陸橋殺人事件 |
---|
作家 | ロナルド・A・ノックス |
---|---|
出版日 | 1954年06月 |
平均点 | 5.56点 |
書評数 | 9人 |
No.9 | 5点 | クリスティ再読 | |
(2023/09/16 12:06登録) 「推理小説ファンが最後に行きつく作品」と作品紹介で書かれるような作品....というのは、ちょっとばかり「ウラ」がある。確かにミステリって「遊戯性」が大事であり、評者もそういう「遊戯性」を否定するなんて野暮なことだと思ってる。しかしこの遊戯性を突き詰めちゃうと、実のところパロディになってしまうから、意外にパロディでありミステリとしてもナイス、という作品が結構あるんだね。いやだから、本作はお気楽なイギリス紳士階級の「お楽しみ」としての、シャレのめしたパロディ・ミステリとして、1925年なんてまだ「ミステリの確立期」に出ちゃった問題作だったりするのだ。 四人組の探偵はゴルフ場のカントリークラブに居住するゴルフ仲間。教区の世話そっちのけのゴルフ狂の牧師、脱線ばかりの大学教授、元情報部員(笑)な遊び人、正体不明の男、とこのトンチンカンな四人組が、ゴルフのプレー中に見つけた死体の死の真相を巡って議論し冒険し...という話。 だからはっきり言ってオキラクゴクラク。あまり真面目に取り合ってはいけない話、というのをまず強調しないといけないんだろう。だから4人の推理は迷走に迷走を極めて、最後は当然「教訓」を得ちゃう。でも時刻表が載っていたりして「時刻表ミステリ」。いやしっかり時刻表ベースの推理が披露されたりするからねえ。 まあだから本作、ミステリの系譜と同時に、イギリスのユーモア小説の系譜にしっかり連なっている作品だと思うのがいいようにも感じる。ウッドハウスとか「ボートの三人男」とかね。クライマックス?の章が「ゴードン、哲学談議で慰める」であり、これに「読者へ―この小説が長すぎて退屈したときは、本章は省いてもよろしい」と原注がついているようなものである。 お笑いには確実に自らを笑う「メタ」が含まれているんだよ。 |
No.8 | 6点 | 弾十六 | |
(2021/12/09 04:53登録) 1925年出版。昔読んだ創元文庫が見当たらず、グーテンベルグ21の電子本で買いなおしちゃいました。翻訳はどちらも宇野先生で、多分中身は同じはず。いつものように立派な翻訳です。 この作品、巷ではたいそうなキャッチフレーズが付いてますけど、作者の初お気楽小説なんだから、そんなに肩肘張る必要は全くなくて、しかも1925年という黄金時代でも結構早い部類。読み終えた感想としては『木曜』(1908)、『トレント最後』(1913)、『赤い館』(1922)のライン(特に後者2作品)、いずれも作者は「真面目に」探偵小説を書く気なんて全く無い。いずれも探偵小説が大好きなのは間違いないけれど。本作は楽しいパロディですよ、というのが最初からあからさまですよね(特に第一章の探偵小説談義)。 さてノックスさんは英国カトリック転向作家の一人。こちらはノックス(1917)、チェスタトン(1922)、グレアム・グリーン(1926)、イヴリン・ウォー(1930)というライン(イヴリンさんはよく知りません、すんません)。その中でノックスさんが一番、実生活では宗教的だったのですが、小説には宗教風味を持ち込んでいないように思う。まあでも立場上なのか性格なのか探偵小説は穏当な作品ばかりだと感じています。少なくとも意地悪とかひねくれてるとかいう作風じゃない。歪んでいないバークリー、というキャッチフレーズで如何でしょうか。 本作について言えば、のちのブリードンものに比べても軽い気楽な世界を目指している。古き良きイングランドへの想いと新流行のゴルフやブリッジに興じる紳士たち(JDCがゴルフもブリッジもやんねーよ!ありがたいことに!と書いたのは1932年、それに対して流行に敏感なお嬢さまアガサさんはゴルフもブリッジも大好きだった。サーフィンを本格的にやった初期の英国人女性でもある)。本作は推理ものとしての醍醐味、奇想天外な理論も出て来るので本格ファンにも楽しい話に仕上がってると思います。結末に不満な人は多いでしょうけど。(私もやや不満派、ただしなんか匂わせてる気もするんですよ… まあでもピンと来ないからそういう意味ではないと思いますが) 以下トリビア。 作中時間は十月十六日(p33)に始まり、「十月十七日水曜日(p46)」と明示されているので 該当は1923年。「ある少年(p23、後述)」の話題が前後しちゃうのですが、まあ良いでしょう。 冒頭、ガボリオ『ルコック探偵』からの引用あり。私が参照した原文(Orion House The Murder Room 2012)には載っていませんでした。さらに初版Methuenの写真を見ると献辞もありそう(Tony Wils…さんに捧げられているようなんですが、文字が切れてて読めません)。(追記2021-12-10: 初版本の書影を色々検索したらebayで見つけました。Dedicated by command / to / Tony Wilson 「ご下命により捧ぐ トニー・ウィルスン様へ」みたいな感じ?誰だかは調べつかず) p4/311 情報について言えば、真実らしきものを疑い、真実らしからざるものを信じてかかるのが要諦である。 ──ガボリオ『ルコック探偵』♠️未読なので、引用元は調べていません… (追記2021-12-10: In the matter of information, above all, regard with suspicion that which seems probable. Begin always by believing what seems incredible —— Gaboriau, Monsieur Lecoq) (追記2021-12-11: 引用元を調べました。“Monsieur Lecoq”(1868) Chapitre 14から。≪En matière d’information, se défier surtout de la vraisemblance. Commencer toujours par croire ce qui paraît incroyable.≫ ここではルコックが名声を成した原則として紹介されている。フランス語の感じだと「情報の取り扱いは、本当らしく思われる解釈にすぐに飛び付くなかれ。信じられないようなことでも信じることから常に始めよ」あたりか。宇野先生の翻訳だとチェスタトン流の逆説みたいだが、実際は「事実に即してまずは受け止め、安易な判断をするなよ」という当たり前のルール。なお、フィルポッツ『レドメイン』(1922)にも「ガボリオがどっかで言ってたが… 」と全く同じ文句が引用されていた) p10 戦術にいう中空方陣(hollow square)♠️最近たまたま観た映画The Light That Failed(1939; 原作はキプリング 1891)に出てきたような陣形なのかなあ。 p15 『緑の親指の謎』(The Mystery of the Green Thumb)♣️『赤い拇指紋』(1908)を連想しちゃいますよね。 p15 最近の靴屋どもはしめしあわして、人類の足のサイズは六種類にすぎぬと思い込ませようとしている。アメリカからそのサイズばかりが輸入されてくるので、われわれイギリス人はその均一サイズに足を合わす努力を強いられている(The bootmakers have conspired to make the human race believe that there are only about half a dozen different sizes of feet, and we all have to cram ourselves into horrible boots of one uniform pattern, imported by the gross from America)♠️原文では「米国からグロスで」とあって、大量生産ものが流れ込んでくるイメージ。なお靴のUSサイズとUKサイズは異なるので、多分UKサイズ表示のものを米国で生産して輸入してる、ということだろう。第一次大戦後は米国が世界の工場となったのだ。 p18 検死審(インクエスト)♠️「検死審問」という翻訳語より好き。こっちを定訳にして欲しい。別名coroner’s courtは「検死官審廷」が良いなあ(裁判ではないので、法廷とは言いたくない)。いずれインクエストについてはガッツリ書く予定… p23 かつてアメリカのある少年が、人を殺したらどんな気持ちになるかを知りたいだけで、友人を殺してしまった事件がある(Look at those two boys in America who murdered another boy just to find out what it felt like)♠️原文の書きっぷりだと完全にLeopold and Loeb事件のこと。事件発生及び世紀の裁判の判決はいずれも1924年なので、この会話が1923年になされているのはおかしい。翻訳で「二人の」を省くのはどうかなあ、another boyは「友人」じゃないし… p28 キャディ♠️少年がやっている。p103も参照。 p31 二シリング銀貨(two florins)♠️当時のフローリン銀貨はジョージ五世の肖像、1920-1936発行のものは.500 Silver, 11.3g, 直径28.3mm。英国消費者物価指数基準1923/2021(63.51倍)で£1=9909円。2d.=991円。 p33 腕時計と懐中時計(a stomach-watch… a wrist-watch)♠️”stomach watch”でググっても懐中時計としての用例が全然出てこない。死語なのか?本書だけの造語なのか? p34 当時はすでに警察官がオートバイを使用していた(for they have motorcycles even in the police force)♠️米国では1908年採用のようだが、英国の開始年は不明、第一次大戦後のようだ。「サイド・カー付きのモーター・バイク(“a motor-cycle, with side-car” p175)」も出てくる。 p40 四シリングあれば、三等じゃなくて、一等乗車券が買える(That extra four bob would have got him a first instead of a third) p42 デイリー・メイル p42 身なりから見て、家に電話を備えている(A man dressed like that would be sure to have a telephone)♠️英国での電話普及率は低かった。Charles Higham “Advertising: Its Use and Abuse”(1925)によると「電話機の普及率は英国では47人に1台、米国では7人に1台、オセアニアでは12人に1台」、ノックス『まだ死んでいる』(1934)でも家族に勧められて嫌々ながら家に電話を引いた地方の名士が登場していた。そこから考えると、ここは「こーゆー(新し物好きそうな感じの)身なりなら電話を引いてそう」というニュアンスか。 p46 ロンドン・ミッドランド・アンド・スコットランド鉄道会社(London Midland and Scottish Railway)♠️「ロンドン・ミッドランド・アンド・スコティッシュ鉄道」でWikiに項目あり。全国300ほどの鉄道会社を4企業体にまとめる大合併で1923年1月1日に成立。 p48 hem(ハム)と書くつもり♠️誤植?原文”ham” p51 自殺者をうちの教会の墓地に埋葬するわけにいかない(suicide; and then I can’t bury the man in the churchyard)♠️2015年のデイリー・メイルの記事で、ようやく英国教会が公式に自殺者であっても教会の聖別された墓地に埋葬することを認めた、とあった。従来も非公式に各教会が独自判断で実施していたらしいのだが、公式見解は「自殺者の埋葬は夜中にキリスト教の儀式なしで、教会墓地の外側に」というものだったようだ。なお後段(p101)に出てくるが、精神が正常でない状態での自死の場合は教会墓地に埋葬可能。 p54 デイリー・テレグラフ p60 アメリカの生命保険会社と契約しておったらしい。あちらの会社は、わがイギリスのと違って、そう簡単には保険金を支払おうとしない。徹底的な調査を行なうのだ(was insured at one of these American offices. And they’re a great deal more particular than our own Insurance people)♠️ノックスの後のシリーズ探偵ブリードンは保険調査員。確かにブリードンはゴリゴリの厳しい調査をしてない感じ。 p61 母斑(birth-marks)♠️英Wiki “birthmark”参照。ここでは死体の身元確認に使っている。 p63 聖ルカ祭の日♠️the Feast Day of St. Luke(October 18th) p71 ミス・コレリ著の『サタンの悲しみ』(The Sorrows of Satan, by Miss Corelli)♠️ The Sorrows of Satan is an 1895 Faustian novel by Marie Corelli(1855-1924). It is widely regarded as one of the world's first bestsellers、書名も作者も英Wikiに項目あり。通俗小説作家でよく売れていたようだ。『ヴェンデッタ』(1866)が有名らしい。 p72 J・B・S・ワトスン著『人格の形成』(Formation of Character, by J. B. S. Watson)♠️Formation of Character by Rev J. B. S. Watson (London, H. R. Allenson 1908)、調べたが、これ以上の情報が無い。Revなので宗教関係者だろう。 p72 六ペンス(sixpence) p81 アイルランド語はラテン語と同様に、《イエス》《ノー》にあたる語彙を欠いている(Yes, or No…. there is no native word for either in Irish, any more than there is in Latin) p87 五十ポンドの賞金のかかったゲーム(for fifty pounds)♠️ゴルフの試合 p98 次の日の午後(木曜日の午後である)、パストン・ウィットチャーチの小学校で、検死審が開かれた(inquest was held on the following afternoon (that is, the afternoon of Thursday) in the village school at Paston Whitchurch)♠️インクエストは必ず公開され、広い場所で開かれる(パブが多かったようだ)。48時間ルールも伝統か。 p100 次の部屋に死体が安置(about the mangled temple of humanity that lay in the next room)♠️当時のインクエストでは陪審員が死体を実見する(view the body)慣習があったようだ。なので48時間以内に開催されるのかも。 p101 望みは考えの父(the wish is father to the thought) p111 カウンティ・ヘラルド(County Herald)♠️地方紙っぽい名前。 p115 ブリッジ p128 モメリーの『不滅の生命』(Momerie’s Immortality)♠️Alfred William Momerie(1848-1900) “Immortality; a series of 35 chapters” (1904)か。説教集のようだ。(追記2021-12-10: Internet ArchiveにGoogle複写のこの本(表紙の一番上に”First Cheap Edition - Sixpence”と書いている)のファクシミリ版があって、本書のやり方を試してみたらピッタリ… と思ったら6番目以降はちょっとズレてて10番目は欠だった。残念。実際にやってみると夢中になっちゃいますよね) p134 イギリスの文化人の多くは火葬を希望するようだが、その気持ちは了解できる(One understood why people wanted to be cremated)♠️ 当時(1925)の英国(イングランド及びウェールズ)の火葬率は0.5%、1%を越えたのは1932年で、10%を越えたのは1947年。1967年には50%を越え、2020年には81%となっている。続く文章に出てくる村人との対比で「文化人の多く」と訳したのだろうか。試訳: 火葬を希望する人の気持ちはわからんでもない。 p142 ペジーク(bezique)♠️「べジーク」トランプ・ゲーム。 p150 希望と栄光の国(Land of Hope and Glory)♠️英国の愛国歌。曲Edward Elgar(1901)、詞A. C. Benson(1902) p152 狩りの古謡のもじり♠️ここは宇野先生の補い。ここら辺の歌は実はみんな元ネタがあるのかも。難しいのでパス。これだけ原文をあげておきます。 “Yes, I ken that chest, it’s as full as can be With my own odds and ends, and it’s all full of drawers, And the key’s on the mantelpiece if you don’t believe me With his hounds and his horn in the morning” 探すとJohn Peel(Roud 1239)という歌があって、なんか似てる。ジョン・ピール(1776-1858)はカンブリア地方の狩人。 “D'ye ken John Peel with his coat so gay, D'ye ken John Peel at the break of the day, D'ye ken John Peel when he's far, far away, With his hounds and his horn in the morning?” p156 アニー・ローリー p172 ぼくの車♠️相変わらず車種やメーカーに全く興味のないノックスさん。「楽に五十マイル出る」車らしい。 p205 このローカル線の乗客は、持っているのが三等切符なのに、列車が混みだすと、平気な顔で一等車に入り込む(because lots of people on this line travel first on a third-class ticket when the trains are crowded) p217 《出席調べがすんだ》(これはオックスフォード大学の学生用語である)(“kept a roller” (in Oxford parlance)) p217 文字謎遊び(アクロスティック)♠️ アクロスティックと言えばルイス・キャロル(ああ苦労す知句!)とか『赤毛のレドメイン』(1922)を思い出す。クロスワードの英国での流行は1924年から。セイヤーズのクロスワード短篇ミステリは1925年。 p224 ワーカーズ・アーミー・カット(Worker’s Army Cut)♠️ポピュラーなパイプタバコの銘柄のようだが調べつかず。 p235 讃美歌「主よ、みもとに近づかん」(Nearer, my God, to Thee)♠️詞Sarah Flower Adams, 曲はJohn Bacchus Dykes(1861 Horbury, 英国で主流)、Arthur Seymour Sullivan(1872 Propior Deo, 英国メソディスト)、Lowell Mason(1856 Bethany, 英国以外で主流)の3種類あるようだ。ここはDykes版か(某TubeではGuildford Cathedral Choirなどで聞ける)。 p260 通話管(speaking-tube)♠️昔はお屋敷だったのを改造した建物なので、元々は召使いへの連絡用として設置されていたものか。 p270 『万事露顕せり。急ぎ逃亡せよ』と電報を打った男(like the old story of the man who telegraphed to the Bishop to say ‘All is discovered; fly at once.’)♠️このエピソード、Webで検索するとコナン・ドイルかマーク・トウェーンの悪戯として有名らしい( どちらも12人に送ったら全員逃げて行方不明になった、誰にでも脛に傷があるよ、というネタ)。シャーロック聖典にも似たような電報があった記憶… 『グロリア・スコット』(1893)だっけ?(そこでの文面はThe game is up. Hudson has told all. Fly for your life.) 元ネタを調べた人がいて、Tit-Bits紙1897-9-18に、コナン・ドイルの友人がa venerable Archdeacon of the Churchに、ふざけて‘All is discovered! Fly at once!’という電報を送ったら、その尊いお方が行方不明になっちゃった、という悪戯の記事が見つかった。(arthurcdoyle.wordpress.com) なおノックスの原文には「主教に電報を打った」とあり、Tit-Bitsのarchdeacon(bishopの次の階位)と呼応している。 p276 診察料の二ギニー(a couple of guineas)♠️精神科(a sort of nerve man)の一回分の料金。 p293 チッキは日本でも国鉄が行っていた小荷物輸送サービス。1987年終了。私は使ったことは無かった。 |
No.7 | 5点 | nukkam | |
(2016/09/22 02:09登録) (ネタバレなしです) 推理小説作家の中には色々な職業との二足のわらじを履いている人が少なくありませんが英国のロナルド・A・ノックス(1888-1957)は聖職者として英国国教会でナンバー2ぐらいの地位にまで昇りつめたそうです。そんな超大物が数少ないながらもミステリーを書いているのですからさすが英国です。その作風は宗教臭さもなくお堅くもなく、むしろ独特のユーモアに溢れた本格派推理小説です。1925年に発表されたデビュー作の本書は6作書かれた長編中唯一シリーズ探偵が登場しない作品です。創元推理文庫版で「推理小説ファンが最後にいきつく作品」と謳われていますがある意味これは正しいと思います。しかし「古典的名作」と評価するのには共感できません。「古典的」というのはスタンダードとして推奨できる作品にこそふさわしいと思います。本書は伝統的なフーダニットミステリーからかなり逸脱したプロットになっていて万人向けとは言えず、好き嫌いが分かれそうな作品です。私のような未熟な読者ではその良さを十分楽しめるに至りませんでした。 |
No.6 | 7点 | りゅうぐうのつかい | |
(2016/07/16 20:21登録) ゴルフのプレー中に発見された、顔のつぶれた謎の死体。ゴルフ仲間4人は、警察が自殺として処理したことに不信を抱き、素人探偵よろしく調査に乗り出す。 自殺・他殺・事故死のいずれか、死人は誰か、被害者の殺された場所はどこか、被害者はどの列車に乗っていたのか、動機、被害者のポケットに入っていた手紙に書かれていた2つの暗号の謎、腕時計と懐中時計の指示時刻の食い違いの謎、定期券を持っているはずなのに三等乗車券を買っていた謎、別人のハンカチを持っていた謎、現場近くで見つかったゴルフボールの謎、暗号文がいったん盗まれて戻された謎、女性の写真が入れ替わった謎等々、様々な謎が示され、4人の間で推理が戦わされ、仮説が示され、それを調査する課程が丁寧に描かれており、好感が持てる。 推理の中身は思い込みによる仮説にすぎないのだが、途中でカーマイクルが示した仮説は意表を突くものであり、驚かされた。 また、最後の方で示されたリーヴズの推理に対するゴードンの反証は論理的で、的を射たもの。 暗号の謎の真相は、当時の英国でこのようなことが流行していたのだろうか、日本人には到底推理できるものではないのが残念。 本格ガチガチの進行の中で、うっちゃった真相には賛否両論ありそうだが、個人的には支持したい。 最後のカーマイクルの手紙の中で示唆されている、ある人物の役割が意味深。私は、3分の2まで読んだ時点で、この人が犯人だと予想していた。 |
No.5 | 5点 | ボナンザ | |
(2016/01/11 12:49登録) 十戒を尊重しながらもその裏をかいたことで有名な古典作。 今読むと古めかしいのは否定できない。 |
No.4 | 7点 | ロマン | |
(2015/10/20 19:58登録) あのノックスの十戒を作った作者らしい、探偵小説の手法でもって探偵小説のいびつさを笑うユーモアミステリー。事件関係者の迷惑も顧みず、警察への反発もあらわに行われる素人探偵行為により発見される新たな事実。しかしそれらはことごとく道化であり、結局は自分の推理に振り回されて存在しない影を追うだけのもの。より意外な方が真実らしい、というミステリーのお約束を痛烈に皮肉る、本当にすれっからしのファン向け作品。名作と言うより古くからある伝統の珍味といった感じだ。 |
No.3 | 5点 | 斎藤警部 | |
(2015/05/19 16:33登録) なんだかよく分かりませんでした。企画意図は分かりますが。。 頭のいい人が面白い企画を実行に移しても、うまく行くとは限らないんですかねえ。 でもエンディング近くまでは「何か想像を絶する展開が待ち受けているに違いない」と結構わくわくしながら読めたし(ある意味待ち受けていたんですが)、旧き英国風景を感じさせる流石の文章力も手伝って、決して捨てたもんじゃない読書体験をさせてくれました。 年とってから再読するために長生きしようっと。 |
No.2 | 6点 | E-BANKER | |
(2012/07/26 22:13登録) 「ノックスの十戒」で有名な作者の処女長編作品。1925年発表。 『推理小説ファンが最後に行き着く作品』とのことであるが・・・ ~ロンドンから汽車で1時間というイングランドの一寒村。そこのゴルフ場でプレー中の4人組は、推理小説談義に花を咲かせていた。たまたまスライスした打球を追ううちに、鉄道の走る陸橋から落ちたとおぼしき顔のつぶれた男の死体を発見する。被害者は倒産状態にあり、自殺、他殺、事故死の三面から警察の捜査が始まった。だが、件の4人は素人探偵よろしく独自の推理を競い合い、この平凡に見える事件に四者四様の結論を下していく・・・~ まずまず面白いのではないかと思えた。 最終的な真相が「腰くだけ」気味なのは確かで、さんざん持って回ったような推理をしておいて「それはないだろう!」という気にはさせられる。 4人組がそれぞれ推理合戦を行うというプロットは、バークリーの諸作を髣髴させるのだが、それほどの「企み」は感じない。 そもそもダミーの推理自体、かなり信憑性に欠けるものであるため、説得力がないのが致命傷ではある。 (ある女性の写真が無表情から笑顔に変わった謎に対する答えだけは個人的に感心) まぁでも全体的には、なかなか愉快な作品だとは思う。 「狂言回し」的な役割を務めるリーヴスとゴードン、最終的な探偵役となるカーマイクル、そして○○○のマリオット。 登場人物たちも愛すべきキャラクターだし、素人探偵らしい丁寧な捜査&推理も好ましい。 (「謎の暗号」の真相は如何なものかとは思うが・・・) ということで、著名作として読んでおいて損のない作品という評価。 (創元文庫の復刻フェア版にて読了。でも、何か変なラインナップだな) |
No.1 | 4点 | kanamori | |
(2010/08/07 13:52登録) ゴルフ仲間の4人が、プレー中に発見した「顔のない死体」と暗号のようなメモを基に推理合戦を展開する。 探偵役が筋違いの解答を提示していくプロットはアンチ・ミステリを志向しているバークリーの諸作を彷彿とさせますが、ダミーの解答であってもある程度説得力や面白味がないとダメでしょう。 提示された証拠が意味がないものであったり、真相がヒネリのない尻すぼみで終っておりイマイチの内容です。 11番目の戒律 探偵小説の真相は、ある程度ひねりのあるものでなければならない。 |