっさの行動について不自然さがない。まるで、自分の身に起きた悲劇のように読み進んでいってしまう。
また家族や恋愛の形が複雑だったり不確かだったりする現代ならではの要素を多く備えている。深い読み応えのある大人のミステリ。


No.100 5点 奇岩城
モーリス・ルブラン
(2020/04/19 18:16登録)
古い暗号文書に隠された歴史上の秘密をめぐって、怪盗ルパンとボートルレ少年が繰り広げる丁々発止の知恵比べがこの作品の面白さである点。
盗みの天才でありながら、愛のために「まっとうな人間」たろうとするルパンの苦悩が、波乱万丈の冒険譚に深みを与えている。


No.99 5点 テンペスト
池上永一
(2020/04/13 19:41登録)
二つの強国(清と薩摩藩)との二面外交を強いられ欧米列強からの開国までも迫られていた十九世紀後半の琉球王国を舞台に、宦官と偽り王宮に身を投じた天才少女の活躍を描いている。
男と女、二つの性を生きたヒロインのジェットコースターのように乱高下する半生は特筆もの。


No.98 5点 敵は海賊・正義の眼
神林長平
(2020/04/07 19:20登録)
コミカルかつ軽快な宇宙活劇の背後で哲学的、本質的な問題を考察するスタイル。この作品では「正義」が徹底的に解剖される。
主な舞台はタイタンの首都メカルーク。市警の警部や実習生が準主役で登場するため、所轄署と本庁の特殊捜査班の合同捜査を描くユニークな警察小説とも読める。


No.97 8点 僧正殺人事件
S・S・ヴァン・ダイン
(2020/03/31 19:07登録)
マザー・グースの歌詞に合わせて人が殺されていく、いわゆる童話殺人もの。本作はその嚆矢となった傑作。犯人は正気なのか。とにかく犯人の狙いが分からないことで恐怖感が増す。もし現実の事件だったとしたら、こんにちでいう劇場型犯罪の元祖的な犯罪。


No.96 6点 美しい嘘
リザ・ウンガー
(2020/03/25 19:34登録)
スピーディーな展開、謎の存在、ジェイクとのロマンス、喜怒哀楽の感情のジェットコースター、複雑なプロット、意外なエンディングなど、さまざまな要素が揃ったエキサイティングな娯楽作品。


No.95 6点 都市と都市
チャイナ・ミエヴィル
(2020/03/16 19:20登録)
登場人物やプロットではなく、二つの都市の世界観を楽しむべきSFで、通常のSFや犯罪小説を期待しない方がいいかもしれない。文章はシンプルだが、状況を理解するのがやや困難。


No.94 5点 わたしが眠りにつく前に
SJ・ワトソン
(2020/03/11 19:46登録)
消えた過去を取り戻そうとする主人公の葛藤を読み進めてゆくうちに、読者まで自分自身の記憶を疑ってしまうような臨場感がある。謎の数々が恐ろしい真実を少しずつ浮かび上がらせてゆく。


No.93 6点 007/ロシアから愛をこめて
イアン・フレミング
(2020/03/11 19:43登録)
他のスパイ小説のような暗さがなく、奇抜な悪役と美女、アクション満載の本シリーズは、男性にとってのロマンス本として楽しめる。今となっては歴史小説さながらのロマンチックさも。ボンドシリーズの中では5作目の本作が最高傑作とみなされている。


No.92 6点 闇という名の娘
ラグナル・ヨナソン
(2020/03/04 20:15登録)
主人公は、定年間近の女性警部フルダ。早期退職を迫られた彼女は、最後の仕事として未解決事件の捜査を始める。
物語の展開がもたらす衝撃もさることながら、読み進めるにつれて浮かび上がるフルダの内面と人生も印象深い。鬱屈とした読後感は決して心地よいものとは言えないが、忘れがたい余韻を残す。


No.91 5点 ヒヒは語らず
アンナ・カロリーナ
(2020/03/04 20:11登録)
スウェーデンの警察小説。薬物とレイプ被害の末に死を選んだ姉。アマンダは彼女の死の真相を探るために刑事になった。上司や元売人に接近してまでアマンダが探り出す事実とは?
女性警官へのセクハラが横行する警察内部の描写、移民たちの組織犯罪と、スウェーデンの社会の一面を生々しく描く。策略渦巻くストーリーも驚きに満ちていて、意外な展開に驚かされる。重く激しい物語。


No.90 5点 サマータイム・ブルース
サラ・パレツキー
(2020/02/26 20:46登録)
移民が作り上げたシカゴという街の闇の部分が興味深く、70年代のアメリカにおける時事問題を反映しているのも面白い。
しかし、最も魅力的なのはヒロインのヴィク。行動もさることながら台詞がタフで、クールでしびれる。


No.89 5点 風の影
カルロス・ルイス・サフォン
(2020/02/21 20:59登録)
一九四五年バルセロナ、もうすぐ十一歳になるダニエルは古書店を営む父親に「忘れられた本の墓場」に連れていかれた。そこでダニエルはカラックスという作家の「風の影」と出会う。その本を読み始めた少年は、物語にすっかり引き込まれ、作品の魔力にとらえられた。
だが、その後に何年かしてダニエルが謎の作家カラックスについて調べようとした途端、不気味な出来事が起こり始めた。何者かがカラックスの正体を秘密にしておきたがっているのだ。やがて、作家の過去とダニエルの現在は奇妙に絡み合い。
謎の迷宮を彷徨うと同時に、過去の波乱万丈の恋物語を堪能し、ダニエル少年の成長も楽しめる、重層的な作品。


No.88 6点 チャイルド・ファインダー 雪の少女
レネ・デンフェルド
(2020/02/16 11:12登録)
自然描写が記憶に残る作品。
行方不明の子供を探す専門家ナオミ。彼女が受けた依頼は、三年前に、わずかな隙に姿を消した少女を探すこと。オレゴン州の山と森で、ナオミは探索を繰り広げる。
捜す者、捕らわれた者、犯人。それぞれの心理が描かれる。ナオミ自身も過去の記憶を失っていて、少女の探索は彼女自身の傷を埋める行為でもある。凄惨になりかねないストーリーを詩的な文章で包んで、読者の心を締め付ける。


No.87 7点 魔道師の月
乾石智子
(2020/02/11 19:23登録)
魔道師二人の物語の間に、タペストリーの物語が挟まった形になっている。
どちらも太古の闇を秘めた(暗樹)と魔術師たちの戦いの物語なのだが、その二つが実にうまく絡み合い、響き合って大きな世界をつくり上げている。そして魔術師たちを取り巻く人々、その人々の生活、食べ物、飲み物(葡萄酒と麦酒)などが驚くほどリアルに描かれ、また魔法の原理がファンタスティックに描かれていく。
作者ならではの独自の世界が説得力をもって迫ってくる。そしてそれを語る文章が見事。まさにファンタジーならではの魅力と楽しさを凝縮したような一冊。

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