皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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ことはさん |
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平均点: 6.34点 | 書評数: 222件 |
No.182 | 7点 | 死と奇術師- トム・ミード | 2023/05/13 17:42 |
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ほんとに日本の新本格みたい。
「謎と議論と解決」以外の要素はきわめてすくない。キャラクターはスケッチ以上には掘り下げられないし、ドラマ要素も簡素に描写されるだけ。それに対して、謎の改めは、「三つの棺」の密室分類を引用してしっかりと行う。いやぁ、楽しいなぁ。 密室の解答は、あっけないものだけど、それを実現するための状況設定はじつに面白い。解決編で手がかり索引(xxページ参照)があるのも楽しい。惜しむらくは、解決シーンの演出がもっと「見得を切る」ようになっていれば、そそられたのになぁと思う。 「謎解きよりもドラマ重視」のような人にはまったく楽しめないだろうけど、謎解きファンは一読の価値あり。次作も翻訳されてほしいなぁ。 |
No.181 | 6点 | メアリー、メアリー- エド・マクベイン | 2023/05/13 17:40 |
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リーダビリティはすごく高い。 登場人物がみんな知っている事件の概要を、法廷シーンで小出しに知らされる構成がよい。少しずつ明かされる事件の状況に引っ張られて、ぐいぐい読まされてしまった。一気読み。
これは、一人称の語りに久しぶりに戻ったこともある。やっぱりこのシリーズは、三人称よりホープの一人称のほうがいい。 だけど、結末の付け方がなぁ。「あっち、と思わせて、こっち」という意図は感じたけど、成功している気はしない。そもそも「この結末はどうなのよ?」って話。 結末の残念感の減点より、終盤まで一気に読まされた加点を重視して、採点はおまけ。 マクベインの法廷物が他にあったら読みたいけど、あるのかな? |
No.180 | 6点 | たったひとつの、ねがい。- 入間人間 | 2023/05/13 17:39 |
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プロット、キャラクターとも、いかにもラノベで、仕掛けもわかりやすい。
ただ、1章はすごくいい。キャラクター描写も魅力的で、だからあの展開はいやな気分にさせられる。感情が動かされるのはすごいことなので、これで採点はおまけ。 |
No.179 | 5点 | どんがらがん- アヴラム・デイヴィッドスン | 2023/05/13 17:34 |
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解説にあるとおり「変な小説」だった。
面白さのポイントがよくわからない話が多かった。賞をとっている作品が4つ、「EQMM第1席:物は証言できない」、「ヒューゴー賞:さもなくば海は牡蠣でいっぱいに」、「MWA賞:ラホール駐屯地での出来事」、「世界幻想文学大賞:ナポリ」とあるので、世評も高いのだが、どこを評価されたのだろう。とくに「ナポリ」はわからなかった。これ、幻想文学か? 一番わかったのは「さあ、みんなで眠ろう」。これは切ないSFだった。 全体的に玄人好みなのかな? わからないが、気を引かれるところはある。いつか再読してみたら、ひょっとしたら楽しめるかもしれない。 |
No.178 | 5点 | ディミトリオスの棺- エリック・アンブラー | 2023/05/13 17:28 |
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めずらしくスパイ小説の古典を読んでみた。
予想外に地道に人の証言をきいてまわる展開で、この読み心地は私立探偵小説だなと思った。印象に残るのは、プロットよりも、聞き込みで出会う人物の肖像や、主人公のディミトリオスの肖像だった。 プロットとしては、目を引くものはないが、それは本作を参考に作られた作品を多く目にしているからなのだろう。たぶん、きっと、小説よりも映画でたくさん。 興味深かったのはラストシーン。 事件は終わり、知人からもらった手紙を読む主人公。そこには国際情勢の記述があり、不穏な空気が感じられるのだが、語り手のミステリ作家は、次の小説の構想を練り始める。 「冒険から平穏な日常に帰るラスト」と読みとれるのだが、舞台が1930年代後半、第二次大戦前夜なので、「平穏な日常には戻れないのだ」という皮肉に見えてしまった。(書かれたのが1939年なので、書いた当時に作者が考えていた訳ではないが) |
No.177 | 6点 | 十二人目の陪審員- B・M・ギル | 2023/04/23 20:58 |
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裁判を舞台にしたサスペンスで、CWAゴールドダガー受賞作。ゴールドダガーを受賞している割には、ネームバリュー低いな。
解説では、法廷物として2つのタイプをあげて(「弁護士や検事を主人公にした法廷闘争」と「陪審員たちの心理を描く」)、本作はどちらかというと後者と書いているが、どちらのタイプでもない気がした。 三人称/多視点で、複数の人物の心理に踏み込んで書いているが、その書き振りは「冷静な観察者の記述」といった感じのため、「弁護士や検事を主人公」としたヒーロー感や、「心理を描く」サスペンス感も薄味だ。乾いた文体で的確に物語られていき、味わいはハードボイルドが近い思う。 プロットとしては、ストーリーの途中に何個か捻りが加えられているが、選択肢が限られるために、予想がつく人も多いだろう。 ただ、終章の”ある出来事”は、かなり驚かされた。それでいて納得感があったのは、人物の設定/エピソードが伏線として機能していたからで、これはよくできていると思う。 かなり良作だと思うが、自分の琴線に触れる部分は少なかったので、採点はこのくらい。 |
No.176 | 5点 | ドアのない家- トマス・スターリング | 2023/04/17 22:55 |
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1つの事件が、2つの視点から語られ、最後に合流する構成。こういう構成は好き。
このうちの1つは、34年ぶりにホテルから出たという「引きこもり女性」が視点人物なのが個性的なところ。こちらのパートは、他の人の書評でも書かれているが、アイリッシュに似た感じを受けた。 とくに前半で、都市の中をふらつくところは、アイリッシュに似ていると思う。その中でなかなか良かったのは、地下鉄内で主人公が心理的に追い詰められるところ。主人公の疑心暗鬼に共感できて、迫力がある。 もう1つのパートは、警察による事件の捜査だが、こちらはやや平凡な印象。 こちらの視点人物は警部だが、組織の活動がほとんど描かれないので、私立探偵小説のようだ。容疑者への聞き込みも1人でいって、その内容を質疑する相棒もいない。私生活の描写が多いのも、私立偵小説のイメージを強めている。 後半、飽きさせないが、展開は想定されるところかな。この辺は、やや残念だった。最後の犯人の行動は、(評価するわけではないが)驚いた。 作品の評価とは違うが、何人かの容疑者の動機に、第二次世界大戦が背景としてとりこまれていて、興味深かった。1950年の作品なので、当然まだ生々しい記憶としてあったのだ。今では想像することしかできないが、こういう動機がフィクションにあることが、現実感を付与する(そう作者/編集が判断する)時代だったのだな。 |
No.175 | 5点 | 悪魔の報酬- エラリイ・クイーン | 2023/04/17 22:51 |
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再読。昔読んだときは、結構面白かった印象だったが、今回でだいぶ評価が落ちた。主要2人の恋愛模様が、楽しめなかったのが大きい。(たぶん、昔は楽しめたから面白かったのだろう。この辺の感覚は変わってしまっているのだなあ)
2人の行き違いも、もっと話し合えばいいのにと思ってしまうし、キャラの書き込みが十分でないからなのか、心理に共感できない。視点人物が一定でないのも、キャラに寄り添えなかった要因だろう。 ミステリとしても、全体の構築性が乏しい。 まず、事件に対する議論がない。議論の前に、「なにがあったのか?」のデータが整うのが、かなり後半になってからなので、議論のしようがない。これは、読み終わってから考えると、状況がわかれば犯人がわかってしまうからだと思う。 犯人特定のスタイルはクイーンらしくて好きだが、シンプルな内容なので、状況がわかればエラリーの推理を事前にあてることができそうだ。そのため、ぎりぎりまでデータの提示を遅らせたのだと思う。ぎりぎりまでデータの提示を遅らせた理由も、途中から(彼らが話し合ったタイミングで)なくなっていると思うのだが、読み違えているかな? よかった点の特記すべきは、犯人の心理状況の設定かな。これは面白い。 そう考えると、映画化からのノベライズである「完全犯罪」(「エラリー・クイーンの事件簿2」所収)のほうが、よかった点はそのままで、より軽快に、よりコンパクトになっているので、面白いかもしれない。 |
No.174 | 8点 | ミステリーズ- 山口雅也 | 2023/04/02 01:38 |
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再読。
出版当時に(ハードカバーで出た当時に)読んでいて、面白かった記憶があったが、これだけ異世界設定が出回っていると、衝撃度は下がってしまったなぁと思う。採点は、初読時の衝撃を思い返してつけた。 全体的な印象を一言で言えば、「山口雅也風、異色作家短編集」。全作で、山口雅也の少し非現実的でポップな世界観が楽しめる。 作中でいいのは、間違いなく「解決ドミノ倒し」と「不在のお茶会」だと思う。 「解決ドミノ倒し」は、作者のあとがきにあるとおり、どんでん返しの数で勝負で、これだけ返した後、どう収拾をつけるんだというところで、斜め上に放り投げるという、絶妙なバランスがよい。 「不在のお茶会」は、ファンタジー、もしくは、妄想的な状況で始まり、登場人物のある気付きで終わる。今では、類似アイディアを取り込んだ作も多いので衝撃はないかもしれないが、中盤の討議も含めて、無駄や駆け足も感じられず、見事にまとまっている。この趣向の最初期の代表作といってよいと思う。 山口雅也を未読の人で、「どんな作風なんだ?」と知りたい人には、とくにお勧め。 |
No.173 | 9点 | 中途の家- エラリイ・クイーン | 2023/04/02 01:31 |
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角川文庫の新訳で再読。
初期のクイーン作で唯一再読していなかった。それは初読の印象がよくて、再読してつまらないと「良い思い出が……」とがっかりすることを懸念してだったのだが、杞憂だった。推理とドラマが非常にバランスのいい傑作。 冒頭の事件は明快。視点人物がリアルタイムで遭遇するので、フランス、オランダと比べると、捜査の段取りも少ない。かわりに登場人物たちのドラマが語られていく。(フランスのある人物と比べるとなんと違うか) 中盤、法廷闘争をはさみ、サスペンスと人物ドラマが展開し、名探偵に啓示を与える手がかりが出たところで、読者への挑戦。 解決編の推理は「そこから推理を紡ぐのか!」思わされるもので、実に鮮やか。面白い! 推理部分が魅力的なのは、推理の手がかりが明快なところが大きいと思う。作品によっては、些末で記憶に残らない描写をもとに推理をすすめる作品もあるが、本作の推理の手がかりは、読んできた読者なら必ず覚えているものなので、論理展開を追うときにストレスがない。 マイナス点と思うのは、第4部の展開がやや安直なところだが、重要な手がかりを最後に出すための策ととらえて、目をつぶろう。 クイーンのベストをあらそえる傑作だと思うが、XやYと比べて分が悪いのは、全体を貫く趣向が弱いとこかな。Xのあれや、Yのあれに比べると、「中途の家で殺された男」という謎の提示以外に”趣向”と呼びたいところがないのは、やはり弱い。 他に印象に残ったシーンは、中盤の面談のシーン。ここだけ、他に比べて情景描写が細かく、登場人物の心理がせまってくる。リーが力を入れた場面なのだろうか? |
No.172 | 7点 | ハートフル・ラブ- 乾くるみ | 2023/03/24 00:11 |
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久しぶりの乾くるみ。
「イニシエーション・ラブ」のシリーズ感を出したタイトルがあざとい。でもシリーズではありませんし、短編集です。 よかったのは、「夫の余命」と「数学科の女」。採点が高めなのは、この2作のおかげ。 「夫の余命」。過去に遡っていく順番で語られる構成が楽しく、最後も決まっている。もちろん、乾くるみ作なので人を選ぶけど、私はこれはそうとう好みです。やられました。 「数学科の女」。乾くるみらしい強烈なキャラがすてき。つっこみどころは色々あるけど、このキャラだけで満足です。「演技なのそれ」「そう」。いいなぁ、この辺の会話。 他も寸感。 「同級生」。既視感のある展開。ミステリでなくても、映画のあれやこれやでも……。どこを見せたかったのだろう? 「カフカ的」。巻末の初出情報によると、「共犯関係」というアンソロジー収録されているので、お題が先にありきなのかな? 乾くるみらしい発想があってわるくない。主人公については、ある点で、もやもやする。驚かせポイントを拾えていないかも。 「なんて素敵な握手会」。ショートショートだけど、きれいに典型的な”あれ”を決めている。 「消費税狂騒曲」。巻末の初出情報によると、「平成ストライク」というアンソロジー収録されているので、お題「平成」が先にあったのでしょう。ちょっとした小咄かな。 「九百十七円は高すぎる」。巻末の初出情報によると、「彼女」というアンソロジー収録されているので、お題「百合」が先にあったのでしょう。「百合」と謎解きがあってない。でも、乾くるみらしい描写はあって、わるくない。まったく楽しめない人も、多そうだけど。 全体の感想としては、香草を使用した料理みたいに、「癖があって、個性的。たまに食べると楽しめる。でも、”うまい!”っていうのとは、ちょっと違う」という感じで、乾くるみらしさが満載。楽しませてもらいました。 |
No.171 | 5点 | カマラとアマラの丘- 初野晴 | 2023/03/12 02:54 |
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初めて初野晴を読んだが、どうにも、掴みどころがわかる前に読みおわってしまった。
まず、設定は「廃墟となった遊園地に秘密の霊園があり、ここを訪れる者がいる」というものだが、これが「現実設定なのか」、「現実設定に特定の特殊設定が追加された(キング作品のような)ものなのか」、「異世界設定なのか」が明確でないので、「どんな設定?」と模索しながら読みすすめることになった。 1話目で世界設定は把握したつもりになったが、作がすすむと状況設定がかわってきて、結局、最後まで模索しながら読むことになってしまった。 (たとえば、1作目では「霊園に行こうとする者がいる」ことで話が始まるので、それが世界に入る入口だと思ったが、4作目では、その人が霊園に行こうとするとは思えないし、「自分が一番大切にしているものを差し出す」という設定は、4作目ではあいまいだったし) また、視点人物も一定でなく、感情移入しやすい人物がいない作もおおいので、すこし引いた視線で読むことにもなり、このため、感情移入できなくて、楽しめなかった。もちろん、全ての小説が「感情移入できないと楽しめない」訳では無いが、本作は間違いなく感情移入できたほうが楽しめる話だったと思う。 動物に関しての色々な話題はかなり面白かったので、残念。「あわなかった」ということなのでしょう。 1話目が、いちばんすっきりとまとまっていて、よかったかな。犬を飼っていることもあるかも。 |
No.170 | 7点 | 正義- P・D・ジェイムズ | 2023/03/09 01:11 |
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ジェイムズ作は、間違いなく、作を追うごとに読みやすくなっている。
1つ1つの描写は相変わらず濃厚だが、各章がそれほど長くなく(章ごとに視点人物は変わるけれど)視点人物が明確なため、全体をすっき見渡せるからだと思う。 全体を概観してみよう。 第1部は、被害者のまわりの人間関係が描かれ、動機があると想定される人物が複数描かれる。(被害者が誰かについては、作者が最初の数行で明かしているので、ネタバレではないかな) 第2部は、ほとんど捜査側の視点で、点景で関係者側が描かれるだけ。ここまで捜査側にふりきった視点は、ジェイムズの過去作にはなかったのではないか? これは、読みやすさに貢献していると思うし、この読み心地は、警察小説の面白さ、もしくは、私立探偵小説の面白さだと感じた。この辺は好み。 第3部で、かなり駆け足で事件が進行する。ここから警察小説/私立探偵小説というよりは、犯罪ドラマになっているかなぁ。ここからラストまで、犯罪ドラマとしてはよいが、謎解きミステリとしての面白さ(謎が解かれたときのカタルシス)はあまりない。ただ、第1部で描かれた殺意のうち”これがこう嵌まっていくのか!”というところて、犯罪ドラマとしては面白かったし、なにより「邪悪に生まれついた人」を説得力をもって描いていて、これはかなり印象深い。 個人的に好みだったのは、終盤の犯罪ドラマの部分の主体がミスキン警部がになっていること。最終版に明かされる”あるちょっとした事実”がミスキン警部に関わってきて、これはなかなか面白かった。その前にも、ミスキン警部が「死の味」のあるシーンを思い出すシーンがあり、ミスキン警部のドラマとしては、「死の味」「原罪」「正義」で3部作なんだなと感じた。いつか「死の味」を再読したら、ミスキン警部のドラマ部分は、圧倒的に初読時より楽しめる気がするなぁ。 また、まだ読んでいないが、この後の作品のあらずじ/ネット感想を参照すると、ミスキン警部のドラマとしてはここまでで一旦区切りで、この後のミスキン警部関連のドラマはトーンが変わっていくと予想している。(継続して読むつもりなので、違ったら今後の作の感想で訂正します) ミスキン警部関連では、本作の初登場シーンが、終盤のシーンの(ドラマとしての)伏線となっている点もいい。やはり作者は、ダルグリッシュと同じくらいミスキンにも思い入れがありそうで、ミスキン警部推しとしては、今後の作品も楽しみだ。 |
No.169 | 6点 | 父親たちにまつわる疑問- マイクル・Z・リューイン | 2023/03/09 01:04 |
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久しぶりのサムスン物。もう新作は読めないと思っていたので嬉しいよ。
個々の話は、長さも短いので、きわめてシンプル。印象的なキャラクターと、どこかほのぼのしたユーモア。プロットは無駄なく引き締まっていて私立探偵小説の好短編といえる。 (ジャンル投票は「ハードボイルド」としました。サムスン物は「私立探偵小説」だけど、「ハードボイルド」ではないよなぁと思いながら) 全体を通すと、全ての話が大なり小なり「家族の話」で、かなり高齢となったリューインが、ここでこのテーマにフォーカスするのかと、意外なような、納得なような……。 なんにしても、感慨深いな。 久しぶりに、中期の傑作を読んでみようかな。記憶では「消えた女」「季節の終り」がツートップなんだけど、今読むとどう思うかな? |
No.168 | 6点 | あやし~怪~- 宮部みゆき | 2023/03/09 00:52 |
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このサイトで評価が高かったので読んでみた。
うん、語りはいい。情景描写も目に浮かぶし、会話も、口調だけでキャラクターがイメージできるように書き分けられていて、すっぽり世界に浸れる。所々でてくるゾクリとするシーンは、インパクトもある。 高得点の人は、きっとこの語りに魅せられているんだなと想像するし、それはよく分かる気がする。 でも、プロットは定型的に思えるし、予定調和と感じるものもあるので、私の採点はこの程度。やはり自分は、プロットを主に楽しむタイプなのだなと、あらためて実感した。 |
No.167 | 5点 | ひよこはなぜ道を渡る- エリザベス・フェラーズ | 2023/03/09 00:44 |
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久しぶりのフェラーズ。トビー&ジョージものは、これで全作を読み終えた。
最後まで読めばもちろん事件は解決されるのだが、どこかすっきりしない。 これは、いろいろなことが発生して、事件が複雑になり過ぎているからに違いない。何人もの思惑が重なり、しかもそれが、同じ日に実行されていて、読者の整理がおいつかないからだ。(私のあたまが悪いせいかもしれませんが)。そこから派生して「ここまで同時に重なるか?」との違和感がもでてくるから、なにかすっきりしないんだよな。 トビー&ジョージものは、他も結構複雑だった記憶があるなぁ。(もう朧な記憶だが) ユーモラスな感じはいいんだけどね。 |
No.166 | 6点 | 国語教師- ユーディト・W・タシュラー | 2023/03/09 00:37 |
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確かにある犯罪事件が中心にあるので、ミステリではあるが、かなり普通小説よりの作品。魅力的なのは、「語り」の形式でよませるところでしょう。メール、作中作、調書 etc。
過去の事件の真相は、それほど意外ではないが、終盤のある展開は意外だった。ラストは登場人物の心理が胸に迫る。ミステリのカタルシスはないが、小説としていい作品です。 |
No.165 | 5点 | 風の証言- 鮎川哲也 | 2023/01/19 23:09 |
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元となった中編「城と塔」と読み比べのため、「風の証言 増補版」読んだ。採点は「風の証言」だけでの採点で、6点と迷った5点。
ちょっと前に「死のある風景」の読み比べを行ったが、「死のある風景」は75ページの話が450ページになっていたのに対して、「風の証言」は120ページの話が310ページになっていて、改稿量が少ない。しかも、「風の証言」の220ページくらいまでに「城と塔」の内容はすべて展開しおわり、その後に事件を1つ追加している形となっている。 「城と塔」から使用された部分の改稿状況は、「地の分で1,2ページだったものを1つのシーンにする」、「推理を明確にするための文章の書き加え」、「後半に追加された事件の前振り」などで、「城と塔」の文章は9割以上残っているのではないかな。 上記状況なので、長編化にあたってよくなったかといえば、そうでもない。密度が薄くなってしまったという感じがした。元となった中編「城と塔」は、十分に書き込まれていて力作と評価できる作品だと思うので、これはもっと工夫がほしかった。 ひとつ「風の証言」が良かった点は、”アリバイが偽造である決め手”を最後にもっていく演出かな。これはエピローグとしてきれいに決まっている。 追加された事件については、単独で特によいというわけではないが、前の事件と”ある点”を共通にしているので、並べて提示したかったのだと思う。この趣向は、なかなかよいと共感できた。 あと、追加された事件で、刑事コロンボの「二枚のドガの絵」を想起させる部分があったので、発表日比較してみたところ、同じ月だった。(日本語Wikipedia情報) 風の証言:1971年11月、毎日新聞社 二枚のドガの絵:アメリカ初回放送日「1971年11月17日」、日本初回放送日「1972年10月22日」 たまたま思いついて調べてみて、同じだと、「おぉ、なんと偶然!」と思うなあ。 さらに、「風の証言 増補版」の解説だが、(たまたま持っていた)青樹社文庫版の解説とほぼ同じ。”元となる中編がある”作品の解説は、”元となる解説がある”解説だったとは! 解説まで読み比べしてしまったよ。 |
No.164 | 7点 | 死のある風景- 鮎川哲也 | 2023/01/15 02:47 |
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再読。
鮎川作品では、ページ数も多い方で、高い評価もきく作品だが、ページ数の割にはトリックは小粒と感じられるので、自分の中では評価の高いほうではなかった。鬼貫警部の登場も少ないし、謎解き興味の観点からは不要に感じるシーンもおおい。 ただ今回は、以前は不要と感じた謎解き部分以外の点が、意外に楽しめた。「進駐軍」や「夜行列車」、「金沢や東京の風景」など、当時の風俗の描写に「近過去」の趣をつよく感じて、ファンタジー感が増して感じられた。もっと年を経れば、ホームズ物のヴィクトリア時代のように、時代描写を楽しむ観点もつよまるのかもしれない。 けれど、恋愛観/結婚観については、今と違いすぎて違和感が大きく、作品に対する印象も下がってしまった。これも年を経れば、ホームズ物の恋愛観/結婚観が現代と違っても「そういうものだったんだろう」と思うように、受け入れられるようになるのかな? あと、今回は元となった中編が併録されている「死のある風景 増補版」で読んでみたので、比較について書いてみる。中編版を読むのは初めて。 まず、想像以上に中編版の文章がそのまま使用されていることに驚いた。中編版の文章の7割以上を、再使用しているのではないか? シーンをごっそり移植したものがおおく、そのようなシーンでは、数ページにわたって「数個の言葉の選択の変更」、「数行の文章追加」しかされていない。 被害者の家に捜査者が訪ねるシーンの描写では、中編版では訪問は1回で、文章は”ABC”となっているのに対し、長編版では、事件を追加したことで別々の人物がそれぞれ訪ねる2回になり、1回目には”B”、2回目には”AC”の文章を使用しているところがあった。「使える文章はできるだけ使用するぞ」という意志が感じられる気がして、おもしろい。 全体として、中編版はアリバイの調査/解決が駆け足すぎて、その部分をもっと書き込んでほしい気になるので、長編化の元になったのはよく分かる。 |
No.163 | 6点 | 逆転美人- 藤崎翔 | 2022/12/25 00:27 |
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うん、この趣向は、先行作がありますね。
先行作は、「こういう趣向があるのか!」というのが斬新だったが、本作は後続作なので、そこは評価できない。それをふまえると、本作は、「なにを新たに付け加えられたのか?」ということたが、なかなかがんばったと思う。 作品内で「この趣向が使われた必然性」を作り込んでいて、これはよく考えたなと思う。 残念なのは、説明がかなり口説く、先行作にあったラストの切れ味がなくなっているところ。 とはいえ、先行作を知らないで読んだら、すごくびっくりするだろうな。 プラスマイナスを考えて、採点はこんなところ。 |