皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
Tetchyさん |
|
---|---|
平均点: 6.73点 | 書評数: 1601件 |
No.8 | 5点 | ディーケンの戦い- ブライアン・フリーマントル | 2009/04/19 20:01 |
---|---|---|---|
かつて勇名を馳せつつも相次ぐ敗訴で自信喪失中の弁護士ディーケンが武器商人らの取引に巻き込まれ、翻弄されるというお話。
とにかくなんとも救いのない話だ。 本来こういう設定ならば、ディーケンという男の復活をストーリーの軸にするのが定石だが、本作では違う。もうそれこそボロ雑巾のようにこき使われるだけなのだ。 しかも彼の行動原理となっているのは誘拐された妻を救うところにあるが、この妻の成行きも実に意外な方向に展開していく。 こういう小説はシニカルな面白さを求めれば楽しめるのだろうけど、私は爽快感を求めたが故に、悲壮感が最後残ってしまった。 特に最後にはフリーマントルならではといった仕掛けが明らかにされるが、ちょっと出来すぎのような気がして、それもまた十全に楽しめなかった一因となった。 |
No.7 | 7点 | 英雄- ブライアン・フリーマントル | 2009/04/19 00:43 |
---|---|---|---|
ダニーロフ&カウリーシリーズ第2弾。
アメリカで起きたロシア大使館員射殺事件を発端に、再び2人がコンビを組んで米露共同捜査に当る物語。捜査は次第にロシアマフィアとの抗争に巻き込まれていく。 やはり物語の主眼はアメリカ側のカウリーよりもロシア側のダニーロフに割かれており、これがかなり読ませる。 特にロシアマフィアと民警、大使館員らの癒着の有様を読むとロシアの政治が絶望的だという感を強くする。 しかし、全体的に冗漫だと感じた。特にマフィアと繋がっているダニーロフの悪友コソフや上巻で道化師役を割り当てられるメトキンの二人の狂言回しが長すぎる。これもダニーロフの人物像を深めるためのエピソードなのだろうが、なかなか核心に行かず、焦れた。 こういう冗漫さを感じるところが傑作と佳作の壁なのだろう。面白いがその面白さが突き抜けなかったなあ。 |
No.6 | 8点 | 猟鬼- ブライアン・フリーマントル | 2009/04/17 22:32 |
---|---|---|---|
ダニーロフ&カウリーシリーズ第1作目。
アメリカの政治原理とロシアの政治原理が交錯するやり取りは正にフリーマントルの真骨頂なのだが、今回はそれだけでなく、全編に事件解決の手掛かりが周到に散りばめられている、一種本格ミステリの要素も含まれている。 ここにフリーマントルのこのシリーズに賭ける意気込み、並々ならぬ創作意欲の迸りをびしびし感じた。まさに記念すべき新シリーズの幕開けだと云える1作だ。 今回、作者フリーマントルがロシア民警の警官とFBIエージェントを組ませて捜査を行うこの設定を思いついたのは単純に犬猿の仲とも云える相反する両国のミスマッチの妙と、水と油の関係の二国のそれぞれに属する者同士が国の利害を超え、結ばれる友情を描きたかった、それだけではないだろう。 90年代後半に起きたソ連の民主化政策、グラスノスチとペレストロイカという二大ムーヴメントによってもたらされた欧米的生活様式と価値観。それはまた同時に犯罪の欧米化を促す事でもあったのだ。 従って、今まで官吏が独裁的に行う犯罪捜査では解決しえない類いの犯罪も頻発する可能性があり、それを解決すべく東側もアメリカ式の犯罪捜査システムの導入が必要になる。こういった洞察からこの二国間のそれぞれの腕利きが協力し合うという構想が具体化していったに違いない。これこそ、フリーマントルの素晴らしき慧眼だといえる。 しかしそれにも増して物語に深みを与えるのが主人公2人の私生活に落とす翳だ。 英雄足りうる彼らも人並みに失恋し、不倫もするし、家庭内の不和という問題も抱える。それらがビシバシ情感に訴えてくる。 猟奇殺人事件のみならず、ロシア・アメリカ両国の政府に歴然と存在する政治原理のギャップ。そして主人公2人の苦悩など、読み応え抜群の1冊。 |
No.5 | 7点 | 十二の秘密指令- ブライアン・フリーマントル | 2009/04/16 22:12 |
---|---|---|---|
イギリスの対外情報機関「ザ・ファクトリー」に潜入した二重スパイの捕縛をテーマにした12の連作短編集。その内容は二重スパイの誤認、ロシアからの亡命者の話、潜入中の工作員の救出、ロシアへのスパイ派遣、首相のインサイダー取引疑惑事件、世界的経済壊滅事件、ロシア皇帝の末裔の話などヴァラエティに富んでいる。
財政のスペシャリスト、度胸満々のアラビア語を操るエージェント、暗号解読のスペシャリストなど、実に魅力的。こういった微に細に渡ったエージェントの諜報活動を読むのは、非常に胸を躍らさせ、これぞ読書の醍醐味というのを味わった。 ただサプライズのために用意されていたのだろうが、ラストのどんでん返しは余計な設定だった。 こういうところが職人作家のいらぬサービス精神なんだよなぁ。 |
No.4 | 5点 | 屍体配達人- ブライアン・フリーマントル | 2009/04/15 19:58 |
---|---|---|---|
ヨーロッパ各地で起こる連続バラバラ殺人事件を解決すべく、心理分析官クローディーン・カーターを中心に特捜班を作られる。クローディーンは外の敵だけでなく、内部の権力抗争にも巻き込まれる、というのはフリーマントルの定石的物語運び。
率直に云えば、可もなく不可もない作品。 職業作家としてのフリーマントルの職人技で作られた作品という印象が強い。それはこの小説で語られる事象が、ヨーロッパ各地で起こる凄惨な事件と平行して、自殺した夫に関するインサイダー取引疑惑、サングリエのユーロポールにおける自らの優位性を高めるための権謀術数など、色んな要素が絡み合っていることによる。 これがかえって事件への視点がぶれ、散漫な感じを強く受けた。 あと加えて傲岸不遜なクローディーンのキャラクターがどうしても共感を得ず、辟易してしまった。 これらこの小説を彩る内容は小説として非常に贅沢な感じを思わせるが、フリーマントルはこれらについてあまりに職人的すぎ、感銘を受けるには内容が薄いと感じた。 |
No.3 | 5点 | 屍泥棒- ブライアン・フリーマントル | 2009/04/14 22:54 |
---|---|---|---|
EU版FBI、ユーロポールに所属するプロファイラー、クローディーン・カーターの活躍を収めた短編集。
ヴァラエティに富み、しかもヨーロッパ諸国にそれぞれ舞台を変えて展開する物語。 こうやって書くとかなり面白く思えるのだが、さにあらず、正味30ページ前後の短編では、シナリオを読まされているような淡白さでストーリー展開に性急さを感じた。 なぜこのように淡白に感じるかというと、被害者の描写が単なる結果としか報告されないからで、あまりに省略された文章は読者の感情移入を許さないかのようだ。 全12作の中でよかったのはリアルタイムで事件が進行し、タイムリミットが設定された「天国への切符」とイタリアで蔓延する新型麻薬が実はハンガリーの新型麻薬の開発のために、人間を実験動物の代わりにしていたという真相が意外だった「モルモット」ぐらいか。 しかし現在ではほとんど手垢のついた題材で新味がないというのも事実。 |
No.2 | 7点 | 再び消されかけた男- ブライアン・フリーマントル | 2009/04/13 23:40 |
---|---|---|---|
前作『消されかけた男』の続きから物語は始まる。
しかし前作に比べると本作は小粒な印象を受けてしまう。今回は逃亡者としてのチャーリーの緊張感を軸にしてチャーリー抹殺のための英国情報部とCIAの丁々発止のやりとりを描いているのだが、プロットがストーリーに上手く溶け込まず、あざといまでに露見しているきらいがあり、チャーリーが逆転に転じる敵側のミスがあからさま過ぎる。 そして最後の方で退場するある人物は、物語の構成とチャーリーの生き方でそうせざるを得ないというのは解るけれど、ちょっとベタな始末のつけ方だなぁ。 最後に仕掛けるチャーリーの復讐。これがチャーリーという男の恐ろしさを表している。 |
No.1 | 9点 | 消されかけた男- ブライアン・フリーマントル | 2009/04/12 19:46 |
---|---|---|---|
原書が刊行されたのが'77年、訳出されたのが'79年。25年も前の作品である。確かに携帯電話とかインターネットとか無い時代で、ローテクであるのは致し方ないが、この頃の小説はひたすらキャラクターとプロットの妙味で読ませている。つまり作家としての物語を作る技量が高く、本書が放つ輝きはいささかも衰えているとは思えない。
チャーリー・マフィンシリーズの第1作。この第1作を読んで、これがシリーズ物になるのかと正直驚いた。それほどびっくりする結末である。 興味深いのはニュースで報じられる政治ニュースの裏側を垣間見せてくれる事。特に各国首脳の訪問にはかなりパワー・バランスが作用しているのだという事を教えてくれた。本書ではCIAがカレーニン亡命劇に一役買うことが出来なくなりそうになると大統領の各国訪問から英国を外すように働きかけ、情報部へ圧力をかける件はなるほど、こういう駆け引きが裏に隠されているのかと感心した。 |