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ミステリの祭典

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E-BANKERさんの登録情報
平均点:6.00点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.308 7点 一の悲劇
法月綸太郎
(2010/08/31 22:44登録)
法月綸太郎シリーズ。
「二の悲劇」とのセット作品ですが、物語のラストに「一」の本当の意味が分かる仕掛け・・・(その辺り、本家の「XYZ」を意識してるんですね)
本作、特に中盤以降は「ミスリード」の連続で読者を欺き続けます。そして、裏の裏が真相かと思いきや、さらなる仕掛けが炸裂!
というわけで、なかなか痺れるプロットですし、他作品のようないらないサイドストーリーや回り道がない点でも良作といえるでしょう。
ただ、「あとがき」で作者が触れているとおり、先行作品の影響をまあまあ受けている部分でやや割引。
余談ですが、本作のリンタローはなかなかカッコいいですね。


No.307 6点 三毛猫ホームズの推理
赤川次郎
(2010/08/31 22:32登録)
当時、一世を風靡した「三毛猫ホームズ」シリーズの記念すべき第1弾。
堅牢な「密室殺人」や複数の犯罪が絡む多重構造の事件など、ミステリーの要素をバラエティ豊かに詰め込んだなかなかの野心作だと思います。
ただし、文体は軽いタッチで読みやすく、頁をめくる手が止まらなくなるなど、さすが一時代を築いた作家だけはあります。
密室トリックはたいしたことはありませんが、ラストは畳み込むようなサプライズの連続・・・ということで普通ならもっと高得点なのでしょうが、ちょっとやりすぎのような気がして、若干引いてしまいました。
でも、ホームズのキャラはいいですねぇ・・・こんなに愛すべきキャラはなかなかいません。


No.306 8点 桜宵
北森鴻
(2010/08/31 22:21登録)
ビア・バー「香菜里屋」シリーズの短編集第2弾。
どれも余韻の残る珠玉の作品集になっています。
①「十五周年」=正直、そんな理由でそこまでするか?という気にはさせられます。
②「桜宵」=表題作に相応しい美しい作品。「御衣黄」という名の珍しい桜がミステリーに華を添えます。
③「犬のお告げ」=なんかありそうでなさそうな、なさそうでありそうな話。”リストラ”が絡むと無条件に切ない話になりますね。
④「旅人の真実」=マスター工藤の親友(?)が登場。
⑤「約束」=工藤が初の地方出張(?)。女って嫌だねぇ・・・と思わずにはいられません。
以上5編。
前作「花の下にて春死なむ」を凌駕する一作。作者にしか書けない独特の作風が光ります。
それにしても、近くに「香菜里屋」があったら、絶対通うなぁ・・・(誰もがそう思うでしょうけど)


No.305 6点 五匹の子豚
アガサ・クリスティー
(2010/08/28 00:07登録)
ポワロ物の一作。
英国の童謡(?)「五匹の子豚」になぞらえた五人の容疑者が登場、ポワロが16年前の殺人事件の真相に迫ります。
5人の容疑者との面談内容や、それぞれに書かせた手紙を順に読ませていく展開に終始していて、確かにこの作品はかなり地味な部類に入るでしょう。
「最も犯人らしいと思わせた部分が実は犯人ではない最大の証拠である」というからくりがラストで示され、その点思わず唸らされます。
ただ、普通に読むとどうしても平板な感じがして、もう少しドラマティックな展開があってもいいなぁという感想になってしまいますねぇ・・・


No.304 7点 七つの棺
折原一
(2010/08/27 23:54登録)
作者のデビュー作「五つの棺」に2編を加えて、再編集した短編集。
黒星警部-竹内刑事の迷コンビシリーズ。
作品の多くは過去の密室物名作のパロディになってます。
①「密室の王者」=ノックス「密室の行者」のオマージュ。ひじょうーにくだらない真相。
②「ディクスン・カーを読んだ男たち」=ラスト、3人の登場人物の独白が面白い。ただ、プロバビリテイすぎる!
③「懐かしい密室」=密室での死体出現を扱ってますが、この「ユダの窓」はあまりに安易。普通気付くだろう!
④「脇本陣殺人事件」=当然あの作品のパロディ。4本指の男も出てきます。真相は肩透かし。
⑤「天外消失事件」=かなり強引だと思うが、プロットは結構好き。
他2編。
辛目の書評を書いてますが、全体的には作者の遊び心が前面に出た異色の短編集といったテイストで割りと気に入ってます。


No.303 6点 翳りゆく夏
赤井三尋
(2010/08/27 23:30登録)
第49回江戸川乱歩賞受賞作。
過去の乳児誘拐事件を巡って、大手新聞社の窓際社員梶(カジ。名は不明)が意外な真相を突き止めるというストーリー。
探偵役のキャラや謎の提示、ラストの意外な展開など、いかにも「この賞の受賞作」という設定や匂いがプンプンしていて、それはそれでまぁいいんですが、最初から「いかにも意外な真犯人役」にピッタリな人物が出てきており、「もしかしてコイツが?」と考えつつ読んでいると、「やっぱりなぁ・・・」というラストを迎えてしまいます。
その分どうしても評価を割り引いてしまうんですが、リーダビリティは感じますし、デビュー作としては十分及第点でしょう。
マスコミ出身者らしく、その辺りの描写にもリアリティを感じさせられます。


No.302 5点 変調二人羽織
連城三紀彦
(2010/08/22 21:51登録)
「幻影城」発表作品を中心とした短編集。
文学的にも味わい深い作品となっています。
①「変調二人羽織」=ひっくり返しの連続で騙し絵のような作品。刑事二人が手紙のやり取りで事件を解くというのも変わってます。真相は肩透かし。
②「ある東京の扉」=一応アリバイトリックものですかねぇ・・・結局、何がどうしてどうなったか判然とせず。
③「六花の印」=時代を異にする2つの事件を並列進行させつつ、最後に交わらせる手法。なかなか鮮やかではあります。
④「メビウスの環」=面白い趣向かもしれませんが・・・なんかモヤモヤ感が残ってしまう。
⑤「依子の日記」=「日記」といえば当然なかに仕掛けがある、というのが常道ですが・・・やはり大きな仕掛けがありました。そうきましたか。
作品のレベルは十分な高さなのですが、どうも個人的な好みからはずれていて、短い作品なのに妙に読みにくさを感じてしまいました。その分辛い評価に・・・


No.301 6点 漱石と倫敦ミイラ殺人事件
島田荘司
(2010/08/22 21:39登録)
ロンドン留学中の夏目漱石が名探偵S.ホームズと出会ったら・・・というありそうで絶対にありえない設定で書かれた初期作品。
久々に総ルビ版で再読。
解決場面で真犯人を一網打尽にするシーンなどは、ホームズ物の”香り”をよく出していて「ニヤリ」とさせられます。
密室やミイラに関するトリックそのものは大したことはないですが、全体的はよくできている作品でしょう。
ワトスン視点の部分は全く問題ないのですが、漱石視点の部分はシャーロキアンにとっては許せないんじゃないかと思わず心配になりますが・・・
あと、ラストの島田氏の年表(出生から出版年までの)はファンにとっては非常に興味深くてよかった。(若い頃、様々な経験をしてるんですねぇ・・・)


No.300 7点 そして誰もいなくなった
アガサ・クリスティー
(2010/08/21 00:04登録)
300冊目の書評は歴史的なこの名作で。
今さら私ごときが書評するのもおこがましい限りです。
細かい部分はさておいて、やはり「孤島」というジャンル(?)を確立した意義は特大。
地元の童謡になぞらえて、次々と殺されていく招待客。殺人とともに1つずつ減っていくインディアン人形・・・こういう道具立てだけでもミステリー好きの心を痛いほどくすぐってくれます。
評点としてはやや辛いのかもしれませんが、やはり現代の成熟した同系統ミステリーと比較した場合、サプライズの大きさでやや劣るかなぁという部分で・・・
あと、動機も(10人殺すにしては・・・)


No.299 8点 真相
横山秀夫
(2010/08/20 23:53登録)
警察署を舞台としていない短編集。
相変わらず安定感たっぷり。どの収録作も高レベル&深い余韻を残すこと間違いなしです。
①「真相」=若くして殺された最愛の息子。しかし、信頼していた息子には秘密が・・・。ラストはなかなか深い。
②「18番ホール」=個人的には本作ベスト。1人の小役人が徐々に狂気に支配されていく様子が鬼気迫ります。
③「不眠」=リストラ社員の悲哀が身に染みます。男が職を失くすってたいへんなことなんですね・・・
④「花輪の海」=こちらも悲しい中年男性(複数)の話。身に染みます(パート2)。
⑤「他人の家」=ラストが結構ブラック。予想はつきますけど・・・
とにかくうまい。ハズレのない横山短編を堪能できます。


No.298 7点 白く長い廊下
川田弥一郎
(2010/08/20 23:42登録)
第38回江戸川乱歩賞受賞作。
この頃としてはレベルの高い医療ミステリーで、作者も海堂尊氏同様、現役の医者兼作家でした。
無実の罪を着せられた主人公が、医療事故に巧妙に偽装された殺人事件の謎を解くというストーリーで、まぁ医療ミステリーの王道と言えるでしょう。
という訳で、それほどのサプライズは感じないのですが、処女作としては十分に高レベル。医者のくせに不器用で真っ正直な主人公にも共感を覚えます。
ついでに「点滴」の仕組みにも詳しくなりました。(途中で図解入りで解説しています)


No.297 7点 スイス時計の謎
有栖川有栖
(2010/08/14 23:39登録)
火村&アリスの国名シリーズ短編集。
国名シリーズではNO.1という世間的評価ですが・・・
①「あるYの悲劇」=ダイイングメッセージもの。同じアンソロジーでの法月氏の作品が思い浮かびますが、法月作品よりも数段落ちる印象。
②「女彫刻家の首」=同じく法月氏の「生首に聞いてみろ」が思い浮かぶ趣向。こちらも数段落ちる。
③「シャイロックの密室」=倒叙形式。うーん、まぁ普通。
④「スイス時計の謎」=クイーンばりのロジック大爆発の作品。巻末のあとがきでも書いてますが、まさにドストレートな本格推理小説でしょう。短編集の中の1編なのがもったいない気がしてなりません。(その分、無駄な表現が削ぎ落とされてるのかもしれませんけど)
というわけで、他の書評者の方と同様、極論すれば表題作だけ読めればいいかなということで・・・


No.296 5点 レーン最後の事件
エラリイ・クイーン
(2010/08/14 23:28登録)
ドルリーレーン4部作の最終作品。
まさにシリーズの終焉にふさわしいラストが用意されています。
本作は、殺人事件ではなく(死体は出てきますが)、シェークスピア作品の盗難事件がメインとなり展開されますが、冒頭から謎の人物が複数登場し、それがいったい誰なのか?というところに読み手の興味が集中していきます。
レーンの推理は今回も見事なロジック。
特に、謎の人物を特定する手掛かり(特徴)として出てくる○○は、本邦の古典作品でも多用されます。
ラストは名優レーンらしくスマートですが、何とも言えない悲哀を感じさせるシーン・・・
とまぁ、作品としての水準の高さは感じるのですが、ミステリーとしての評価は、やっぱりXYZの悲劇よりも辛めになってしまいますよねぇ。


No.295 7点 亜愛一郎の転倒
泡坂妻夫
(2010/08/14 23:11登録)
憎めない迷(?)探偵、亜愛一郎シリーズの第2弾。
相変わらず独特の切り口で不思議な事件を解き明かしていきます。
①「藁の猫」=短編らしいプロット。真相は「そこまでするか?」ですが、まぁ芸術家だからしようがないでしょう。
②「砂蛾家の消失」=個人的には本作中ベスト。家1軒が一晩で消える謎に挑みます。
③「意外な遺骸」=一見すると「童謡殺人」ですが・・・真相は意外と・・・
④「ねじれた帽子」=ホームズ物やブラウン神父物の香りがプンプン。真相はちょっと強引。
⑤「三郎町路上」=こちらは死体消失という大掛かりな謎に挑戦。トリックは結構薄味ですが、プロットは秀逸。
他3編の全8編。
高レベルな短編集ですが、「・・・狼狽」よりは若干落ちるような気がします。


No.294 7点 白い家の殺人
歌野晶午
(2010/08/07 23:07登録)
「長い家の殺人」に続く信濃・市ノ瀬コンビの第2弾。
新装版で久々に再読しました。
巻末の解説で笠井潔氏が言及してますが、「実直すぎるくらい実直すぎる本格推理小説」というのがまさにピッタリ。
この時代の新本格作家が志向したのは、まさにこういう作品だったはずです。
ただ、「密室」の取り扱いについては、作者らしい変格を混ぜてあるのが好感を持てますし、動機についても何とかそれらしいものを!という作者の意気込みを感じさせます。
確かに、中途半端なトリックや本筋に全く関係ないゾロアスター教の話など、「若いなぁ・・・」という突っ込みどころは数々あるのですが、何となく許せてしまう・・・そんな作品ですね。
氏自身の「新装版にあたって」(巻頭)のことばもなかなか・・・


No.293 6点 ラットマン
道尾秀介
(2010/08/07 22:50登録)
文庫化によりやっと読破。
期待十分、読むのを楽しみにしていた作品ですが・・・
まずは、思ってた以上に真っ当な「ミステリー」(作者にしては)でしたねぇー。
確かに小説あるいは読み物としてはよくできてますし、「さすが売れてる作家は違う!」ということには違いないでしょう。
ただ、ミスリードのやり方やプロットとしては、ちょっとストレート過ぎる気がしますし、サプライズの大きさは中程度という感じでしょうか。
「動機」も今イチかなぁー。
まぁ、期待の大きさの裏返しということで、評価は辛めかもしれませんが、一読には十分値する作品だとは思います。


No.292 7点 夢の島
大沢在昌
(2010/08/05 22:27登録)
シリーズ外の巻き込まれ型サスペンス。
作者お得意のプロットだと思います。
母と離婚後、音信普通だった父の死、そして父が残した1枚の書きかけの島の絵・・・その「絵」をきっかけに主人公が”嵐”に巻き込まれるーという展開。
「島」の秘密が本作を貫く謎になるわけですが、ヒントが結構多いため、途中で完全に察してしまいます。
その点は割引ですが、最後のサプライズはなかなか良かった・・・
「男のロマン」、「男で良かったぁー」と感じさせてくれる1作。


No.291 5点 日本ダービー殺人事件
西村京太郎
(2010/08/05 22:17登録)
十津川警部が探偵役の初期作品。
ダービーまで無傷の連勝街道を驀進していた1頭のサラブレットをめぐって、八百長疑惑と連続殺人事件が発生、2人の競馬新聞記者と十津川が巻き込まれていきます。
肝心の殺人事件の方は感心できませんねぇ・・・
ラストにひっくり返されるのはまぁいいとしても、真犯人がいかにも唐突すぎて、何の伏線も感じませんでした。(実際ない)
競馬界の体質云々や騎手・馬主の薀蓄なんかは面白く読ませてもらいました。かれこれ30年も前の作品ですが、競馬界はあまり変わってないような気がします。
(余談ですが)1番感動したダービーは、サニーブライアンが勝ったダービーですかねぇー。皐月賞を勝ってもフロック視され、人気薄で挑んだダービーで見事に優勝し二冠馬! 「見たか!」といわんばかりに手を上げた大西騎手の姿に何だか泣けてきたのを思い出します。(普段は地味な騎手でしたから・・・)


No.290 8点 皇帝のかぎ煙草入れ
ジョン・ディクスン・カー
(2010/08/05 22:03登録)
カーの作品でも1,2を争う名作(との評判)。
この名作を今さらながら初読しました。
いやぁ、「見事なプロットでした」というのが感想です。
分かってみると、そんなに複雑ではないプロットなんですよねぇ・・・(婚約者の動きが突飛だっただけで)
他の方の書評どおり、「かぎ煙草入れ」が大いなる欺瞞の象徴なので、これに気付くか騙されるかで、最後のサプライズの大きさも違ってくるかもしれません。
全体的にコンパクトにまとまっていて、まったく冗長さのないところも高評価です。
ただ、キンロス博士のキャラがやや薄いような気がしますけど・・・
まずは、「名作」という評価でよろしいかと思います。


No.289 5点 ら抜き言葉殺人事件
島田荘司
(2010/08/01 15:33登録)
吉敷刑事シリーズ。
シリーズ中では、「幽体離脱殺人事件」と並ぶ小品。
本作はタイトルどおり、「ら抜き言葉」を中心に島田氏得意の日本人論を絡ませ、ラストは一応のどんでん返し・・・という展開。
ミステリーというよりは、何となく「エッセー」のような感じもします。
結局、「ら抜き言葉」については、島田氏は絶対反対なのかそれほどでもないのか、よく分かりませんけど、被害者の笹森某が「ら抜き言葉」に病的に拘った理由が「それが女性心理・・・」ということで片付けているのもどうかなぁーと思ってしまいます。
「奇想、天を動かす」以降、吉敷の行動がどんどんストイックになっていきますが、本作もそれがよく出ていて、なかなか興味深いですね。

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