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Tetchyさん
平均点: 6.73点 書評数: 1567件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.41 7点 朱房の鷹- 泡坂妻夫 2017/08/06 23:10
宝引きの辰も実に久しぶり。しかしそんなブランクもひとたび捲れば粋な江戸の世界へ迷い込み、ご用聞きの辰親分の人情味溢れる采配に思わずひゅうと口笛を吹きたくなる。

1話ごとに語り手が変わる手法も相変わらずで、1話目は辰親分の子分算治、2話目は事件の舞台となる内田屋の使い伊吉、3話目は仕立屋の沼田屋の若旦那、4話目は噺家の可也屋文蛙、5話目が経師屋の名川長二郎、6話目が木挽町の建具屋の久兵衛の弟子の新吾、7話目は神田鈴町の畳屋現七の弟子勇次、最終話は小日向水道町で駿河屋という乾物屋をやっている弥平と算治を除いて全て商人の目線で語られる。そのいずれもが宝引きの辰の評判を褒め称えていることで辰が腕利きの岡っ引きであることが解るのである。特に本書では娘のお景のお転婆ぶりと妻の柳の器量が垣間見え、この親分にしてこの母娘ありとどんどん人物像が厚くなっていくところがいいのだ。

さてこれら8編の中には過去の因果が関係している話が少なくない。今もそうであるが日本人というのは過去の因果というのをいつまでも大事にし、またそれを信じることで目の前に起きている不吉事を擬えて安心を得ようとする民族であることが解る。特に様々な事柄や屋号についても掛詞に興じていた江戸町人などはその最たるものだったのではないだろうか。

しかしほとんどが男と女の恋沙汰に絡む因縁に絡んだ事件である。現代とは異なり、言葉や柄、そして因習や慣習を重んじ、更に家業が宿命とばかりに人生を束縛するこの時代、色んなことを諦めざるを得ないのが通例だった中で、どうしてもそれが諦めきれなかった人々がこのような事件を起こす。しかしそれは人間が生きる上でごく普通に主張されるべき権利だったのだ。泡坂氏の各短編には江戸の町人文化と当時の地名や風習が実に色鮮やかにしかも丹念に描かれ、江戸の風流を感じさせるが、一方でその風流さが生きにくい時代の中で見出した娯楽であったこと、そんな中でもがき苦しむ人々がいた事。しかしまた生きにくい時代を愚直に生きる人々にまた素晴らしさを感じるのだ。そんな光と影を映し出している。

さて本書における個人的ベストは「墓磨きの怪」を挙げたい。闇夜に乗じて方々の寺が墓が磨かれているという奇妙な導入部の謎よりもこの話で出てきた正直者の「だからの昇平」が実に魅力ある。騙されているのを知らずに最後まで愚直に墓磨きを続ける、間の抜けた、しかしお人よし。こういう男は放っておけないのだ。
次点は「角平市松」。これもまた商売などは二の次でとことん新しい柄を創作することに意欲を燃やし、最初から最後の工程まで自分でしないと気が済まないという根っからの職人である角平のキャラクターが強い印象を残す。泡坂氏は角平の為人を事細かに描写するわけでなく、その仕事ぶりを語ることで彼の愚直さを語るところが上手い。この角平の創作した柄がその他の作品でも垣間見えるところも粋な趣向だし、そして何よりも私が驚いたのはこの作品で話題になる「角平市松」という架空の柄を紋章上絵師である作者が実際に創作しているところだ。この柄は本書には収録されていないものの、WEBで調べれば出てくるのでぜひともご覧になって頂きたい。こういう手間が物語に風味を与え、創作上の人物角平への存在感を色濃くするのだ。

幽霊騒ぎに縁起担ぎ、そして迷信。そんな現代人から忘れ去られようとしている昔ながらの云い伝えを物語に見事に溶かし込み、なおかつそんな文化の中で生きてきた人たちが明るく、しかし時に心の闇に取り込まれてしまった町人たちを時には厳しく、時には優しく守る宝引きの辰。彼がいるから今日のお江戸も安泰だ。

No.40 9点 煙の殺意- 泡坂妻夫 2007/11/17 18:02
これぞ泡坂の短編だ!ともいうべき歪んだ論理、奇妙な味わいの短編集です。
チェスタトン張りのロジック炸裂で大満足です。
「赤の追走」、「紳士の園」、「煙の殺意」、「開橋式次第」が特にお勧め。

No.39 7点 砂時計- 泡坂妻夫 2007/11/15 18:50
泡坂版「滅びの美学」短編集とでも云おうか。
死に対してこれほどまでに透明な存在感で文章を書けるのかと、泡坂氏の老達な筆捌きに脱帽。

No.38 9点 凧をみる武士- 泡坂妻夫 2007/11/15 18:47
泡坂氏の時代物は読めば読むほど味が出てくる。
辰親分がなんとも人情味溢れて粋でいなせでカッコイイ!
読書の愉悦と江戸情緒に浸ってしまった。

No.37 3点 花嫁のさけび- 泡坂妻夫 2007/11/15 18:44
芸能界を舞台にしたミステリ。
この真相は、例のアレですな。

No.36 8点 からくり富- 泡坂妻夫 2007/11/15 18:42
最後に持ってくるエピソードがテーマと結実していて秀逸。
まさにお江戸は日本晴れ!

No.35 8点 からくり東海道- 泡坂妻夫 2007/11/14 17:48
意外にこれは面白かった。
題名の「からくり」はあまり意味ないかも(泡坂氏の専売特許?)。
市次、たか、市太郎3人が魅力あるのがこの小説の魅力かと。

No.34 7点 喜劇悲奇劇- 泡坂妻夫 2007/11/14 17:44
題名が回文、章題も回文、登場人物名も回文、そしてここにもあそこにも回文、回文、回文、と回文だらけの変な小説。
しかし内容はちょっと回文に振り繰り回された感じが・・・。

No.33 3点 妖女のねむり- 泡坂妻夫 2007/11/14 17:39
泡坂特有の幻想めいたミステリなのだが、どうも私にはこれが合わない。
非現実な設定をそのまま受け入れて読み進むことがなぜか出来ない。
最後も強引だと思った。

No.32 7点 泡坂妻夫の怖い話- 泡坂妻夫 2007/11/14 17:36
怖い話とあるが、恋愛物、幻想文学、伝奇物、小咄ありと色々詰まった作品集。
泡坂版「徒然草」と評しよう!

No.31 4点 夢の密室- 泡坂妻夫 2007/11/14 17:34
「密室」と名を冠しているがミステリと思って読むと、面食らうでしょう。
幻想小説めいており、泡坂氏がなんだか悟りの境地で書いているような、一筋縄ではいかない作品群です。

No.30 7点 自来也小町- 泡坂妻夫 2007/11/06 19:46
前作『鬼女の鱗』は期待感が強かったせいか、肩透かしを食らった感がありましたが、これはいけた。
辰親分の優しさが行間から見え隠れするようだ。
いやあ、粋な作家だなぁ、泡坂氏は。

No.29 7点 恋路吟行- 泡坂妻夫 2007/11/06 19:40
色々な趣向が詰まった短編集。
最後の「子持菱」が秀逸。こういう余韻が残る話が好き。

No.28 8点 雨女- 泡坂妻夫 2007/11/06 19:37
泡坂版「奇妙な味」短編集。
表題作、「繭の女」、「三人目の女」の何ともいえない読後感はもとより、青春小説から幻想小説へ、そして最後は論理的着地を見せる「ぼくらの太陽」がすばらしいと思いました。

No.27 3点 写楽百面相- 泡坂妻夫 2007/11/06 19:33
単純に好みに合わなかっただけかもしれません。
江戸当時の言葉遣いとか古い言葉が出てきて、十分に理解できなかったのも一因です。
でも最後の纏め方は好きですね。

No.26 2点 弓形の月- 泡坂妻夫 2007/11/01 18:05
当時『このミス』で驚愕の結末!と謳われていたが、何が驚愕なのか、わからなかった。
もしかして「あの人」=「この人」ってこと?

No.25 3点 旋風- 泡坂妻夫 2007/11/01 18:00
柔道ミステリ、というより単純に主人公が柔道に心酔していただけでは?
なんか少女マンガみたいな人物相関も気になった。

No.24 9点 生者と死者 酩探偵ヨギ ガンジーの透視術- 泡坂妻夫 2007/11/01 17:58
内容よりも構成がすごい!
まさに人智を超えた本である。
とにかく未見の方は一度見て欲しい。
そして作者が注いだ労力を想像して欲しい。

No.23 8点 亜智一郎の恐慌- 泡坂妻夫 2007/10/30 19:17
亜愛一郎のご先祖様、智一郎の登場です。
亜愛一郎シリーズがロジックの楽しさを特徴としているのに対し、これは時代活劇の楽しさについて存分に筆を振るってます。
必殺仕事人みたいな感じだったなぁ。

No.22 8点 亜愛一郎の逃亡- 泡坂妻夫 2007/10/30 19:15
この巻ではもはや論理の楽しさよりも大人の読み物としての楽しさが目立つ。
これが亜愛一郎との別れを盛り立てている。
ロジックよりもストーリーを愉しむ最終巻。

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