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ミステリの祭典

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フランス白粉の秘密
エラリイ・クイーン、国名シリーズ 別題『フランス・デパート殺人事件』

作家 エラリイ・クイーン
出版日1961年03月
平均点6.48点
書評数29人

No.9 8点 好兵衛
(2012/04/02 22:03登録)
面白かったです。
ロジック小説が好きな私にはたまりませんでした。

物語は相変わらず少し読みにくく、
ロジックの細かい所が読み取りずらいという
点もあったものの。
(数点実際読み間違えて、犯人を間違えてしまった)
最後の謎解きはとてもスッキリさせられました。

じわじわとしぼりつつ、本一点のくだりは
エラリーの論理の醍醐味だと思いました。
私は物語性や動機は重視しないので
国名シリーズは初期の方が好みですね。

No.8 5点 HORNET
(2011/09/18 21:34登録)
 国名シリーズ第2作。百貨店社長サイラス・フレンチの妻、ウィニフレッドが,衆人注視のデパートのウィンドウで死体となって出てきた。事件当日から姿を消しているウィにフレッドの娘・カーモディ,明らかになるその素行,アパートに残された統一性のない書籍,ブックエンドの白い粉・・・さまざまな要素をつないで推理を組み立てるエラリイ―。
 劇場型的な事件の幕開けに本格志向の期待が高まったが、その後の展開は正直そこそこ。些細な異変に目を向け、そこから推理を組み立てるエラリイの知見には圧巻だが、物証から人物の限定へと進む過程に大味さを感じる(つまり「このことができるのはこの人しか・・・」の部分が完全に物理的ではない気がする)が、時代を考えればいたしかたないかも。
 少なくとも本格黄金期を飾った作者の名には恥じない、よく組み立てられた話であったことは間違いない。

No.7 6点 りゅう
(2011/06/19 14:17登録)
 殺人事件は1件だけで、地味な操作過程が延々と続き、やや単調な印象は否めません。しかしながら、出入りが管理されている夜間のデパートで犯人がどのように出入りし、また、なぜ壁寝台の中に死体を隠したのか、という謎は魅力的に感じました。作中で、エラリーが「この事件には実にたくさんの枝葉があります」と語っているように、事件にまつわる数多くの証拠が示され、それが事件の解決にうまく活かされているのも好印象です。「Zの悲劇」と同様に、最後に関係者を一堂に集めて、消去法で犯人を絞り込むロジックが披露されるのですが、やはり、このロジックには必然性が欠けていて、不満に感じました。最後に、クイーン警視が「法的根拠はない。山勘があたった。」と言っているのですが、そのとおりでしょう。


(完全にネタバレをしています。要注意!)
・ エラリーは、書斎の5冊の本が入れ替わっていることに犯人が犯行当日まで気付いていないことから、過去5週間に書斎には一切入室していない人物が犯人でであると結論付けているのですが、根拠が弱いと思います。書斎の持ち主であるサイラス・フレンチ氏でさえ、本の入れ替えには気付いていなかったのですから。
・ エラリーは、いくつかの条件を挙げて犯人を特定しているのですが、この条件に当てはまるのは本当にこの人物だけでしょうか。デパートの他の探偵でもこの条件に当てはまると思うのですが。
(Tetchyさんの疑問について)
「フレンチが置いていた本は、夫人が殺されて血痕が付いたために処分されたのではなかったのか?」
 犯人は、本の処分は行なっていません。犯人は、ブック・エンドのフェルトに血痕が付いたので、フェルトの取り替えは行なっていますが、本の入れ替えは行なっていません(本には血痕が付かなかったということでしょう)。本を入れ替えたのは、秘書のウィーヴァーです。「27 6番目の本」の章の真ん中あたりで、ウィーヴァーが「ぼくは、書物が手にはいると、そのたんびに、老人のブックエンドの間にそのまますべり込ませておいたんだ。同時にまた冊数を同じにしておくために、老人の本を1冊ずつ本立からひっこ抜いては、本棚のなかのがらくた本のうしろにかくしておくようにしていた。」と言っています。
「そして腑に落ちないのは、本を麻薬取引の連絡として利用した点。(中略)百貨店の広大な本屋の中でただ曜日の頭文字と同じという手掛かりだけで1冊の本を探し出すというのはかなり骨だし、相手が見つける前に誰かがそれを買ってしまう恐れがあるだろう。」
 「28 ほぐれる糸」の章で、「スプリンジャーが閉店後に本に連絡事項を書き込み、あらかじめ決められた書棚に置いておく。次の朝、使いの者は出来るだけ早く来て本を購入すれば良い。」旨のことを、エラリーが説明しています。

No.6 8点 smile66
(2011/02/28 00:16登録)
オランダ靴よりかなりこっちの方が好み。
色々な物証が発見されてそれが繋がっていくのはかなり心地いい。
ロジックも素敵です。

No.5 8点 ミステリー三昧
(2010/08/12 21:25登録)
<創元推理文庫>国名シリーズの2作目(長編)です。
読んでいる間は、前作と殆どプロットが変わらず退屈でした。変わった点は捜査現場が「劇場」から「デパート」になったことぐらいですかね。物語に起伏がないのは小説としては致命的でさすがはパズラー小説といったところ。ただ「読者への挑戦状」以降のクオリティーが凄まじく変化しました。もう二作目にして、イメージに近いガチムチフーダニットを楽しむことができた点は、物語のつまらなさを相殺してでも評価したいです。関係者全員を一か所に集めて、目の前にあるいくつもの手掛かりを披露しながら犯人像を浮き彫りにしていく。そして、その条件をもとに消去法推理でたった一人までに絞り込む過程は、これ以上何も望むことがなく私的には最良のパフォーマンスだと言えます。贅沢を言えば、もうちょっとコンパクトにまとめてほしいかな。犯人の名をすぐには明かさず、結構引っ張ってくるので少しじれったい。最終的にクイーンのやりたかったことが分かるのですが、ラストの消去法推理でテンポが狂った気がします。この作品のキモである「白い粉」からのロジックに対してモヤモヤとするモノがありました。

No.4 7点 E-BANKER
(2010/07/05 00:12登録)
国名シリーズの第2弾。
舞台はNY繁華街の老舗デパートのショーウィンドウ。
と、なかなか派手な舞台が用意されますが、エラリーの捜査は割合オーソドックスなものです。
本作品の白眉は、殺人現場に残された数々の意味ありげな”証拠品”を、エラリーがいかに推理していくかというところでしょうか。
エラリーの「演繹的推理手法」により、証拠品が1つ1つ検討され、条件を満たす人物が最終的に真犯人として指名される最終章は、「やっぱりクイーン!」と唸らされるものがあります。
難を言えば、やっぱり「動機」ですかねぇ・・・
作品の途中で、エラリー自身も「この犯罪については動機を重要視していない」というような発言をしていますが、真犯人と動機を結びつける”線”が弱すぎる気がして、消去法ではそうだとしても、読了後なんかモヤモヤ感が残ってしまいました。
ただ、良作には間違いないと思います。

No.3 8点
(2008/12/11 21:12登録)
最後に延々40ページにもわたって披露される推理の一部は、既に小説半ばまででクイーン警視に対して説明されているのですが、重複を厭わず、事件関係者全員を集めた場で繰り返されます。好きな人には、このくどいぐらいの論理性がたまらない、ということになります。似たところのある後の『Zの悲劇』では省略されていますね。
ただ、犯人を直接的に指し示す手がかりは2つあるのですが、犯人の名前を言わないままで、それらの手がかりから導き出される推理を述べるところは、さすがにちょっと歯切れが悪くなっていると思います。歯切れが悪くなってでもあえてクイーンがやろうとしたことは、小説のラスト1語(姓・名分ければ2語)で初めて犯人の名前が明かされる、という趣向でした。

No.2 7点 あい
(2008/12/04 13:44登録)
犯行現場の特定はエラリーの推理がなくても、普通に分かりそうだが・・・。犯人を限定する論理は弱いもので、特に指紋を検出する粉に対する論理は何の証拠にもならない。しかし事件自体は興味をそそられるものだったので、全体的にはまぁまぁといった感じ。

No.1 6点 Tetchy
(2008/08/16 20:53登録)
読者への挑戦状以降、怒濤の如く繰り広げられるエラリーの論証を読んだばかりで、しかも想定していた犯人と違っていたこともあり、正直戸惑っている。
以下、グチにも似た感想(思いっきりネタバレ)。









正直、私は犯人はゾルンだと思った。
被害者であるフレンチ夫人は口紅を塗りかけた途中で殺されていたからだ。しかも死亡推定時刻は深夜0時。そんな就寝するような時間に口紅を塗るならば、それは恋人、もしくは浮気相手に会う、もしくはお客に会うぐらいしかないからだ。
そして深夜に会うとなればやはり恋仲だろう。そしてゾルンはフレンチ夫人と密通しているという事実がある。
そしてゾルンは重役の1人だからアパートに出入りしていても何のおかしくもない。明朝の会議に出席するのに、百貨店の中から出社すればいいだけのことである。
とまあ、こんな感じに推理を組み立てた。

しかし、今回の真相は違った。
フレンチ夫人は娘の麻薬常習を直すため、あえて麻薬組織の男と会って娘に一切関わるなと忠告して、殺されたというものだ。

そしてこれを立証するのに、麻薬組織が取引場所の連絡として利用した本の件がある。
これはフレンチ百貨店内の書店の主任が麻薬密売組織の手先の1人であり、その連絡方法として曜日の頭の2文字と同じ綴りを持つ著者の書物の背に鉛筆で取引場所を書いて、他の手先がそれを探し出して、その本を買って情報を手に入れるというシステム(このシステムにも疑問が残る。後で述べる)というもので、それをフレンチの秘書のウィーバーが見つけ、副本をこっそりと持ち去り、フレンチのデスクに置いていたという物だ。そしてそれは5週間に渡る連絡先であり、いつもこの部屋に出入りする人物ならば、それが次回の麻薬取引について致命的であることに気付くだろうから、いつも出入りしている重役連中、秘書は容疑者から除外されるというもの。

これが全然納得行かない。

フレンチが置いていた本は、夫人が殺されて血痕が付いたために処分されたのではなかったのか?
そのために代わりの本としてちぐはぐな本が置かれ、それが件の麻薬取引に使われた本だったのではないか?
そして今回私が推理した点でどうしても噛み合わなかったのがこの点。
犯人が血痕の付いた本を処分しているのに敢えて麻薬取引連絡用の本を代用して置いたのかが全くわからなかった。どこか私は読み違えているのだろうか?
血痕のためにフェルトを交換したブックエンドに支えられていた本とこれは別物なのか?

つまり今回の犯人追及は消去法によって単純にそれら色んな状況を考慮して容疑者の対象から外れた者で残った者は誰か?というだけに過ぎない。
そしてそれを決定付けるのが題名にもなっている「白粉」すなわち指紋検出用の白い粉である。
これなんかそれこそ百貨店でも手に入るのではないだろうか?
そんなに特別な物なのだろうか?

かてて加えて、捜査方法についても2,3つ疑問がある。

まず、現場に残された煙草の吸殻を見て、エラリーがその特徴的な銘柄から、所有者であるバーニスが現場にいたと示唆する点。
これは現在ならば、早計という物だろう。DNA鑑定はなかったにしろ、唾液から血液鑑定をして人物を特定するのがセオリーだ。

次に鑑識による指紋の調査において、現場にクイーン警視の指紋が残されていたと云うシーンだ。
これは明らかにおかしいのでは?
指紋による人物の特定方法が確立されていたのならば、捜査官は自分の指紋を現場につけないよう手袋をするが常識である。これは犯罪を題材に扱いながら、クイーンが、実際の警察の捜査状況を全く知らなかったのではないだろうか?それともこれが当時は常識だった?

3番目は殺害場所の特定方法について。
今回の被害者は致命傷である部位が、損傷したら多量の出血を伴うのに、現場には血痕がさほど残っていなかった事で、他の場所で殺されて、発見現場に遺棄されたことになっている。殺害現場として目星をつけたアパートに行くのだが、全くルミノール反応を使った捜査が行われないのだ。

この辺の事情に関してはクイーンの作品を読むのにこだわらない方がいいのか?
読んでいると単純に事実から真実を導く論理的解決のみが行われており、通常捜査のセオリーが全く出てこないのだが。

そして腑に落ちないのは、本を麻薬取引の連絡として利用した点。上にも述べたがあのシステムはちょっと無理があると思う。
情報交換として利用された本はジャンルも版型も違う。百貨店の広大な本屋の中でただ曜日の頭文字と同じという手掛かりだけで1冊の本を探し出すというのはかなり骨だし、相手が見つける前に誰かがそれを買ってしまう恐れがあるだろう。
作者は連絡を取る前日の夜に情報記入をしており、他の誰かが買って持っていかれるのにも慎重を期していると書いていたが、素直に頷けない。1930年当時は現代ほど本はなかっただろうが、それを差し引いても、これは帰納法に基づく推理の典型的なミスではないか?
主人公同様、蒐書家の作者が本を使ってこんな犯罪を考えましたと、披露したかったようにしか思えなかった。


とまあ、ぐだぐだと長く書いたが結局は悔しさのあまりのグチにしか過ぎないのだろうな。
次作にてリベンジ!

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