home

ミステリの祭典

login
E-BANKERさんの登録情報
平均点:6.00点 書評数:1836件

プロフィール| 書評

No.756 6点 タイトルマッチ
岡嶋二人
(2012/09/21 22:02登録)
1984年発表の作者4作目の長編。
「人さらいの岡嶋」の異名どおり、本作も奇妙な「誘拐事件」についての謎。

~元世界ジュニア・ウェルター級のチャンピオン・最上永吉の息子が誘拐された。彼を破ったジャクソンに義弟・琴川三郎が挑むタイトルマッチ二日前の出来事だった。犯人の要求は、“相手をノックアウトで倒せ。さもなくば子供の命はない・・・”。犯人の狙いは何か? 意想外の脅迫に翻弄される捜査陣。ラストまで一気のノンストップ長編推理~

プロットは面白いが、やや腰砕け気味。
「犯人の要求の意外さ(金ではない)」が本作の肝だろうなという想定で読み始めたのだが、これに対する解答は割と早い段階であっさり明らかになってしまう。
フーダニットについてもなぁ・・・ダミーの犯人をちょっと引っ張りすぎだし、真犯人に意外感はない。

まぁ、本作はそういった「謎解き」要素よりは、リミットである二日間で子供が見つからず、意に沿わないタイトルマッチに挑まざるを得なくなった最上や彼を取り巻く人物をめぐるサスぺンスとして捉えた方が楽しめる。
特に、終盤はタイトルマッチと誘拐犯を徐々に追い詰める捜査陣の姿が交互に描かれ、緊張感のある展開で非常に良い。
(ボクシングの描写が秀逸!)

作者の「誘拐もの」は結構読んだが、本作はちょうど真ん中くらいの出来かな。
(個人的には「どんなに上手に隠れても」がベストだろうと思っているのだが・・・)


No.755 6点 怪盗紳士ルパン
モーリス・ルブラン
(2012/09/21 21:59登録)
世界に冠たる大泥棒(怪盗という方がカッコイイかな)アルセーヌ・ルパンを世に生み出した第一作品集。
今回は創元文庫版にて読了。

①「アルセーヌ・リュパンの逮捕」=大西洋を渡る客船に広まるA・ルパン出没の噂・・・。乗客たちはザワつくが、仏警察きっての大立者ガニマール警部にルパンは逮捕されてしまう。確かに初っ端から衝撃の展開。
②「獄中のアルセーヌ・リュパン」=①で独房に入れられたルパンだが、おとなしく囚われているわけないよなぁ・・・。警察の方がキリキリ舞させられることに。
③「アルセーヌ・リュパンの脱走」=これはなかなかの良作。獄中からの脱走&裁判を受けないことを宣言するルパン。そして運命の裁判の日、なんとリュパンの正体が・・・しかしこれもリュパンの罠だった。右往左往させられるガニマールが不憫。
④「奇怪な旅行者」=ラスト、新聞記事で語られるオチが何とも心憎い・・・
⑤「女王の首飾り」=これはある種「準密室からの盗難事件」を扱ったもの。真相は灯台下暗し的なものだが・・・
⑥「ハートの7」=殺人現場に残される穴の開けられた「ハートの7」のトランプ。それがお宝発掘への鍵となるのだが・・・。今回もルパンは神出鬼没だ。
⑦「彷徨する死霊」=本作はホームズものにもありそうな探偵譚という風味の作品。実にシンプル。
⑧「遅かりしシャーロック・ホームズ」=ルイ16世ゆかりのお宝をルパンから守るため請われたシャーロック・ホームズ。くだんの家へ向かう途中に両雄が相見えたのだが・・・最後はやはりルパンに軍配が上がるような結果になる。

以上8編。
①~③は続きもので、ルパンの逮捕から脱獄までが書かれる。④以降はルパンの神出鬼没ぶりがとにかく印象的。
謎解きもの或いはミステリーとしては微妙だが、読者としてはどいつがルパンかちょっとドキドキしながら読み進めるというのが本作の正しい楽しみ方なのだろう。

個人的には短編よりも長編作品の方が面白いという印象を受けたが、これはこれで楽しめるのは間違いない。
ジュブナイル版で読んだ方も多いかもしれないが、未読の方は名作として一度は触れておくのもいいのではないか。
(③が一番面白い。⑤⑥もなかなか。)


No.754 5点 夏と冬の奏鳴曲
麻耶雄嵩
(2012/09/21 21:56登録)
1993年発表。デビュー作「翼ある闇」に続く長編2作目。
文庫版で700頁を超える大作、かつ様々な物議を醸す問題作。

~首なし死体が発見されたのは、雪が降り積もった夏の朝だった。20年前に死んだはずの美少女・和音の影がすべてを支配する不思議な和音島。なにもかもがミステリアスな孤島で起きた惨劇の真相とは? メルカトル鮎の一言がすべてを解決する。新本格長編ミステリーの世界に驚愕の名作誕生!~

これはミステリーなのか? それともファンタジーなのか?
ここまで大量のストーリーを読まされた後に残ったのは、多くの「?」というのが正直な感想。
確か、本作出版時にノベルズ版を読もうとして、途中で挫折したような記憶のある本作。ミステリー読者として多少なりとも習熟した今なら多少なりとも理解できるのではと考えたのが・・・甘かった。
孤島で起きる連続殺人事件、雪密室、首なし死体、事件のバックボーンとなる「キュビズム」などなど、いわゆる「新本格」らしいギミックは満載であり、最後には一応ケリがつくのかなぁと思っていたのだが・・・甘かった。

紹介文にはメルカトル鮎がすべての謎を解き明かすように書かれてあるが、メルカトルが登場するのは何と700頁を超えて本編が終了したほんのワンシーンだけ。
しかもメルカトルが残したたった一つの台詞がまた読者にとっては「?」なのだ。
あとは、「春と秋の奏鳴曲」についての謎・・・
なぜ烏有と桐璃の姿や出会いをなぞるような内容となっているのか??
・・・正直分からん!

これはやっぱり普通の読み方をしてはいけないのだろうなぁ・・・
一応ネタバレサイトを見て少しは謎が解けたのだが、それでもスッキリしないことこの上ない。
まぁ、本作について書き出したら止まらなくなりそうなので、この辺でやめとこう。評点は難しいが、本作を評価すること自体あまり意味がないように感じる。
(当時、本作を出版した講談社編集部に敬意を表したい)


No.753 6点 嫁洗い池
芦原すなお
(2012/09/14 23:56登録)
前作「ミミズクとオリーブ」に続くシリーズ第2弾。
今回はすべて主人公の悪友である河田刑事(警部?)が持ち込む事件を奥さんが見事に解き明かすというスタイル。

①「娘たち」=父ひとり・娘ひとりという関係なら、当然父親は娘のことを「しつこい」くらいに心配する・・・っていうのが普通だよな。そして、主人公の成人式にまつわる過去の事件(?)も無事解決される。
②「まだらの猫」=これは当然「まだらの紐」のもじり、というわけで本作は何と「密室殺人事件」。こんな謎を一介の主婦が話を聞いただけで解き明かすというのもスゴイが、密室トリック自体はちょっとショボイ。
③「九寸五分」=これはいわゆる「匕首」を意味する隠語らしい。ヤクザの親分が殺され、犯人はすぐに逮捕されるのだが、それに疑問を持ったのが名探偵の奥さん。現場のちょっとした状況に「違和感」を持つというプロットが短編らしくてよい。
④「ホームカミング」=最愛の奥さんが大学の同窓会で家を離れることに・・・。そして、今回は河田からの電話を聞くだけで事件を解決してしまう・・・(まるで御手洗潔のようだ)。
⑤「シンデレラの花」=火葬場で起こった人間消失というのが今回の事件。主人公がなぜか見たシンデレラもどきの夢が事件解決につながるのだが、「シンデレラ」ってそういう意味だったんだよね。(日本人は大いに誤解してるよな・・・)
⑥「嫁洗い池」=「興奮すると自分が何をするか分からなくなる」と思い込んでる人が起こした(とされる)殺人事件。事件の関係者には精神科医などいかにも怪しげな人物が・・・。ところで「嫁洗い池」の謎はどうなったんだ?

以上6編。
とにかく、出てくる料理のうまそうなこと。
(今回は特に「関東煮」と「サンマの塩焼き」がたまらない・・・)
主人公と奥さん、そしていつもいがみ合ってるが実は仲のいい悪友・河田・・・3人が織り成す光景も実に味わい深い。
さすがに「直木賞」作家と評価すべき作品だと思う。
えっ!ミステリーとしてはどうなんだって?
まぁ、いいじゃないですか・・・そんなことを評価すべき作品じゃないってことですよ。
(②③が良い。あとは⑤)


No.752 5点 リチャード三世「殺人」事件
エリザベス・ピーターズ
(2012/09/14 23:52登録)
図書館司書ジャクリーン・カービーを探偵役とするシリーズの1つ。
英国史上の伝説的人物である「リチャード三世」をめぐる歴史論争が事件の背景となる。

~幼王を殺害し、王位を簒奪した英国史の極悪人リチャード三世。だが、彼の無実を証明する新たな史料が発見された! そのお披露目会が開かれる屋敷には、愛好家がリチャード三世にまつわる歴史上の人物に扮して大集合。ところが、参加者に次々と災難が降りかかる。しかも各人が扮した人物の実際の死にざまを想起させるような形で・・・。何者かがリチャード三世の殺人を再現しようとしているのか?~

趣向としては面白いが、ミステリーという観点からするとやや疑問。
というのが正直な評価だろうか。
本作が、ジョセフィン・テイの名作「時の娘」のオマージュとして書かれているのは有名(?)のようだが、シェークスピアの描いた“極悪人”としてのリチャード三世を復権させることをテーマとして書かれた、完全な「歴史ミステリー」である「時の娘」と比べて、本作の位置付けはかなり曖昧。
「歴史ミステリーと見せかけたライトなミステリー」とでも言うのが本作の特徴か。

紹介文を読むと、いかにも本格ミステリーっぽいギミックを備えているように見えるのだが、プロットの根幹は実にシンプル。
終盤で探偵役のジャクリーンが、A・クリスティの某有名作を引き合いに出すのだが、それを地でいくようなプロットなのだ。
でもなぁー、これだけのことにリチャード三世にまつわる様々な薀蓄や歴史的背景をわざわざ持ち出さなくてもいいんじゃない、っていう気にはさせられた。

まぁ読みやすい作品なのは間違いないし、決して面白くないわけではないので、こういう手の作品が好きな方なら一読の価値はある。
(結局、リチャード三世は「極悪人」ではなく、むしろ「賢王」ということでよいのだろうか?)


No.751 5点 真夜中のマーチ
奥田英朗
(2012/09/14 23:49登録)
2003年発表のノンシリーズ長編作品。
それぞれに悩みを抱える3人の若者を主人公としたクライム・ノベル。

~自称青年実業家のヨコケンこと横山健司は、仕込んだパーティーで三田総一郎と出会う。財閥の御曹司かと思いきや、単なる商社のダメ社員だったミタゾウとヨコケンは、わけありの現金強奪をもくろむが謎の美女・クロチェに邪魔されてしまう。それぞれの思惑を抱えて手を組んだ3人は、美術詐欺のアガリ10億円をターゲットに完全犯罪を目指すことに。直木賞作家が放つ痛快クライムノベル!~

作者の力量から考えれば、ちょっと安直な作品という感じ。
まぁ、プロットとしては「よくある手」という奴で、紹介文のとおり、社会からドロップアウトしかかっている若者たちの群像を描きながら、大人たちの巨悪に立ち向かっていくという構図。
読み手(男性)としては、当然「美人でタカビーな」クロチェが気になるのだが、2人の「仲間」を得て、徐々に閉じた心を開いていく彼女の姿にちょっとホロッとさせられる。

ただ、肝心の「クライム」の方はちょっといただけない。
ヤクザや謎の中国人など、「いかにも」という登場人物が「いかにも」という動きをしてしまう。
要はすべてが予想の範疇で、サプライズ感が全くないのだ。
ラスト(ミタゾウの「その後」)も何となく物足りない。

他の作品で見事なストーリーテラー振りを発揮している作者にしては「やっつけ感」の残る作品というのが正当な評価だろう。
(ミタゾウの父親の豹変ぶりっていうのは、よく分かるねぇ・・・)


No.750 8点 ジャッカルの日
フレデリック・フォーサイス
(2012/09/08 22:34登録)
750冊目の書評は、国際謀略小説の金字塔とも言える本作で。
実在の仏元大統領、シャルル・ドゴールを暗殺せんとする「殺し屋」ジャッカルと仏警察との息詰まる攻防が印象的。

~フランスの秘密軍事組織OSAは、6回にわたってドゴール暗殺を企てた。だが、失敗に次ぐ失敗で窮地に追い込まれ、最後の切り札として凄腕のイギリス人「殺し屋」を起用した。暗号名ジャッカル・・・ブロンド、長身、射撃の腕は超一流。ジャッカルとは誰か? 暗殺決行の日は? 潜入地点はどこか? 正体不明の暗殺者を狙うルベル警視の捜査が始まる・・・。全世界を沸かせた傑作ドキュメント・スリラー~

分量を感じさせない面白さがある。
文庫版で500頁を超える大作なのだが、さすがに「読ませる」力は並じゃない。
三部構成で、ジャッカルが殺しを請け負い、その準備に奔走する第一部はやや冗長なのだが、第二部に入り仏警察きっての切れ者・ルベル警視が捜査を開始する辺りから急展開、頁をめくる手が止まらなくなる。
勤勉実直を絵に描いたように、一刑事らしいやり方でジャッカルに迫るルベル警視。変装や意表を突く凶器の隠し方など、殺し屋としての才能を存分に発揮し捜査の手をかいくぐるジャッカル・・・
まさに息詰まる攻防戦が二人の視点を通して順に語られていく。

パリに攻防の舞台が移るのが第三部。
ルベル警視の捜査はジャッカルの狡知をもってしても、徐々に追い詰め、万事休すかと思わせるなか・・・
ついに「その日」がやってくる。
ラストシーンは実に「映画的」とでも言うべきか。
こんな劇的なラストが待ち受けるなんて・・・

やはり評判に違わぬ力作というのが正統な評価でしょう。
これからの秋の夜長にはもってこいの一冊ではないかと・・・


No.749 5点 「死霊」殺人事件
今邑彩
(2012/09/08 22:32登録)
警視庁捜査第一課・貴島柊志シリーズの3作目。
今回は相棒としてトリッキーな女性刑事が登場。これって何か意味あったんだろうか?

~家に送り届けた後、「金を取ってくる」と言ったまま戻らない男性客。しびれを切らしたタクシー運転手が家の中で目撃したのは、2人の男の死体だった。さらに2階からは泥まみれの女の死体までも発見されて・・・。密室状態で起きた不可解な殺人に貴島刑事が挑む本格推理+怪奇の傑作、貴島シリーズ第三弾~

ちょっと「策に溺れすぎ」とでも言いたくなる。
作者が「不可解な状況」をどうしても演出したいのは分かるが、ここまで偶然の連続というか、後出しの要素が多くなるとちょっとげんなりしてしまう。
もともと事件関係者の数はかなり限定されており、要は役割(犯人または被害者)をどのように割り振っていくかということなのだが、アリバイはともかく、現場の不可解さというのが、想定外の人物の作為のためというのは、どうにも首肯し難いのだ。(ネタバレ?)

それ以外は作者らしく丁寧で好感の持てるプロットではある。
事件の大筋が解決した後で、もう一つ裏の事件の謎までも解決する、という作者得意の展開も良い。

ただ、せっかく主人公である「貴島刑事」をニヒルで陰のある、謎めいた存在として温めてきたのに、本作ではそのキャラクターをまったく深掘りできないまま、女性刑事に振り回されるちょっとお茶目な刑事、という中途半端な存在にしてしまっている。
これも残念なポイント。

ということで、それ程高い評価はできないかな。
(TVの2時間もののドラマとかに嵌りそうな作品・・・)


No.748 6点 要介護探偵の事件簿
中山七里
(2012/09/08 22:30登録)
デビュー作「さよならドビュッシー」に登場する玄太郎じいちゃんを探偵役とする連作短編集。
「安楽椅子型探偵」ならぬ、「車椅子型探偵」としてハチャメチャな探偵振り・・・

①「要介護探偵の冒険」=相手は最初から何と「密室殺人事件」。販売前の建売住宅という舞台設定らしいトリックではあるが、真犯人もサプライズ感あり。
②「要介護探偵の生還」=話は前後するが、本作が①の前で「玄太郎最初の事件」とでもいうべきもの。リハビリ施設で繰り広げられる美談が実は・・・という展開。脳梗塞を患いながら奇跡の復活を遂げた玄太郎じいさんの不屈の精神に拍手!
③「要介護探偵の快走」=これはもちろん「回想」のもじりだろう。高齢者を次々に襲う暴力犯に対峙する玄太郎だが、実は正体は意外な人物・・・っていうのは分かりやすい展開かな。
④「要介護探偵と四つの署名」=今回は何と銀行強盗に巻き込まれ、人質になってしまう玄太郎。でも、そこは「人生の経験値」が違う、というわけで、逆に犯人たちを最後には懐柔してしまう。たった1つの事象から意外な黒幕の存在をほのめかすプロットは良い。
⑤「要介護探偵最後の挨拶」=これが本当に「最後の事件」になってしまう・・・(「さよならドビュッシー」を読まれた方なら分かるが)。そして、「さよなら・・・」で探偵役を務める天才ピアニスト・岬洋介が玄太郎とタッグを組み、難事件を解決する。このトリックは今まであまりお目にかかったことない斬新なもの(飲むんじゃないからね・・・)。

以上5編。
出来の良い作品集。
何より「玄太郎じいさん」のキャラクターが秀逸。本作だけでは実にもったいない。
自身の経験値を背景に、些細な事象から事件を紐解くという見せ方もなかなかで、作者の「うまさ」を感じさせる。
トリックは既視感のあるものもあるが、⑤などは使い古された毒物をうまい具合に処理している。
読んで損のない作品という評価でいいんじゃない。


No.747 3点 セカンド・ラブ
乾くるみ
(2012/09/01 19:18登録)
大ヒット作「イニシエーション・ラブ」の続編的位置付けの作品(直接の関係はありませんが)。
今回はどのように騙してくれるか、期待を込めて読み始めた訳ですが・・・

~1983年元旦、僕は会社の先輩から誘われたスキー旅行で、春香と出会った。やがて付き合い始めた僕たちはとても幸せだった。春香とそっくりな女性、美奈子が現れるまでは・・・。清楚な春香と大胆な美奈子。対照的な2人の間で揺れる心。「イニシエーション・ラブ」に続く二度読み必至の恋愛ミステリー~

ひとことで言えば『期待はずれ』。
叙述トリックがどうだとか、作者の「仕掛け」がどうだった、と評する前に・・・
一冊の「小説」として全く面白くなかった、というのが正直な感想。

トリックについては、確かに「凝ってる」といえば凝ってる。
あの序章があっての終章だから、最初は「エッ!なぜ?」という感覚になるが、ラスト2行の意味が分かると「あーそういうこと」とのことで納得がいく。(伏線もきっちり張られてたしね)
名前のアナグラムや中森明菜・宇多田ヒカルの曲名をもじった各章のタイトルもまぁお遊びとしては面白いだろう。
でも、ほぼそれだけのことではないか?
恋愛に不器用な男を巡るストーリーという点では「イニシーエーション・ラブ」と同様だが、主人公の言動があまりにイタすぎて、前作ほどラブストーリーとしても楽しめなかった。

とにかく「誉める点」が見当たらない、というのが本作に対する評価。
(続編はせめて前作くらいの「仕掛け」が欲しいところ。)


No.746 6点 鬼蟻村マジック
二階堂黎人
(2012/09/01 19:16登録)
名探偵(?)・水乃サトルシリーズ。
因みに「・・・マジック」は社会人・サトルが活躍するシリーズで、大学生のサトルが活躍するのは「・・・の不思議」。

~会社の先輩・臼田竹美に、実家で婚約者のふりをして欲しいと頼まれた水乃サトルは、長野県の北端にある寒村・鬼蟻村を訪れ、連続殺人事件に巻き込まれる。村に残る鬼伝説と昭和13年に起きた不可思議な密室からの犯人消失事件の謎を含め、すべての真相を明らかにすべく、サトルの頭脳はフル回転を始める!~

本格ミステリー好きならいかにも「そそられる」展開、道具立て。
プロットのベースは横溝「犬神家の一族」そのもので、信州の旧家に巻き起こった相続争い、いがみ合う腹違いの3人姉妹、突然登場する新たな相続人、などなどかなり露骨になぞっている。
そして、メインとなる謎が密室からの「人間消失事件」。
これは、昔の事件にも現在の事件にも共通した謎として登場し、まずまず魅力的な謎としては機能している。

ただ、これは本格好きにとっては「かなりやさしい」レベルの問題ではないか?
(ネタばれかもしれないが)・・・ある登場人物がかなり特徴的に書かれ、それがモロにトリックに直結しているのがいただけない。
個人的にも、前半だけでトリックの骨格はおおよそ分かってしまった。

もう一つ。これだけの道具立てを揃えたのだから、もう少しストーリー的な深みというか、スゴ味があってもいいのになぁ・・・
初期の蘭子シリーズには、好き嫌いは別にして作品中に何とも言えない「世界観」があったのに、最近の作品は小説として薄っぺらいように思えてならないのだ。(これもないものねだりのファン心理かな)

本作も別に駄作ではないのだが、そういう意味での「物足りなさ」は残った。
(今回はサトルのおふざけも控えめで、マトモな名探偵として振る舞っている。)


No.745 7点 サム・ホーソーンの事件簿Ⅲ
エドワード・D・ホック
(2012/09/01 19:13登録)
不可能犯罪を取り扱ったシリーズといえばコレ。アメリカの田舎医師サム・ホーソーンが大活躍する本シリーズ。
第3弾となる本作も相変わらず彼の推理が冴え渡る。

①「ハンティング・ロッジの謎」=まさに「ジャブ」的な1編。いわゆる「雪密室」(足跡のないやつ)を扱ったものなのだが、雪の上に唯一付いていた細い線というのがミソ。でも、結構難しそう。
②「干し草に埋もれた死体の謎」=これはアリバイに関する不可能犯罪。トリックの肝はよくある「手」なのだが、こういう種類のトリックに対していつも思うのは、『人間の目ってそんなに節穴なのか?』・・・
③「サンタの灯台の謎」=一人旅の途中でサム医師が殺人事件に巻き込まれる。トリックは推理クイズレベルなのだが、真犯人については見事に逆転が嵌っている。
④「墓地のピクニックの謎」=ピクニック最中に突然駆け出した女性が、そのわずか後に溺死体で見つかるという超難問なのだが・・・。解答はまぁこれしかないというものだが、これも②と同種のトリック。まさかサム医師も騙されるとは・・・
⑤「防音を施した親子室の謎」=これはなかなかの傑作。新装オープンした映画館。その中にある「親子室(=密室)」で町長が銃撃される事件が発生。何とその前日、町長の銃殺を予告した男が先に毒殺されていた・・・。まずはプロットが素晴らしいし、不可能犯罪のレベルも高い。
⑥「危険な爆竹の謎」=爆竹の1つに仕掛けられたダイナマイト級の火薬で爆死させられた兄と大怪我を負った弟・・・。本作も意外な真犯人とその正体がラストで指摘される。
⑦「描きかけの水彩画の謎」=事件そのものは単純なアリバイトリックの解明で終結。それよりも、探偵稼業中に患者を死なせてしまうという事態に陥り、深く落ち込むサム医師に同情。
⑧「密封された酒ビンの謎」=「禁酒法」解禁の日のお祝いで振る舞われたシェリー酒。無作為に選んだはずの1本を呑み毒死させられた被害者。他のビンは無毒だし、ビンに毒を詰める方法もないように思えたが・・・
⑨「消えた空中ブランコ乗りの謎」=サーカスの最中、5人組の空中ブランコ演者の1人が消えてしまい、次の日に死体で見つかる・・・というのが本作の謎。消える仕掛けはかなり「粗っぽい」し、本当に成功するのか?
⑩「真っ暗になった通気熟成所の謎」=本作は葉タバコ乾燥用の施設内での殺人事件。このトリックも推理クイズ向きだとは思うが、利き腕の問題は、別にサム医師じゃなくても気付きそうだが。
⑪「雪に閉ざされた山小屋の謎」=本作も①と同様「雪密室」がテーマ。このトリックも物理的には可能かもしれないが、実際やるには相当リスク高いんじゃないかな?
⑫「窓のない避雷室の謎」=新たに雇い入れた看護婦に殺人の嫌疑がかかる。でもこのトリックは「掟破り」ではないか・・・?

以上12編にボーナストラックとして非シリーズもの1編(「ナイルキャット」)。
さすがに似通ったプロットが出てくるし、玉石混交という思いは残るが、それでもミステリーとしての面白さは十分感じられる好編。
人物造形も相変わらず巧みで、何だが自分もノースモント市民になったような気分さえ味わえる(?)
でも、たかだか人口千人足らずで、これだけ不可能犯罪が頻発する町って・・・ある意味スゴイっていうか住みたくない!
(ベストは⑤。③④あたりも面白い。)


No.744 7点 封印再度
森博嗣
(2012/08/27 16:26登録)
「詩的私的ジャック」に続くS&Mシリーズの5作目。
ノベルズ版で発刊時に読んだ記憶があり、「なかなかよくできた作品だった」ような記憶があったのだが・・・

~50年前、日本画家である香山風采は息子・林水に家宝「天地の瓢(こひょう)」と「無我の匣」を残して密室の中で謎の死を遂げた。不思議な言い伝えのある家宝と風采の死の秘密は、現在に至るまで誰にも解かれていない。そして今度は、息子・林水が死体となって発見された。2つの死と家宝の謎に人気の犀川・西之園コンビが迫る!~

トータルで評すれば「よくできた」作品だと思う。
他の方の書評を拝見すると、本作に対する評価は「肯定派」と「否定派」に割とはっきり分かれているようだが・・・
まず、トリックに関しては、①例の「祐介(子供ね)の発言」に対する解釈、②密室の構成、③「天地の瓢」と「無我の匣」の仕掛け、の3つに分けられるかな。
まず、①については確かに「微妙」な気はする。作者もそれは感じていて、事前に伏線を不自然なくらい用意してる(幻魔大将軍のくだりね)のだろう。②については、いかにも「理系」的な密室アプローチともいえるが、これは初歩的な科学現象だし、途中で察する方も多いだろう。
やっぱり秀逸なのは③。『なぜ現場から凶器が消失したのか?』というミステリーテーマに斬新な解答を施しているのではないか?
もちろん、このような特異な物質の存在に関する知識云々の問題はあるが、犀川のトリック解明シーンでは久々にカタルシスを覚えた。

プロットでいえば、タイトルどおり『Who inside?』に拘った点が面白い。
本作は作者がこれまで拘ってきた密室構成そのものより、誰が密室内にいたか(或いは留まっていたのか)という謎に特化して提示される。
それが、トリックと有機的に結びつく点が作者のスゴ味。
ただ、そこに固執するあまりそれ以外の部分にやや無理が生じてしまったのがやや難点かな(→香山マリモの記憶の部分など)。

まぁ、否定派の皆さんが言及されてるとおり、ちょっと冗長感があるのは事実だし、犀川と萌絵のラブストーリー的要素が増殖したようなところもあり、その辺は評価が分かれるのはやむ得ないかも。
でも、個人的には十分出来のいい作品と評価したい。


No.743 7点 ブラウン神父の醜聞
G・K・チェスタトン
(2012/08/27 16:23登録)
ブラウン神父の作品集もついに最終譚。
相変わらずの「逆説」的真相と「読みにくさ」は今回も健在。

①「ブラウン神父の醜聞」=不倫を犯した妻を逃がした・・・という「醜聞」をまき散らされたブラウン神父。ただし、それは大きな誤解。真相は人間の初歩的な思い込みに関するものなのだが、マスコミ人がこんな偏見持ってちゃいけないでしょう。
②「手早いやつ」=イギリスのとある古ホテルで起こる殺人事件。胸には異国の剣が刺し貫かれているのだが、死因は毒殺・・・。ある宗教家を巡る殺人事件に珍しくブラウン神父が拳をかざして立ち上がる!
③「古書の呪い」=いかにもブラウン神父ものらしい作品。1冊の古書をめぐる連続人間消失事件に対して痛烈な逆説的解決が浴びせられる。敢えていうなら、動機が若干分からんがこれは名作だろう。
④「緑の人」=これもよくできてる。アリバイ的な部分はかなりお粗末なのだが、一人の女性を通して人間の「金銭欲」に対する浅ましさを痛切に皮肉ってるところがミソ。
⑤「ブルー氏の追跡」=これもお得意の「逆説」が決まった作品。まあ、はっきり言えば「二番煎じ」か「焼き直し」なのだが・・・
⑥「共産主義者の犯罪」=これはタイトルそのものが逆説的仕掛けを孕んでいる。「マッチ」という小道具をきっかけに、これまた表層とは異なった解決に導かれる。
⑦「ピンの意味」=ちょっとごちゃごちゃして背景が分かりにくい作品。
⑧「とけない問題」=久々に親友・フランボウが登場。協力してある事件を解決することに。死亡したあとに、なぜか首を吊るされ、なぜか剣で刺された死体を巡る事件なのだが、これはプロットが見事。ラストも実にブラウン神父らしい・・・
⑨「村の吸血鬼」=掉尾を飾るにはちょっと迫力不足かな。今までの焼き直しレベルという感じ。

以上9編。
5作目まで来るとさすがにレベルダウンは免れないかなという予想でしたが、意外に健闘。満足のいく水準と言ってよいでしょう。

というわけで、「ブラウン神父」シリーズ全5作を読了。
さすがに評判どおりと唸らせる作品もあれば、「どういう意味??」っていう作品まで、結構お腹一杯になりました。
シリーズ全作品を通じてのベストは、「折れた剣」や「見えない男」など、やっぱり「童心」収録の作品に落ち着きそう。
(本作では③⑧は双璧。④も意外によい。)


No.742 4点 ダブル・イニシャル
新津きよみ
(2012/08/27 16:21登録)
ノン・シリーズの文庫書き下ろし作品。
作者お得意の女性をターゲットにしたサスペンスミステリー。

~安藤亜衣里、木村京美、市川郁子。かつて米国で起きた「Wイニシャル殺人事件」の真似をするかのように、姓名のイニシャルが同じ女性が連続して殺害された。遺体には左半身に犯人による損傷が残される共通点があった。警視庁捜査第一課の刑事・井垣俊は、彼女らが同じ結婚相談所に登録していた事実に辿り着く。婚活の果てに幸福をつかんだはずの女性を狙ったのは誰か? 嫉妬にまみれた殺意の真相に迫るサスペンス・ミステリー~

うーん。期待したものとは違ったな。
紹介文を読んでると、嫌でもクリステイの「ABC殺人事件」的展開を想像するよなぁ・・・
(イニシャルAA→イニシャルKK→イニシャルIIが順に殺されていく)
となると、ミッシングリンクが作品のテーマで、もしかして「木は森に隠せ」って奴かな?
などと先走って予想してましたが、さすがに違うわな。(同じだったら、完全にパクリだ)

ただ、いくらなんでも真相がショボイ。
「Wイニシャル」に拘った理由なるものが「動機」だけというのは、やはり作者のミステリー作家としてのキャパの限界なんだろう。
そこにせめてもう一つ、ギミックを噛ませてこその本格ミステリーなんだけどなぁ・・・
って考えてましたが、そもそもそんな作品を志向してなかったんでしょうね、作者は。
婚活という”はやり”のキーワードに乗せ、女性心理にフォーカスを当てたライトサスペンス、というのが本作の狙いなのでしょう。

そもそも本格ミステリーの王道を期待して購入した私が馬鹿でした。
(時間つぶし程度だったらいいかもしれませんよ)


No.741 7点 黒後家蜘蛛の会1
アイザック・アシモフ
(2012/08/24 19:45登録)
安楽椅子型探偵シリーズといえば「本シリーズ」という方も多いのではないか。その第1作目。
~「黒後家蜘蛛の会」の会員-化学者、数学者、弁護士、画家、作家、暗号専門家の6名。それに給仕1名は毎月1回晩餐会を開いて四方山話に花を咲かせていた。一旦話がミステリじみてくると会はにわかに活況を呈し、会員各自が素人探偵ぶりを発揮する。ところが最後に真相を言い当てるのはいつも給仕のヘンリーだった!~

①「会心の笑い」=名探偵で給仕のヘンリーの「秘密」っていうか、「誕生の経緯」がまず明かされる。それはいいが、盗んだものが「○の平○」って・・・ガックリきた。
②「贋物のPh」=金はあるが誰よりも出来の悪い学生が、大学で一番厳しい教授の眼鏡にかなった理由は、というのが今回の謎なのだが、ヘンリーの指摘したことは実に単純なこと。
③「実をいえば」=短い作品。オチはそれなりに面白いといえば面白い・・・かな?
④「行け、小さき書物よ」=マッチブック蒐集家がどうやってマッチブックを使って暗号を作ったのか? 真相はコペルニクス的発想の転換が必要・・・(言い過ぎか?)
⑤「日曜の朝早く」=本作中では珍しく殺人事件が取り上げられる。要はアリバイトリックなのだが、これは日本人には分かりにくいかもしれない。でもなかなか面白い。
⑥「明白な要素」=これはなぁ・・・大胆といえば大胆なプロットなのだが、「馬鹿にしてんのか?」と言う人も出てきそうな気がする。
⑦「指し示す指」=今わの際に亡父が指し示した先にあるはずの「遺産」。でも、ない・・・。でも、それくらい普通分かりそうなものだけどねぇ・・・。
⑧「何国代表?」=「ミス・アース・コンテスト」(ミス・ユニバースみたいなもの)を巡る謎なのだが、これもトリックの肝がなんとも軽い・・・
⑨「ブロードウェーの子守歌」=いつものクラブではなく、メンバーのルービンのアパートにて開かれる黒後家蜘蛛の会、というのが面白い趣向。そこで、ルービンを悩ますある「音」の謎についてヘンリーの推理が冴えわたる。
⑩「ヤンキー、ドゥードゥル郡へ行く」=今回はアメリカの古い歌に関する謎。あまり印象に残らない。
⑪「不思議な省略」=遺言に仕掛けられた暗号の謎。「不思議の国のアリス」に関する暗号っていうところが面白い。
⑫「死角」=最後になって、実に本作らしいオチが用意された作品。こんなトリックってどうなの、って思うけどそれなりに面白い。

以上12編。
作品によって差はあるが、肩透かしのようなオチが多いのは事実。
でも、毎度道化役を演じる会のメンバーたちをはじめ、いつの間にか探偵役に収まったヘンリーなど、登場人物の面白さは秀逸。
安楽椅子型探偵としては、この程度のプロット・トリックに収める方がいい、ってことなんだろう。
(個人的に好みは①⑤⑫辺りかな。)


No.740 7点 ロスジェネの逆襲
池井戸潤
(2012/08/24 19:43登録)
「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」に続く、“破格の銀行員・半沢直樹”を主人公とするシリーズ3作目。
“ロスジェネ”とは、「ロスト・ジェネレーション」の略で、バブル崩壊以降の就職氷河期に社会に出た人たち(世代)のこと。

~ときは2004年。銀行の系列子会社・東京セントラル証券の業績は鳴かず飛ばず。そこにIT企業の雄・電脳雑技集団社長から、ライバルの東京スパイラルを買収したいとの相談を受ける。アドバイザーの座に就けば、巨額の手数料が転がり込んでくるビックチャンスだ。ところが、そこに親会社である東京中央銀行から理不尽な横槍がはいる。責任を問われて窮地に陥った主人公の半沢直樹は、部下の森山とともに、周囲をアッツと言わせる秘策に出た・・・~

本作も、「It's the 池井戸潤」とでも言いたくなる作品。
巻頭に本作を巡る人物相関図が挿入されているが、どれが悪人でどいつが善人かすぐに察しがついてしまった。
本作の舞台は、以前にあったライブドア事件をめぐる経済事件(ニッポン放送に対する買収とか)が下敷きになっていると思われ、ちょっと現在の情勢と比べると「古い」という感覚が拭えないが、造形からして「あの人」を思わせる登場人物が出てたり、買収をめぐる増資やホワイトナイトなど買収対抗策についても、「そういえば、そんなのあったな」と思われる読者も多いだろう。
そして、ラストはいつもどおりの「勧善懲悪」(!) 
これが何とも痛快なのだ。
作者へのインタビューかなにかで目にしたのだが、やっぱり「悪いものは悪い、良いものは良い」という当たり前のことを作品中に明快に訴えたいという「想い」があるようだ。

今回も主人公・半沢の考え方・行動はまさに「サラリーマンの理想像」。
銀行なんていうがんじがらめの組織で作られたヒエラルキーを次々に打ち壊し、自分の信念に従って真っ直ぐに王道を歩んでいく姿・・・
(こんな風に生きてみたいよなぁ・・・)
IT業界というドックイヤーを体現した世界で生きていく人間たちの「姿」も何だか切なく、身に染みてくる。

ただ、買収をめぐる攻防などは初心者向けに分かりやすくしているせいだろうが、ちょっとデフォルメし過ぎかなと思えるし、プロットに安易な部分が目立った点で評価を差し引いた。
(次作を予感させるラスト。半沢はお気に入りのキャラクターらしいので、今後の展開にも期待したい。)


No.739 6点 再会
横関大
(2012/08/24 19:40登録)
第56回の江戸川乱歩賞受賞作。
この秋、豪華俳優陣でTVドラマ化も決定した話題作。

~小学校卒業の直前、悲しい記憶とともに拳銃をタイムカプセルに封じ込めた幼馴染み4人組。23年後、各々の道を歩んでいた彼らはある殺人事件をきっかけに再会する。分かっていることは一つだけ。4人組のなかに、拳銃を掘り出した人間がいる・・・ということ。繋がった過去と現在の事件の真相とは?~

処女作品としては「見どころあり」というのが素直な感想。
受賞前から何度も最終候補作に挙がっていただけあって、新人らしからぬ練られたプロットが味わえる。
特に、現在の事件の真相を追うことで、過去の封印された事件の謎が徐々に解き明かされるという展開がうまい。
「タイムカプセル」に封じられた一丁の拳銃が全ての謎の「鍵」となり、その欺瞞が解き明かされたとき、サプライズ感たっぷり(!)の真犯人が判明するのだ。
終盤~ラストに向けての盛り上げ方も読者のツボを心得ていると感じた。
主人公4人がそれぞれ「運命」を背負いながらも強く生きていくという「姿勢」も好ましい。

処女作ということを承知のうえ敢えて苦言を呈するなら、強烈な「ご都合主義」という点だろうか。
文庫版解説でも触れられているが、あまりにも偶然の出会いが多用されていて、ここまで偶然が続く確率って何万分の1だろうか、という気にはさせられる。
あとは真犯人。
どうみてもドンデン返しのサプライズを狙い過ぎ。
真犯人の「立場」がトリックを支えているのだが、これは素人目にみてもリアリティが薄い。
(警察の○○管理ってこんなにズサンなのか?)

ということで、新人らしい粗っぽさは当然あるのだが、全体的にはよくできた佳作ということでよいのではないか。
(ちょっと甘いかな?)


No.738 5点 青チョークの男
フレッド・ヴァルガス
(2012/08/19 13:21登録)
1996年発表。パリの警察署長・アダムズベルクが活躍するシリーズ第1弾。
作者は現代フランス・ミステリー界の女王的存在とのことですが・・・

~パリで続く奇妙な出来事。夜のうちに歩道に青いチョークで大きな円が描かれ、朝人が見つけるとき、その中には何かが置かれている。クリップ、羊肉の骨、オレンジ、人形の頭、本、蝋燭・・・およそガラクタばかりだ。そして『ヴィクトール、悪魔の道、夜の道』という文字が必ず。誰がこんなことを? 人畜無害なイタズラと思われていたが、ある朝様相が一変する。円の中には喉を切られた女性の死体があったのだ。そしてまた一つ、また一つ、死体を囲む青い円。奇怪な事件となった青い円の謎に五区警察の署長アダムスベルクが挑む~

何だか奇妙な雰囲気のミステリー。
とでも言うべきなのか? 提示される謎自体は紹介文のとおりでなかなか魅力的なものに見える。
普通に考えると、「ミッシングリンク」的なテーマかと予想して読んでいたわけなのだが、そういうわけでもなかった。
なにしろ、いつの間にか容疑者候補が絞られ、途中で動機らしきものまで判明してしまう。
一応、ラストにドンデン返しも用意されてはいるのだが、これは無理やりではないか?
簡単に真犯人が「○○した」と書いてるが、その人物を実際にアダムスベルクを始めとする警察関係者も目の前で見ているわけで、そんなことに気付かなかったのか? という思いにならざるを得ない。

そもそも、作者の「狙い」が判然としないんだよなぁ・・・
巻末の訳者解説で触れられているが、作者の人物描写のうまさというのは確かにあると思うし、本作の登場人物についてもその片鱗が窺える。
ただ、「謎解き重視」の作品にしてはロジックが弱いし、リアリティ重視の警察小説的作品としては途中あまりにも端折り過ぎだろという気がしてならない。
要は中途半端ということかな。
好みの問題かもしれないが、個人的には高い評価はできない。


No.737 4点 焦げた密室
西村京太郎
(2012/08/19 13:18登録)
西村京太郎「幻の処女長編」と銘打たれた本作。
昭和35年、江戸川乱歩賞応募のために作者が書き上げたのが本作だが、それに手を入れてメデタク幻冬舎より出版となった。

~48歳の男3人が相次いで姿を消す事件が発生。失踪か誘拐か判然としないまま騒然とする田舎町で、密室殺人事件は起きた。容疑者を特定できない警察の捜査は混迷を極め、自称作家の江戸半太郎が事件解明に乗り出す。が、新たな殺人が起き、同時に「3人の失踪者を誘拐した」との脅迫状が届く・・・。複数の事件が絡み合う会心の本格ミステリー~

やっぱり、これは「習作」レベルだろう。
紹介文を見ると、さも魅力的な本格ミステリーに思えるし、事実最近のトラベルミステリーなどと比べると、随分作風が違うなあという印象ではある。
でもなぁ・・・タイトルに「密室」と謳ってて、このトリックはないよなぁ。
作中では格好よく「心理的密室」などと書いてるけど、こりゃ超初歩的な欺瞞だろう。
アリバイトリックに利用されるある小道具についても、これだけでは警察の怠慢を期待しないと成立しないトリックではないか?

真犯人も分かりやすいよなぁ・・・
他に犯人らしき人物が見当たらないので、「動機」にも察しが付いてしまう。
ということで、本格ミステリーとしてはちょっと評価できない。

まぁでも作者の心意気はよい。
この頃の作者は、何とか作家になってやろうと、当時の唯一の登竜門である乱歩賞に毎年複数作品を応募していたとのこと。
作中にもミステリーへの愛情が溢れていて、やっぱりこういう人こそ売れっ子作家になっていくんだなぁという感慨に耽ってしまう。
まっ、心を広くして読んでいただきたい一冊。

1836中の書評を表示しています 1081 - 1100