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ミステリの祭典

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検死審問 インクエスト
リー・スローカム検死官

作家 パーシヴァル・ワイルド
出版日1956年01月
平均点7.00点
書評数9人

No.9 7点 クリスティ再読
(2022/08/26 21:46登録)
何か楽しい作品。けど裁判モノとして見たらかなりヘンテコな珍味。証人たちは言いたい放題!質問禁止の独演会とか、こんなインクエストがあるのかしら(苦笑)

だからあくまでも「この人こういう人」という証言が、あくまで「この人から見たときは」という限定された視点での人物評価に過ぎない、というあたりをうまく使っていることになる。人物の性格が結構ミスリードされまくりで、そのあわいにうまく真相が隠されているわけだ。ユーモアがミスディレクションとしてうまく働く好例じゃないのかな。

けど、「自分が殺されたら、犯人はコイツだ!」という遺書とか、調書の中で隠れ聞きする人を指示するとか、掟破りの叙述が続出。メタ小説みたいな味わいがあって、そこらへんやんちゃな面白さがある。

No.8 8点 斎藤警部
(2022/01/17 18:14登録)
読み始めから8点以上確定信号が早くも点滅。ニューイングランド式の癖強ユーモア、創意ある構成、分厚い逆説の三者連合が手に手を取って最後にもたらす大反転のダイナミクス。。。■■羅列の機微にはやられた。。あれ、真犯人ってあの人だっけ.. と一瞬うっかり混乱しそうになる感じも素敵(こんだけくっきりした真犯人造形なのに!)。 突然加速して突き上げたものを冷静に鎮めて終わる、まさかのエンディングも凄い! ハッピーエンドとは何か? 社会を幸せにするとは。。!? 異業種作家が書いた特殊ミステリ、などと気負わず読んでみてくださいな。じゅうぶんに、いい意味で普通のミステリです。但し面白さ、味わい深さは尋常じゃありません。

No.7 7点 人並由真
(2020/11/04 03:12登録)
(ネタバレなし)
 その年の7月2日。コネチカット州トーントーンの町で、大人気女流作家オーレリア・ベネットの70歳の誕生パーティが彼女の自宅で開かれる。親類縁者や出版界の知己などのゲストが参集するが、その周辺で一人の人物が頭部に銃弾を受けて死亡した。土地の検屍官リー・スローカムの采配のもと、惨事の状況を判定する検死審問(インクエスト)が進行するが。

 1940年のアメリカ作品。
 前から読もう読もうと思っていたが、ブックオフの100円均一で購入した新訳の文庫版がどっかにいってしまい、それが少し前にようやく見つかった。

 ワイルド作品は数年前に長編第一弾『ミステリ・ウィークエンド』を読んでいる。
 ただし作者の素性などはまったく失念して、カントリーハウスもの風の設定から、なんとなくこの人は英国作家だと勘違いしていた(汗)。
 とはいえ今回、実作を読んでもなんか全体的に英国のドライユーモアっぽい香気が漂う作風ではあり、公費として支給される日銭を目当てに集まってくる検死陪審員たちの描写とか、いきなり笑わされる。
 本文の随所に戯曲風に会話を並べる手法も、小説として独特の形質を獲得。適宜にサプライズを設ける作劇とあわせて、最後までまったく退屈しないで読み終えた。
 というか地方カントリーものの小説と謎解きミステリの融合として、かなりレベルが高い。複数の登場人物の証言の積み重ねで、事件と物語の実情を外堀から埋めていく構成が効果を上げている。

 最後に明かされる真相と動機に関してはリアルな現実の場なら思うところもアレコレだろうが、それまでに登場人物のキャラクターが丁寧に描き込まれているので、あー、このキャラならこういう状況にもなってしまうのかな……と、妙に納得させられてしまう。

 そんな一方、某登場人物のミステリ全域を揶揄するようなメタ的な物言いなど、作者がいかにもハイソな作品の仕上げぶりを誇っているようで、個人的には鼻につくところもなきにしも非ず。
 だがまあその辺は本当なら、スナオに気の利いたブンガク的な視野の表明として受け取るのが吉なのではあろう。

 ただまあ、よくできた面白い作品と思いつつ、なんとなく8点をつけたくないのはどういう訳か? 正直、自分でもよくわからない。まあ今は自分の気分に素直に従っておく(笑)。

 最後に、この作品は旧訳(創元の世界推理小説全集版)も大昔に買って例によって死蔵していた(汗)が、本サイトの先の皆様のレビューで語られているとおり、たぶん確実に21世紀の新訳で読んでよかったとは心から思う(黒沼健の旧訳も味はあったかもしれないが)。
 なにしろ新訳文庫版の解説で杉江松恋氏も書いてるとおり、後半のオーレリアの独演シーンを、流れるような弾みまくるような日本語で読ませる越前訳は、正に神がかっているよね。

No.6 6点 ボナンザ
(2020/03/15 11:35登録)
容疑者に語らせる検死審問という形式を十分に活かした良作。個性的な登場人物たちの話が面白い。

No.5 6点 蟷螂の斧
(2015/02/20 13:50登録)
事件の概要が1/3位まで、中々わからないのでイライラ(笑)。ユーモアあふれる会話は楽しめました。本格というより、ユーモア小説に位置づけられるのかも?。事件が判明してからは、犯人は○と決めつけ、その結果はビンゴでしたが、犯人に結び付く伏線らしきものがなかったのが残念な点です。”深読み”はしないので気が付かなかっただけなのかもしれません(苦笑)。自分にとっての伏線とは”サラッ”と読んでいても「違和感を感じる」「印象に残る」という文章や出来事があることをいいます。例えば「ハサミ男」は伏線があったとは言い難い。印象には残らない文章(一行)であったということになります。「葉桜の季節・・・」には明確な違和感がありました。よって絶妙な伏線として評価するということです。以上を踏まえ、再読(伏線探し)はしませんが、続編の「検死審問ふたたび」に挑戦してみます。

No.4 7点 nukkam
(2014/09/03 17:20登録)
(ネタバレなしです) 1939年発表の本書は長編ミステリー第2作の本格派推理小説で法廷ミステリーでもあります。質疑応答場面は意外と少なく供述書や日記、被害者のメッセージ、スローカムたち陪審メンバー間の会話(とてもユーモア豊か)など手を変え品を変えのストーリーテリングが秀逸で一本調子になりません。途中(第三回公判期日)で推理小説批判をしているのも面白いです。後半は複雑な人間関係が明らかになってややごちゃごちゃしますが最後はしっかりと張られた謎解き伏線に基づく緻密な推理で真相が明らかになり、本格派好き読者を納得させてくれます。

No.3 7点 E-BANKER
(2012/05/02 23:31登録)
江戸川乱歩が1935年以降のベストテンのひとつとして挙げたことで知られる、古典的名作。
作者のワイルドはミステリー作家というよりは、劇作家として著名な人物。

~『これより読者諸氏に披露いたすのは、尊敬すべき検死官リー・スローカム閣下による、初めての検死審問の記録である。コネチカットの小村にある女流作家・ベネットの屋敷で起きた死亡事件の真相とは?陪審員諸君と同じく、証人たちの語る一語一句に注意して、真実を見破られたい』・・・達意の文章から滲む上質のユーモアと鮮やかな謎解きを同時に味わえる本書は、ワイルドが余技にものした長編ミステリーである~

1940年という発表年を考えると、たいへん斬新で面白い切り口の作品だと評したい。
劇作家が本職の作者ならではなのかもしれないが、とにかく登場人物たちが生き生きと描かれ、その人たちが発する言葉の1つ1つで性格や考え方が手に取るように分かるようになっている。
そして、何より秀逸なのが「構成の妙」だろう。
一見すると、全く関係のない身の上話や想い出話をしているようにしか思えない場面が続くのだが、後で読むと実は伏線が仕掛けられていたことが分かる・・・というのが何とも心憎い。
(個人的には、ある登場人物に対する見方が、前半と後半で全く異なっていることに違和感を抱き続けてきたのだが・・・やっぱりそこには仕掛けがあった!)

殺人事件の謎そのものはたいしたことはなく、死亡推定時間やそれに伴うアリバイといった通常の捜査手順はまったく踏まないという異例の展開。
その辺り、ロジックやトリックこそミステリーの醍醐味という読者にとっては、やや消化不良になる作品かもしれないが、さすがに乱歩が激賞しただけのことはある、というのがトータルの感想。
(ギャグのセンスも時代を考えるとなかなかのもの。ニヤッと笑わされるところが多い。)

No.2 7点 kanamori
(2010/08/03 21:58登録)
だいぶ前に新潮文庫版「検屍裁判」で読んだときには、評判のわりにあまり面白いと思いませんでした。その後、第2弾の「検死審問ふたたび」を読んで、予想以上にいい出来だったので、この復刊版で本書を再読しました。
やはりこの種のジャンルのミステリは翻訳に相当左右されますね、これはユーモア・ミステリの傑作でしょう。
証言する関係者たちの話がしばしば脱線するところが笑いのツボで、しかもその中にいくつもの伏線が埋められているのが巧妙です。審問の評決もなかなか見事な締めくくりでした。

No.1 8点 mini
(2008/10/23 11:03登録)
名前だけは昔から超有名作だが、マトモな完訳は初めてであろう幻の古典作品で、今年の新訳復刊の目玉と言っていい
幻の作品と言われるものには、いざ紹介されるとガッカリてなのも多いが、これは正真正銘の傑作
”ミステリーとはパズルでもいい”などと主張するような仕掛けの部分だけを抜き出して吟味するようなタイプの本格=パズル論主義者が読んでも面白くないだろう
謎解き部分だけを抜き出して吟味とかじゃなくて、謎が物語の中に絶妙に融合しトータルとして読んで面白いのだ
登場人物キャラでデコレートされているなどという頓珍漢な書評をする人もいるが、それは読みどころを間違えていて、人物キャラこそが読ませどころの中心なのは明らかだろう
ミステリーとは断じて単なるパズルではなくて、全ては書き方の問題だよなという良い見本である

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