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Tetchyさん
平均点: 6.73点 書評数: 1631件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.651 8点 仮面山荘殺人事件- 東野圭吾 2009/10/21 20:55
嵐の山荘物東野風変奏曲。
まず表向きの事件についてはなんとか犯人は解った。東野氏の文章はあまりに自然すぎてなかなか手掛かりが掴めにくいのだが、これはどうにか真相解明前に解った。
が、しかし本作の肝はそのあとですな。
いやあ、見事騙された!
ひょっとして・・・というのはあったけど、プロローグ読み直していやそれはないだろうと確信したんだけどね。
しかし朋美は可哀想だな~。

※以下大いにネタバレ

よくよく考えるとこの真相にはちょっと無理も感じずに入られない。
24時間、2日間も一つの館で役者といえども芝居を続けられるのかという素朴な疑問だ。しかもその中には素人が4人。どこかで必ずボロが出そうな気がする。その辺をちらりと匂わせるような描写がまたあれば更にこの作品はより現実味を増しただろう。
まあ、この手の趣向の作品は「夢オチ」とほとんど同義なので、読んだ後に裏切られ感が強いのだが、全然そんなことはなかった。お見事!

No.650 6点 悪魔は夜はばたく- ディーン・クーンツ 2009/10/21 00:37
今回もサイキック物で、主人公はこれから起きる殺人事件が予見できる能力をもった女性。これが同時に事件を解決出来るような知力と腕っぷしを持ち合わせていないのがミソ。
だが今回はあまりに売れる小説を書くことに専念したクーンツのあざとさがいやに目立った。特に犯人が早々と判っているのにも拘らず、じれったく引っ張っていく嫌らしさ。マックスを犯人にも仕向けるあからさまなミスリードの数々。
それに冒頭の犯人が主人公を名指しするエピソード、あれは一体何だったの!?

No.649 7点 12月の扉- ディーン・クーンツ 2009/10/19 23:45
正にハリウッド映画のようなケレン味たっぷりの一作だったが、前半うまくのれなかった。これはほとんど好みの問題だと思うのだが、「あれ」が具体的にどのような方法で被害者を抹殺するのかをもっと早い段階で見せてもらえば印象は強まったように思う。人が死んだという結果のみを何度も書かれるとやきもきしてしまうのだ、私は。
しかし、主人公のダンをもう少し書込めば引立ったように思えるのだが。トラウマがある点や一匹狼という設定はステレオタイプ過ぎると思う。

No.648 9点 逃切- ディーン・クーンツ 2009/10/18 20:42
題名と表紙と内容紹介文を読めば正にディック・フランシスの競馬ミステリを想起させるが、作者はクーンツである。
内容はそれぞれ個性を持つ主人公率いる犯罪グループの中に裏切者がいたり、かつての栄華の復活を願う一見完璧な破滅型経営者がいたり、筋金入りのベテランガードマンがいたり、そして二重三重に起こる事件の数々を配したりとこれでもかこれでもかと読者を愉しませようとする旺盛ぶり。しかも競馬の事を詳細に描くのだから抜け目がない。
つくづく器用な作家だ、クーンツは。

No.647 8点 ストーカー- ディーン・クーンツ 2009/10/18 01:17
スピルバーグの「激突」を思い起こさせるような設定でストーカーの恐怖を描いた本作において特筆されるべきことは本作が’73年に書かれた物であることだ。
日本に「ストーカー」という言葉が上陸したのは恐らく’90年代初頭であろうからその先駆性は素晴らしい。

ただやはりクーンツ特有の瑕というのは本作にもある。
まずはホウヴァルなる刑事をただの狂言回しとしてしか機能させなかった事。多分クーンツはこのキャラクターを持て余したのだろう。
もう1点はソランドの精神病が何に起因するかが明白でない事。これは小説の設定において必要不可欠ではないだろうか?とは云え、スリルとサスペンスを十分に織込んだ本書はやはり愉しめたというのが本音。

No.646 7点 闇の殺戮- ディーン・クーンツ 2009/10/14 20:28
良くも悪くもサーヴィス精神旺盛である。畳み掛けるようにこれでもか、これでもかとばかりに山場を積み重ねていく。
主人公に他の皆とは違う特異性を持たせるのがクーンツの特色だが、『殺人プログラミング』同様、その根拠というか蓋然性はいまいち説得力に欠ける。そこが瑕と云えば瑕だが、これだけエンタテインメントしてれば良しとしよう。

No.645 6点 闇の囁き- ディーン・クーンツ 2009/10/13 23:26
内容はよくあるダメな男(この場合は少年だが)が自分の身に降りかかった災難を打破するために一念発起し、新たな自分に生まれ変わるといった常道を踏襲しており目新しさは特にない。
強いて云うならば今までのクーンツ作品感じてきた「何故こういう事になったのか」という理由が曖昧だったのに対し、今回は明瞭だった事(ロイの性格の事ね)。また、ロイからのコリンの逃亡劇も迫真物だった。

No.644 5点 闇の眼- ディーン・クーンツ 2009/10/12 23:23
これはダニーを超能力者に設定した事である意味全てが決まってしまったと云っていい。
状況を盛り立てる為のホラー性は無論だが、ほとんど無力なティナとエリオットがさほど危機一髪な目に遭わないでトントン拍子にダニーと出逢えてしまうという御都合のいいストーリー展開もそうである。更には最後の宿敵になる筈だったアレクサンダーなど戦わずして惨めな結末を迎えるといった、まるで作者が途中で物語を放棄してしまった感すら窺える。

ただこの作品、続編がありそうな気配もあるが、どうだろうか?

No.643 10点 エニグマ奇襲指令- マイケル・バー=ゾウハー 2009/10/11 20:19
これは傑作!正に掘り出し物だ。
予想以上に面白かった!ドキドキハラハラの連続活劇だ。

エニグマ強奪の任を受けてドイツ支配下のパリ潜入行を行うベルヴォアールが、盗賊時代の仲間達の協力を得ながらドイツの包囲網を常に相手の想定の斜め上を走りながら潜り抜けていく。一歩遅れれば囚われの身となり、拷問に晒される状況下、時には鮮やかに、時にはギリギリの所で、はたまた敵の目前で包囲網をかいくぐるスリリングな展開が目白押しだ。

主人公の稀代の大泥棒ベルヴォアールの造形が素晴らしい。
もうルパンそのものである。これはバー=ゾウハーの手による怪盗ルパン譚、パスティーシュでもあるのだ。

いやあ、スパイ小説でありながら、ピカレスク小説でもあり、さらにルパンのパスティーシュでもあるという、非常に贅沢な作品だ。
そしてそれを難なく作品として纏めているバー=ゾウハーの手腕に改めて感服。

No.642 9点 殺人プログラミング- ディーン・クーンツ 2009/10/11 00:57
まさに私をして、これがクーンツなのかと驚嘆させられた一作。
初の「クーンツ体験」としてこの作品を読んだ事を実に幸運に思う。

内容は正にこれぞエンタテインメントとばかりに畳み掛ける活劇のオンパレードである。男やもめの獣医の再婚話と村人に起きたごく小さな災い事という静かな立上り方からソーンズベリの狂気の度合いと呼応するように徐々に加速度を増していく筋運びは職人技の一言に尽きる。

特にサブリミナル効果を77年に主題として扱っているあたりにクーンツの先見性をまざまざと見せ付けられた。
いやはや流石はクーンツである。

No.641 7点 すべてがFになる- 森博嗣 2009/10/10 00:27
※ちょっとネタバレ。

一応、前知識なしで読んだが、犯行方法は解った。
が、365日24時間記録し続ける監視カメラが見張っている上に、コンピューター制御されたセキュリティシステムで管理された室内で起きた密室殺人、しかもカメラには誰も部屋を出入りした人物が映っていないという堅牢なる密室殺人の謎解きは完璧と思いがちなコンピューターの盲点を突く真相は解らず、この手際は実に鮮やかだった。

また犯人も最初に明かされる人物ではなかった事はある意味救われた。なぜなら天才の子は必ずしも天才ではないからだ。その逆もまた然り。14歳を節目に昆虫が親の肉を喰らって成長するが如く、天才が天才を殺して成長するなど、荒唐無稽なマンガ的設定に過ぎない。それを敢えて踏みとどまったところがこの作品の良識といえよう。

あまりに有名すぎる故、他の作品を読んでからこの作品に入ると犯人は解ってしまうという欠点がある。やっぱりシリーズ物は順番に読むに限るわ。

No.640 5点 郵便配達は二度ベルを鳴らす- ジェームス・ケイン 2009/10/09 01:23
※ネタバレ含む※

意外にも“顔”の見えない小説だった。ニックとコーラ、そして主人公のフランクの3人で暮らし始める冒頭からニック殺害までは、実に際立っていたのだが、その後の裁判において弁護士や検事が出てくる辺りから、全体像がぼやけて非常に散漫な印象を受けた。
主題が見えないのだ。

結局フランクは捕まり、死刑執行までにも至る。だが、捕まる時の彼は冒頭に現れた時の彼ではなく、女を愛し、共に暮らす事を望む1人の男にしか過ぎない。

そうか、幸福とは掴もうとするとするりと抜けていく皮肉なもの、そう作者は云いたいのか。
もしくは悪行は必ず報いを受けるものだと?
もう一度、数年後に読み返す必要があるのかもしれない。

No.639 7点 氷海の嵐- デイヴィッド・ポイヤー 2009/10/07 23:41
ポイヤーの作風というのは全体的に陰鬱で、ウィットに富んだ会話、スカッとするようなアクションというのは皆無だ。
みな何か心に秘めて、様子を窺っている、そんな表に感情を表さない人物たちばかりだ。
本書は更に舞台が極寒の海で、しかも船の中という閉鎖空間だから、更に拍車が掛かっているようだ。
それでもけっこう読ませるのだよ、これが。
でも疲れた時に読むと、更に疲れるんだよなぁ。

No.638 7点 湾岸の敵- デイヴィッド・ポイヤー 2009/10/06 23:46
ポイヤーの作品ではこれが一番かも。

上下巻それぞれ400ページくらいの厚さだったけれど、見開き2ページが文字で真っ黒になるほどに書き込まれていたし、しかも事細かに軍用艦の設備やら装備やら操船用語などの専門用語が頻出するわで、かなり読むのに時間が掛かったが、登場人物が格段に増え、彼らに関する叙述も細かくなり、逆に単に熱いだけでなく、物語にも厚みが出たように感じた。
冒険小説好きでも、P.D.ジェイムズなみの書き込みはちょっと躊躇うだろうから、かなり読者を選ぶ作家だな。

ま、この作品に関しては私はけっこう好きだけど。

No.637 7点 二度死んだ男- マイケル・バー=ゾウハー 2009/10/06 00:00
実に淀みが無いエスピオナージュ作品。正味250ページ強という薄さながら、舞台はイタリア、イギリス、ハイチ、スペイン、フランス、ソ連、オーストリアと目まぐるしく移り変わる。それに加え、次から次へ現れる謎に、それに呼応して判明する諜報工作の数々。しかしどこまでが本当でどこからが虚偽なのか判らない。

明かされる真相は本格ミステリ張りに仕掛けとミスディレクションに溢れた、重層的な内容になっている。
予想以上の面白さだった。

No.636 6点 ハッテラス・ブルー- デイヴィッド・ポイヤー 2009/10/04 21:03
サルベージ業を営む主人公のところに、第二次大戦中に撃沈させられたUボートの回収の依頼が来る。
それにナチスの第二次大戦時の機密事項を交えるという、冒険小説の王道を行く設定。
でも前の雪山の話よりかは断然良かった。こちらの方がこの作家の本領なのだろう。

No.635 2点 冬山の追撃- デイヴィッド・ポイヤー 2009/10/03 00:21
ボブ・ラングレーの『北壁の死闘』のような作品を創造していたら、全然違った。
なんとも、終始陰鬱で動きに乏しい話だった。銃を持った復讐譚という割には活劇も少なく、いつ面白くなるんだろうと思いながら読んだものだ。

No.634 7点 エラリー・クイーンの新冒険- エラリイ・クイーン 2009/09/30 20:56
本作の大きな特徴は2部構成になっていることだ。
前半の「~冒険」という名の付けられた一連の作品は第一短編集からの流れをそのまま受け継ぐ純粋本格推理物だが、後半の「人間が犬をかむ」からの4編はクイーン第2期のハリウッドシリーズに書かれた物でエラリーは『ハートの4』で知り合ったポーラ・パリスとコンビを組む。
つまり本作を読むことで、第1期クイーンと第2期クイーン作品のそれぞれの特色が目に見えて解るのだ。

個人的には純粋本格推理小説に特化した前半の5編よりも、後半のハリウッドシリーズの延長線上にある4編の方が好みである。
例えば「人間が犬をかむ」では野球観戦に夢中になるというエラリーの人間くさい一面が見られるし、何よりも各編でパートナーを務めるポーラ・パリスの存在が物語に彩りを添えている。

よく考えると法月綸太郎の第1短編集『法月綸太郎の冒険』も全く同じ構成だ。あの短編集も前半はロジック一辺倒の作品で後半は沢田穂波とのコンビであるビブリオ・ミステリシリーズだった。
ここにクイーンの意志を継ぐ者の源泉があったのか。ここでまた私は現代本格ミステリに繋がるミステリの系譜を発見したのかと思うと感慨深いものがある。

No.633 5点 ソロモン王の絨毯- バーバラ・ヴァイン 2009/09/30 00:01
何と評したらよいだろうか、主人公不在の『めぞん一刻』とでも云おうか。あれほど明るくはないが…。

当初主人公と思われていたジャーヴィスは物語の舞台となるケンブリッジ学校と地下鉄の提供者、云わばプロデューサー的な存在だ。
物語は中盤、単なるエピソードの脇役と思われていた熊使いのアクセルがケンブリッジ学校に乗り込む辺りからテーマを帯びてくる。アクセルを軸にトム、アリス、ジャスパーの運命が翻弄され悲劇へと向かう。
物語の進行の合間に挿入されるジャーヴィスの地下鉄に関するエピソードが興味深いが物語の方向性が掴みづらく、ノレなかった。
読者は眼の前に繰り広げられる場面展開を成す術なく追っていくのみ。
私はソロモン王の絨毯には乗れなかったようだ。

No.632 4点 長い夜の果てに- バーバラ・ヴァイン 2009/09/27 20:45
レンデルが、ヴァインとして描く作品はハッピーエンドが多い。しかし、今回は重厚かつ陰鬱で北方の凍てつく寒さのイメージが物語全体を覆っていて、なかなかノレなかった。
正味560ページの長い物語の中で、延々謎として設定されていた諸々の事象が最後に何とも呆気なく明かされる辺り、結局今までの物語は何だったの?と呆れてしまった。

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