皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
Tetchyさん |
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平均点: 6.73点 | 書評数: 1631件 |
No.251 | 7点 | 白き嶺の男- 谷甲州 | 2008/05/23 15:08 |
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加藤武郎と久住浩志という2人の男たちの関係について訥々と語られる連作短編集。
この短編集には登山の困難さが経験した者でしか解らない迫真のスリルとリアリティで語られるところにある。それぞれの1編は40~50ページぐらいの長さながら、そこに書かれる登山の息苦しさは正に登山が死と隣り合わせのスポーツである事を濃厚に物語る。 登山家でもある著者ならではの登山での特殊なエピソードは肌身に皮膚感覚に訴える物があるが、短編だからかちょっと物足りなさも感じた。 |
No.250 | 7点 | 遥かなり神々の座- 谷甲州 | 2008/05/18 00:20 |
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「山男には惚れるなよ」という唄があるが、それを地で行く主人公の造形に圧倒された。
やっぱり登山家というのはある意味人生破綻者なのかもしれない。 そしてこの主人公がヒマラヤ登山で出くわす事件から、ニマという男を通じて戦士になっていく過程もなかなか読ませる。 しかし最後のくどいくらいのどんでん返しは不要じゃないかな~。 最後にどっかーんと爽快感がほしかった。 |
No.249 | 8点 | 神祭- 坂東眞砂子 | 2008/05/16 23:18 |
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この人は長編も短編も非常に巧い!
5編中、首を切った鶏が消える奇妙な話の表題作、ミズヨロロという忌み鳥を食べたがために疎外された未亡人の話「火鳥」、そして村役場の課長が失踪して、ときおり姿を見せるという「隠れ山」の3編がベスト。 よくもこんなの思いつくなぁとひたすら平伏。 初期作品は情念のこもった作品ばかりだったが、ここまで来ると物事をありのままに受け入れ、不思議を不思議として捉えるといった、肩の力を抜いた作品も目立ってきた。 順番に読んできて、作者の変遷がわかり、非常に面白かった。 |
No.248 | 7点 | 道祖土家の猿嫁- 坂東眞砂子 | 2008/05/15 22:58 |
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猿そっくりの風貌から猿嫁と呼ばれるようになった蕗の一生を描いた作品。
連作短編のようなつくりになっており、各章の話が蕗のある時点でのエピソードを語るような構成になっている。 いやあ、この主人公ほど報われない女性もいないだろうと思わせる読後感。 見合いした当初から夫に嫌われてしまうのだから、夫婦間の愛情のない結婚なのだ。 92歳に吐露する心情がまた哀しい。女としてセックスの悦びを知らずに一生を終えてしまうのだから。 よくもまあこんな残酷な物語が書けるなぁとこの作者にあらためて畏怖してしまった。 |
No.247 | 9点 | 旅涯ての地- 坂東眞砂子 | 2008/05/13 22:57 |
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作者自身初めて海外を舞台にし、さらに初の歴史小説であるという初物づくしの大作。
緻密なまでの当時の風景描写になかなか馴染めなかったが、上巻後半の急展開からページを繰る手が止まらないほどだった。 そして上巻を読み終わったときに、物語は全て終わったように感じ、下巻の同じくらいの厚さを見たときに、何が残っているのだろうと思ったが、これがまたすごい話だった。 最後はなんともいえない虚無感が漂う。しかし、傑作である。 唯一、主人公の夏桂の信条に関して語りすぎだったのが小さな瑕だった。 |
No.246 | 7点 | 葛橋- 坂東眞砂子 | 2008/05/12 23:27 |
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中編集。彼女お得意の土俗ホラーというものではなく、2編が怪奇物で1編が奇妙な味系。
3編中、気に入ったのは「恵比寿」。 これは今までの坂東作品の中では珍しくどこかコミカルであり、新機軸として面白く読んだ。皮肉なラストはちょっと余計かなとも思ったが、この作者らしからぬ処理の仕方に逆に好印象を持った。 しかし逆にあっさりしているといった感じがあり、『屍の聲』のような匂い立つような情感が足りなかった。 贅沢な注文なのだが。 |
No.245 | 10点 | 山妣- 坂東眞砂子 | 2008/05/11 14:52 |
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大傑作!
とにかく凄まじいほどの物語の力だ。 東北の雪深い山奥にある村に訪れる落ちぶれた役者たちの来訪が、悲劇の始まりとなっている本書は今までの坂東作品のフォーミュラを踏襲しているが、各登場人物の書き込みが群を抜いて濃厚。しかも捨てキャラなし! 特にいさの物語が凄まじい! ところで本書の紹介文や帯には人の業が織成す運命悲劇というような文句がさかんに謳われているが、それよりも私は山が愚かな人間に振り下ろす鉄槌の物語だと思った。 山が生き物であるかのように人間の運命を翻弄する。 読後はあまりの物語の力に呆然となった。坂東眞砂子、恐るべし! |
No.244 | 8点 | 屍の聲- 坂東眞砂子 | 2008/05/10 23:29 |
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坂東眞砂子の怪奇短編集。全て読ませる。
これらの怪奇譚に共通するのは人間が通常思ってて口に出さない、表に出さない負の感情である。 これがあることをきっかけに表出し、思わぬ事態を招く。 この辺の綾というのがこの作家、非常に巧い! どれもこれもいいが、あえてベストを選ぶとすれば「雪蒲団」か。 何が起こったのかを直截に描かず、読後、読者におのずと悟らせる、この技巧の冴えを買う。 いやあ、久々に鳥肌が立った。 坂東作品の入門書としてもお勧めです。 |
No.243 | 7点 | 桜雨- 坂東眞砂子 | 2008/05/09 23:13 |
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今回の舞台はなんと東京。
しかし東京といっても年寄りの街、そして仏閣の街、巣鴨。やはり死がテーマの一部だ。 物語は混乱の昭和初期を生き抜いた二人の女性の物語を軸に、戦前の画家西游を巡る現代の物語が展開する。 当初現代で西游を探る彩子が主人公と思っていたら、断然過去のパートの方が面白くなり、主客転倒してしまった。 一応の決着がつくが、色々な物が取り残されたような形。 もうちょっと書き込めば傑作になっていたんだろうけど。 |
No.242 | 9点 | 桃色浄土- 坂東眞砂子 | 2008/05/08 22:59 |
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珊瑚が織り成す人生劇場。
今回の舞台も作者の故郷である高知のとある漁村。 ここに異人船が迷い込み、イタリア人のエンゾという異分子が加わる事で悲劇の引鉄が起こされる。 全てのキャラクターが立ちまくりである。 そしてそれらが全て必然性を持って悲劇へと収斂していく。 さながら読者も物語の海原に翻弄されるかのようだ。 作品を重ねるごとにどんどん深みを増していくこの作家。 すごい、すごすぎる! |
No.241 | 8点 | 蛇鏡- 坂東眞砂子 | 2008/05/07 13:06 |
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前2作に引き続き、今回もテーマは「死者の再生」。
死者に対して未練を残す者達の心の隙間にするっと入ってくる甘美な毒。この生者たちが己の感情の赴くままに犯す過ちを描くのが非常に巧い。 今回も奈良という古き因習残る地でねっとりした情念を孕ませて物語は紡がれていく。 ・・・だのに、最後の結末がなんともなぁ~。 一気にB級ホラー作品に成り下がったかのようだ。 これがなかったら、もっと評価は高かったのだが。 |
No.240 | 8点 | 狗神- 坂東眞砂子 | 2008/05/06 22:34 |
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なんとも業の深い物語。
主人公の美希の人物造形がすごい。 この41歳の薄幸の美人の境遇に同情せざるを得ないような形で物語は進んでいくのだが、次第に明かされていく美希の過去のすさまじさには読者の道徳観念を揺さぶられる事、間違いないだろう。 云うなれば人間が獣の一種なのだという事実、獣が持つ残忍さを秘めている事を改めて思い知らされる、そんな感じがした。 手品師が一枚一枚、布を捲りながら種明しをするように、徐々に事実を明かしていく。 極上のホラー。 |
No.239 | 7点 | 死国- 坂東眞砂子 | 2008/05/06 00:14 |
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栗原千明主演で映画にもなった土俗ホラー。
自分の住んでいる四国を舞台にこれほどまでの土俗ホラーが繰り広げられるのにまず驚いた。 四国に住んでいるのがちょっと怖くなった。 この作品のテーマになっている「逆打ち」ってホントにありそうだもの。 この「逆打ち」を軸にさまざまな人のドラマが絡んでくる手並みは見事。 文章も立つし、読んで損はない作品。 |
No.238 | 7点 | 廃流- 斎藤肇 | 2008/05/04 22:36 |
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得体の知れないアメーバがどんどん大きくなって、街を襲うというパニック小説。
このアメーバが大きくなっていく過程がそれぞれ短編小説のように面白く、○。 で、当然こういうパニック小説は最後の決着のつけ方が商店となるが、それがちょっと・・・ねぇ。 でもこの作家の作品の中で一番面白かった。 |
No.237 | 2点 | 思いがけないアンコール- 斎藤肇 | 2008/05/03 14:45 |
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この「思いシリーズ」(ネットで調べるとそういうらしい)はこの作家なりに本格ミステリの定型を打ち崩そうという努力が見れるのだが、なんとも技量不足の感が否めない。
本書においては全ページ数360ページ強のうち、なんと80ページ目で読者への挑戦状(作品内の言葉を借りれば宿題)が出てくる。 定型を破らんがためにあえてコード型推理小説の意匠を纏っているのだが、逆にそれが他の作家達(有栖川氏や法月氏ら)の作品よりも無味乾燥したパズル小説になっており、なんとも味気なかった。 |
No.236 | 4点 | 思い通りにエンドマーク- 斎藤肇 | 2008/05/03 00:22 |
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新本格ブームの最中、雨後の筍のようにデビューした作家の1人で、これがデビュー作。
もうあの頃のコード型本格ど真ん中で、舞台も断崖に建つ洞窟を利用した館で、お約束のように唯一の外部との連絡手段である吊り橋が切れ、密室殺人、連続殺人が発生します。 一応の解決の後、さらにどんでん返しが待っているが、定型を脱していないという印象。 でも本格に対する根源的な問い掛けを作中でしており、求道的な作品でもあると云えるが、文体といい、内容といい、その軽さがその作者の思いを減じているのは否めない。 ま、こういうのが好きな人はどうぞ。 |
No.235 | 3点 | 人でなしの恋- 江戸川乱歩 | 2008/05/01 21:36 |
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この短編集でも乱歩はどんでん返しにこだわり、苦心しているが、それが悪い方向に働いている。
はっきり云って蛇足なのだ。 二流の作品が三流作品になっているといっていいくらい、しょーもないオチをつけている。 この頃、本当に産みの苦しみの中でもがいていたのだろう。 |
No.234 | 3点 | 算盤が恋を語る話- 江戸川乱歩 | 2008/04/30 13:55 |
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短編作家としての乱歩は私の中では評価高かったのだが、これは明らかにアイデアの枯渇が否が応にも露呈している。
もうどうにかどんでん返しに持ってこようと無理が目立つ。 痛々しいなぁ・・・。 |
No.233 | 4点 | 信長殺すべし 異説本能寺- 岩崎正吾 | 2008/04/30 00:18 |
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主人公が病床で史料にあたり、歴史に隠された謎を繙くという『時の娘』の設定そのままのアームチェア・ディテクティヴなのだが、最後に至って、大反則技が待ってました・・・。
そこに至るまではけっこうよかったのに・・・。 |
No.232 | 4点 | 闇かがやく島へ- 岩崎正吾 | 2008/04/28 23:31 |
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非常にご都合主義な小説です。
まず発端からして、祖母には予知能力があるのだから、島に行けと云うのなら行こうという展開なのだから! その後も殺人事件が4つ起きても警察が介入するのは最初に発覚した1件のみという不自然さ! しかも主人公はなぜかやたらとモテる!(←単なるヒガミかも?) 最後のある登場人物のセリフは名探偵のパラドックスとしてニヤリとしましたが。 |