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平均点:6.00点 | 書評数:1859件 |
No.279 | 4点 | けものたちの祝宴 西村京太郎 |
(2010/07/18 23:18登録) 作者の初期~中期頃の作品に時々見かける手の作品。 分類するなら「ピカレスク小説」とでも言えばいいんでしょうか。 会社社長・その愛人・政治家・暴力団という”悪のグループ”に一人の男が挑んでいくわけですが、途中なぜか美女ばかりに出会い、なぜかすぐにベッドイン・・・という展開。 事件の背景とか真相については中途でほとんど察しがつくので、後はひたすら読み進めるのみ。 ハードボイルドというほど劇的な展開があるわけでもないので、ちょっと救いがない感じでしょうか。 |
No.278 | 7点 | 深追い 横山秀夫 |
(2010/07/18 23:05登録) お得意の地方警察署(本作では三ツ鐘署)を舞台にした連作短編集。 ①「深追い」=死者のポケベルにメッセージを送り続ける美貌の未亡人の真意は? なかなか悲しいラストです。 ②「又聞き」=ラストはなかなかいい話に。 ③「引き継ぎ」=個人的には本作のベスト。「トニーの店」のネーミングセンスが笑えます。 ④「訳あり」=これもラストがいい。サラリーマンとしては是非こうありたいと思わせます。 ⑤「締め出し」=ある老人の”独り言”に驚愕! ⑥「仕返し」=これも面白い。ラストの捻りも見事。 他1編の全7編。 相変わらずの安定感。どの作品も「起承転結」が効いていて、読み手を作品世界に引き込みます。 登場人物が実に人間臭いのも魅力なのでしょう。 |
No.277 | 5点 | 確率2/2の死 島田荘司 |
(2010/07/18 22:52登録) 吉敷刑事シリーズ。 「分数」シリーズでは最後の作品。 奇妙な誘拐事件と、ある主婦が夫の行動に不審を抱くシーンが交互に書かれ、この2つがどう繋がっていくのかが読み手の考え所となります。 ただ、作品の「深み」はあまり感じられませんねぇ・・・ たまたま、いま巷の話題を独占している”野球○○”が本作品のプロットのベースになっていて、読んでいくうちに「○○親方もこんな気持ちだったのか?」なんてことも想像させられて、そっちの方の感想がメインになってしまいました。 ラストもなんだか陳腐ですね。安手の2時間サスペンスみたいです。 |
No.276 | 6点 | まだらの蛇の殺人 阿井渉介 |
(2010/07/15 23:10登録) 「列車シリーズ」終結に続く「警視庁捜査一課シリーズ」の第1作目。 飲んだくれだが鋭い捜査勘を持つ菱谷警部補と若手有望株、堀警部補のコンビが難事件に挑む・・・という展開。 今回は、タイトルからも分かるとおり、かの名作「まだらの紐」を彷彿させる事件がある大富豪の一家に発生します。 なぜか、死因は沖縄に住む「エラブウミヘビの毒」(ハブ毒の数十倍の毒だそうです)・・・犯人はどうやって海ヘビを被害者に噛み付かせることができたのかが大きな謎になります。 実は、トリック自体はそれほどたいしたことはないのですが、事件の裏側にある大富豪一家のある企みがラストで明らかになり、そちらの方に魅力を感じました。 評価はちょっと辛めかな。 |
No.275 | 8点 | 殺意 フランシス・アイルズ |
(2010/07/15 22:58登録) 「クロイドン発12時30分」、「伯母殺人事件」と並ぶ世界三大倒叙作品の1つ。 作者はアントニー・バークリーの変名です。 まずは、さすが「冠」に違わぬ名作という感想です。主人公の殺人に至る心理、心の動きがこちらに痛いほど伝わってきます。 前半は、殺人までの経緯が結構な長さで語られるため、ちょっと冗長な感じを受けますが、主人公が殺人を決意してからは一転、頁をめくる手が止まらなくなりました。 しかし、主人公ビクリー博士のキャラはよくできてますねぇ・・・とてもひと昔前の異国の人物とは思えません。ズルズルと犯罪に手を染めてしまう弱い性格が心に深くしみ込みました。 ラストの1頁も捻りが効いてます。 |
No.274 | 7点 | 最終退行 池井戸潤 |
(2010/07/15 22:47登録) ”ザ・池井戸潤”とでもいうべき作品。 冷酷な銀行本部エリート対叩き上げの支店行員・・・という氏の王道パターンです。 本作品では、そこに戦後の「M資金」にまつわる疑惑を絡め、2つの事件が有機的に絡み合うことになります。 ラストはいつものとおり「勧善懲悪」的痛快な結末が用意されていて、小市民の読者にとっては溜飲を下げる思いですね。 やっぱり、経済関係のストーリーは他の作家よりも数段グレードが高い気がしますし、読んでいて引き込まれます。 さらに今回は痛快度が高かったため高評価としました。 |
No.273 | 6点 | 偽りの墳墓 鮎川哲也 |
(2010/07/10 21:53登録) 鬼貫警部シリーズ。 もともとは短編だったのを加筆修正した作品。(鮎川氏にはお馴染みのパターンらしいですが・・・) 2つの殺人事件(?)が出てきますが、最初の事件の方は、ある「病気」との絡みの中であっさり解決。 問題は第2の殺人の方に・・・ということで、いつもの「アリバイトリック」の登場となります。 今回はいつものようにストレートな「時刻表トリック」ではなく、まさに捜査者(=読者)をミスリードすることで成立する種類のトリック・・・ 人間ではなく、○○○の移動を欺瞞させる手口はなかなか鮮やかと言えるかもしれません。 ただ、何となくストーリー自体の盛り上げ方が今ひとつのような気がして(犯人があまりに自明)、この程度の評価になりました。 |
No.272 | 6点 | 名残り火―てのひらの闇Ⅱ 藤原伊織 |
(2010/07/10 21:41登録) 早逝した作者最後の作品。(本作品連載中に亡くなられたようです) タイトルどおり、「てのひらの闇」の続編として、前作の3年後が舞台となっています。 親友、柿島の死に疑問を抱いた主人公、堀江が前歴を生かして謎を追及するという展開は前作をほぼ踏襲していて、共通する登場人物も結構出てきます。 大手コンビニ事業会社とFC加盟店との間の契約問題云々が事件の背景となっていますが、ちょっと薄っぺらというかもう少し「ほーお」というような薀蓄が欲しいなぁという感じはしました。(新聞記事程度のような雰囲気だったので・・・) 真相までの捻りもやや物足りない気がしたので、トータルでは前作よりやや落ちるかなぁという評価です。 |
No.271 | 4点 | 耳なし芳一からの手紙 内田康夫 |
(2010/07/07 21:21登録) 浅見光彦シリーズ。 今回の旅情の舞台は山口県下関市。 源平の合戦から明治維新まで、下関絡みの歴史のお勉強にはなりそうです。(「七卿」は不覚にも知りませんでした) ただ、何とかなりませんかねぇ、浅見光彦というキャラは・・・特に本作品は、なぜか地の文もちょっと若者を意識したかのような軽いタッチにしており、気持ち悪い読み心地でした。 動機や事件の背景はなかなか重いテーマなので、そこが唯一の救いでしょうか。 |
No.270 | 8点 | 寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁 島田荘司 |
(2010/07/07 21:04登録) 記念すべき、吉敷刑事(当時)シリーズの第1作。 本作品は一見すると、当時大流行のトラベルミステリー的な内容ですが、「不可能状況」という要素を前面に出した本格推理小説です。 御手洗シリーズと比べて「地味」という形容詞で語られることの多いシリーズですが、決してそんなことはありません。 死んでいたはずの時間に寝台特急「はやぶさ」で何人もの人間に見られた被害者・・・この謎を追及する吉敷刑事に天啓が! 「騙し絵のように事件をひっくり返される快感」はやはり島田氏の良作ならではと言えるでしょう。 また、本作品では中村刑事(江戸に詳しい)や牛越刑事といったお馴染みのキャラも登場し、そういう意味でもファン心を満たしてくれる作品です。 |
No.269 | 4点 | 海のある奈良に死す 有栖川有栖 |
(2010/07/07 20:52登録) 火村助教授&アリスシリーズ。 正直言って、学生アリスシリーズと本シリーズとではクオリティに差がありすぎる気がしてなりません。(今さらではありますが・・・) 講談社の火村シリーズもイマイチですが、角川で出した数編はさらに面白くない気が・・・ 「海のある奈良」とは、一般的には福井県小浜市のことですが、実は・・・というのが本作品のキーになっています。途中、2人が「ああでもない、こうでもない」と行ったり来たりするわけですが、結局あまり盛り上がらぬまま終局へという流れです。 |
No.268 | 6点 | 果断 今野敏 |
(2010/07/05 00:21登録) 日本推理協会賞&山本周五郎賞のW受賞作。 世間的にも評価の高い作品です。 キャリア警察官僚の主人公、竜崎の心理描写や大森署をはじめとする警察機構での対立や人間模様については、確かによく描きこめてますし、良質の警察小説の”匂い”を感じます。 ただ、本筋であるはずの立てこもり事件そのものの謎がちょっと陳腐すぎるのが玉に瑕ですねぇ・・・ 事件のからくりが単純すぎるので、ミステリーとしては世間ほどの評価をしにくいというのが本音です。 あと、本筋とは全然関係ないですが、前半部分で竜崎がPTAや教師連中に言う言葉があまりにも正鵠をついていて、非常にすっきりさせられました。 |
No.267 | 7点 | フランス白粉の秘密 エラリイ・クイーン |
(2010/07/05 00:12登録) 国名シリーズの第2弾。 舞台はNY繁華街の老舗デパートのショーウィンドウ。 と、なかなか派手な舞台が用意されますが、エラリーの捜査は割合オーソドックスなものです。 本作品の白眉は、殺人現場に残された数々の意味ありげな”証拠品”を、エラリーがいかに推理していくかというところでしょうか。 エラリーの「演繹的推理手法」により、証拠品が1つ1つ検討され、条件を満たす人物が最終的に真犯人として指名される最終章は、「やっぱりクイーン!」と唸らされるものがあります。 難を言えば、やっぱり「動機」ですかねぇ・・・ 作品の途中で、エラリー自身も「この犯罪については動機を重要視していない」というような発言をしていますが、真犯人と動機を結びつける”線”が弱すぎる気がして、消去法ではそうだとしても、読了後なんかモヤモヤ感が残ってしまいました。 ただ、良作には間違いないと思います。 |
No.266 | 6点 | 家守 歌野晶午 |
(2010/07/01 22:23登録) 「家」をテーマに置いた短編集。 相変わらず短編はうまいし、冴えてます。 ①「人形師の家で」=2つの一見関係ない話が交わったとき、過去の意外な事件が明らかに・・・なかなか面白い ②「家守」=一種の密室もの。過去の誘拐事件については最初から察しがつきますけど・・・ ③「埴生の家」=個人的には本作中ベスト。分かってしまえば単純なんですけど・・・ ④「鄙」=タイトルの意味がよく分かりませんでした。話自体は地味。 ⑤「転居先不明」=特に捻った作品ではありませんが、何となく後味の悪さを感じます。 以上5編。 ということで、トータルでは水準級といったレベルでしょうか。 |
No.265 | 8点 | 首無の如き祟るもの 三津田信三 |
(2010/07/01 22:10登録) 刀城言耶シリーズ。 力作ですね。 1頁目からラストまで、作者の”仕掛け”が施されており、作家としてのレベルの高さを十二分に窺わせます。 「首切り」の理由が作品中を貫くメインテーマとなりますが、媛首山での男女首無殺人の「からくり」は見事というほかありません。(久しぶりに読んでてゾクッとしました) この「からくり」を成立させるための「秘守家の秘密」であり、中途での蘭子や毬子の登場である訳ですよね・・・よく練られていると思います。 ただ、刀城言耶いうところの「(隠された)たった一つの事実」は微妙ですねぇ・・・確かにこれを成立させるための最低条件としての”時代設定”であり”隔絶された土地の隔絶された一家”なんでしょうし、伏線が張ってあるじゃないかといわれればその通りなのですが、結構乱暴な設定かなぁという思いもしました。 その点だけを割引ましたが、本格推理小説を堪能できる作品なのは間違いないでしょう。 |
No.264 | 4点 | 京都着19時12分の死者 津村秀介 |
(2010/07/01 21:33登録) 「ルポライター浦上伸介モノ」ではなく、京都府警の刑事を探偵役に据えた作品。 ひとことで言うなら、「ザ・トラベルミステリー」とでも書評すればいいでしょうか、とにかくこの頃全盛期ともいえる、アリバイ崩しを主眼にした典型的トラベルミステリーです。 メインの京都~甲府間のアリバイトリックについては、最終的に○○の存在に気付いただけという驚愕の内容!(サブの写真を使ったトリックもなかなかシュールです) 真犯人については、途中で100%察しがつきますが、「ドンデン返し」があるのか?と構えていると、そのまま「やっぱりこいつが犯人でした・・・」ということで終わってしまいます。 まぁ、さらっと読むにはちょうどいい作品かもしれませんが・・・ |
No.263 | 5点 | 暗闇の教室 折原一 |
(2010/06/27 22:33登録) 前作「沈黙の教室」に続く”ダークサスペンス”シリーズ。(作者がそう言ってます) 叙述系の技巧がこれでもか!というくらい盛り込まれており、「ごった煮」のような作品になってます。 それがうまく回収できていれば救われるのですが、何が何だかよく分からないうちに収束するという事態に!(氏の作品ではよくあるパターンですが・・・) まぁ、いくらなんでもあれだけの計画的犯罪というか”仕掛け”を施した犯人が「あいつとあいつ」というのは無理がありすぎるような気がしてなりません。(能力的に) 少なくとも「沈黙の教室」のようにまあまあ納得性のあるラストがなければ、これだけの超長編を読むのは「ツライ」の一言ではないかと・・・ それでも決して嫌いではないので、この程度の評点に。 |
No.262 | 6点 | 踊る手なが猿 島田荘司 |
(2010/06/27 22:23登録) 光文社の短編集第3弾。 4編中2編は吉敷刑事(当時)が登場しますが、主役的扱いではありません。 ①「踊る手なが猿」=着眼点が光る秀作。確かに当時ならそうだった・・・今は結構変わってますが(何が?) ②「Y字路」=1作目と同じく「結婚したい年頃女性」が事件に巻き込まれます。現場の見取図がさも重要そうに示されてますが、そんなにトリッキーな話ではありません。 ③「赤と白の殺意」=記憶の底に眠っていた過去の記憶が蘇って・・・よくある趣向です。 ④「暗闇団子」=作者の作品中の随所に出てくる”江戸はよかった”的趣旨の短編。好みではない。 という訳で、なかなか味わいのある4編ではありますが、全体的なレベルは平均点という感じでしょうか。 |
No.261 | 8点 | 6時間後に君は死ぬ 高野和明 |
(2010/06/25 23:12登録) 他人の悪い未来(作中ではビジョンと言ってます)が見える男、山葉圭史をシリーズキャラクターとする連作短編集。 作者らしいスピード感のある展開で、面白く読ませていただきました。 ①「6時間後に君は死ぬ」: 既視感がなくはないですが、ラストのドンデン返しが見事に嵌まってます。 ②「時の魔法使い」: ファンタジー映画のようなテイスト。 ③「恋をしてはいけない日」: よくできてます。1編の映画のような味わい・・・ ④「ドールハウスのダンサー」: 個人的にはベスト。謎は結局明かされてはいませんが・・・ ⑤「3時間後に僕は死ぬ」: 圭史に死のビジョンが! ラストはきれいにまとめました。 全体的には小説というよりも、よくできた映画の脚本のような作品。ミステリー的要素は少ないですが、読後感が非常に良いです。 |
No.260 | 8点 | 亜愛一郎の狼狽 泡坂妻夫 |
(2010/06/25 22:59登録) 二枚目だけどドジ、どこか憎めない探偵、亜愛一郎シリーズの第1作目。 作者らしい独特の切り口で、キラ星のような短編が並びます。 ①「DL2号機事件」: 記念すべき作者のデビュー作。目の付け所が違いますが、そんな人いるかなぁ? ②「右腕山上空」: 一種の空中密室を扱った作品。名作。 ③「曲った部屋」: ラストのまとめ方が見事。ロジックが冴えてます。 ④「掌上の黄金仮面」: いいですね。短編らしい作品。 ⑤「掘り出された童話」: 暗号もの。暗号の手法自体はオーソドックスなものですが、十分楽しめます。 ⑥「ホロボの神」: 設定が独特。好きです。 他2編。 遊び心十分な作者の筆力に対して素直に敬意を評します。 |