皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
Tetchyさん |
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平均点: 6.74点 | 書評数: 1617件 |
No.617 | 6点 | 虚栄は死なず- ルース・レンデル | 2009/09/12 00:35 |
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レンデルの数あるヴァリエーションの内、38歳で結婚した女性を主人公にしたことから、所謂世間知らずゆえの犯行を描いた物かと思ったがさにあらず、ただ今回は、作者の手玉があまりに見え見えで、ある人物のある事実はサスペンスの牽引力としては弱かった。
ちらっとあとがきを見ると、本書は1965年作のノン・シリーズ2作目とのこと。「レンデル神話」のまだ草創期の作品なのだから無理もないか。 |
No.616 | 6点 | 殺意を呼ぶ館- ルース・レンデル | 2009/09/10 20:58 |
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作中幾度となく引合いに出されるように、これはレンデル流『千夜一夜物語』なのだ。
シュローヴ館という建物に魅了された女の破滅への道のりと、その娘の、母という繭からの脱皮と自我の覚醒とを書いた。 今回のラストは実にレンデルらしくなくて清々しい。 ショーンよ、御前は真底、男だったゾ。 |
No.615 | 8点 | 摩天楼の怪人- 島田荘司 | 2009/09/10 00:11 |
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題名、連続殺人事件に現れては消える謎の存在ファントム、さらには物語の中心となるのが女優であることから容易に連想されるのはガストン・ルルーの『オペラ座の怪人』。
ただあとがきにも述べられているが、本家が怪人と美女との悲恋の物語であるのに対し、本書はあくまでも不可能趣味、怪奇趣味を前面に押し出していること。従ってファントムが恋焦がれて止まないジョディ・サリナスなる女優がそれほど生涯を賭して守るほどの愛らしさ、崇高さを備えているとは思えなかったきらいはある。 物語全体に散りばめられた謎は今回も御手洗の閃きによって暴かれるが、果たしてこれを本格ミステリと呼んでいいものか疑問が残る。確かに手掛かりとなる暗号もあれば、事件現場の見取り図も読者に提示されている。が、しかしそれでもこの真相を看破できる読者は皆無であろう。 また今回のメインの謎とされるたった15分間―その後物語が進むにつれてそれは10分間と更に短縮されるが―で1階から34階までいかに移動して殺人を成しえたかという謎の真相もまたある専門知識、いや薀蓄を知っていないと解けないものだ。唯一おぼろげながら真相が解ったアパートの窓が一斉に爆発した謎の真相もまた専門知識が必要であり、門外漢には全く解けないものだろう。 こうして振り返ってみると、もはや御手洗シリーズは読者との推理合戦の領域を超越し、作者の奇想の発表の場になってしまったのだなと一抹の寂しさを感じる。しかしその作者の奇想が読者の予想をはるかに超え、実にファンタスティックである故に、私のような固定ファンがいつまでもいるのだ。この作風が許せる島田はやはり日本の本格シーンの中では唯一無二の別格的存在だといえよう。 |
No.614 | 8点 | 身代りの樹- ルース・レンデル | 2009/09/09 00:05 |
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狂える母、モブサを設定した所でこの小説は勝ったも同然である。この母の存在があったからこそ、到底起こりえない出来事がごく自然に流れとして滑り込んでくる。
そこから揺れ動く人々の心模様。 そしてテレンス・ウォンドという小技が実に最後の最後で、絶妙な形で効いてくる。心情的にはこの小心者に勝利の美酒を与えたかったのだが。 しかし珍しく実に爽やかな読後感だった。 |
No.613 | 8点 | 罪人のおののき- ルース・レンデル | 2009/09/07 23:37 |
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この感想は完全にネタバレ!
最後の手記で全てが裏返る。 それまでの彼は、何者よりも強く、倣岸で不遜だった。高みから見下ろしているかの如くだった。 しかしそれは人生に対する諦観から来る捨鉢な言動に過ぎなかった。 私はプライドの高さゆえの犯行だと推量したが、全くの逆で何も持たない男の現実逃避だったという落差が切なかった。 事件自体は派手さはなく、寧ろ凡百のそれだろうが、彼の放つ言葉一つ一つが哀切で、特に「私は死にたい」の一言が強く印象に残った。 |
No.612 | 7点 | 死を望まれた男- ルース・レンデル | 2009/09/06 20:37 |
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メインの被害者となるチャーリー・ハットンの、周囲の人々に与える嫌悪感がレンデルにしては描き込みが足りず、薄味だったように思われる。
2つ目の、ファンショーの事件がハットン殺害事件に結びつくのは容易に想像できたが、犯人の隠し方がいかにもレンデルらしい手法でニヤリとした。 今回感心したのは、キングズマーカム署に備え付けられたエレヴェーターの使い方。 この小道具をコミカルに、そして有意義に活用している手際は見事。 |
No.611 | 6点 | 死のひそむ家- ルース・レンデル | 2009/09/06 00:22 |
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よく出来た話だとは思う。
隣人たちの流言や噂によって作られた事実が実は全く正反対だった事などは神経衰弱で裏面のカードが一気に裏返させられたような鮮やかさを見せるのだが、文体自体が抑制が効き過ぎて情動を起こさせないのだ。結末も唐突な門切調で終わるような感じだ。 確かにあれ以上書く事は蛇足になるんだろうが、もっと他の締め括り方があったのではなかろうか? スーザンの、デイヴィッドに対する対応の変わりようも気になるし…。う~ん。 |
No.610 | 7点 | 運命のチェスボード- ルース・レンデル | 2009/09/04 23:36 |
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今回の残念な点は2点。
まず登場人物表。これは明快にしすぎだろう。ある人物に関しては少なくともファーストネームだけでよかったのでは? まあ御蔭で犯人判っちゃったけど。 2点目はタイトル。全然意味を成してないよ。原題『屠殺場に向かう狼』の方が最後に明かされる謎を髣髴させる点で断然勝っている。 |
No.609 | 8点 | 20世紀の幽霊たち- ジョー・ヒル | 2009/09/04 00:07 |
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スティーヴン・キングの息子であることが近年になって発覚した新進気鋭のホラー作家の短編集。
結論から云えば、玉石混淆の短編集で、総体的な出来映えとしてはやはり佳作と云えるだろう。実質的な収録作品数が17作品というのが多すぎて、逆に総体的な評価を下げているとも云える。 個人的に好きな短編を挙げると、「二十世紀の幽霊」、「ポップ・アート」、「蝗の歌をきくがよい」、「アブラハムの息子たち」、「末期の吐息」、「ボビー・コンロイ、死者の国より帰る」、「自発的入院」の7編。 次点として「うちよりここのほうが」、「黒電話」―但し最終章も含んだ―、「寡婦の朝食」、「おとうさんの仮面」の4編。 そうつまりこれら11編で本書が編まれたとするとこの作品の評価はもう1つ、いや2つは挙がるかもしれない。 確かに彼は“書ける”作者である事は認めよう。 ただ未完の大器だという感が強い。 この後、彼がどのような奇想を提供してくれるのか、非常に興味深いところだ。 |
No.608 | 7点 | 石の微笑- ルース・レンデル | 2009/09/02 20:42 |
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冒頭、登場人物表にも載っていない人物の失踪が案外しつこく語られていること自体に「?」マークが頭に浮かんでいたのだが、最終的にこれほど致命的に機能してくるとは。
久々に「あっ」となっちゃいました。 今回は珍しく男の狂気じゃなく、女の狂える愛。故にいつもなら狂気がしんしんと降り積もっていくのに、男が正気に戻りかけた途端、突然の大破局が訪れた。 そう、フローラよ、貴女は結局、幸運の女神だったのか? |
No.607 | 6点 | 求婚する男- ルース・レンデル | 2009/09/01 23:54 |
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おいおい、どうしてこうなるの?
なぜこの作家はハッピーエンドがこうも嫌いなのだろうか? たまには素直に物語を収束させてもいいんじゃないの? しかし、レオノーラはひどい!最低の悪女だな。 ガイは、かつての俺を見てるようでとても痛ましかった。だからこそガイにはハッピーエンドを迎えて欲しかったのに。 しかし、冗長すぎるなぁ。 丹念に心の動きを積み重ねていこうとしているのは判るがくどくど意気地の無い愚痴に付き合わされるのにはまいったわ。 |
No.606 | 7点 | 死を誘う暗号- ルース・レンデル | 2009/08/31 23:26 |
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いやいや、ルース・レンデルがこんな小説を書くとは、ねぇ。
2つの物語のうち、一方は振られ男のうじうじした日常の根暗な生活が淡々と綴られるのはいつものレンデル調なのだが、もう一方はスパイごっこに興じる少年たちの、云わば青春物語だなんて!! これがもう、おいらの少年心をくすぐるから、ジョンの話が鬱陶しくて、却ってそれが俺にとっては仇になった。 そして、2つの物語がハッピーエンドなのもまたレンデルらしくなく珍しい。 |
No.605 | 6点 | 引き攣る肉- ルース・レンデル | 2009/08/31 06:54 |
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う~ん、冒頭の逮捕劇を読んだ瞬間は、傑作の匂いを感じたんだが、最終的には今一つ突き抜けないという気持ちで一杯だ。
登場人物各々に魅力をさほど感じなかったのも事実。それに文体も三人称と一人称とが混在し、文豪らしくない。 あと、どうもこれはミステリではないような気がする。心を病んだ1人の青年の破滅を描いた普通小説のように読めたのだが。 |
No.604 | 5点 | ドラゴンの歯- エラリイ・クイーン | 2009/08/30 01:38 |
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ハリウッドシリーズ第3弾の本作は『ハートの4』でも精力的に導入されていた恋愛が事件に大いに絡んでいる。従ってまずは事件ありきでその後探偵による捜査が続く本格ミステリの趣向とは違い、2人の遺産相続人の一方に起こる殺人未遂事件の数々が同時進行的に語られ、物語の設定はサスペンスになっている。
今回のテーマは「成りすまし」だろうか。他人の人生に成りすます人物たちのドタバタ劇のような様相が伴う。まず腹膜炎を患って捜査に出られないエラリーに代わって相棒のボーがエラリーと名乗るところからそれは始まる。 《以下ネタバレ》 その後も各登場人物も実は○○だったというのが繰り返される。 遺産相続人の1人マーゴ・コールはアン・ブルーマーなる女性詐欺師であったし、事件の依頼に来たカドマス・コールはまた執事エドマンド・デ・カーロスが成りすました人物だった。そしてボーとケリーの結婚立会人である治安判事も実はエラリーが成りすました姿だった。 《ネタバレ終わり》 これはハリウッドを経験した作者クイーンが映画界で過ごした経験に基づいているに違いない。映画スターは色んな映画で色んな役に扮し、様々な人物に成りすまし、また架空の人生を繕う。そして映画スター自身も本名ではなく芸名を名乗り、第2の自分を演じているのだ。この「自分以外の誰かに成りすます」特異な職業にミステリとしてのインスピレーションを得たに違いない。 が、しかしながらそのためか逆に物語や謎の薄さを糊塗するが如き演出になってしまったように見えてしまう。数々の人物が実は違う誰かであったという演出は確かに面白いが、どうもそれをするだけの動機が薄いのだ。 そして何よりも犯人の動機が最も解りにくいのがこの作品の欠点とも云うべき点だ。 どうにも纏まりの悪さとご都合主義が目立つ作品だといわざるを得ないのが残念だ。 |
No.603 | 10点 | 野獣の街- エルモア・レナード | 2009/08/24 00:11 |
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血沸き肉躍るとは正にこのことを云うのだろう。
題名どおり、「野獣」たちが集い、戦う物語。脇役、端役に至るまで全てが生きている。 特に11章の警察署内でのやり取りは歴史に残る名シーンと云えるだろう。 いやあ、堪能したわ。 |
No.602 | 5点 | グリッツ- エルモア・レナード | 2009/08/23 01:50 |
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レナードの傑作の1つとされている。
確かにいきなり主人公が撃たれる導入部は一気に物語に放り込まれ、怪我の静養中の主人公を襲う殺し屋の存在などハラハラする要素もあるが、なんせこの主人公がやたら女にモテるので、あまり感情移入できない。 それほどいい男に見えないだけどなぁ。 面白くなる予感はずっとあったんだけど、その予感だけで最後まで行ってしまった、そんな感じだ。 |
No.601 | 4点 | 絵に描いた悪魔- ルース・レンデル | 2009/08/21 21:20 |
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プロットはいい、というより水準レヴェルである。ただ、登場人物が今一つ抜き出てなかった。各々の描き分けられ方は確かに上手く成されているが、どうもステレオタイプに留まっている感がある。
やはり結局小説を生かすのはあくまでその中の登場人物であり、たった一人の個性的な人物が脇役であっても、そこにいれば、忘れ得ぬ一編となるのだ。 |
No.600 | 7点 | ラブラバ- エルモア・レナード | 2009/08/20 23:44 |
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MWA賞受賞作という下馬評の割にはちょっと期待はずれ。
題名は主人公の名ジョー・ラブラバに由来する(しかしスゴイ名前だな。ジョン・ボン・ジョヴィとためを張る)。 このラブラバ、元シークレットサービスの捜査官で今は写真家というタフガイ。この男がマイアミで知り合った女性の保護に関わる事になるのだが、その女性がジーン・ショーというかつての銀幕スターでラブラバの憧れの人だったという、なかなか心憎い演出。 しかし、このタフガイと思われたラブラバの見せ場が意外に少なく、逆にジーンが物語をかっさらってしまったような感じだ。 だから題名と中身が一致しないなぁというのと、これで受賞?という懐疑が先に立ってしまった。 まあ、これもレナードらしいっちゃあ、レナードらしいけど。 |
No.599 | 7点 | 龍の契り- 服部真澄 | 2009/08/19 23:14 |
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香港を軸にアジアに関与するあらゆる人物、組織が1997年の中国への変換に向けて脈動する。
本書の主人公である外交官沢木喬を皮切りにハリウッドオスカー女優アディール・カシマ、『ワシントン・ポスト』の敏腕雑誌編集員メイミ・タンに彼女の秘蔵っ子であるフリージャーナリストのダナ・サマートン。上海香港銀行の総帥包輝南(パオ・フェイナム)、同頭取エドワード・フレイザー、表向きは通信会社である中国側の諜報機関新華社、日本の某一流電気メーカーをモデルにしたハイパーソニック社長西条亮に10年前の火災事故から奇跡的に生還したコードネーム<チャーリー>と呼ばれるCIA諜報員。これら様々な職種の関係者が香港に集結し、野心のゲームに戯れる。 情報小説としても非常に密度の濃い物であり、さらに中国、イギリス、日本の三つ巴にそれぞれ個人的な利害が絡んで様々な人間が密約文書を奪い合う緻密な構成(正直なことを云えば登場人物表が欲しかった)、結末に向けて徐々に高まる緊張感など、とても新人とは思えない筆運びである事は認めるにやぶさかではない。 しかし哀しいかな、私はフリーマントルの読者であり、同じ国際謀略小説を発表している同作者と比べるとやはりフリーマントルに一日、いや数年の長があることを認めなければならない。なぜならフリーマントルにはそれらに加えて、ミステリマインド豊かなサプライズがあるからだ。この有無の差はやはり大きい。 片や作家生活数十年のベテランと比べるとはなんとも手厳しい評価ではないかと思うなかれ。これは私が服部氏にそれほど期待をかけていることの表れだと思って欲しい。それほどのクオリティがある作品であると宣言しよう。 |
No.598 | 8点 | 五万二千ドルの罠- エルモア・レナード | 2009/08/17 23:16 |
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初期のレナード作品は主題がはっきりしており、しかも展開がスピーディかつ荒々しさを備えている。
本書も非常にわかりやすいストーリーで非常に気持ちがいい。 特に当初浮気がバレて恐喝される冴えない中年男だった主人公が昔、戦争時にパイロットだった時の狼の牙を思い出して、逆に恐喝者たちを返り討ちにしようとするプロットは、よくある話だけれども非常に胸の空く展開だ。 この主人公ハリー・ミッチェルに私は「結婚したマーロウ」という感慨を抱いた。 しかしレナードの作品はハリーという名前の男が多いな・・・。 |