皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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Tetchyさん |
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平均点: 6.73点 | 書評数: 1631件 |
No.451 | 9点 | 死の味- P・D・ジェイムズ | 2009/01/30 22:44 |
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重厚かつ濃厚とはまさにこの作品を指す。
実に読みでのある作品だ。 今回の特色はワンマンで捜査に当っていたダルグリッシュに仲間が登場することだろう。 というよりも今までなぜこういう設定が無かったのかが不思議だが・・・。 その中でも出色のキャラクターは27歳の若き女性警部ケイト・ミスキン。彼女自身に個人的なある事情を持っているというのが設定として映えているし、さらにそれが終盤になって痛烈に響くのがすごい。 ミステリとしても面白いが、事件の全容が解明された後に更なる人間ドラマが展開される。 よくもまあ、こんな物語を書けるものである。 ジェイムズの人間洞察の深さにはほとほと畏れ入る。 本作はダルグリッシュ警視シリーズでオイラの中では№1の作品だ。 |
No.450 | 9点 | 皮膚の下の頭蓋骨- P・D・ジェイムズ | 2009/01/29 22:39 |
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女探偵コーデリア・グレイ2作目は、1作目とは打って変わって、孤島に聳えるお城が舞台。つまりクローズト・サークル物。
そこで開かれる人気女優による古典劇、様々な思惑を秘めた招待客とゴシック風味溢れる本格ミステリ。 いやあ、堪能した。 もう当然のことながら、登場人物全てが女優に悪意を抱いているのがネチッこい^^ こういう趣向だと、誰が犯人でも驚きが薄れるのだが、ある重要な証拠をコーデリアが掴んだ瞬間、思わず声を挙げてしまった。 これほどまで悪意に満ちた作品なのだが、コーデリアが島から脱出した瞬間、自分も悪意から解放された気分になり、読後感は爽やかだ。 |
No.449 | 10点 | 罪なき血- P・D・ジェイムズ | 2009/01/28 19:33 |
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実の両親を探し当てたところ、父は少女暴行罪で獄中死、母はその少女を殺害したかどで服役中というショッキングな設定。
そして母の出所が間近である事を知った主人公の女性が、母との生活を決意したところ、なんと娘を殺された父親もまた復讐するためにその母親の出所を待ち構えていたという、もう不幸にしか転がらない設定の話。しかしこれが実に読ませる。 ジェイムズの精緻を極める文体はこういうシンプルな設定の方が存分に活かされると思う。 複雑な事件を更に緻密な背景描写、人物描写に舞台設定、人間相関に筆を割くと、読み手の苦労もかなりの物になる(まあ、これでないとジェイムズを読んだ気にもならないのだが)。 しかしこのノンシリーズである本書はそのシンプルかつ解っている結末を迎えるまでに、主人公の女性と復讐を企む父親の心の移り変わりや再会までの過程が緻密であればあるほど、ドラマを掻き立て、登場人物らの心情が心に染入ってくる。 むしろ人を殺す理由というのは単純な物ではないという事が非常に説得力を持って書かれている。 またこういう作品を是非とも書いて欲しいのだが、御年80を超える今となってはもう無理かなぁ。 |
No.448 | 7点 | 失踪症候群- 貫井徳郎 | 2009/01/27 23:04 |
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貫井氏といえば、『必殺仕事人』に代表される“必殺”シリーズの大ファンであるが、本作はその趣味を存分に活かしたシリーズと云えるだろう。とにかく環敬吾率いる彼のチームのメンバーの召集シーンからニヤニヤしてしまった。
特に注目したいのは本作に登場する犯罪の片棒を担いだ人々というのが、実は私たちとなんら変わりのない、ごく普通の人々だということだ。彼らは現状に不満を抱きつつ、毎日を過ごし、その現状から脱出したいがために、一線を少しだけ越えてしまった人々なのだ。その一線というのが、誰しも抱く「このくらいなら大丈夫だろう」という軽い気持ちで始めた犯罪行為というのが非常に心苦しい。 こういう作品を読むと、我々の安定した暮らしというものがいかに危うい日常のバランスの上で成り立っているかが実感させられる。 しかし最後の方で物語の軸足がぶれてくるのはちょっとマイナスか。題名が単なる取っ掛かりでしかなくなっている。 |
No.447 | 4点 | シャム双子の秘密- エラリイ・クイーン | 2009/01/25 19:18 |
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カナダからの休暇旅行の帰りに山火事に出くわし、アロー・マウンテン山頂に聳え立つ館へ避難を余儀なくされるクイーン親子。
そこで殺人事件が起き、警察が来られない事で捜査を一任されるというクローズト・サークル物。 クイーンの国名シリーズでも異彩を放つ本書は、なんと定番の“読者への挑戦状”が挿入されていない。 それでも私は推理に挑戦したが、確かにこれは挑戦状を挟めないなぁ。 クイーン親子が館に辿り着く前半は、怪しげな館の住人たち、道中ですれ違った車の存在を誰も知らないこと、クイーン警視が見た蟹の化け物、などなどクイーンらしからぬ怪奇趣味が横溢してあり、新機軸かと思われたが、それらの謎はいとも簡単に明かされ、その後はオーソドックスなミステリに終始している。 もっと魔物の仕業としか思えない殺され方とか、曰くありげな館に纏わる因習など、カーなら絶対に盛り込むであろうオカルト趣味が持続すればよかったのだが、あまりに平凡すぎるし、エラリーは何度も推理を間違うし、最後の決定打は理論的にも押しが弱いしと、物語が進むに連れてスケールが尻すぼみしていった作品だ。 |
No.446 | 8点 | 宿命- 東野圭吾 | 2009/01/25 00:42 |
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本作は三角関係という恋愛小説の色も持ちながら、青春小説の側面もあり、なおかつ明かされる三人の過去には科学が生んだ悲劇という通常相反する情理が渾然一体となって物語を形作っているのが特徴的だ。
この絶妙なバランスは非常に素晴らしい。特に科学の側面を全面的に押し出さず、あくまで人間ドラマの側面を押し出して物語を形成したのは正解だろう。 そして登場人物3人、特に主人公晃彦と勇作2人に纏わる濃い相関関係は、昨今のお昼のメロドラマのような作りすぎた内容なのだが、東野氏のあっさり味の文体がくどさを解消している。 これがこの作者の最大の長所ですな。 開巻前、なんとも思わなかった表紙絵(文庫版)が読後では印象がかなり違って見え、味わい深い。 |
No.445 | 6点 | わが職業は死- P・D・ジェイムズ | 2009/01/18 19:41 |
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本作は非常にオーソドックスな作りになっている。ジェイムズのミステリ公式に則って、創作された、そんな感じだ。
事件が起き、ダルグリッシュが登場し、関係者一人一人に尋問。しかも登場人物それぞれが重苦しい何がしかの不幸を孕んでいる。ダルグリッシュが捜査を続けていると第2、第3の事件が発生、そしてカタストロフィへ…てな具合だ。 この定型を固執するがため、それぞれに個性が感じられなくなってきているのも確かで、本作においては特にその志向が強い。 ジェイムズには読後、良きにせよ悪きにせよ、いつも心に何かが残るのだが、本作に関してはその辺が全くない。 多分1ヵ月後にはどんな話だったか忘れてしまうだろう。 |
No.444 | 6点 | 黒い塔- P・D・ジェイムズ | 2009/01/17 23:34 |
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とにかく重厚かつ陰鬱な内容で、途中何度も投げ出そうかと思った作品。
レジナルド・ヒルの『骨と沈黙』が出るまで、ポケミスでは最厚記録を持っていたらしい。 今までのジェイムズの特徴である緻密な人物描写、風景描写は全く緩まるところがなく、更に登場人物が増えたわけだから、その分量も増え、今までの作品にありがちな、残り少ないページ数で解決シーンへ駆け足で行き着く、などということが全然なく、そこまで終始見開き2ページ、文字で埋め尽くされたページが延々と続く。 最初に手に取るジェイムズ作品としては最も相応しくない作品だろう。 その分、今までになく事件の真相は凝っているように感じた。更にダルグリッシュに魔の手が迫るのもいい。 しかし、これはキツイ!かなり読むのに覚悟がいる1冊。 |
No.443 | 6点 | 女の顔を覆え- P・D・ジェイムズ | 2009/01/16 22:54 |
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本作がジェイムズのデビュー作で、本の厚みは薄いものの、やはり第1作目から文章が見開き2ページに渡って毎ページぎっしり詰まって、あたかも真っ黒になっているかのよう。
本作でのテーマは被害者の人と成りが捜査で周辺の人からの聴取により一変していくところでしょう。 こういう話は好きですが、ただもう少し掘り下げてほしかったかな。 しかしデビュー作にしてジェイムズのミステリのスタイルが確立されているのは驚いた。 最初からレベル高いです、この人。 事件の始まりは日常の終わりを告げる始まりである。 デビュー作からこのテーマはジェイムズにとって不変のようだ。 |
No.442 | 7点 | 女には向かない職業- P・D・ジェイムズ | 2009/01/14 22:22 |
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ハヤカワ・ミステリ文庫ではP.D.ジェイムズはこの作品から始まる。
というわけでオイラもこの作品から読んだので、最後に出てくるアダム・ダルグリッシュが誰だか全く解らなかった。 これをジェイムズの作風だと思われると大きな誤解が生じる。このコーデリア・グレイシリーズはジェイムズにとって突然変異のような作品であり、未だになぜ唐突にこのような女探偵物を書いたのか、解らない。 事件はシンプルで、実はどんなものだったか全然記憶に残っていない。 しかし若年22歳のコーデリアが奮闘するこの物語は、若い女性がいきなり社会の荒波にもまれながら、自分の立ち位置を常に確認し、懸命に生きていくその姿こそが本作の主眼であり、それが克明に私の記憶に刻まれている。 留意しておきたいのは、キンジー・ミルホーンやウォシャウスキーシリーズに何年も先駆けて本作が出ていた事。 これこそジェイムズの功績だと讃えたい。 |
No.441 | 7点 | ナイチンゲールの屍衣- P・D・ジェイムズ | 2009/01/14 00:52 |
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本作以前の作品のページ数を遥かに凌駕する厚みと重厚な内容。
とにかくそれぞれの登場人物が同僚や友人に抱く憎悪や軽蔑の念がこれほどまでに露骨に表現されているのにまず驚いた。 こういう綿密且つ粘着質な書き方は女流作家ならではの負の感情の発露なのか? 本作では作者初のCWA賞を受賞しているが、まだまだ本領は発揮されたとは云えないだろう。 ページ数は増えても、それは書込みの量が増えただけで、物語の進行はさほど変わっていない。 犯人の動機も単純だし。 力作とは思うが、傑作とまではいかないというのが正直な感想。 なんせP.D.ジェイムズにはこの後、真の意味での傑作が控えているのだから。 |
No.440 | 7点 | 人類の子供たち- P・D・ジェイムズ | 2009/01/12 21:56 |
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2,3年前、『トゥモロー・ワールド』という題名で映画化された作品。CM観た感じでは、どうも作品世界とかけ離れている感じがあったので怖くて観ていないが。
ジェイムズにしては全く異色の、子供の生まれない未来の地球を舞台にした物語。 何故子供が生まれないかの謎を解明するとか、その設定でしか成立し得ない事件の解明というようなシチュエーション型ミステリではなく、あくまで世界を設定した上で繰り広げられるヒューマン・ドラマを描いている。 迎える結末はこういった設定で容易に予想されるものであるが、ジェイムズが敢えてこのような母性に満ちた物語を紡いだことに興味を覚えた。 |
No.439 | 5点 | 不自然な死体- P・D・ジェイムズ | 2009/01/11 13:44 |
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題名はジェイムズが尊敬してやまないセイヤーズの『不自然な死』を意識してつけられたことは明らかだろう。
ボートに乗せられた両手首のない死体というショッキングな幕開けだが、その導入がこじつけのようになっている感じがするのが惜しい。 とにかくジェイムズの描写は今回も細微に渡るが、ページ数も少ないため、第2の殺人が起こってからは、残りのページで収めようといきなりバタバタするのが残念だった。 動機も至極当たり前なもので、これといって新味が感じられず。 導入として読むのにも以上のような小粒感があり、お勧めできない。 何作か読んで、興味が出たら、どうぞ。 |
No.438 | 6点 | ある殺意- P・D・ジェイムズ | 2009/01/10 23:47 |
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よく出来た小説だと思う。
何一つ過不足無く終末へと向かうし、文章も格調高い。 しかし、目くらましのために容疑者を増やしすぎたのではなかろうか? 以前に比べると登場人物の特性がそのために希薄になってしまっている。 未だにどんな人物だったのか区別がつかない人物が3~4人いる。 |
No.437 | 3点 | 月明かりの闇- ジョン・ディクスン・カー | 2009/01/09 22:22 |
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これは敷地のレイアウトを付けてくれると非常に助かるのだが・・・。
そしてやはり一番大きいのが機械的トリックを説明しているのにそれが図解されていない事。 だいたい想像はつくが、はっきり云って十分理解しているとは到底思えない。これは正に推理小説のカタルシスであるから致命的だ。ここでほぼ90%は興趣が殺がれた。 しかし晩年においてもやっぱりカーはカーだ。 老いてなお、このようなトリックに挑むのだから。 でも一番面白く感じたのは人間関係の妙。 晩年のカーはこういう人間というものの不思議さ―特に趣味趣向の多彩さ―に後期のカーは結構魅せられていたのだな。 |
No.436 | 2点 | 絞首台の謎- ジョン・ディクスン・カー | 2009/01/08 22:25 |
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色々な意味で全体を捉えるのが難しい作品だった。
怪奇趣味が横溢しているものの、明かされる真相がほとんど子供だましの領域であったのが、大きな原因か。 バンコランの非情さが色濃く出た作品であるのはあるのだが、改訳した方がいいと思う、いい加減この作品は。 |
No.435 | 7点 | 占い師はお昼寝中- 倉知淳 | 2009/01/07 19:39 |
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本作は北村薫を起源とする日常の謎系ミステリで、殺人事件は一つも起きない。
出来映えだが、これは!と目を見張るものは正直云って、ない。謎の難易度も比較的軽めで、作品によっては霊鑑定に入る前に真相が解ったものもあった。 本作の特徴として面白いのは従来の本格ミステリの依頼人が持ち込んだ事件を探偵が解き明かすというフォーマットは踏襲しているものの、依頼人にはそれらの謎が怪奇現象などではなく、人間によって為された事である事を直接依頼人には説明しないところにある。 したがって霊鑑定の後、辰寅叔父と美衣子の間で成される謎解きはあくまで彼の推論であり、証拠も何もないので、実は単なる1つの解釈に過ぎない。 この辺が倉知氏の本格ミステリに対するしたたかな視座だと見た。 つまり推理で解ける事が必ずしも真理では無いと既に自覚的であるように取れた。 あと倉知氏のミステリ作家仲間から伝え聞く人と成りからどうも辰寅叔父=作者とダブってしょうがなかったなぁ。 |
No.434 | 1点 | 死者はよみがえる- ジョン・ディクスン・カー | 2009/01/06 23:14 |
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この作品を手に取る人はミステリに対してかなりの寛容さを持ち、なおかつカーの稚気が解るほどに精読しておかなければならない。
私はこの作品はカーを読むに当たり、かなり初期の段階だったので、「何じゃあ、こりゃ~!!!」と憤ったクチです。 いやあ、ほとんど反則の連続なんですよ、コレ。 「えっ?」、「ええっ!?」、「えええっ!!?」となること、請け合いです。 |
No.433 | 8点 | 妖魔の森の家- ジョン・ディクスン・カー | 2009/01/05 22:29 |
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玉石混淆の短編集だが、逆にそれが故にメリハリが出て、総体的にはカーの短編集の中でも最も好きな一冊である。
表題作は傑作。短編のみならず長編も含めて上位に来る作品。一瞬チェスタトンかと思った。 「ある密室」はほとんどアンフェアだが、まあこのずるさもカーならではか。 「赤いカツラの手がかり」は真相は解るものの、なかなかコミカルで、記憶に残る作品だ。 「第三の銃弾」はハヤカワ・ミステリ文庫で完全版が出ているので読む必要はないかな。 |
No.432 | 4点 | アメリカ銃の秘密- エラリイ・クイーン | 2009/01/04 19:07 |
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まず驚いたのは登場人物表に載せられた人数の少なさ。挑戦状が入っているのにも関わらず、この少なさに戸惑いを感じた。
今回は何か掴みようのないままに物語が進行していく。なんだか作者クイーン自身が暗中模索しながら書いている、そんな印象を受けた。事実、最後の真相解明を読んでも、ところどころ歯切れが悪い。 特に真犯人の真相はありえんだろうと思う。クイーンのミステリは指紋の検証、歯型の採取など通常行う警察の捜査を行わない、ロジックに特化したミステリと認識しているので、そこらへん云々については云わないまでも、あれだけ知っている人が間近に見ていてあの真相はないだろう。 また殺人方法も頭で考えただけで採用したという、至極現実味のない方法である。どう考えても神業としか思えない。 しかし指紋や歯型を利用した科学捜査を行わないながらも、映像による犯行の検証や弾道学を応用した謎解きをやるのだから、混乱して仕方がなかった。 もう作者の都合のいい捜査技術のみを使用している、実に恣意的なミステリだな、こりゃ。 唯一見つからない拳銃の隠し場所に関しては、「おおっ、なるほど」と思ったが、それまで。 やはり国名シリーズ全てが名作ではないということか。 |