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ROM大臣さん
平均点: 6.06点 書評数: 161件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.21 5点 寝台車の殺人者- セバスチアン・ジャプリゾ 2021/08/23 16:41
寝台列車で女性の絞殺体が発見されるたのを皮切りに、同じコンパートメントに居合わせた乗客たちが一人また一人殺されていくという作品だが、乗客たちをつなぐ「環」の解明がユニークである。被害者だけでなく捜査側の刑事たちも含めて大人たちの醜悪さに比べ、乗客の一人である若い娘バンビと六歳年下の高校生のカップルはひたすら健気で、初々しささえ感じられ。どこか青春小説の書き手である名残がうかがえる。

No.20 7点 太陽がいっぱい- パトリシア・ハイスミス 2021/08/23 16:29
主人公リプリーは殺した富豪の息子になりすますのだが、それはただ、金のためだけではなく、自己が演じる一人二役に陶酔し、関係者がすっかり騙されることに倒錯した歓びを感じているのではないかと思わせる部分がある。
こうした犯罪に隠されたセクシュアルな部分を描くのが、ハイスミスの真骨頂といっていい。ここでは、警察も探偵もヒーローとは程遠い、傍観者、観察者の役割しか果たせないのだ。たとえ事件が解決しても誰も救われない、読むものにとって永遠に続くかのような不安な世界がそこにある。

No.19 6点 四人の女- パット・マガー 2021/07/29 13:36
冒頭からいきなり身元の分からない人物がビルから落下する場面で始まるこの作品は、殺される予定の人物を探すという非常にユニークな設定が使われている。
辛口で知られる人気コラムニストを巡り、その前妻、現夫人、婚約者、愛人が一堂に介する。元夫が四人の女たちの誰かを殺そうとしていることを知った前妻は、なんとか彼の犯行を未然に食い止めようと、必死に過去を思い出しながら彼の狙いを推理しようとする。コラムニストは虚栄心ばかりが高く、人の真心を平気で踏みにじるような「女の敵」ではあるのだが、前妻の口から語られるその人物像はひどく人間的でなぜか憎めない。卓越した人物描写が楽しめるる作品。

No.18 6点 クリスマスのフロスト- R・D・ウィングフィールド 2021/07/29 13:24
ロンドンから70マイル離れたところにある地方都市デントン。このありふれた田舎町の警察署に勤めるジャック・フロストが主人公。
ユーモラスな会話や巧みな語り口を武器に読者を引き込んでいく様は、処女作とはいえ作者の確かな技量を感じさせる。それは、人間味にあふれ、次第に悲壮感さえ帯びてくる主人公のフロストはもちろんのこと、その脇役たちにも十分な魅力があるからである。次期警察長を目指し、上昇志向のあるマレット署長、フロストに翻弄されっぱなしの部下のクライヴ。彼らとフロストのやり取りは皮肉なユーモアにあふれていて実に楽しませてくれる。もう少し毒気があってもよいかと思うが、シリーズ一作目としては十分すぎるほどの出来栄え。

No.17 9点 ジェゼベルの死- クリスチアナ・ブランド 2021/07/29 13:12
殺人予告を受けた挙句、劇中に舞台上で殺された悪女。しかし彼女を殺せた人間は存在しないとしか考えられない。
そんな密室状況にコックリルとチャールズワースが挑むわけだが、彼らと容疑者たちによるディスカッションが素晴らしい。いくつもの説得力ある仮説が構築されては覆される様は、胸躍る。
そして終盤では、容疑者が全員、犯行を自供してしまう、自白合戦ともいうべき様相も呈し、実にスリリング。さらに密室に関する悪魔的なトリックさえも駆使されている。作者の技巧とセンスが冴えに冴え渡る究極の逸品。

No.16 7点 ひとりで歩く女- ヘレン・マクロイ 2021/07/29 12:58
「以下の文章は、わたしが変死した場合にのみ読まれるものとする…」と書き出される正体不明の文章が物語の幕を開ける。
そして綴られる、不可解で異様な出来事の数々。不条理な夢にも似た展開はやがて現実の殺人を引き起こす。ただただ翻弄され、惑乱する。しかし、終わってみれば物語はとことん理性的に収束し、伏線は回収され、すべてきれいに割り切れて、結末にはおよそ剰余を残さないこの優れたサスペンスは、優れた本格として決着する。

No.15 8点 深夜プラス1- ギャビン・ライアル 2021/07/29 12:48
ガンマン、実業家、産業スパイの黒幕など、出てくる連中が皆それぞれにプロフェッショナル。彼らは自らの定める格率に従って生きる男たちで、それゆえに苦しみ、悩み、それゆえに誇り高く行動する。この年の小説の定番スタイルと言ってしまえばそれまでだが、特に自己が堕落し、敗北を感じた時、自らの復権を求めてする彼らの闘いのいちいちは、ある種の読者にとっては間違いなく麻薬のような魅力がある。

No.14 5点 キス- エド・マクベイン 2021/07/08 14:27
八七分署シリーズの四四作目。証券会社の幹部を夫に持つエマは、地下鉄のプラットホームで電車を待っていた。男が近寄ってきてエマに殴り掛かり、線路に突き落とされ、危うく電車に轢かれかけた
本シリーズの人気者、キャレラ刑事の幼少時代の思い出、家族の絆、最愛の父の非業の死、気落ちした母、公判、生活破綻に瀕した妹への思いなどに多くのページを使っているが、表面的で共感が得られない。
ストーリーは平板で終盤、若干の捻りがあるがネタは簡単に割れてしまう。本書はシリーズの標準作を下回る。

No.13 3点 山猫- ネヴァダ・バー 2021/07/08 14:16
雄大な自然を背景に、自然と動物を愛する人々への共感と、その自然を利用しようとする利己的な人々に対する作者の怒りが作品全体を覆っている。もちろん、そうした中にも犯人を相手にしたアクションを盛り込むのを忘れていない。
とはいうものの、プロットに捻りがないのが気になる。また、ヒロインにも魅力がない。シリーズ一作目に当たるらしいが、多くの課題を残したままの作品といえる。

No.12 9点 白昼の死角- 高木彬光 2021/07/08 14:07
株券の偽造から始まって、手形の横領に見せかけた詐欺、導入詐欺、バッタ詐欺など、手を変え品を変え手形パクリの数々が登場。あげくの果てはたった一日、それも数時間だけ実在の会社を模様替えして、もう一つの会社と信じ込ませる騙しのテクニックや、治外法権の外国公使館を利用した完全犯罪が現れて魅惑する。
驚き、呆れ、ピカレスク小説の醍醐味を十分に堪能した。

No.11 6点 鉄鼠の檻- 京極夏彦 2021/07/08 13:55
禅宗をテーマに、重厚な構成とペダントリーと舞台設定がありつつ、トリック自体も大仕掛け。同時にユーモアがあり、登場人物が多彩に書き分けられている。しかも人物が決して切り絵的にではなく、性格的に動く。
スタイルや叙述、ボキャブラリー、様々なモチーフを重ねていく手腕も申し分ない。
京極堂と榎木津のダブル探偵にして、殺人も殺し係と死体遺棄係が別になっている。寺にはでっち上げの貫首と本当の守主がいて、登場人物は徹底して二重化されている。
それなりに書き込んであって、誠実だという気もするが、長くなければならない必然性はないと感じる。小説を長くすること自体が目標なのだろうか?

No.10 5点 斜光- 泡坂妻夫 2021/07/08 13:43
凝りに凝った章構成、騙し絵的なプロットに加え、全体が官能的でオカルティックで、最上の大人の読み物になっている。
男女というものの結び付きを浮世絵的なきわどさの中に描いていて、しかも下品にならないのは作者ならではのものだろう。

No.9 8点 薔薇の名前- ウンベルト・エーコ 2021/06/24 16:37
異色のミステリとしてベストセラーになった本書は、記号論実践としても、また中世末期のヨーロッパの神学論争の雛型としても読むことが出来る。
ストーリーの中心をなす殺人事件の背後には、当時のキリスト教異端諸派と正統派との対立が脈々と流れ、そこにイギリス自然科学の先駆者R・ベーコンの教えを受けた主人公が絡む。
巨大な図書館が事件の鍵を握っていて、全体が「書物の書物」とも言うべき様相をなしている。

No.8 6点 キャリー- スティーヴン・キング 2021/06/24 16:20
狂言的な母親の異常な躾で育ったキャリーは、級友たちの嘲笑の中で初潮を迎えた。臆病で多感な少女が初めて、卒業前の舞踏会に晴れやかに出席した時、悪意で仕掛けられた豚の血が降り注いだ。
秘められていたキャリーのサイコキネシスは、悲しみと憎悪とともに爆発する。会場を、そして街を燃え上がらせた大惨事を、キャリーの心理と周囲の証言を織り合わせて綴る、モダンホラーの第一人者の処女作。

No.7 7点 飢えて狼- 志水辰夫 2021/06/14 15:14
日本でもその名を知られた元登山家が国際謀略の渦に巻き込まれ、北方領土の択捉島に潜入することになる。
ヒーロー造形を始め、濃密な自然描写、リアルな活劇演出、陰影に富む恋愛演出など、デビュー作とは思えぬ完成度。
権力に立ち向かうストイックなヒーローの再生譚に、複雑怪奇なエスピオナージの妙を絡めた独自の活劇世界は今もって古びていない。

No.6 7点 猛き箱舟- 船戸与一 2021/06/14 15:03
野心に燃えるひとりの青年の壮大なる成長譚であり、あまりに壮絶で哀しい愛情の物語であり、そして最高の復讐の物語である。
これぞ欺瞞と醜聞が吹き荒れる世で魂に火を点けたい者たちが携えるべき狂暴なる聖典だ。

No.5 8点 『吾輩は猫である』殺人事件- 奥泉光 2021/06/14 14:54
一冊丸ごと夏目漱石のパロディというか文体の模写。特に感心したのは、メインプロットとは関係のない益体ない、どうでもいいような与太話がキチンと書かれているところ。
プロの読みのすごさというか、「吾輩は猫である」の作中、漱石が適当に描いたために生まれた謎を再構成してミステリに仕立てているところ。
全体の構成もうまい。漱石が、初期には「吾輩は猫である」のような精神的に安定した文章を書きながら、晩年にはなぜ「行人」のように不安を漂わせた作風になっていったのか、そういう漱石文学の全体の謎もうまく盛り込んでいて得心がいった。

No.4 4点 龍の契り- 服部真澄 2021/06/08 16:39
二百ページぐらいまでは物語が全くといっていいほど進まずイライラ。状況設定のための情報をひたすら詰め込んで、しかも登場人物の八割がたは物語の行方に影響がないというひどさ。本を厚くするために登場人物を増やし、どうでもいい心理描写を加えているようにしか思えない。
はじめにドタバタありきというか、秘密をめぐって右往左往というところまでは成算があったのだろうが、どのように収束させるかのモチーフがなかった。

No.3 4点 テロリストのパラソル- 藤原伊織 2021/06/08 16:25
学生運動に挫折し、さまざまな肉体労働をした末に、ボクシングをやってみたら才能があった。そのあとなぜか、アル中のバーテンダーになっている主人公。
過去にあった爆発事件にかかわった人たちが、十数年後に再びある爆発事件の現場に集まってくるのは不自然。トリックを正当化するために、過激派でもなかった学生をテロリストに仕立てるというのは無理がある。

No.2 10点 星を継ぐもの- ジェイムズ・P・ホーガン 2021/06/08 16:15
「月面で発見された真紅の宇宙服をまとった死体。だが、綿密な調査の結果、驚くべき真実が判明する。彼は五万年前に死亡していたのだ!」という内容紹介文にそそられた。
彼は異星人?それともタイムスリップした未来人?謎の答えは想像もつかない。ただ、どんな謎でも論理的に説いてほしいと思っていた。結論から言えば、感動的なほど論理的な完璧なミステリ。
いたって科学的だが、中心軸が量子力学やコンピューターでなくダーウィンの進化論というのがいい。

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