皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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Tetchyさん |
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| 平均点: 6.73点 | 書評数: 1634件 |
| No.394 | 8点 | 帽子収集狂事件- ジョン・ディクスン・カー | 2008/11/21 23:27 |
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| これはひたすらその突拍子の無さに驚愕した作品。
当時ミステリ初心者だった私は、フェル博士が導いた真相に唖然とした。 こんなこと考えるのは、カー、ホンマ、アンタしかおらんわ! バカミスともいうべき作品だが、こういうケレン味が読後十数年経っても、妙な味わいを残させる。 しかし原題は“The Mad Hatter Mystery”。これはクイーンの『Yの悲劇』と何か関係があるのだろうか? |
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| No.393 | 9点 | 曲った蝶番- ジョン・ディクスン・カー | 2008/11/20 22:28 |
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| カー作品でベスト3を選べと云われたら私は躊躇なくこの作品を選ぶだろう。
本作はカーのケレン味がふんだんに盛り込まれており、しかも驚愕の結末を迎えるという傑作だ。 とにかく導入部も素晴らしい。 イギリスの貴族の許に現れた1人の男。その男こそ、実はこの貴族の正統なる後継者であるというのだ。そして彼の語るタイタニック号沈没にまつわる人物入替り劇の話など、物語性にも富んでいる。 そして本作では「開かれた密室での殺人」とも云うべき、貴族の邸の庭で衆人環視の下、殺人が行われるのだが、この真相が想像するだにおぞましい驚愕の内容。 はっきり云って、この謎を解ける人はいないだろう。 中にはバカバカしくて唖然とする人もいるかもしれない(いや、ほとんどがそうかも?) しかし私はこの真相をヴィジュアル的に想像した時になんともいえないおぞましさを感じ、読後しばし呆然とした。 好きな人は好きだし、隠れた傑作とも云われる作品だ。 |
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| No.392 | 3点 | ローウェル城の密室- 小森健太朗 | 2008/11/19 19:58 |
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| 本書は当時弱冠16歳で乱歩賞最終選考に残り、落選した著者の幻のデビュー作である。
その特異な設定ゆえに選考会は賛否両論に分かれ、喧々諤々の論議が繰り広げられたとかいないとか。 なにしろ本作の主人公は少女漫画の世界に入り、その漫画の世界で起こる殺人事件を解決することになるという、なんともアクの強い作品である。 で、驚天動地の結末というのが本書の売りだったのだが、この真相は解ってしまった。 というよりも「まさか・・・じゃないよなぁ」というのが真相で呆けてしまったというのが正確なところ。 私にしてみれば誰もが思いつくがバカバカしいと思って破棄するアイデアを16歳の若さで作品にして、応募してしまった、作者の若気の至りの結晶としか思えないのだが。 これは乱歩賞を受賞しなくてよかったと、読後に思ったのはそんな感想だった。 |
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| No.391 | 5点 | 死時計- ジョン・ディクスン・カー | 2008/11/18 23:01 |
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| 本作はカーの語り口がスムースでなく、正直きちんと整理されているような印象はない。従って読書中、頭の中に霧が立ち込めたまま、終わりまで来てしまった、そんな感じがした。
事件自体もこじんまりとしており、佳作。 以下ちくっとネタバレ。 ただ、この作品はやはりアンフェアだと思う。 一番冒頭で探偵自身で語られている、ほぼ証言に近い内容が後半になって覆され、それがそのまま犯人に繋がるのだから。 |
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| No.390 | 4点 | バビロン空中庭園の殺人- 小森健太朗 | 2008/11/17 22:47 |
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| 本作では古代バビロニアの空中庭園で起きた王女の消失事件と、現代の大学の<空中庭園>と呼ばれる学舎の屋上で起きた教授の墜落事件を扱っている。
現代の事件は、オーソドックスなトリック物。 しかし古代の消失事件の真相はなんとも歯切れが悪い。作者が自分で設定していて、途中でうっちゃってしまった感じだ(途中の記述に矛盾があるし)。 自分の身の回りのことと興味ある学識で一本仕上げましたといった感じのミステリ。 |
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| No.389 | 7点 | 死者のノック- ジョン・ディクスン・カー | 2008/11/16 14:52 |
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| 大学内の各所で起きるいたずら事件がエスカレートし、ついに殺人事件までに発展して、フェル博士が乗り出すといった内容。
肝心の密室トリックに矛盾が在るといわれる本書。確かに読んでいる最中はどっちが表でどっちが裏か、ゴチャゴチャになりますが、私は最後の犯人に至る推理が、理路整然としている感じがあり、意外と好印象です。 |
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| No.388 | 3点 | ニューゲイトの花嫁- ジョン・ディクスン・カー | 2008/11/14 22:54 |
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| 死刑囚が一転して無罪になり、自分を死刑に追いこんだ人物を捜し出すというのが、まずアイデアとして秀逸。
この主人公が無罪放免となる法制度は1815年当時のものだったのかどうか知らないが、通常こういうのはタイムリミットサスペンスになりがちなところを敢えて避けるところにカーのカーたる所以があるかなと思った。 しかし他の歴史ミステリに比べると小粒感は否めない。もう少し捻りが欲しかったな。 |
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| No.387 | 7点 | 火よ燃えろ!- ジョン・ディクスン・カー | 2008/11/13 23:48 |
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| カーが後年、力を入れた時代・歴史ミステリは佳作が多く、これもその中の1つ。
主人公がタイムスリップして歴史上の謎を解くという趣向は『ビロードの悪魔』と同様で、二番煎じのような感じは否めない。 が、本作はそれを逆手にとって、読者をミスリードすることに成功している。 こういうちょっとしたケレン味が歴史ミステリを面白くするという好例。 |
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| No.386 | 1点 | 血に飢えた悪鬼- ジョン・ディクスン・カー | 2008/11/12 19:40 |
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| あまりにも題名から想起される内容とはかけ離れていて呆気に取られてしまった。
時代ミステリであるがため、当時の世俗背景を甦らすのに腐心しているようだが、登場人物が全く活写されていない。 メイントリックはルブランでお馴染みの使い古された手法。 コレクターズ・アイテムですな。 |
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| No.385 | 9点 | 死刑判決- スコット・トゥロー | 2008/11/11 23:04 |
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| 死刑囚が執行間際になって無実を訴える。果たして彼の云う事は真実なのか?
再調査に挑むのは公選弁護人アーサー・レイヴン。 原題は“Reversible Errors”。これは法律用語で「破棄事由となる誤り」という意味で控訴審で一審判決を大いに覆すような重大な誤りを指す。 またさらにアーサー、ジリアン、ミュリエル、ラリーら主人公四人の現在における過去の、元に戻すことが出来る過ちを指している。 上巻の半ばで早くも真犯人がわかるのに、それからさらに二転三転四転五転の展開を見せ、新たなる真相をも準備してくれている。 もう満腹ですわ! しかし邦題のショボさはどうにかならないか。 トゥロー=四字熟語邦題に拘っているから、こんな題名になったのか? 一番食指を誘わない題名だな。勿体無い。 |
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| No.384 | 8点 | 有罪答弁- スコット・トゥロー | 2008/11/10 23:57 |
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| 最後の最後で+1点。
久々にカタルシスを感じた。 しかし、この主人公、とことん情けないなぁ。 実の息子や警察にオナニーを見られるなんて・・・。 それが、まさかこんな結末になろうとは・・・。 う~ん、トゥローはやっぱすごいわ。 |
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| No.383 | 6点 | 立証責任- スコット・トゥロー | 2008/11/09 17:24 |
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| 前作『推定無罪』で主人公サビッチの弁護人として快刀乱麻の活躍ぶりを見せたスターンが今回の主人公だが、前作とは打って変わって妻の自殺で始まる冒頭から肉欲に溺れていく凋落ぶり、はたまた長男ピーターに鼻で笑われるダメ親父ぶりをこれでもかこれでもかと見せつけ、結局スターンも“人”に過ぎないのだなと思わせる。
人間ドラマとして本書は最高の部類に入るだろう。 しかし、私は今回求めたのは“切れ味”だった。 スターンの、弁護士としてのそれ、物語としてのそれである。 しかし上にも述べたように人間ドラマとしては比類なき傑作だと思う。 スターンと同じ年齢に達して読み返すと、それは否応にも増す事だろう。 |
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| No.382 | 8点 | 解体諸因- 西澤保彦 | 2008/11/09 00:23 |
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| ありゃ、けっこうみなさん、点数が低い。
私は案外楽しめました。 というのも各短編が昔の推理クイズ『私だけが知っている』を思い起こさせるような作りになっており、読者でも謎が解けるようになっているからです。 そして私は1編1編作者の謎解きに挑戦しました。 結果、ほとんど犯人は解りましたが、バラバラにする動機が2編しか解りませんでした。でも、この動機がちょっと不十分かなと思いましたね。 だから最後の1編で各編が繋がっていくときはけっこう驚きました。 上述のように力入れて読んでたので、登場人物も頭に入っていたし。 しかし、けっこうこの作者、エロが好きですね♪ |
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| No.381 | 9点 | 推定無罪- スコット・トゥロー | 2008/11/07 23:34 |
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| これは掛け値なしの本物である。
上手く云えないが、登場人物全てに嘘が無い。 要するに、作り物めいた感じがしないのだ。 特に現職検事補であった作者の最大の長所を存分に活かした法廷劇は史上最高の知的ゲームであり、正に圧巻である。 ただ惜しむらくは、ストーリー全体に通底する過度なまでのペシミズム、重厚というより陰鬱である。 私はどうも苦手だった。 |
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| No.380 | 7点 | 網走発遙かなり- 島田荘司 | 2008/11/06 20:57 |
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| 連作短編集と思いきや、最後にそれらが有機的に関係しあって1つの長編になる、一種独特の味わいのある作品。
内容は後の『奇想、天を動かす』を想起させる物もある。 元々初期の島田氏は各作品において登場人物がカメオ出演する、作品世界を形成していたのだが、これはそれを1冊の本で実践したということか。 |
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| No.379 | 8点 | 囮弁護士- スコット・トゥロー | 2008/11/05 14:57 |
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| 今回はキンドル郡の法曹界に蔓延る贈収賄事件の一斉摘発がテーマ。
贈収賄に関わる判事ら、特に首席裁判官であるブレンダン・トゥーイを摘発せんとセネット判事はその中心人物の一人、ロビー・フェヴァー弁護士を囮としてFBI捜査官と共に手練手管を使って証拠を掴み、容疑者の連鎖の綱からトゥーイを捕まえようと企む。 主人公は題名にもあるとおり、囮となる弁護士ロビー。プレイボーイで口達者な一筋縄でいかない曲者弁護士として描かれるが、彼の根底にあるのはルー・ゲーリック病に冒され、日々衰弱していく妻ロレインへの愛だった。 各登場人物がそれぞれの相手に抱く愛情が濃厚に物語を彩り、単なるリーガル・サスペンス以上の読み応えを感じさせる。 登場人物一人一人の人生や信条が非常に色濃く描かれ、読後しばし陶然となった。 本作にちらっとしか出てこないジリアン・サリヴァンという人物が次回作では主人公の1人となり、トゥローのキンドル郡サーガは巻を増すごとにどんどん人物相関が充実してくる。一度シリーズを読み終えたら最新作から第1作へ遡って読むとさらにキンドル郡を愉しく歩けるのかもしれない。 |
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| No.378 | 5点 | われらが父たちの掟- スコット・トゥロー | 2008/11/04 23:29 |
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| 本作の主題は裁判そのものになく、起きた事件そのものは過去友人同士だった者たちが再び邂逅する単なる舞台設定に過ぎない(とは云え、裁判の丁々発止のやり取りが非常に面白いのも事実。本作が星3つなのはそこに起因する)。
筆者の焦点は世代間の軋轢と異人種であることのアイデンティティの模索にあると云える。 ただ扱う材料1つ1つが濃密で読者に疲労を強いるのは確か。 しかも今回のような中年世代を描いた世代小説はまだ私自身には早すぎたようだ。 本作に豊富に盛り込まれた心理描写、特に子が親を思う気持ち、親が子を思う気持ちなどは同世代には切実に響くものであろうが若輩の身にとってはまだ頭で判っても心では実感できない代物でそれもまた残念だった。 |
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| No.377 | 8点 | 密林の骨- アーロン・エルキンズ | 2008/11/03 22:47 |
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| まさに安定した面白さ!
今回の舞台は最後の秘境とも云われるアマゾン河。 普通我々が暮らしている世界からは想像のできない気候、自然が次々と登場し、読み手を退屈させない。 私自身、南米のある国に出張で行った事があり、その時のこととダブる内容が多々あり、いつも以上に楽しめた。 乱暴な云い方をすれば、事件など起こらず、このままギデオン一行のアマゾン河クルージングの様子をずっと語って欲しいくらいだった。 このシリーズの売りである骨の鑑定も出てくるが、全体の7割を終えたところで、ようやくの登場で、今回はあまりインパクトはない。 またある人物が遠く離れたところに現れるトリックは、はっきりいって小学生の頃に本に出てきたクイズそのままだった。 でもそんなミステリの部分よりも物語としてこのシリーズは実に面白い。次作も必ず読むぞ! |
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| No.376 | 9点 | 聖林輪舞-セルロイドのアメリカ近代史- 島田荘司 | 2008/11/02 22:08 |
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| ノンフィクション物だが、作品一覧にノミネートされていたので遠慮なく感想を書こう。
これはアメリカを彩った伝説のスター、政治家、大富豪、凶悪犯罪者の島田流伝記。タイトルの「聖林」とは「ハリウッド」の漢字表記。 これがやたらと面白い。 島田の練達の筆の冴えもその要因だが、やはり何といっても現在の世にも名を轟かせている希代の著名人たちの、一般人とはかけ離れた人生劇場が物凄く面白いのだ。 恐らくこの作品は『ハリウッド・サーティフィケイト』を書くための基礎になったことだろう。 ハリウッド、この特殊な街、いや特殊な世界が訪れるものを狂わせる。人生の半ばはそれが与える栄光で金銭的、性的幸福を得られるかもしれない。しかし、末路は皆一様に人の数倍も不幸である。今日もハリウッドでは誰かが金に酔い、誰かが不幸のどん底に陥っているのだろう。 |
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| No.375 | 7点 | 三浦和義事件- 島田荘司 | 2008/11/01 14:13 |
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| 最近疑惑の死を遂げた三浦和義氏。
ノンフィクション作品だがここに上がっていたので感想をば。 面白いのは当然のことながら、マスコミサイドの視点で描かれた三浦像と三浦本人の視点で描かれた造形がものの見事に食い違っていることだ。情報操作というものは非常に恐ろしいものだと痛感した。 おそらく対岸の火事と思い、読んでいる私を含めた読者も、犯罪に巻き込まれ、いわれのない容疑をかけられた時、どのように周囲が、世間が自分に対して変化していくのか、それをまざまざと見せつけられる。 本書の最後で島田はこのようなことを云う。 「重大事件に必ず犯人が挙がるとは限らないことを、われわれ日本人はそろそろ学ばなければならない」 これは世間が騒ぎ立てたがために警察・検察が三浦を何が何でも犯人として挙げざるを得ない状況に追い込まれたことを批判した文章なのだが、本格ミステリ作家である彼がこのようなアンチテーゼめいたことを発言するのが興味深い。 |
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