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ミステリの祭典

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五つの時計―鮎川哲也短編傑作集〈1〉
北村薫編 鮎川哲也短編傑作選

作家 鮎川哲也
出版日1999年02月
平均点8.00点
書評数8人

No.8 5点 ALFA
(2022/01/24 13:04登録)
表題作を含めた10篇からなる短編集。
このサイトで評価が高い表題作「五つの時計」は最初の7ページでフー、ホワイダニットがあっさり説明され、あとはすべてアリバイトリックの提示と解決にページが割かれている。作者の個性というよりは、これがこの時代「本格」に求められたスタイルなのだろうか。
ドラマの中に、抜き差しならぬ動機やトリックを精緻に織り込んだミステリを読みたい当方としては単にパズルを提示されたようで物足りない。
全編を通して人物描写は紋切り型、用いられる比喩もユーモラスというよりはスベり気味で読む方の居心地が悪くなる。
一方トリックそのものは精緻で面白い。中でも印象に残るのは「五つの時計」の蕎麦屋のトリック。
10編中あえてのお気に入りは、大仕掛けな反転が楽しい「薔薇荘殺人事件」。第一の殺人をもう少し合理的にしたらゴシック風味の面白い短編になっただろう。花森安治の解決編「作者と人形」のほうがもっと面白いが。
「不完全犯罪」は松本清張で読みたかったかも。

No.7 7点 蟷螂の斧
(2021/06/08 17:06登録)
立風書房版にて拝読。東京創元社版と共通の5作品のみの評価
①五つの時計 9点 容疑者Aには訪問者Bの腕時計、A家の置き時計、そば屋の出前時刻、Aが洋品店を訪問した時刻、Bが聞いたラジオの放送時刻と完全なアリバイがあった・・・よく考えられ抜かれたトリック
②白い密室 6点 「THE密室」山前譲編で評価済み
③早春に死す 5点 犯人は東京駅付近の殺害時刻には、既に列車に乗っていた。発想は面白いがアリバイトリックの前提に無理があるのでは?
④薔薇荘殺人事件 7点 第一の殺人の推理は無理筋(苦笑)。プロットは非常にいい
⑤悪魔はここに 6点 ダイイングメッセージものにありがちな死ぬ前にこんなメッセージは無理というのが、本作にはなかった。ローマ字論者が肝で納得

No.6 9点 ボナンザ
(2019/12/02 20:52登録)
おそろしく高水準な短編集。
鬼貫ものとしては表題作の五つの時計もそうだが、早春に死す、愛に朽ちなんも味わい深くて素晴らしい。
星影ものもハイレベルなものが選ばれており、白い密室、薔薇荘殺人事件は鮎川の遊び心満載の超傑作。
必読。

No.5 7点 ミステリ初心者
(2018/12/24 19:52登録)
ネタバレをしています。

 非常に濃厚な短編集でした。すべての感想を書くと、無駄に長くなってしまうので、特に面白いと感じたものだけ書きます。道化師の檻は大好きなのですが、過去に読んだ短編集にも収録されていたので、端折ります。

・五つの時計
 この小説で一番でした。蕎麦屋の問題は、あれこれ悩みましたがわかりませんでした。解決まで読み、あっ そーーか!と言ってしまいました。答えを聞いて、むしろ単純に思えるようなトリックは好みです。

・白い密室
 意外な結末で楽しめました。作中作?によるトリックや、被害者が作る密室など、面白い要素がてんこ盛りでした。犯人にとっての偶然や、多人数の嘘や思惑が絡みまくっていて、真相の推理がほぼ不可能なことが、ややマイナス。

・薔薇荘殺人事件
 第一の殺人が人間違いだったと推理するのは難しいと思いました。また、色覚異常関連は推理小説でやったら出てきますが、あんまり魅力を感じません。
 ロープがあるのにサンダルを使わざるを得ない人物が犯人というのは、納得度がたかったです。ただ、犯人は自分に不利な証拠を隠したり、捜査を撹乱するような行為をしているため、"あえてロープを使わずにサンダルを使った"ことも撹乱として考えても問題は無い気はしますが・・・? 第二の殺人は突発的な感じはしますが、他にチャンスは無かったのでしょうか?
 文句ばっかり書きましたが、かなり楽しめました。

・悪魔はここに
 おとの面を逆さにしたのは被害者→ローマ字論者→OTOを逆から読んでもOTO…回文…? と、馬鹿なことを考えていましたw なぜ、OKAMEが思いつかなかったのか…。
 クローズドサークルで、連続殺人。短編にもかかわらず、かなり盛沢山でした。作中の"私"の、絵馬子さんは天使だから殺人するわけない発言は、ヘイスティングズを思い出しましたw

 私は少々、鉄道トリックや時刻表トリックの類が苦手です。しかし、この作品は満足できました。

No.4 7点 パメル
(2018/08/11 09:45登録)
10編からなる短編集で、作者お得意のアリバイ崩しが多めとなっている。
「宝石」の編集長を務めていた江戸川乱歩氏が、当時新人だった作者に実績を積ませるため、立て続けに書かせた作品が中心に収録されているらしい。
「五つの時計」は巧妙な心理トリックをわずかな手掛かりから丁寧に真相に導いていく、精緻を極めたパズルが楽しめる傑作。
「薔薇荘殺人事件」は叙述トリックを絡め、伏線の回収が秀逸なフーダニットとして楽しめる作品。
「道化師の檻」は錯覚をうまく利用した密室もののお手本のような作品。
ただ全体的に登場人物に魅力が少なくストーリー展開も地味に思える。

No.3 9点 測量ボ-イ
(2016/03/20 10:14登録)
作品名の羅列は他の方が書いて下さっているので省略しますが、鮎川ファン
なら溜息と共に涎が出そう(キタなくて申し訳なし)な短編集。
巻末の3氏による座談会も、鮎川作品に対する愛情・こだわりが感じられて
楽しいです。
個人的なベストを3つ挙げます。
①五つの時計
②薔薇荘殺人事件
③道化師の檻

①はわずか50頁前後の作品では世界一の内容の濃さでは?(もしかして)
②は他のガイド本で有栖川氏が、「もしミステリ創作学校というものがあれ
 ば、教科書になりそう」と評していましたが、まさにその通り
③あとの一つが迷いますが。「道化師の檻」にしました。
採点は9点ですが、その日の気分で10点にもなりそうな、ハイクオリティ。

No.2 10点 青い車
(2016/02/15 21:43登録)
どの作品も高水準ですが目玉はやはり表題作『五つの時計』。一見難攻不落な鉄壁のアリバイを着実な推理でひとつずつクリアしていく鬼貫警部の活躍が冴え渡っています。特に蕎麦屋の時計のトリックは単純ですが完全に盲点でした。人間がいかに簡単に錯覚に陥る動物であるかも示した傑作短篇です。
その他も後の密室ものの礎を築いた『白い密室』、鉄道トリックの無限の可能性を見ることができる『二ノ宮心中』や『急行出雲』、星影龍三シリーズ屈指の傑作『道化師の檻』など本格を語るなら外せない名作が目白押しです。あと、個人的には逆転の発想で事件がひっくり返る快感がたまらない『早春に死す』も推します。

No.1 10点 斎藤警部
(2015/05/28 13:05登録)
五つの時計/白い密室/早春に死す/愛に朽ちなん/道化師の檻/薔薇荘殺人事件/二ノ宮心中/悪魔はここに/不完全犯罪/急行出雲 。。。題名を羅列しただけで溜め息が出る珠玉の本格推理アンソロジー。(創元推理文庫)

鮎川さんとは因縁の雑誌「宝石」に掲載された初期短編群を北村薫師匠が編纂(全二巻の第一巻)。 乱歩先生の筆になるRubric(添書き)も泣かせます。
巻末には有栖川有栖氏/北村薫氏/山口雅也氏による鼎談あり。これもまた愉しい。

思いも寄らぬ角度から一撃も二撃も喰らわす心理的アリバイトリックのお話が中心。
どの作品も完璧過ぎて、逆に勇気が沸いて来ます。 地球に生まれて良かった。。

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