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じゃすうさん
平均点: 6.96点 書評数: 57件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.57 7点 ハードラック- 薬丸岳 2012/02/23 22:38
今回は単純に社会性のあるテーマよりも、よりエンタテイメント性を重視した作品のような印象を受けました。
もちろんそれが作品としてマイナスというわけではありません。新境地というのは確かにそうでしょう。
話の吸引力は、これまでの作品に比べてもよくなっている印象ですし、真相へのミスリードも上手くなっているように感じました。
しかし社会性<エンタテイメント性 と評したように、やはり動機や、そういった行動を取らざるを得なくなったやり切れなさという面への言及や心象描写が、これまでの作品と比して弱いのではないかと感じてしまうのは否めません。
とても面白く読めたのは確かですが。

No.56 4点 メルカトルかく語りき- 麻耶雄嵩 2012/02/20 23:33
作品としての趣旨は、理解できますし許容できる範囲なのですが、これ、メルカトルでやる必要があったのでしょうか?
「答えのない絵本」なんて、メルが公式に捜査に乗り出して
他殺を証明したにも関わらず、かつ犯人を挙げられなかったということですよね。推理は一流、プライドは超一流のメルカトルらしからぬことで、納得がいかずに終わりました。キャラ設定より趣旨が勝ったという印象でした。それとも、メルカトルであろうとも、所詮「論理でしか犯人を指摘できない」という本格ミステリの探偵の限界を指摘しているようでもありますが。

No.55 4点 赤い指- 東野圭吾 2011/03/08 23:13
現実に似たような事件が起きたばかりということもあり、そこへきて犯人(側)視点の倒叙という、不愉快な話だった。
まず母親と息子にひどくイライラさせられた。さらに父親も情けない。早く読み終わりたいと思いつつページを繰った。

こうした倒叙形式のものは、うっかり犯人の方に感情移入してしまい応援したくなる、というのが優れた倒叙ものの条件のひとつのように感じていたが、その意味ではマイナスだった。
被害者遺族の憎しみ、悲しみについてはほとんど触れられておらず、不愉快な犯人の逮捕後の落ちぶれる様もさして描写されておらず、最後まで言い訳を言っており、そうしたカタルシス面でもあまり期待はできない。

『レイクサイド』でも感じたが、子が重大な罪を犯したとき、親は必死で子の罪を隠したいと思うのが自然だと作者は感じているのだろうか? それは子を持つ親としてもあまり納得がいかないとも思ったが、最後の最後でどうやらそういう単純なものではなかったと気づかされた。

家族のありように関しては考えさせられるものがあったのは確かである。

No.54 7点 闇の底- 薬丸岳 2011/03/08 22:50
虚夢の次に読みましたが、今回は司法への問題提起というカラーは薄いように感じました。
むしろ『幼女暴行殺人』を犯した者を、私刑という形で葬っていくことは許されることなのか、という問いがあるように思えました。
もちろん(現在では)法律的にも道徳的にも、許されるものではないのですが、現実にもそういった事件が起きたばかりということもあり、考えさせられるものでした。

最後の刑事の選択、賛否両論でしょうね。
しかし共感できてしまう、支持したいと思ってしまうのは、たぶん人として自然な感情なのではないのかと思っています。

「復讐は恨みの連鎖しか生まない(だから我慢しろ)」というのは、被害者に一方的な泣き寝入りを強いる言葉であり、それこそ人権侵害であると思います。

欲を言えばサンソンの、どうしてそういう手段を選ぶようになったのか、など深く掘り下げてもいいのではないかと思った。
テーマとはずれるが、村上と藤川、長瀬と父親のエピソードなども、もっと詳しく知りたい部分だと思った。
ミステリとしては慣れた人にはミスリードがわかりやすく、イマイチかもしれません。

No.53 8点 虚夢- 薬丸岳 2011/03/08 22:39
天使のナイフで注目していましたが、今回のテーマは刑法39条。
心神喪失者の無差別殺人者が、数年の後に社会に放たれているという現状。そうした精神医療業界と精神鑑定の是非を、被害者遺族の視点から問うものとなっています。
読みやすく、重いテーマですが主人公に感情移入しながら読むことができました。ラストのどんでん返しは、予想していましたが深く頷かされました。説得力があったからです。

文庫化の際には加筆修正して、心神喪失者等医療観察法にも触れてほしいところです。

あと、精神障害者全体の犯罪率が低いということにも触れられていましたが、それは正確には、彼らの権利を擁護する側が意図的にミスリードさせるために発信している情報なので、うのみにしない方がいいでしょう。
もちろん、全員が危険なわけではありませんが、そういった業界のフェアじゃない情報開示の部分はかえって偏見を強めるだけで、きちんと指摘されてしかるべきです。
(統合失調の重大犯罪率にはわざと触れないように『精神障害者全体』の犯罪率としてますから)

現実にあった、いわき病院事件での、病院側の無責任な対応などもありますし、注意深く考えていかなければなりません。

No.52 4点 探偵伯爵と僕- 森博嗣 2010/11/22 23:36
久々に森作品読んでみました。
ミステリとしては平凡ですが、読み物としては面白いです。
後味は悪いですが、一番気に入らなかった点を一つ挙げますと、
若干ネタバレになりますが


22節の、「題材が良い」とか「こんなに面白いこと」などと書いてあること。少年の地の文章でそう表現している作者の良識を、ちょっと疑ってしまいます。
やっぱりこの作者とは波長が合わないのかな、と改めて感じました。

No.51 8点 名探偵 木更津悠也- 麻耶雄嵩 2005/02/28 01:55
どの作品も水準以上ですが、とくに『禁区』の歪んだ心理の穴に、身震いしました。

木更津と香月の微妙な関係は、まあ『翼〜』を読んでいる人には何となく想像がついておりましたが、『時間外返却』のラストで、実は木更津の方が(あらゆることを承知の上で)香月を利用して名探偵の地位を築いていそう? と思ってしまった。どっちもタヌキだ……。

No.50 8点 QED 東照宮の怨- 高田崇史 2004/04/02 23:21
点数はちょっと甘めかもしれません。
力技ですが、歴史パート部分の説得力は、それなりにあるように感じました。言霊信仰やひとつのフレーズに隠された何重もの意味についても、シリーズを追っていればある程度納得できますし。
事件の方との繋がり方はやや強引な所があるものの、本格推理の範疇ではないかと思いました。

結局、犯人はあれから……?

動機はわからないし興味ないとか言いながら、まず動機面から犯人を追い詰めていった探偵のタタルさん、ステキすぎます(笑)

No.49 4点 メドゥサ、鏡をごらん- 井上夢人 2004/03/10 19:17
ミステリっぽいノリで読者をぐいぐいと引っ張っておいて、結局はホラー落ちというパターンはちょっと私にとっては許容しがたいのでした。期待を裏切られたというか……私の先入観の問題でもあるのですが。

No.48 7点 さらわれたい女- 歌野晶午 2004/03/02 21:52
ノリが好きです。スピード感があり、サスペンスにあふれていました。主人公にも共感できる部分があってのめりこめました。
少しネタバレしますと、

個人的に黒幕は頭の切れる彼かとも思っていたのですが大外れでした。

No.47 8点 黒祠の島- 小野不由美 2004/02/26 00:45
天才変人系の探偵にはだいぶ食傷していたので、こういう全て探偵視点の地道な話も面白いと思いました。
途中、読むのがおっくうな部分もありましたが、雰囲気やラストのどんでん返し的仕掛けは個人的に好きです。
最後、○○を確認する直前で終わってたら不満が残ったでしょうけど。

No.46 5点 詩的私的ジャック- 森博嗣 2004/01/26 01:33
変装の理由、密室の構成等、単純な事件にしてはどうもハリボテ的な印象です。取って付けたような展開が鼻につきました。
ただ、犯人の動機などは良かった。自己矛盾しながらも、何となく気高さを感じました。
それとミステリ的に最も楽しめたのは、『愛してる』という台詞の対象くらいでしょうか。
ただもうその台詞が出てくるときは、消去法でほぼ犯人が限定されてるんですが。

No.45 7点 『吾輩は猫である』殺人事件- 奥泉光 2004/01/23 21:15
夏目漱石の『吾輩は猫である』の続編的設定。実は生きていたという猫が主人公ですが、ミステリ的には、余計な描写がだらだらと長いだけ、と感じますが、目のつけどころは漱石のそれと酷似しており、現実への風刺など、キャラたちにも違和感は覚えないし、愉快です。
(以下ネタバレ)




展開はミステリの王道を行っているようでもあり、しかし真相は流し読みしただけでは(おそらくじっくり読んでも)100%理解できるものではないです。
漱石の他の作品をモチーフとしているところもあり、その辺の文献も読まないと解釈はかなり難解ではないかと。
また、解釈を読者任せにするという点では、この作家さんにはよくあるようですが、この作品でのその手法は、少し残念な結果だったという気がしないでもなかったです。さんざん引っ張ってそれか、みたいな(笑)

しかし普通に面白く読めたので、この辺りの点数で。

No.44 8点 葉桜の季節に君を想うということ- 歌野晶午 2004/01/10 21:40
読者を意図的に誤読させる叙述トリックは多くありますが、これはまた新しいタイプの叙述トリックだったと思います。話の内容も軽快なハードボイルド。
しかし、見るべき点は個人的にそれ以外の部分。
現在の社会問題などを取り上げ、今までマイナスな印象しかなかった『高齢者』のステレオタイプなイメージを、タイトルの一言でひっくり返し、読者に生きる希望さえ見出させるのはある意味ミステリ的などんでん返し以上の効果を孕んでいると思います。

現在の社会状況を把握さえしていれば、出るべくして出た作品だという結論に至るのは当然かと。

No.43 6点 木製の王子- 麻耶雄嵩 2003/11/21 15:38
アリバイトリックの部分は私も流し読みでした。本腰を据え取り組むとキリがなさそうでしたので……。それにしても相変らず、木更津は真相の一歩手前までしかたどりつけませんね(苦笑)今回の『真犯人』(おそらく)は作中では名指しされていないし。そろそろ木更津にも日の目をみさせても良いと思うんですが、これもこのシリーズのパターンになってしまったのでしょうか。

No.42 7点 夏と花火と私の死体- 乙一 2003/11/07 21:08
正直に言いますと、表題作はあまり楽しめませんでした。
おそらく「死体が見つかりそうで見つからない」という状況が何度か続いた状態が、半ば惰性的に感じられてきたということが原因でしょうか。こういう盛り上げ方は、個人的に一度で充分に感じてしまいます。この表題作のみなら5点くらい。
しかし『優子』はとても良かったです。展開は読めたのですが、作品の根底に流れるものが自分の感性にピッタリはまりました。(上手く言えない……)これは8点くらい。
あとはこの短さでこれだけのものを書けるのかという、個人的な驚きもプラスして、この点数です。

No.41 7点 月光ゲーム- 有栖川有栖 2003/10/20 00:19
ひさびさに読者への挑戦ものを読んだ気がします。
でも、あまりクローズドサークル独特のサスペンスは感じられませんでした。ただ火山の噴火は、アイデアとして良かったものだと思います。
それにしても、結局例の女は二重の意味で思わせぶりだったということなのね(笑)
小説の中だからまあ許します。

No.40 7点 地獄の奇術師- 二階堂黎人 2003/10/12 10:59
犯人はすぐに見当がついてしまったが、雰囲気やサスペンス性が高く、飽きなかった。また謎自体にも魅力があり、不可能状況に対する期待が大きく膨らんだ。

ただいくつか疑問を挙げるとすれば、19章における蘭子の行動は理解しがたい。自主を勧めるためとあるが、開き直った犯人の反撃にあう危険性も皆無ではないはず(実際そうなったし)。それに対して黎人と二人だけで臨むのには、名探偵にしてはいささか短慮だと言わざるを得ない。そのために状況的には犠牲にならなくても良い人物が一人刺殺されたし。
あと、これは他のいくつかのミステリにも言えることだが、看破された後で、犯人が探偵役を亡き者にしようとする時は、どうしてそれまでの緻密な計画性もなくストレートに殺害に及ぼうとするのだろうか。とか。

No.39 6点 狂骨の夢- 京極夏彦 2003/10/11 22:24
姑獲鳥や魍魎と比べると、謎も緊迫度も、構成も幾分か落ちると思います。登場人物に対して「きっとこの人はこうなるんだろうな」という予測も、容易についてしまいましたので、それほど衝撃はなかったです。
しかし、京極堂の話は相変わらず魅力に溢れていて、後半は楽しくサクサク読めました。

No.38 7点 QED ベイカー街の問題- 高田崇史 2003/10/03 21:55
ホームズものをあまり知らない私としては、読むにあたって勉強しなくてはいけないかな? といささか危惧しておりましたが、読んでみるとそんなこともなかったです。
この作品の魅力のひとつに、
「この世のどんな出来事であっても、それが文章になってしまった時点で、それはフィクションでしょう。(中略)この世にシーザーやシェイクスピアやディケンズの実在していた確率と、シャーロック・ホームズの実在していた確率は−−ここで実在を、客観的存在と定義するならば−−フィフティ・フィフティでしょうね」
というある人物の台詞が挙げられると思います。
作中の登場人物が、実在するものとして認識されるために、多くの作家の方々に対して、勇気を与える反面、強烈な呪縛をもしてしまう言葉ではないでしょうか。

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