皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
Tetchyさん |
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平均点: 6.73点 | 書評数: 1631件 |
No.691 | 8点 | 災厄の町- エラリイ・クイーン | 2010/02/08 23:59 |
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扱う事件は妻殺し。夫であるジムは金に困り、飲んだくれ、しかも殺人計画を匂わす手紙まで秘匿していた、と明々白々な状況証拠が揃っていながら、当の被害者である妻が夫の無実を信じて疑わないというのが面白い。
そしてその娘婿の無実を妻の家族が信じているというのも一風変わっている。この実に奇妙な犯人と被害者ならびにその家族の関係が最後エラリイの推理が披露される段になって、実に深い意味合いを帯びてくる。 渦中のジムを取巻く真の人間関係についてはすぐに察したが、それ以降のジムがなぜ真実を告げないのかと終始いらいらしながら読んだ疑問が最後に哀しみを伴って明かされるのは秀逸。 『スペイン岬の秘密』でも見られた、真相を明かすこと、犯人を公の場で曝すことが必ずしも正義ではないのだというテーマがここでは更に昇華している。知らなくてもよいこと、気付かなくてもよいことを知ってしまったがために苦悩している。興味本位や己の知的好奇心の充足という、完全な野次馬根性で事件に望んでいたエラリイが直面した探偵という存在の意義についてますます踏み込んでいる。 ただ残念なのはクイーンが最後に披瀝する真相を裏付ける物的証拠が何らないことだ。状況証拠を積み重ねた帰納的推理に過ぎない。 やはり犯罪を扱い、犯人捜しをするのならば、肝心の証拠・証人を押さえて然るべきではないだろうか。 |
No.690 | 2点 | トワイライト・アイズ- ディーン・クーンツ | 2010/02/06 23:26 |
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物語はゴブリンを見分ける特殊な眼を持つ主人公スリムの一人称で語られるのだが、これが17歳の言葉とは思えないほど、格式張っており、しかも回りくどい表現が多くて、かなり疲れた。作者としてはイメージ喚起を促したつもりだろうが、読み手の方としては感情移入を許さない文体だなと思うことしばしばで、なかなかのめりこめなかった。
そしてやっぱりやってくれたよ、クーンツは。 上下巻合わせて770ページあまりを費やして最終的に物語を放り出してしまった。 色々散りばめたキャラクターたちは絡むことなく、放りっぱなし。 しかもあれほどゴブリンを全滅させるのにこだわった主人公がなにか吹っ切れたかのようにゴブリン退治を諦めるのだ。この180度転換した意趣変更は正直面食らった。作者は炭坑で繰り広げられる洞窟探検譚に似た襲撃場面に筆とエネルギーを費やしすぎて燃え尽きてしまったのだろう。 |
No.689 | 6点 | サイレント・アイズ- ディーン・クーンツ | 2010/02/04 21:50 |
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本作品ほど、クーンツは傑作を物するのに仕損じたと大いに感じたことはない。
クーンツの長所として ①ページを繰る手を休ませない物語の展開の早さ ②読者を退屈させない斬新なアイデアの数々 ③どんなに窮地に陥ってもハッピーエンドに終わる という3点が挙げられるが、今回はこのうち③を特化して物語を閉じればかなりの傑作になったのではないだろうか?なぜテーマを1本に絞れなかったのか? やはり西洋人の作家だなあと感じたのはジュニアが寝言で知りもしないバーソロミューの名を連呼することに対する答えを論理的に用意していたというところ。恐らく日本のホラー作家ならば説明のつかない超常現象めいたことを種にするだろうが、クーンツはしっかりとその理由についても論理的に用意していたのが興味深かった。 正直な話、今回は物語がどのような展開を見せるのかが全然検討がつかなく、これがページを繰る手を止まらせないといったようないい方向に向かえば文句なしなのだが、迷走する様を見せつけられているようにしか受け取れなく、何度も本を置こうと思った。 1965年から2000年にかけてのバーソロミューの半生を描くサーガという趣向なのは解るけれども1,200ページ以上をかけて語るべき話でもなかったというのは確か。最後の最後でじわっとさせられるものがあったけれども終わりよければ全て良しとはいかず、やはりそれまでが非常にまどろこしかった。クーンツ特有の勿体振った小説作法がマイナスに出てしまった。 |
No.688 | 3点 | 汚辱のゲーム- ディーン・クーンツ | 2010/02/03 21:55 |
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長い!長過ぎる!!全てにおいて冗漫でしょう!!
しかもクーンツ特有のどうしてそんな風になったのかを後々になって明らかにする引っ張り手法を用いているものだから、何がなんやらで、もうどうにでもなれって感じになってしまった。 上下巻合わせて1,100ページ余りで語るべき話ではないのではないか?あまりにも肉付けが多すぎて推敲がされていないように思われる。この内容だと恐らく半分は削れるだろう。小説の長大化を決して厭うわけではないが長大な話にはそれ相応のスケールの大きさがあるのに対し、今回はただ単純に登場人物が多く、それら一人一人を不必要なまでに描いた、これだけのような気がする。 |
No.687 | 7点 | 嵐の夜- ディーン・クーンツ | 2010/02/02 23:49 |
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5編の長短編が含まれた作品集。
「ハードシェル」はクーンツお得意の異形物サスペンス。今回はこの主人公も実は宇宙人だった(しかも敵よりもかなり優れた!!)という内容。読んでいる途中で解ったから驚きはなかったが、敵を倒す方法がアイデアとして優れている。 次に「子猫たち」は奇妙な味の短編とでも云おうか。正直、最後のオチはよう解りません。 「嵐の夜」はこれまたSF。しかしこれは設定が非常に優れている。ロボットが地球の最高知能生存者として生活する未来。二世紀を寿命として作られているため、非常に頑丈でスリルを味わうのを何よりも欲している。そんなロボット達が従来得ている能力を最小限のものとし、山中へ狩に出た際に遭遇する最強の獣“人間”。しかしクーンツは最後までこの“人間”を今ある人間として描かない。だからこれは実は猿かもしれないし、実は宇宙人かもしれない。そんな得体の知れない物として描いたまま終わる。自分としてはこれがベスト。 作者お気に入りの「黎明」は実は各評論でも評価が高いもの。無神論に固執する父親が最愛の妻と息子を亡くす話。そういう過程を経て最後に神はいるという結論に達するのだが、そのあまりにも無神論を妄執するこの父親像がクーンツ作品らしくかなりしつこく、ねっとりした粘着感を備えている。思っていたよりも後味がすっきりしなかったせいか、私としてはさほどいいとは思えなかった。 最後は長編『夜の終わりに』の改稿版「チェイス」。数ある初期作品の中でこの作品を改稿する物として選んだ動機は最後のあとがきに詳しいが、それを読んでも何故この作品を?という疑問は拭えなかった。 |
No.686 | 9点 | 真夜中への鍵- ディーン・クーンツ | 2010/02/01 23:44 |
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京都を舞台にしているが、この作品を書くに当ってクーンツは京都への取材はせず、日本に関する膨大な資料と日本に詳しい知人への訊き込みで書いたという。
とても信じられないほどの緻密さである。凝った日本料理についても日本人であるこちらが知らないような、もしくは食べたことないような高級な物だが実在する物として容易に想像できる物である事も更なる驚きであった。 さらに『雷鳴の館』に匹敵する豪腕サプライズもあり、これは隠れた逸品だ。 |
No.685 | 3点 | ミスター・マーダー- ディーン・クーンツ | 2010/01/29 22:15 |
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主人公マーティは作家クーンツをどことなくタブらせる存在で何にせよキングの『ミザリー』に触発されて書いたのは間違いない。キング作品は未だに読んだことがないので比べることは出来ないのだが、世評の高さを鑑みるに軍配はキングに上がったようだ。
サスペンスの盛り上げ方としてクーンツはこの上なく、物語の核心を出し惜しみして最後まで明かさない。この小説作法がずっと残っており、今回もまたそうである。 この手法は読者を最後まで飽きさせない、最後まで付き合わさせる方法としてはかなり有効なのだが、明かされる真相が読者のじれったさを解消するカタルシスを伴うか、もしくは読者の度肝を抜く衝撃の真相でなくてはならない。『ウィスパーズ』然り、『雷鳴の館』然り、最近では『バッド・プレース』がそうであった。 しかし今回は設定が’70年代SFの領域を脱していなく、ある物語の典型を活用にしたに過ぎない。作中やたらと『スタートレック』が出てくるのも作者もそれを知ってのことかもしれない。 物語に絡んできた「ネットワーク」の連中も主人公に降りかかる色々な災厄を連想させつつ、結局何もしなかったというのも肩透かしだし、マーティとアルフィーの最初の対決と最後の対決で何が変わったのかと云えば実は何も無く、子供が攫われそうになった分、初回の時の方がスリルがあった。最初の対決だけで物語は終えるべきだった、そう思わせる駄作でした。 |
No.684 | 4点 | 心の昏き川- ディーン・クーンツ | 2010/01/28 22:03 |
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どうにもこうにも陰気な主人公スペンサーがストーカーにほぼ近い事―というよりストーカー行為―をある酒場で出逢った魅力的な女性に対して行う事から始まり、しかも彼が自分の名前、住所、身分証明書の類全てを詐称する究極のパソコンおたく、ハッカーでもあったという非常に好意の持てない所から出発していることもあり、物語が進むにつれ、スペンサーがヴァレリーと再会してから明るくなっていくのでエンターテインメント性が高まり、マイナスからプラスに転じていたのが良かった。
主人公の呪われた血の設定は特筆物だがやはりタイトルが示すように物語のトーンとしては暗い。 しかし今回、クーンツとしては珍しく敵役のロイを殺さずに最後に生き残らせ、しかも将来とんでもない事態をアメリカにもたらそうと暗示させて物語を終えた。 恐らく作者は書いている最中ロイが非常に気に入ってしまったのだろう。ロイとイヴのアメリカにもたらす災厄は非常に大きいものであり、しかも堅固までの確実性で実施されることで物語が終わるということは続編を作る気(だった)なのかもしれない。 しかし「クーンツの小説方程式」になぞらえて今後も作品を作っていくとなると小説家としては二流と云わざるを得ないなぁ。 |
No.683 | 6点 | コールド・ファイア- ディーン・クーンツ | 2010/01/27 22:05 |
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今回の導入部はかつてのクーンツ作品の中でも群を抜く素晴らしさだろう。上巻はその救出劇のオンパレードでもう巻措く能わずといった状態。
しかし、上巻の最後の航空機墜落のエピソードから少し勝手が変わってくる。 主人公ジムが想定していた人物以上の救出が可能とされたからだ。 ここから下巻に至るわけだが、下巻はそもそも何故ジムがこのような特殊能力及び特殊な使命を帯びるに至ったかを探る云わば自分探しがメインであり、上巻であれだけ魅せられたスーパーマンのような救出劇が全く出なくなる。 しかも当初新聞記者としてジムの数ある救出劇に興味を持って近づいたホリーがジムに対して常に敗北のカードを握らされていたのに対し、今度は逆にジムがホリーを頼り、ホリーがその取材力を活かして東奔西走する形に変貌し、正に主客転倒するのだ。 これが最初に不屈の精神力とタフな肉体を供えて登場したジムのキャラクターとに大きなギャップを生むことになり、物語の視点がぶれるように感じた。 正直に云えば、下巻は何とも観念的な話が続くので上巻のエンターテインメント性と比するとかなり落ちるのだ。物語の構成上、このようなプロットにならざるを得ないだろうが、これははっきり云って物語としては致命的だろう。 通常ならば前半大人しく、後半派手派手しく終わるのが読書の醍醐味なのだが、今回は全く逆。 ここにこの作品の弱点がある。 前半盛り上がりすぎ、後半暗くなりすぎである。 |
No.682 | 8点 | バッド・プレース- ディーン・クーンツ | 2010/01/26 22:01 |
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今回もクーンツは非常に魅力的な導入部を演出してくれる。
ふと目が醒めると知らない所にいる男、フランク。 最初は簡単な依頼かと思われたあるコンピュータ会社の仕事で危機一髪の危難に見舞われる夫婦探偵。 このフランクの、見知らぬ場所で目覚めるという設定のオチがテレポートだったとき、『ライトニング』など散々使い古された手の亜流でしかないのかと思われたが、最後に明かされるフランク、キャンディらポラード一族の血縁のおぞましさにはかなりガツンと来た。 これほどの真相はかの名作『ウィスパーズ』に勝るとも劣らない。 これをフランク及びキャンディがテレポート能力を持つに至った事を原因付ける強引さ。これほど畸形遺伝子を並べると納得させられるから怖い。しかし、ここまでやると次はどんな手が残されているのだろうか? |
No.681 | 7点 | アイスバウンド- ディーン・クーンツ | 2010/01/25 22:18 |
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クーンツ初の本格冒険小説は、やはり他の作品と変わらず、実にクーンツらしかった。
欧米の水不足を北極の氷山の欠片を持ってくることで解消しようという田中芳樹の冒険小説を髣髴とさせる大胆な設定を皮切りに、いきなりの海底地震によって寸断された氷山に取り残されたプロジェクト・チーム、彼らを襲うのは皮肉にも自らが仕掛けた爆弾だった。しかも途轍もない嵐によってあらゆる救助は不可能。そして正体不明の殺人鬼がメンバーの中にいる。 どこまでも読者を飽きさせないこのサービス旺盛さ。あいかわらずメンバーの個性は類型的だが、読んでいる最中は気にならない。 アリステア・マクリーンに敬意を表した作品だというが、私は彼の小説を読んでいないので正当な判断はつかないけれど、どうもその域には達していないように思われる。 この過剰なるサービス精神が名作を残すのを妨げているように思われるのだが、どうだろうか? |
No.680 | 6点 | ウィンター・ムーン- ディーン・クーンツ | 2010/01/25 00:14 |
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クーンツがベストセラー作家として確立されているだけに、ストーリーが定型化しすぎていると痛感させられた。映画にすれば各々の登場人物の演じる俳優のイメージが固定化される思いもした。
導入部はいつもながら物凄い。いきなりクライマックスを迎える。 それから膨らむ主人公の周囲を取り巻くエピソードも興味深く、これを貫けばある意味、小説の大家としての地位も確立できるであろうと思うのだが、やっぱりクーンツは怪物や宇宙人が好きなんですねぇ~! 得体の知れない怪物の話は今までになく幻想的で想像力膨らむが、無敵度を強くしすぎたせいか、最後の対決は何ともしぼんだ内容になっている。ここがいつもながら作家としての脆弱さを露呈させている。 あと、主人公以外の登場人物の使い捨て癖が顕著だった。 エピソードや人物設定などを取り上げれば面白くなる要素ばかりなのだが、それらを十全に活かしきれないクーンツ。 |
No.679 | 4点 | ハイダウェイ- ディーン・クーンツ | 2010/01/23 00:30 |
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もはや大ベストセラー作家としての地位を確立した後の作品であるのだが、どうも歯切れが良くない。
初期の作品群に顕著に見られる、盛り上げるだけ盛り上げといて結末が何ともあっさり、というか呆気ないという特徴ほどではないにしろ、あれほどヴァサゴとハッチとのシンクロニシティで恐怖感を盛り上げておきながら、対決が単に十字架で殴りつけて終わりとは何とも情けない。最後の最後で裏切られたとはこのことだ。しかも悪い意味で。 作者の狙いは、彼ら2人のシンクロニシティにまずオカルトめいた雰囲気を提示しておいて、ストーリー半ばで地獄から蘇ったヴァサゴがナイバーンが蘇生法で蘇らせた我が息子であることを示し、更にこのことでヴァサゴとハッチのシンクロニシティに一応の根拠を持たせ、これでファンタジーから現実レベルの域にまで引き落としながらも、最後の最後でウリエルとヴァサゴという名前を出すことで、やはりオカルトだったのだという二重三重の構成を持たせたのだろうが、全然効果が出ていない。 はっきりいって、最後のウリエルVSヴァサゴは蛇足だ。こんな真相なんていりません。 なんともまあ、すっきりしない結末でした。 |
No.678 | 10点 | ウォッチャーズ- ディーン・クーンツ | 2010/01/20 23:57 |
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やられた。クーンツがこんな作品を書くなんて。
とにかく<アウトサイダー>にやられた。 クーンツの悪い特徴である素っ気ない結末で締め括られるわけでなく、カチッと最後のピースが当て嵌まるかの如く、素晴らしいエンディングを用意しており、心にずっしりとストーリーが残った。殺し屋ヴィンス、追跡者レミュエル、これら脇役が全てプロットに最後の最後まで機能しているのもクーンツにしては珍しい。 現時点でのクーンツ作品№1。 |
No.677 | 8点 | ななつのこ- 加納朋子 | 2010/01/20 00:00 |
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読み進めるにつれて謎のスケールが小さく萎んでいっているように感じた。いや正しく表現するならば、日常の謎よりも駒子を取巻く人物達の物語を描く事に力点がシフトしていったように感じた。
ミステリという視点から論じれば各短編での謎よりもやはり作品全てに共通する児童書「ななつのこ」の作者佐伯綾乃の謎こそがこの短編集で語りたかった謎だ。 そしてその謎は実に古典的で、敢えて云うならば「あしながおじさん」そのものだ。 しかしやはりオーソドックスとは思いつつ、この設定はやはり鉄板。特に加納氏の少女趣味溢れる物語構成とこのプロットは相乗効果で、実に心温まるお話となっている。 いまどき珍しい純粋かつ甘酸っぱい物語と行間から感じ取れる作者が本作に込めた想いに素直に賞賛を贈りたい。 |
No.676 | 4点 | 一角獣殺人事件- カーター・ディクスン | 2010/01/17 08:50 |
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長らく絶版しており、95年に国書刊行会から数十年ぶりの新訳再販となっていた幻の作品だが、メインに謳われている一角獣に殺されたとしか思えない傷に関する真相は正直肩透かし。日本人には馴染みのない凶器ゆえに長らく絶版だったのかと独断で納得。
しかも作品紹介は一角獣という実在しない怪物をモチーフにした事を前面に押し出し、一見カーの最たる特徴であるオカルト趣味を纏ったものだと思わせるが、蓋を開けてみればフランスを賑わす怪盗を捕らえる事が主眼の、HM卿の国際犯罪に携わる情報部の長という諜報活動の一面が色濃く反映された作品である。確かに原題も“The Unicorn Murders”と一角獣と名を冠しているが、やはりこの紹介は間違いだろう。この罪は大きい。 |
No.675 | 7点 | 帝都衛星軌道- 島田荘司 | 2010/01/16 03:01 |
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本来であれば本書は中編集というべきだろう。しかし通常の中編集と違うのは、前者の表題作が前後編に別れ、しかも前編と後編の間にもう1つの中編「ジャングルの虫たち」が挿入されるという、極めて特異な特徴を持っていることだ。
そして表題作の後編で立ち昇るのは島田のライフワークとも云うべき、冤罪事件と日本の都市論だ。特に地下鉄について語られており、私もこの11月に東京に来て通勤に地下鉄を利用することになり、路線図を眺めて思ったのはなんともおかしなルートをしているなぁということだった。この素朴な疑問に1つの回答が得られた思いがした。 ただトリックとも云うべきトランシーヴァーの2つの謎は驚愕をするほどではないのが残念。 |
No.674 | 7点 | ストレンジャーズ- ディーン・クーンツ | 2009/12/24 23:49 |
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上下合わせて1000ページ強の超大作でしかもクーンツにしては文字のぎっしり詰まった作品。
とにかくクーンツは冒頭が素晴らしく、今回もその例に漏れない。夢遊病の作家、突然遁走の危機に見舞われる若き女医、神を信じられなくなった神父、暗闇恐怖症のモーテル経営者など、一見何の関係もない彼ら・彼女らがある1つの場所に収斂していく手並みは流石。 冒頭はサイコ・サスペンス、続いて軍事スリラーに、そして最後はSFと、かなり贅沢な作品であるのは間違いなく、当時としてはクーンツの集大成的作品だったのかもしれない。しかし、最後がいやにメルヘンチックな締め括り方をしていたのと、やはりどうにも無駄に長いという感が拭えず、総合的には平均的な佳作だと結論に至った。面白くないわけではないんだけどねぇ…。 |
No.673 | 5点 | ミッドナイト- ディーン・クーンツ | 2009/12/22 23:52 |
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今度のクーンツは人間が野獣に変身するというモチーフを用いたSFホラー物。しかし、内容は意外に浅かった。
物語があまりにも当たり前の方向に進んでいくのが面白くなく、しかもこれだけ当たり前に進むのに、680ページもの分量が必要なのか疑問。 最後の無形体のアメーバが死ぬのは蛇足のような気がする。私としては最後に生き残ったアメーバが闇の中で息づいている終わり方が一番余韻としては残ったと思うのだが。 ローマンという転換者の中にヒーローを設けたのは設定としては良かったが、なぜか魅力が無い。恐らく死ぬ間際まで負け犬根性が残っていたからだろう。 もう少し工夫が欲しかったな。 |
No.672 | 7点 | ライトニング- ディーン・クーンツ | 2009/12/22 00:37 |
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クーンツにしては、という云い方は失礼かもしれないが、複雑なプロットの物語でかなり読むのも苦労をした。タイムトラベル物の一つなのだが、とにかく複雑な構成。
パラドックスに関してかなりの時間を費やして考察を行った節があるのだが、最後の敵クライトマンがクリーゲルのチャーチルとヒトラーに対して行った工作が成功した後にも存在していたのは何故?などという疑問もある。 先に読んだ『奇妙な道』にアイデアは似ていると思う。特に防戦に失敗して主人公が死亡した後に、別の手段でやり直しが効くところは正にそっくりだ。 いつものクーンツ作品と違い、事件解決後の後日談があるのも珍しい。 |