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ミステリの祭典

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YMYさんの登録情報
平均点:5.96点 書評数:408件

プロフィール| 書評

No.408 9点 ビロードの悪魔
ジョン・ディクスン・カー
(2026/03/30 21:17登録)
全編に渡り謎と陰謀、恋と冒険、騎士道と義侠、そして華麗なまでの剣戟の乱舞など伝奇小説に欠かせない要素が渾然一体となって波乱万丈のプロットを織り成し、巧みな語り口で酔わせる。特に剣戟場面は迫力満点。
本書中で意外なトリックが仕掛けられているが、それが伝奇小説のプロットや主人公の過去転送というSF的趣向と有機的に結びついているのは見事というほかない。


No.407 6点 心憑かれて
マーガレット・ミラー
(2026/03/30 21:12登録)
主人公のチャーリーは、少女相手の性犯罪の前科があり保護観察中の身だが、小学校の校庭で見かけた少女ジェシーが気になって仕方がない。だが本書は彼の異常心理というよりは、彼と少女を巡る人々の人間関係が主なテーマとなっている。
人間の孤独、それゆえ愛を求めずにいられないが満たされることの少ない人間のありようが描かれ、やりきれないほど重苦しい。


No.406 9点 ナイン・テイラーズ
ドロシー・L・セイヤーズ
(2026/03/15 21:36登録)
全編にわたって厳粛な響きを渡らせる八つの鐘は、主人公ピーター・ウィムジイ卿を凌ぐほどに圧倒的で、不気味な存在感を帯びている。
前半は鳴鐘術に関する難解な記述が多く、多少のとっつきにくさはある。それでも物語が進むにつれ、いつの間にか英国の寒村に広がる古色蒼然とした世界へ引き込まれていく。謎解きばかりでなく、重厚な雰囲気や美しい描写もあわせて楽しめる。


No.405 6点 愚か者の祈り
ヒラリー・ウォー
(2026/03/15 21:31登録)
ニューイングランドの地方都市で、若い女性が顔を潰され、胴体を切り裂かれて公園に打ち捨てられる事件が発生。被害者の身元を探るために、刑事マロイは上司ダナハーを説き伏せ、頭蓋骨に蠟を盛り付けることで復顔を試みる。
まるで捉えどころのなかった事件を仮説、推論、検証を繰り返して、徐々にその輪郭を明らかにしていく過程が読みどころ。抑制の利いたテンポとは裏腹にサスペンスフルに展開するストーリーに目が離せなくなった。


No.404 8点 罪なき血
P・D・ジェイムズ
(2026/02/23 21:14登録)
前半においての謎は、他家の養女となった主人公が実の両親を探し、自分の出世の秘密を探るという形で描かれる。そしてその謎がいったん解決した後、後半は形を変えたもう一つの謎、前半の即物的な謎と違って汎人間的な謎が自然に呈出され、犯行者側の視点からこれを描くクライム・ストーリーもの形式の手法も交えたストーリーがサスペンスたっぷりに展開される。その骨子となる復讐譚はハードボイルドものなら往々に見受けられる類の性質のものである。


No.403 7点 殺人者は21番地に住む
S=A・ステーマン
(2026/02/23 21:08登録)
一九三×年の晩秋から冬にかけてロンドンで頻発する強盗殺人事件。被害者は大部分が男性で手口も撲殺、射殺、刺殺とさまざま。そして犯人はスミスなる名刺を必ず現場に残していく。
短い場面転換の歯切れの良さ、洒落た文章、簡潔でセンスのいい会話などに彩られた極めて上質の推理がサスペンスたっぷりに展開され満足。ラストで思いがけない犯人を明快に指摘するが、その指摘の根拠もユニークかつ納得性に富んでいる。


No.402 7点 推定相続人
ヘンリー・ウエイド
(2026/02/08 21:12登録)
ユースタス・ヘンデルの遠縁にあたるバラディアス男爵家の相続人ハワード・ヘンデルとその息子が水難事故で死亡し、相続権はハワードの弟の退役大尉デヴィッドと病弱な息子デスモンドに移った。彼等も死ねば爵位と莫大な財産が手に入ると認識したユースタスは、殺害計画を練り始める。
犯行動機の形成と実行の過程、その後の状況への対処の模様が全編を通じてユースタスの視点からじっくりと語られる。事態が推移する中で次第に追い詰められていく彼の焦燥不安が強いサスペンスを生み、最後まで緊張の糸を途切れさせない。


No.401 9点 レベッカ
ダフネ・デュ・モーリア
(2026/02/08 21:06登録)
この作品は典型的なミステリではない。物語の大半はロマンスで、ゴシック小説のあらゆる要素が詰まっている。美しい若妻、陰気な年老いた夫、卑しい使用人。そして秘密を閉じ込めた館マンダレイは、荒れ狂う海辺にその姿を見せている。
謎は小説の3/4ほどのところで解明されるが、作者の力はもともとの犯罪の因果関係が明らかになるところで発揮される。殺人が正当化されることはあるのか、という問いや疑問が、この作品の魅力のひとつだろう。


No.400 7点 砂の渦
ジェフリイ・ジェンキンズ
(2026/01/19 21:41登録)
第二次大戦期に優秀な潜水艦艦長だったジェフリーが軍を追放されるに至った顛末が現代の活劇行の間に挿入され、全体の四割とかなりの部分を占めるために、興奮が一度トーンダウンするという瑕疵はあるが、異様な迫力と熱気に満ちた冒険譚は、今読んでも充分面白い。特に砂の渦という大自然の猛威に船と人が立ち向かうシーンは圧巻。


No.399 7点 見知らぬ者の墓
マーガレット・ミラー
(2026/01/19 21:37登録)
若い人妻が見た不思議な夢の話から始まる。海辺の断崖の突端に立つ墓標に、彼女の名前が四年前の日付とともに刻み込まれていたのだ。
人種差別問題に繋がる家庭の悲劇が謎を構成しており、展開の妙と的確な描写力が優れている。謎めいた各章のエピグラフの意味が、最後に判明する仕掛けも巧妙である。


No.398 6点 人類の知らない言葉
エディ・ロブソン
(2026/01/04 21:12登録)
犯人捜しの古典的なプロットを用いた作品である。主人公はテレパシーを用いる異星生命体・ロジ族と地球語の通訳をしている女性。
テレパシーを受けていると、地球人は酩酊に近い状態になる。それで意識を失っている間にくだんの通訳相手が殺されてしまい、主人公に嫌疑かけられてしまう。異種族の接触を描いた作品で、謎を解く鍵が両者の差異の中にあるという展開など、ミステリとSF両ジャンルに目配りした感があって巧い。


No.397 7点 夢果つる街
トレヴェニアン
(2026/01/04 21:07登録)
カナダのモントリオール市の下町ザ・メイン。英系と仏系の移民居住区で、まともな住民は出て行ってしまい、老人や貧民、犯罪者ばかり残る街である。
ここをパトロールする中年のラポワント警部補の物語が淡々と綴られていく。動脈瘤を抱えながら、妻に死なれ子供もない寂しい刑事の犯罪者に厳しく、庶民に優しい日常生活が冬の北国の情景と相まってしみじみとした哀感を誘う。


No.396 7点 予告された殺人の記録
ガブリエル・ガルシア=マルケス
(2025/12/17 21:19登録)
ある田舎町で一人の男が殺される。犯行は町中で予告されていた上、衆人環境の下で実行された。
非日常を日常的に描く、特徴的なマジックリアリズムの要素もありつつ、物語は実際の事件を基にしており、ルポ的に語られる。真相に迫る中で浮かび上がるのは、古い価値観に縛られた共同体の閉鎖性や民衆の複雑な感情。郷愁を帯びた描写は、確かなリアリティーが感じられる。


No.395 6点 緑の家
マリオ・バルガス=リョサ
(2025/12/17 21:15登録)
ペルーの密林地帯と海岸地方の町ピウラを舞台に、砂漠に建てられた伝説的な娼館を巡って、五つのストーリーが交差する。
台詞を起点に時代も場所も全く違うシーンへと切り替えてしまう映像的な手法が非常に効果的に使われている。緻密に計算された構成力もさることながら、現代を生きる都市の住民と石器時代の密林の先住民との物語を語りつつ、ペルーという土地の神秘性や文化の多様さ、そしてそこから生まれいづる社会問題などを描き出す筆力が素晴らしい。


No.394 6点 スネーク・コネクション
ジョン・ラング
(2025/11/29 21:20登録)
主人公のチャールズ・レイノーは、ユカタン半島在住の毒蛇捕獲人。四つのパスポートを駆使して研究機関や動物園に毒蛇を販売するほかに、密輸やさらに危険な仕事にも手を染める彼は、ふとしたことから五十億ドルの遺産を巡る争奪戦に巻き込まれていく。
三人称多視点を頻繁に切り替える構成によって、誰と誰が繋がっているのか、誰が何をしているのかを見えにくくしているところが巧い。嘘と裏切りと謀略。怒りという感情を人為的にコントロールする研究に没頭している科学者という設定は作者ならではで、莫大な遺産の争奪戦とどう絡んでくるのかが読みどころ。


No.393 7点 これよりさき怪物領域
マーガレット・ミラー
(2025/11/29 21:11登録)
メキシコとの国境近くの農場主が姿を消し、雇い人のメキシコ人たちも集団で消えた。食堂には多量の血痕が残されていた。一年後、残された妻は裁判所に夫の死亡認定を求め、関係者の証言から事件の輪郭が浮かび上がってきた。
作者には珍しく、物語の主要部分が法廷で展開される異色作。ある人物が「怪物」に変貌するラストシーンは戦慄的。各人物が見事に描き分けられ、構成も緊密でプロットも様々な人間関係が凝縮されており、引きしまった印象を受ける。


No.392 6点 狼は天使の匂い
デイヴィッド・グーディス
(2025/11/13 21:39登録)
警察に追われ、フィラデルフィアに逃亡してきたハートは、寒さをしのぐためコートを盗む。店から逃げる途中、強盗チームの内輪もめ殺人の現場に立ち会い、一味の一人を負傷させるものの、彼らに捕まえられる。ところが、ボスに度胸と頭を見込まれ、一味に加わる。
犯罪計画そのものよりも、閉鎖的な人間関係に重きを置き、そこでの主人公の心境を丁寧に描いている。アウトローにならざるを得ない人間が、犯罪に手を染めることで破滅していく。本書は二人称を多用し、内面描写が多い。そのあたりに作者の甘さと通俗性がある。


No.391 7点 九尾の猫
エラリイ・クイーン
(2025/11/13 21:33登録)
ニューヨークで発生した連続絞殺魔事件に対し、市はどのように対応するのか、そして大衆はどんな行動をとるのかが物語の中心となっている。
古典的な殺人事件の謎解きというよりも犯人追跡の趣を持った心理ミステリで、精神分析という当時はまだ新しかった分野を積極的に取り入れ、その理論を物語のあちこちに注意深く織り交ぜている。
サスペンス性に富み、多彩なキャラクターとサブプロット、そして結末も素晴らしい。


No.390 5点 ナッシング・マン
キャサリン・ライアン・ハワード
(2025/10/30 21:23登録)
ショッピング・モールで警備員を務めるジム・ドイルは、かつて「ナッシング・マン」と世間で呼ばれた連続殺人鬼だった。警察に捕まらず平穏な日々を過ごしていた彼は、ナッシングマン事件の生き残りである女性が一連の事件を取材した本を出版したことを知り戦々恐々とする。
殺人鬼が自身の犯行を検証する実録本を読む、という何とも奇妙な二重構造が面白い。謎を追うスリルと、読み手の不安を煽るサスペンスに満ちた一冊。


No.389 5点 君のために鐘は鳴る
王元
(2025/10/30 21:16登録)
最愛の妻を喪い、断筆したベストセラー作家が目を開けると、そこは小さな島。桟橋には高速艇から降り立った老若男女の集団が。どうやら一定期間デジタル機器から距離を置き、本来の人間性を取り戻そうという「デジタルデトックス」が目的らしい。会話、接触、読書、メモ、音楽、加えて殺生を厳しく禁じられた環境で生活が始まるが、やがて連続殺人事件が。
クレバーな筆致で予想外の方向から繰り出されるサプライズに、テクノロジーの発達が人類に及ぼす、知性、人格、存在、魂といったものに捉え方の変化について考えずにいられなくなる。

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