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ROM大臣さん
平均点: 6.07点 書評数: 135件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.15 8点 深夜プラス1- ギャビン・ライアル 2021/07/29 12:48
ガンマン、実業家、産業スパイの黒幕など、出てくる連中が皆それぞれにプロフェッショナル。彼らは自らの定める格率に従って生きる男たちで、それゆえに苦しみ、悩み、それゆえに誇り高く行動する。この年の小説の定番スタイルと言ってしまえばそれまでだが、特に自己が堕落し、敗北を感じた時、自らの復権を求めてする彼らの闘いのいちいちは、ある種の読者にとっては間違いなく麻薬のような魅力がある。

No.14 5点 キス- エド・マクベイン 2021/07/08 14:27
八七分署シリーズの四四作目。証券会社の幹部を夫に持つエマは、地下鉄のプラットホームで電車を待っていた。男が近寄ってきてエマに殴り掛かり、線路に突き落とされ、危うく電車に轢かれかけた
本シリーズの人気者、キャレラ刑事の幼少時代の思い出、家族の絆、最愛の父の非業の死、気落ちした母、公判、生活破綻に瀕した妹への思いなどに多くのページを使っているが、表面的で共感が得られない。
ストーリーは平板で終盤、若干の捻りがあるがネタは簡単に割れてしまう。本書はシリーズの標準作を下回る。

No.13 3点 山猫- ネヴァダ・バー 2021/07/08 14:16
雄大な自然を背景に、自然と動物を愛する人々への共感と、その自然を利用しようとする利己的な人々に対する作者の怒りが作品全体を覆っている。もちろん、そうした中にも犯人を相手にしたアクションを盛り込むのを忘れていない。
とはいうものの、プロットに捻りがないのが気になる。また、ヒロインにも魅力がない。シリーズ一作目に当たるらしいが、多くの課題を残したままの作品といえる。

No.12 9点 白昼の死角- 高木彬光 2021/07/08 14:07
株券の偽造から始まって、手形の横領に見せかけた詐欺、導入詐欺、バッタ詐欺など、手を変え品を変え手形パクリの数々が登場。あげくの果てはたった一日、それも数時間だけ実在の会社を模様替えして、もう一つの会社と信じ込ませる騙しのテクニックや、治外法権の外国公使館を利用した完全犯罪が現れて魅惑する。
驚き、呆れ、ピカレスク小説の醍醐味を十分に堪能した。

No.11 6点 鉄鼠の檻- 京極夏彦 2021/07/08 13:55
禅宗をテーマに、重厚な構成とペダントリーと舞台設定がありつつ、トリック自体も大仕掛け。同時にユーモアがあり、登場人物が多彩に書き分けられている。しかも人物が決して切り絵的にではなく、性格的に動く。
スタイルや叙述、ボキャブラリー、様々なモチーフを重ねていく手腕も申し分ない。
京極堂と榎木津のダブル探偵にして、殺人も殺し係と死体遺棄係が別になっている。寺にはでっち上げの貫首と本当の守主がいて、登場人物は徹底して二重化されている。
それなりに書き込んであって、誠実だという気もするが、長くなければならない必然性はないと感じる。小説を長くすること自体が目標なのだろうか?

No.10 5点 斜光- 泡坂妻夫 2021/07/08 13:43
凝りに凝った章構成、騙し絵的なプロットに加え、全体が官能的でオカルティックで、最上の大人の読み物になっている。
男女というものの結び付きを浮世絵的なきわどさの中に描いていて、しかも下品にならないのは作者ならではのものだろう。

No.9 8点 薔薇の名前- ウンベルト・エーコ 2021/06/24 16:37
異色のミステリとしてベストセラーになった本書は、記号論実践としても、また中世末期のヨーロッパの神学論争の雛型としても読むことが出来る。
ストーリーの中心をなす殺人事件の背後には、当時のキリスト教異端諸派と正統派との対立が脈々と流れ、そこにイギリス自然科学の先駆者R・ベーコンの教えを受けた主人公が絡む。
巨大な図書館が事件の鍵を握っていて、全体が「書物の書物」とも言うべき様相をなしている。

No.8 6点 キャリー- スティーヴン・キング 2021/06/24 16:20
狂言的な母親の異常な躾で育ったキャリーは、級友たちの嘲笑の中で初潮を迎えた。臆病で多感な少女が初めて、卒業前の舞踏会に晴れやかに出席した時、悪意で仕掛けられた豚の血が降り注いだ。
秘められていたキャリーのサイコキネシスは、悲しみと憎悪とともに爆発する。会場を、そして街を燃え上がらせた大惨事を、キャリーの心理と周囲の証言を織り合わせて綴る、モダンホラーの第一人者の処女作。

No.7 7点 飢えて狼- 志水辰夫 2021/06/14 15:14
日本でもその名を知られた元登山家が国際謀略の渦に巻き込まれ、北方領土の択捉島に潜入することになる。
ヒーロー造形を始め、濃密な自然描写、リアルな活劇演出、陰影に富む恋愛演出など、デビュー作とは思えぬ完成度。
権力に立ち向かうストイックなヒーローの再生譚に、複雑怪奇なエスピオナージの妙を絡めた独自の活劇世界は今もって古びていない。

No.6 7点 猛き箱舟- 船戸与一 2021/06/14 15:03
野心に燃えるひとりの青年の壮大なる成長譚であり、あまりに壮絶で哀しい愛情の物語であり、そして最高の復讐の物語である。
これぞ欺瞞と醜聞が吹き荒れる世で魂に火を点けたい者たちが携えるべき狂暴なる聖典だ。

No.5 8点 『吾輩は猫である』殺人事件- 奥泉光 2021/06/14 14:54
一冊丸ごと夏目漱石のパロディというか文体の模写。特に感心したのは、メインプロットとは関係のない益体ない、どうでもいいような与太話がキチンと書かれているところ。
プロの読みのすごさというか、「吾輩は猫である」の作中、漱石が適当に描いたために生まれた謎を再構成してミステリに仕立てているところ。
全体の構成もうまい。漱石が、初期には「吾輩は猫である」のような精神的に安定した文章を書きながら、晩年にはなぜ「行人」のように不安を漂わせた作風になっていったのか、そういう漱石文学の全体の謎もうまく盛り込んでいて得心がいった。

No.4 4点 龍の契り- 服部真澄 2021/06/08 16:39
二百ページぐらいまでは物語が全くといっていいほど進まずイライラ。状況設定のための情報をひたすら詰め込んで、しかも登場人物の八割がたは物語の行方に影響がないというひどさ。本を厚くするために登場人物を増やし、どうでもいい心理描写を加えているようにしか思えない。
はじめにドタバタありきというか、秘密をめぐって右往左往というところまでは成算があったのだろうが、どのように収束させるかのモチーフがなかった。

No.3 4点 テロリストのパラソル- 藤原伊織 2021/06/08 16:25
学生運動に挫折し、さまざまな肉体労働をした末に、ボクシングをやってみたら才能があった。そのあとなぜか、アル中のバーテンダーになっている主人公。
過去にあった爆発事件にかかわった人たちが、十数年後に再びある爆発事件の現場に集まってくるのは不自然。トリックを正当化するために、過激派でもなかった学生をテロリストに仕立てるというのは無理がある。

No.2 10点 星を継ぐもの- ジェイムズ・P・ホーガン 2021/06/08 16:15
「月面で発見された真紅の宇宙服をまとった死体。だが、綿密な調査の結果、驚くべき真実が判明する。彼は五万年前に死亡していたのだ!」という内容紹介文にそそられた。
彼は異星人?それともタイムスリップした未来人?謎の答えは想像もつかない。ただ、どんな謎でも論理的に説いてほしいと思っていた。結論から言えば、感動的なほど論理的な完璧なミステリ。
いたって科学的だが、中心軸が量子力学やコンピューターでなくダーウィンの進化論というのがいい。

No.1 10点 ジャッカルの日- フレデリック・フォーサイス 2021/05/24 17:36
冷徹な男の闘いを恐怖を通して描いた作品は多いが、これはやはり白眉だろう。最後のページまで暗殺計画者と刑事の闘いはゆるがない

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