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sophiaさん
平均点: 6.95点 書評数: 358件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.318 8点 あれは子どものための歌- 明神しじま 2022/07/11 00:11
ネタバレあり

タイトルや表紙からライトノベルのようなものをイメージしていましたが、文章表現は文学的ですし、話もなかなか複雑でした。ジャンルとしてはファンタジーであり、特殊設定ミステリーという趣でもあります。よもや全5話つながっているとも、第1話の因縁の決着が最後に待っているとも予想できませんでした。決着がもう少し劇的であるとなおよかったですが、予想以上に細部まで神経の行き届いた読み応えのある作品でした。再読にも十分堪えるでしょう。しかしどうも最後の方が「るろうに剣心」っぽいんですよね(笑)

No.317 6点 小さな異邦人- 連城三紀彦 2022/06/28 00:32
ネタバレあり

及第点は最初の「指飾り」と最後の「小さな異邦人」ぐらいです。「無人駅」は生きているように見せかける必要があまりなく藪蛇だと思います。「蘭が枯れるまで」は犯人のプランが複雑過ぎで現実感が皆無です。「白雨」の××愛ネタはミステリーで最も安直な騙しに感じて苦手なんですよね。「小さな異邦人」も手放しで褒めにくいネタではありますが、この短編集の中では優れた方に入ってしまうのが寂しいところです。果たしてこの短編集が遺作じゃなくてもランキング上位に入れたか疑問に思います。なお全て2000年代に書かれた作品ですが、昭和のミステリーという味わいで古さを感じました(一応携帯電話は登場しますが)。

No.316 7点 花束は毒- 織守きょうや 2022/05/28 14:25
直接的な描写をせずに浮き彫りにするという「火車」の手法。ラストの余韻も似ています。全体的に叙述に起伏がなく淡々としているのも敢えてのことなのでしょうか。7点か8点か迷ったのですが7点になったのは、最後のどんでん返しだけに懸けて逆算で物語を作ったという感じを受けてしまったからです。もう少し寄り道のようなものが欲しかったかもしれません。主人公と探偵・北見理花の中学時代の因縁もそんなに効いていないような。

No.315 6点 パラレル・フィクショナル- 西澤保彦 2022/05/19 17:20
第二部までは面白かったのですが第三部で失速。××の予知夢の見方が都合よすぎて醒めてしまいましたし、ひねりすぎたせいでタイムパラドックスが生じてしまっています。「七回死んだ男」は完成度が高かったなあと再認識する結果となりました。もうひとつ付け加えるとするならば、作中で描かれる男女の歪んだ関係性がどうにも気持(以下自粛)

No.314 7点 夜のピクニック- 恩田陸 2022/05/10 23:49
想定していたよりはミステリーだったのでその方向で期待してしまったのが間違いなのか、もう少し伏線回収があってほしかったという物足りない思いを抱いてしまいました。とは言えさすがに本屋大賞受賞作。思春期の登場人物たち、特に甲田貴子の心情描写の瑞々しさが素晴らしく、本来なら男の自分には聞いていられないはずのガールズトークも味わって読むことが出来ました。

No.313 8点 誰も僕を裁けない- 早坂吝 2022/04/30 01:52
ネタバレあり

館の仕掛けを犯人しか知らない、×××とらいちが似ているという偶然などご都合主義な部分は確かにあるのですが、叙述トリック解除による舞台の一本化が鮮烈な良作であると思います。トリックや伏線をエロ要素で作らせたらこの方の右に出る者はいませんね(笑)らいちとW主人公の彼が、ただ利用されただけの間抜けな男で終わってしまいかねない流れだったのを、最後に中心に戻して終わったのもポイントが高いです。

No.312 8点 死の命題- 門前典之 2022/04/19 22:39
改題・改稿作品「屍の命題」を読みました。序盤で面白そうという感触を得たものの、中盤から矢継ぎ早に起こる事件があまりに常軌を逸しているため、これは納得できるような解決編は期待できないのかなと思って読み進めたのですが、鮎川哲也賞選考会で当の鮎川哲也氏が推したのも頷ける仕上がりで凄まじい作品でした。個々の事件は割と荒唐無稽でしょうもないのですが、それらは恐らくはこっちを実現するための手段にすぎないのだろうという一連の事件の全体像に感服しました。伏線であることを示す点々をそんなに打たなくてもいいと思わなくはないのですが、ある人物が「驚いた顔でコーヒーカップを握りしめて立っていた」という伏線は大変よかったです。
余談ですが「うほっ、うほっ」という擬声語はやめてもらえませんかね。もしかしてこいつゴリラなのか?とかいらぬ推理をしてしまったので(笑)

No.311 5点 廃遊園地の殺人- 斜線堂有紀 2022/04/09 03:54
ネタバレあり

過去の銃乱射事件の謎の方が魅力的で、現在の殺人事件が埋もれてしまいました。読み終わって間もないのに「犯人誰でしたっけ」という状態ですし、トリックもそんな労力をかけてまでやることなのかと感じました。いつの間にか「ハルくんは誰」というのが話の軸になっているのにも違和感がありました。そこに付随して最も気になるのが冒頭のワンシーンの「籤付晴乃は」という表記ですねえ。ここを「ハルくんは」と書いていればなあと切に思います。
それから本作品はどうも読みにくかったです。主人公を含め主要人物に過去を隠している(あるいは記憶が曖昧な)人物が多いせいか、物語に感情移入しにくかったです。取って付けたような主人公の出自もあまり響かず。先に書かれている方もいますが、伏線が多すぎるのも読みにくさの一因でしょうか。しかもそのほとんどが解決編まで回収されないので整理するのが大変で、快適な読書とは言い難かったです(終わってみると特に意味のなかったダミーの伏線もちらほらありましたし)。ある程度は回収しつつ話を進めてほしいと思いました。「楽園とは探偵の不在なり」ではもっと「小説」が上手かった気がするので失望が大きいです。

No.310 8点 真夜中のマリオネット- 知念実希人 2022/03/16 01:12
ネタバレあり

「私が救ったのは天使か悪魔か」という大きな柱を崩しちゃった割には真犯人の意外性に乏しい。これは完全に「悪魔」のパターンでしょ、とんだ竜頭蛇尾だと思っていたらエピローグ・・・。「硝子の塔の殺人」のヒットで脂の乗り切った知念実希人という作家を見くびっていました。すみません。世間でも賛否がはっきり分かれているようですが、まあよく出来ている作品だと思いますよ。映画「セブン」並みに後味が悪いです。しかしここまで行くと逆に清々しいのです(笑)

No.309 9点 同志少女よ、敵を撃て- 逢坂冬馬 2022/02/24 23:20
少女兵バージョンの「戦場のコックたち」という感じでした。女性の深緑野分が「戦場のコックたち」を書き、男性の逢坂冬馬が本作を書くというのは面白いですね。味方がテンポよく次々と死んでいき、その描写も至って淡泊なのですが、それはいつ誰が死んでもおかしくない戦場の過酷さを知らしめる著者の狙いなのだと思います。特に第三章でのあの人物の早々の離脱が象徴的です。
当初は復讐のため、途中からは女性を守るためという目的をも持って軍隊に身を投じたはずのセラフィマですが、次第に初心を失っていき、何のために戦うのかを自問自答し成長していく姿は共感を呼びます。そしてそれが衝撃的なラストへつながってゆくのですから、壮大な伏線回収を見た思いです。歴史ものとしても冒険ものとしてもミステリーとしても一級品であったと思います。なお、エピローグでロシアとウクライナの関係に触れられているのが実にタイムリーです。

No.308 4点 ゴースト≠ノイズ(リダクション)- 十市社 2022/02/18 00:32
思いっきりネタバレします

新人離れした心理描写の上手さには目を見張るものがありますが(後半だんだんくどく感じられはしました)それだけで、ミステリーとしての完成度は低いです。最後真相が明かされるところできょとんですよ。まさか自分のことをそう思い込んでただけってこと?紙切れ一枚で?みたいな。さすがにこれは無理ですよ。「手のひらが透けた」とか「握手が空振りした」とか書いてしまってるじゃないですか。完全にアンフェアであると私も思います。
作品内で扱われるいくつかの事象、主人公の家庭問題、高町の家庭問題、クラス内のいざこざ、校内で起きる動物虐殺事件などは全部がバラバラで、ひとつの主流を形成できていません。結局何を読まされたのか?というすっきりしない読後感です。タイトルもセンスないですし、ツッコミどころはまだまだたくさんあるのですが、最後にひとつだけどうしても言いたいことがあります。やかん事件のことどんだけ根に持つんだよこいつらは(笑)

No.307 9点 名探偵に甘美なる死を- 方丈貴恵 2022/02/09 18:41
VRゲームと現実世界の両方を舞台にした、全く新しい最先端の館ものミステリー。「インシテミル」のようなデスゲームものが好きな人へも是非お勧めします。使われる数々のトリックは「そんなの分かるわけないだろう」と怒ってもいいレベルのぶっ飛んだものなのですが、怒らずに済むのは考え抜かれた二つの館の構造やさり気なく出されている数字など、伏線に対する感心が勝るからなのです。ゲームのルールは複雑で、ゲームマスターの気分による後付けルールも続出します。こういう頭を使う凝った作品は本来ページがなかなか進まないものですが、ほぼ一気に読まされてしまいました。
なお本作はシリーズ第3作ですが、第1作と第2作の主人公が共演するという、夢のような(?)作品となっています。二人に最大限に感情移入するために是非第1作から読んでいただきたいと思います。

No.306 8点 望み- 雫井脩介 2022/02/04 22:47
設定が少々凝っているだけで割とありがちな少年犯罪ものかなと思って読んでいましたが、そうではありませんでした。ナイフに一喜一憂する父親、息子の無実を訴える友人に反駁してしまう母親、自分の人生が閉ざされることを何よりも恐れる妹、三者三様のパラドックスにより紡がれるドラマの結末に胸を締め付けられる思いでした。

No.305 8点 模像殺人事件- 佐々木俊介 2022/01/30 17:03
隠れた名作と音に聞く本作、待望の復刊を機に読んでみました。これは入り組んでますねえ。人物記述の点でアンフェアにならないよう第三者の手記という体裁を採ったのですね。その手記がさらに人の手に渡ることで物語が厚みを増すという仕組みです。
予想をはるかに上回るハチャメチャな話で、正直な話毒気に当てられてしまったような気分なのですが、論理の面では非常にしっかりしており面白く、高評価せざるを得ないといったところです。

No.304 7点 魔術師- 佐々木俊介 2022/01/24 18:28
舞台設定が麻耶雄嵩「夏と冬の奏鳴曲」に似ていますが、それとはまた違う狂気じみた作品です。真相は衝撃的でありますし、○○○○に基づいた見立てなどよく出来ている部分はありますが、何の根拠もない与太話を盲信してあれだけのことをするのかという釈然としない思いも残りました。「魔術師」「秘儀(アルカナ)」「神秘学」などというミステリアスな用語で装飾したり、手帳の文面におどろおどろしいフォントを用いたりして雰囲気を出そうとしているのは分かるのですけれども。

No.303 5点 1話3分で驚きの結末!大どんでん返しの物語- アンソロジー(出版社編) 2021/12/30 23:11
宝島社出版の「5分で読めるひと駅ストーリー」「3分で読める喫茶店の物語」「10分間ミステリー」等から今回のテーマに沿った16短編を収録したもの。正直に言いまして傑作選でこの水準なのかという軽い失望はあります。それでも「フレンチプレスといくつかの嘘」「祈り捧げる」「柿」「盆帰り」は読み応えがありました。ベストは悩みますが、恋心と信仰の板挟みが苦い「祈り捧げる」と、唯一しっかり本格ミステリーとしても成立している「盆帰り」の2作を挙げさせていただきます。

No.302 6点 カミサマはそういない- 深緑野分 2021/12/07 01:40
現実的事件から無限ループ地獄から戦争ミステリーから終末的世界の冒険譚から、これでもかというくらい多種多様な短編集です。特に今回はファンタジーホラーへの挑戦が見られます。全7話飽きずに読めてお得である反面、少しまとまりを欠いてしまいましたかね。「オーブランの少女」のように、ある程度の括りがあった方が評価しやすかったかもしれません。救いのない話ばかりですが、「新しい音楽、海賊ラジオ」は希望を感じさせる爽やかな読後感でした。この話がラストで本当によかったです。

No.301 7点 神のダイスを見上げて- 知念実希人 2021/11/25 23:34
小惑星の衝突による地球滅亡をタイムリミットとしたフーダニット&復讐劇。接触した人物が次々と殺されていき主人公自身も容疑者になってしまうというというサスペンス要素もあり、謎めいた同級生の女の子との青春もあり、それら全てが終末的な潮流に支配されているという、言うなれば一種の特殊設定ミステリーといった作品です。追いかける犯人像が二転三転していくのはこの手の作品の王道なのですが、最後の最後のどんでん返しが推測に過ぎず雑に感じました。もう少し根拠となるような伏線を張ってもらいたかったです。それと市川憂人の某作を先に読んでいなければなあという個人的事情も併記しておきます。

No.300 6点 野球が好きすぎて- 東川篤哉 2021/11/15 23:20
ネタバレあり

プロ野球ファンなら思わず笑ってしまう小ネタが織り交ぜられたライトな作品で楽しく読めましたが、ミステリーとしては粗さが目立ちます。主な突っ込み所としては、第3話の中断の時間も当然飛ばすのでは?というところと、第4話の犯行現場を偽装するメリットが感じられないというところです。第1話「カープレッドよりも真っ赤な嘘」がシンプルながら綺麗にまとまっていてこの中では一番よかったですかね。あとはパ・リーグの話がもっと欲しかったところです。

No.299 5点 変な家- 雨穴 2021/11/11 23:49
本作は人気のYouTube動画を書籍化したものだとか。「不動産ミステリー」の謳い文句に相応しく、話の折々に間取り図が挿入されるという親切設計です。しかし「不動産ミステリー」だったのは第二章まで。第三章はもはや単なる隠し部屋・隠し通路捜しミステリーになってしまい、あまつさえ第四章は家系図ミステリーになってしまいました。こういう無理に長編に仕立てたものではなく、独立した複数の短編が読みたかったですね。真相の現実味のなさは棚に上げておきます。

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sophiaさん
ひとこと
世評の高い物を中心に読んでいっています。点数はミステリーとしてのみならず、読み物として面白いかどうかを考慮して付けています。ジグソーパズルのような複雑な作品は苦手です。
好きな作家
米澤穂信 今村昌弘 方丈貴恵 知念実希人
採点傾向
平均点: 6.95点   採点数: 358件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(31)
米澤穂信(16)
道尾秀介(14)
伊坂幸太郎(13)
綾辻行人(13)
島田荘司(12)
倉知淳(10)
泡坂妻夫(9)
恒川光太郎(9)
アガサ・クリスティー(9)