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ミステリの祭典

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青い車さんの登録情報
平均点:6.93点 書評数:483件

プロフィール| 書評

No.63 7点 モロッコ水晶の謎
有栖川有栖
(2016/02/05 19:30登録)
このサイトでは評価厳しめですね。僕はどれも安定の面白さで、トータルで見ても水準以上と思うのですが。中篇三作だけでなく、遊び心のあるショートショートが挟まれているのもいい構成です。ただ、やはりがっつりとした長篇を楽しみたいという欲求は解消しきれない、という気持ちも拭えません。
以下、各話の感想です。

①『助教授の身代金』 先日ドラマ版も放送されていました。従来の誘拐ものとは似て非なる二転三転する展開が面白く、登場人物はけして多くないのに意外性もちゃんとあり、快作といっていいと思います。
②『ABCキラー』 もともとはアンソロジー用に書かれた作品。元ネタ作品では大きな鍵になっていた動機がおざなりに処理されているところが気になるものの、サイコキラーものの新たな解として十分楽しめます。
③『推理合戦』 箸休め的な作品ですが、綺麗にオチが決まっていて痛快です。
④『モロッコ水晶の謎』 表題作であるこの作品をどう見るかがこの作品集の評価の大きなポイントでしょう。それまで味わったことのなかったトリックで、拍子抜けと感じる人もいそうですが僕はいい意味で衝撃を受けました。


No.62 8点 名探偵 木更津悠也
麻耶雄嵩
(2016/02/03 22:15登録)
各話の感想です。
①『白幽霊』 ベーシックなフーダニット作品。推理が若干食い足りない感じですが、そつなくまとまっている印象です。
②『禁区』 これは面白い。推理のキレが抜群です。本格ミステリーの世界ではありえないあの存在を推理の核としているあたり一筋縄ではいかない作品でもあります。
③『交換殺人』 交換殺人といえば法月さんが得意とするテーマですが、本作は新たな可能性を切り拓いた作品といえます。
④『時間外返却』 意外な犯人が目を引きますが、しっかりロジカルな推理も両立させた良作です。

全体として表面的な派手さは控えめですが、木更津と香月の関係や独特の不謹慎さがアクセントとなっていて、麻耶さんらしさはちゃんとあります。それでいて論理性もしっかりした作品ばかりで、作者がまっとうなパズラーを書かせても優秀であることを示した短篇集だと思います。


No.61 7点 メルカトルかく語りき
麻耶雄嵩
(2016/02/03 21:28登録)
本格ミステリーらしい極めて論理的な推理を展開しているのに、それらをすべてぶち壊すとんでもない趣向が炸裂しまくる空前絶後の短篇集です。単品で見るとめちゃくちゃなだけに思えますが、これだけ怪作ばかり集まると逆に称賛したくなります。個人的ベストは『答えのない絵本』です。
以下、各話の感想です。
①『死人を起こす』 意表を突いた名推理の楽しめる好篇かと思いきや、ラストのメルカトルの暴挙が凄まじいです。この短篇集らしい幕開け。
②『九州旅行』 美袋のマンションでたまたま殺人が起きていたという設定がご都合主義だという感想をよそで見かけましたが、麻耶さんがやるとなぜか許せてしまえます。しかし、この作品もラストがとんでもないです。
③『収束』 プロローグの謎が魅力的で、身長に関するメルの推理も実に冴えています。ストレートな傑作となる素質のある作品ですが、これは解決できてないですよね…。
④『答えのない絵本』 消去法によるフィルタリングで気持ち良く犯人が絞られていくのが快感です。ロジックの極北を見せられるような作品で、自殺説、事故説、全員犯人説など他の可能性をすべて排除した結果に辿り着いた答が前代未聞。一番の問題作でもあります。
⑤『密室荘』 メルと美袋しかいない状況下で死体が出現…。ショートショートといっていいほどの短さで、端的にこの短篇集の方向性を集約したような締めです。


No.60 8点 スペイン岬の秘密
エラリイ・クイーン
(2016/02/02 23:17登録)
 クイーンのパズラー作りのセンスが行き渡った名作。大きな謎が全体を支えているのは前作『チャイナ』と同じですが、本作はよりロジカルでスマートに処理できている印象です。被害者が多数の女性を弄んでおり動機からは容易に犯人が絞れず、登場人物全員が怪しく思えるところがフーダニット興味を高めている点もうまいです。正々堂々としたヒントの提示にも好感が持て、犯人はもとより犯行経緯まで当てられるようにできています。与えられた条件からその他のあらゆる別解を丁寧に潰し犯人を導き出すエラリーの推理は快感です。
 犯人の隠蔽方法は今やパターン化しているものですが、『スペイン岬』はそのお手本としてもいいのではないでしょうか。


No.59 7点 チャイナ蜜柑の秘密
エラリイ・クイーン
(2016/02/02 22:11登録)
 世評は必ずしもそうではありませんが、案外上質な一作だと思います。犯人の大がかりな細工は過剰気味ですが、あべこべだらけの部屋という謎は実に魅力的ですし、クイーンっぽくない、どちらかと言えばカー的なトリックもユニークで面白いです。それでいて、なぜこんなトリックを用いたのかに関する論理展開は紛れもなくクイーン流であり、トリックをただ思いついたから使ってみた、というような印象は受けません。『ギリシャ棺』『エジプト十字架』で推理の頂点を極めた作者が新境地を開拓した異色の快作と支持したいです。


No.58 7点 シャム双子の秘密
エラリイ・クイーン
(2016/02/02 21:37登録)
 ここまでダイイング・メッセージを謎解きの中心とした長編は少ないでしょう。特筆すべきなのは、二種類のメッセージの真相がストレートなものとは大きく異なるところです。テーマそのものの弱点を突いたようであり、その構図は当時としては新鮮なものであったのではないかと思います。本作はさらにクローズド・サークルというシチュエーションという工夫も見られます。メッセージ絡みにのみ焦点を絞った推理はダイナミックさに欠け、犯人特定のロジックが唐突で浮いてしまっているのは大きな難点です。とはいえ、そこも含め異色の作品として独特の輝きを放っているのも確かで、ファンが多いのも頷けます。


No.57 6点 アメリカ銃の秘密
エラリイ・クイーン
(2016/01/31 23:48登録)
 他の国名シリーズと比べたら一枚落ちる、というのが定説の作品。確かにロデオ・スターがショーの最中で銃殺される、という演出の割には少し冴えない印象です。一番の問題は、これまでは成功していたロジックの緻密さと大胆さの両立が綺麗に決まらなかったところでしょう。細かい推理はそつがないものの、肝となるメイントリックに苦しいところが目立つのは論理性をモットーとするクイーンらしくないマイナスポイントです。個人的に凶器の隠し場所のトリックは面白いと思うのですが、作者にしてはもうひとつの出来という評価は免れないと思います。


No.56 9点 ユダの窓
カーター・ディクスン
(2016/01/31 20:15登録)
トリックだけ取り出せば、あまり感心できるものではありません。この方法でどれだけ確実に相手を殺害できるのかは、大いに疑問。しかし、ストーリーの面白さはディクスン名義では屈指のものです。言い逃れできない状況で恋人の父親殺しの容疑をかけられた男、彼を救うためH・M卿が繰り広げる白熱した法廷シーン、意外な真犯人と動機と、実によく練られた構成です。トリックの弱さを補ってあまりあるストーリー・テリングの巧みさはまさに傑作と呼ぶに相応しいものと思います。また、けして褒めてはいないトリックではありますが、それを暗示するタイトルの付け方はなかなか洒落ています。


No.55 10点 オリエント急行の殺人
アガサ・クリスティー
(2016/01/31 19:03登録)
 私にとってナイルに次ぐナンバー2のクリスティー作品です。この題材ではアンフェアなことがやり放題にも思えますが、ポアロは見事論理的に真相を探り当てています。さまざまな記述が最後になって活きてくる細かい技も作者ならではでしょう。一つ触れておきたいのは、TVドラマ版では本作はかなり後半になって作られたということです。ドラマで最後に見せたポアロの険しい表情は最終作『カーテン』を意識したものであることが見て取れ、そういう意味では制作側は非常に原作を理解していたといえます。


No.54 9点 アクロイド殺し
アガサ・クリスティー
(2016/01/31 18:51登録)
この手のトリックを始めたのがクリスティーかどうかは不明ですが、おそらくもっとも本格的かつ巧妙な使い方を開発したのは彼女が最初だと思います。僕は運悪く犯人を知って読んでしまったため魅力は半減でしたが、伏線を確認しながらの読書も意外と面白いものでした。アンフェア気味な記述に走らず、読者に推理の余地をちゃんと与えているのも好印象で、いかに細心の注意を払って書いてあるかがわかります。ただ、その他のトリックは今読むと古びているところも多いので最高点は控えます。


No.53 8点 八つ墓村
横溝正史
(2016/01/31 18:36登録)
 以前は「他の代表作には今一歩及ばず」だと思っていましたが、最近読み返すと非常に面白く評価を改めました。落ち武者の祟り、村人の大量殺人という恐ろしい物語の背景に加え、次々と起こる殺人の陰惨さといったテイストが上質で、海外古典の焼き直しに見えたトリックも上手く活かしきっています。所謂本格ミステリとしては論理性に甘さがあるかもしれません。しかし、枠組みを外して見れば小説として最上の部類といえる面白さではないでしょうか。


No.52 9点 鍵の掛かった男
有栖川有栖
(2016/01/31 18:12登録)
 以前から有栖川作品は叙情的な文章が同期の作家たちより頭ひとつ上手いと思っていたのですが、本作ではそれが顕著に表れています。被害者や犯人を含めた登場人物全員に温かい目が向けられており、ラスト一行の締め方には心を動かされました。最初の方はあまりパズラー的な趣は強くなく、てっきり後期クイーン的な作品かと思っていましたが、火村が本格的に事件に介入してからは、いつも通りに推理がしっかり楽しめます。シリーズでも高ランクに位置する力作です。


No.51 9点 迷路館の殺人
綾辻行人
(2016/01/31 09:41登録)
あとがきで作者も述べている通り、とことん人工的なミステリー。館の構造からして現実にはありえません。しかしいくつものトリックや、どんでん返しに次ぐどんでん返しを比較的コンパクトにまとめているところは非常に僕好みです。推理小説の老大家の遺産をめぐる競作、その作品通りに次々とおこる殺人というストーリーもケレン味満点で、馬鹿らしく思う人もいそうですがこの過剰な読者サービスがまた魅力でもあります。若き日の作者の気合いが伝わってくるようです。読んでいる間の楽しさは『十角館』以上で、ミステリーにはまり始めたころ読んだ思い出もあり、高く評価します。


No.50 9点 エジプト十字架の秘密
エラリイ・クイーン
(2016/01/30 23:43登録)
 本格ミステリではおなじみのベタなトリックを80年以上前の作品とは思えないほど秀逸に応用しており、ロジックが身上のクイーンらしく首無し殺人を必然性のあるものにしています。ヨードチンキの瓶、海泡石のパイプ、チェッカー駒と印象的な手掛かりがいくつも配置されているのもツボです。さらに、アメリカじゅうを股にかけたエラリーの活躍は他の作品にはない魅力で、クライマックスのスピード感において他とは段違いのエンタメ要素を備えた傑作。


No.49 10点 ギリシャ棺の秘密
エラリイ・クイーン
(2016/01/30 23:19登録)
 完璧な推理機械だったエラリーの失敗を描き、仮説を立てては崩すを繰り返す試みが面白い所です。探偵の推理を先回りするというミステリのタブーに踏み込んだような犯人をいかに追い詰めるかが見もので、その限界を突破したような懐中時計やタイプライターの推理が冴えます。ダ・ヴィンチの幻の作品をめぐる背景もユニークで、500頁を優に超える大著に見合う内容の濃さです。


No.48 9点 オランダ靴の秘密
エラリイ・クイーン
(2016/01/29 23:05登録)
 タイトル通り一足の靴から複数の推理を紡ぎ出し、多彩な物証で推理を構築していった『フランス白粉』と好対照をなしています。特に人間の心理に着目した推論が見事で、冒頭で病院の管理の厳重さをさり気なく描いているところなどさすがです。メイン・トリックが盲点を突いており面白いだけでなく、第二の殺人では堂々と大きなヒントを提示しており、読者に対してフェアでもあります。さらには動機は何か、なぜ二回とも同じ手口で殺したのかなど、極力すべてに合理的説明を付与している傑作。


No.47 8点 フランス白粉の秘密
エラリイ・クイーン
(2016/01/29 20:48登録)
 大型百貨店を舞台に麻薬組織が絡んだ事件に挑むこの『フランス白粉』は『ローマ帽子』の見事な発展形という印象。溢れかえる細かい物証から推理を繋げていく過程は地味ながらミステリ・マニアには堪らないものがあります。「読者への挑戦」の後の解決編にも凄みがあります。ただ一つ、ひたすら手堅い造りだったはずなのに詰めの証拠が完全なハッタリで、冷静に見れば決め手にはなり得ないものなのが惜しいです。


No.46 6点 ローマ帽子の秘密
エラリイ・クイーン
(2016/01/29 20:23登録)
 (長文すぎたレビューを反省し、これからいくつかを修正し再投稿します。)
 記念すべきクイーンのデビュー作。まだまだロジックの精度と大胆さ共に発展途上ですが、劇場公演中の毒殺事件という舞台設定が現代的で好みです。引っかかるのは犯人の意外性についてで、当時ならともかくスレた現在の読者には寧ろ真っ先に疑われてしまう人物に思えます。犯行の流れまでは推理できなくとも勘で犯人だけ当てて詰まらないと言ってしまう人もいるのではないでしょうか。とはいえ、贅肉を削いで謎解きの興味だけで長編を持たせているのはやはり大きな美点です。


No.45 7点 レーン最後の事件
エラリイ・クイーン
(2016/01/29 18:05登録)
XYZはすべてこのラストのためにあったんですね。この手の結末は本作が初体験で、鮮烈な印象だったのを覚えています。ただ、ミステリーらしい事件がなかなか起こらず掴みどころのないストーリーが真ん中あたりまで続くので、最高に面白かったか、というとちょっと疑問。厳しめの7点とします。


No.44 8点 頼子のために
法月綸太郎
(2016/01/29 17:09登録)
父親による娘の復讐を綴った手記から始まる物語の重さは僕の嗜好とは相容れないものなのですが、ほぼノンストップで読めてしまいました。最後の最後で浮かび上がる真相は強烈な後味の悪さを残しますが、不思議とどぎつい理不尽さや悪趣味さを感じさせません。これだけの悲劇を一気読みさせてしまう点で、法月さんの筆力の向上がしっかり実った作例といえそうです。

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