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弾十六さん
平均点: 6.13点 書評数: 459件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.11 9点 マルタの鷹- ダシール・ハメット 2022/01/31 21:25
1930年出版。初出Black Mask 1929-9〜1930-1(五回連載)。ハヤカワ文庫の改訳決定版(2012)で読みました。
スペードってオプと全然違うキャラかと思ったら、ハンサムになっただけで中身は全然違わない、というのが意外でした。私はずっと前にボギー主演のヒューストン映画(1941)を観てたので話の筋は覚えてたのですが、新しいことやろう、という最初の方の凝った文体が微笑ましかったり、途中の淀みない流れが素敵だったり、ああ、またやってるね、という作者のお馴染みの感覚だったりが嬉しくて、非常に満足。この作品単体で味わうより、オプものをじっくりと読んでから、あらためて賞味するのが良いのでは?と思いました。
ラスト・シーンは、続きを妄想した例の記事を知ってると、とても面白い。
トリビアは拳銃に関するものを一個だけ。(気が向いたら付け足します…)
珍しいWebley–Fosbery Self-Cocking Automatic Revolverが登場。英国のWebley社のユニークなリボルバー、1901-1924に約4750丁が製造されたようだ。普通のリボルバーと違い、発射の反動でコッキングするのが非常に珍しい。こんな有名作品に、こんな珍品が堂々と登場してるとは知らなかったので、ガンマニアとしてはお腹いっぱいです!(日本Wikiには登場作品にきちんと言及されている)

(2022-2-2追記)
本作で登場するWebley–Fosbery revolverは、さらにレアもので38口径の八連発仕様。市場に出回ったのは僅か200丁ほど(通常のものは.455Webley弾、六連発)。良く調べると、使用銃弾も珍しく、リボルバー用のリムのある弾丸ではなく、自動拳銃用の.38ACP(全長33mm、1900年開発)をクリップを使って装填する。しかも、この銃弾、普通38口径自動拳銃で使う.380ACP(全長25mm、1908開発)とは違う珍しいもの。なお「38口径」という名称は、他の多くの銃弾(22、25、32、45口径など)とは違い、弾頭の直径ではなく薬莢部分の直径で、実際の弾頭の直径は種類により多少違うが.355-.357インチ。なので欧州でいう9mm弾丸と同等である。(『マルタの鷹』講義p376の注408.9(22.14)で誤解した記載がある)

(2022-2-6追記)
トリビアは大抵「『マルタの鷹』講義」に載ってるので省略。でもそっちには無い価値換算には言及しておこう。本書にはドルとポンドが登場して、1ポンド=10ドルで換算している(p146など)。「講義」によると作中年代は1928年12月。1928年の交換レートを調べると£1=$4.86、金基準でも£1=$4.87とほぼ同じ。1920-1930の変動を見てみたがあまり変わっていない。あっそうか、舞台を考えると香港ドルとの換算かも?と見てみると1928年のレートは$1=HK$1.996。ならば£1=HK$9.70となって本書の換算に近くなる。登場人物たちも米ドルだと誤解してるわけだが、そうではなくてブツがブツだけに過大なふっかけた換算レートを提示したのかも。
なお米国消費者物価指数基準1928/2022(16.30倍)で$1=1858円、英国消費者物価指数基準1928/2022(66.94倍)で£1=10445円。
「講義」では、小説の私立探偵の報酬が日給20〜25ドル(3万7千〜4万6千)が相場(ソースは小鷹『ハードボイルドの雑学』p87)のところ、二百ドル(37万円)をあっさり出す、と驚嘆してるけど、換算してみると、より生々しい印象になると思う。

以下は「講義」で触れられていないトリビアを拾ってみた。
p3 献辞 ジョウスに捧ぐ(To Jose)♠️下の娘Josephineのことだろう。
p27 黒のガーター(black garters)♠️ああ、男でも使うんだ。
p30 ウェブリー・フォスベリー・オートマティック・リヴォルヴァー(Webley–Fosbery Self-Cocking Automatic Revolver)♠️「講義」の注は突っ込みどころあり。W. J. Jeffrey & Co.は「販売元」だろう。数百丁の販売だから「価値がありすぎる」としているが、単に不便で売れなかっただけ。サイズが大きすぎて携帯に向かない、とあるが1.24kgで280mmだから確かにコルトM1911(1.10g, 216mm)よりかなり大型だが「1フィート(304mm)を超えるはず」ではない。
p35 犯罪の成功に(Success to crime)♠️乾杯の文句。
p43 四四口径か四五口径♠️似たようなものだが44口径はS&W(プロ仕様)のイメージ。45口径はコルト社(ありふれた型)のイメージ。
p43 ルガー(a Luger)♠️正式にはPistole Parabellum、通称P08。38口径(=9mm)。ヨーロッパの洒落たイメージ。
p56 ナッシュのツーリング・カー(a Nash touring car)♠️1924年のSaturday Evening Post広告でNash Six 4-door Touring CarはOnly$1275というのがあった。
p73 『タイム』を読んでいた(reading Time)♠️1923年創刊。
p78 銃身の短い、平たい小さな拳銃(a short compact flat black pistol)♠️「黒い」が抜けている。このキャラが持ってるなら25口径のFN M1905(M1906ともいう)がピッタリだが、32口径(p134)らしいので、ベストセラーのFN M1910なのか。
p81 数種類のサイズの合衆国紙幣で365ドル、五ポンド紙幣が三枚(three hundred and sixty-five dollars in United States bills of several sizes; three five-pound notes)♠️1928年に米国紙幣はサイズを小型に変えた(187×79mmから156×66.3mmへ)。なので、旧札と新札が混じってるよ、という意味だろう。
p106 シアトルにある大きな私立探偵社で働いていた(In I was with one of the big detective agencies in Seattle)♠️スペードもコンチネンタル探偵社出身なのか。
p143 サンドウィッチ♠️こういう食事のシーンが良い。
p153 エン・キューバ(En Cuba)♠️元はEduardo Sánchez de Fuentes(1874-1944)作Habanera “Tú”。それをFrank La Forgeが1923年にCuban folk song として編曲し訳詞をつけたもの。
p173 サイフォン
p198 こけおどしの台詞♠️誤解されているが、ハメットがヒーローに喋らせるワイズクラックはチャンドラーの軽口とは違い、必ず目的がある(人を怒らせたり、話を逸らせたり)。実生活で利口ぶったマーロウが吐くセリフを聞いたら、必ず、やな奴、と思うはず。ハメットのヒーローたちはそんなセリフを吐いていない。
p199 重いオートマティック拳銃(a heavy automatic pistol)♠️スペードの背広ポケットに収まるサイズなのでコルトM1911(45口径)あたりか。
p231 ここにも食事のシーン。
p233 その拳銃から発射されたものだ(came out of it)♠️1925年にゴダードが銃弾の旋条痕から発射拳銃を特定する技術を確立してから数年経過しているが、まだ一般的な知識にはなっていないようだ。有名になったのは1929年2月のバレンタインデーの虐殺の鑑定からだという。
p246 大陪審とか検死審問に呼ばれてしゃべらされる(be made to talk to a Grand Jury or even a Coroner's Jury)♠️ここはニュアンス違いあり。大陪審には証言の強制力があるがCoroner’s Jury=inquestには強制力は無い。弁護士が「検死審問は裁判じゃない」p73と言ってる通り。なのでここは「大陪審でしゃべらされるって言っても、検死官陪審にすら呼ばれてないんだがな」という趣旨。
p256 スペードはいるか(Where’s Spade?)♠️ここは「スペードは?」くらいで良い。とにかく言葉を省略して。
p271 ここでも食事。
p271 黒いキャディラックのセダン

クリスティ再読さまは『赤い収穫』と『恐怖の谷』の繋がりを見抜いたが、私も真似して『デイン家』は宗教がらみなので『緋色の習作』、『マルタの鷹』は宝の物語なので『四つの署名』という説を唱えておこう。そうすると『バスカヴィル』は未読の『ガラスの鍵』あたりかなあ。

No.10 6点 悪夢の街- ダシール・ハメット 2020/05/02 23:21
1948年(Mercury Mystery No.120)出版。底本はDell #379 (1950) Mapback版のようだ。いずれもEQ(ダネイ)の序文付き。なぜハメット短篇発掘の功労者ダネイの序文は翻訳されなかったのだろう。(ミスマッチだと思われたのか) HPBは1961年6月が初版。1月に死んだハメットの追悼短篇集か。(HPBあとがきの(S)[=菅野 國彦]のちょっと間違ってる初出情報はEQ序文からのネタのように感じる。) (2022-2-12訂正: どうやらこの(S)は当時編集部で孤軍奮闘していた常盤新平のようだ。菅野圀彦だと年齢が合わない)
Dell版の表紙絵はRobert Stanley。地図はRuth Belew、悪夢の町 Izzardの雰囲気が出てる良い仕事。他、本文にもイラスト(Lester Elliot作)がついており、WebのDavy Crockett’s Almanackで7枚全部を見ることが出来る。
初出データは小鷹編『チューリップ』(2015)の短篇リストをFictionMags Indexで補正。K番号はその短篇リストでの連番。#はオプものの連番。
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⑴ Nightmare Town (初出Argosy All-Story Weekly 1924-12-27) K32「悪夢の街」 井上 一夫 訳: 評価5点
初出誌は後のArgosy誌。出だしはすごく良い。米国の小さな町を手探りで進んでゆく感じ。多分、ハメットがピンカートンに雇われて西部の小さな町に派遣された時の心情風景。でもアクションたっぷりの中盤以降はつまらない。悪夢っぽい大ネタは良いのだが、構成に難あり。主人公の妙技はフランス人の言う「シャルロ」の立ち回りを思い出してしまった。(映画にそんなシーンはなかったと思うが…) Dell版のイラストでは長い胡瓜みたいな棍棒にしか見えない。
p12 すもう(wrestle): 米国チームは1924年パリ・オリンピック、男子フリースタイル・レスリングで4階級の金メダルを獲得している。当時、話題になっていたのかも。
p12 十五ドルにたいして十ドル賭けろ(Bet you ten bucks against fifteen): 米国消費者物価指数基準1924/2020(15.13倍)で$1=1662円。
p13 連邦保安官(MARSHAL): Wiki「連邦保安官」に詳細あり。この人は町に常駐してるので Deputy Marshalなのだろう。
p20 大事な、自分にとって本気な場面にぶつかると… 道化役をやっちまうんだが、なぜだろう?: この反省はハメットの本音っぽい。生を受けて33年、世間と渡り合って18年、と主人公は言う。当時ハメット30歳、世間に出たのは14歳の頃なので、大体一致する。ここでは、俺は自意識過剰の子供なのだ、と結論付けている。
p26 五十セント出して指一本見せれば(cost of fifty cents and a raised finger): 831円。密造ウィスキー(1フィンガー?)の値段。
p31 大きなニッケルめっきの廻転式拳銃(a big nickel-plated revolver): なんとなくコルトだと言う直感が… (全く根拠はありません!) 候補は45口径のコルトM1917民間用(ただの妄想)。
(2020-5-2記載)
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⑵ The Scorched Face (初出The Black Mask 1925-5) K36 #17「焦げた顔」丸本 聰明 訳
オプもの。『チューリップ』で読むつもり。Dell版のイラストが不気味。
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⑶ Albert Pastor at Home (初出Esquire 1933秋号) K70「アルバート・パスター帰る」小泉 太郎 訳: 評価5点
『チューリップ』で読んだ。Dell版のイラストにはLeftyと「おれ(Kid)」の姿が。(『チューリップ』に掲載されてるイラストは一部分だけ) (S)の解説ではエスクワイア誌創刊号とミステリ・リーグ誌創刊号の争いで譲ったのはエスクワイアとなっているが、どう考えても高級誌側が譲るとは思えない。『チューリップ』小鷹解説では譲ったのはミステリ・リーグ側になっている。
内容の評価は『チューリップ』参照。
(2020-5-2記載)
おっさん様が発見した「設定的に矛盾」が私の「馬鹿目」では見つからない… 原文はエスクワイア掲載号の無料公開(Internet Archiveのサイトで「esquire 1933」と検索、雑誌34ページ目)で確認できるので、ぜひ結果を教えていただければ…
(202-05-03追記)
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⑷ Corkscrew (初出The Black Mask 1925-9) K37 #18「新任保安官」稲葉 由紀 訳
オプもの。創元文庫『フェアウェルの殺人』で読むつもり。Dell版のイラストは珍しいカウボーイ・ハット姿のオプ。

No.9 7点 探偵コンティネンタル・オプ- ダシール・ハメット 2020/04/18 12:23
グーテンベルク21の電子本(砧 一郎 訳)で読了。翻訳は意外と古くなっていないが「ぼく」では若過ぎる。全体的にもう少しこなれた感じに出来そう。是非とも創元社は若い翻訳者を起用してブラック・マスク等の初出テキストに準拠した『シン・ハメット短篇全集』を刊行して欲しい。(←多分、売れないと思う…)
以下は初出順に並べ直し。カッコ付き数字はこの本の収録順。初出データは小鷹編『チューリップ』(2015)の短篇リストをFictionMags Indexで補正。K番号はその短篇リストでの連番。#はオプものの連番。
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⑶ The Golden Horseshoe (初出The Black Mask 1924-11)「金の馬蹄」K30 #13: 評価6点
スピーディーな展開で地に足がついた捜査手法だが、死体は大盛り過ぎ。荒々しい大男のキャラ描写が上手。ダメ男の弱さも理解している。ふと思ったがTV映えしそうな話。1920年代米国を忠実に映像化するなら、オプものは派手だし魅力的な女も出てくるしで良いチョイスだと思う。(2022-2-11原文入手。追加分は❤︎で示した)
p1993/4344 ニッケルめっきした安ものの32口径(❤︎a cheap nickel-plated .32)♠️なんとなくリボルバーな感じ。
p1993 十ドル♠️米国消費者物価指数基準1924/2020(15.13倍)、$1=1662円で換算して16620円。
p2015 ハモウチャ(❤︎Jamocha)♠️悪党の通称。語感が面白いが何由来だろう? 原文発注中。(2022-2-11追記: java+mochaでコーヒー、(クロンボの)間抜け野郎、という意味らしい。発音はジャモウカ)
p2131 となりの部屋にはいり♠️Black Mask誌の原文ではコックニーたっぷりの歌が挿入されている。汚いヤク中街のかわい子チャン、彼氏とへべれけ、このアマ、夜じゅう大騒ぎ… みたいな歌詞。(❤︎2022-2-11追記)
p2421 五ドル♠️ほんのちょっとした手伝いの報酬
p2484 コンビネーション♠️ツナギの下着?パジャマの代わりに身につけようとしている。
p2524 古い黒しあげのピストル♠️お馴染みオプの古いリボルバー。オプならS&Wだと勝手に想像、普段使いなら短銃身のミリタリー&ポリスを推す。
(2020-4-17記載; 2022-2-11追記)
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⑷ Who Killed Bob Teal? (初出True Detective Mysteries 1924-11 挿絵画家不明)「だれがボブ・ティールを殺したか」K31 #14: 評価6点
ブラック・マスクが買わなかった作品。それで実話系雑誌に掲載された。(掲載時の作者名はDashiell Hammett of the Continental Detective Agencyとなっていて実話っぽさを盛り上げている)
探偵らしい捜査と活劇の話。冒頭のネタがラストで有耶無耶、という評価(小鷹さん)があるが、私はこれで良いと思う。当時既に仲間の死がテーマのおセンチ小説は沢山あったはず。現実はこんなもんだよ、とハメットが言ってるような気がする。
なお、Dead Yellow Women(1947)収録のダネイ版は随分語句を削っているが、この翻訳はオリジナル・テキストによるもののようだ。(Don Herron主宰のWebサイトでざっと確認) 単行本は翻訳時(1957)にはダネイ版しか無かったような気がするが、砧さんは正しいテキストをどこで入手したのだろう?
p2749 三二口径(a thirty-two)…小型の自動ピストル(p2923, a small automatic pistol)◆当時のベストセラーはブローニングFN M1910だが、他にも候補は沢山。銃を特定出来る情報は記されていない。
p2789 実名をもち出すことが、迷惑のたねとなったり…◆ここら辺、実話っぽい文章が挿入されている。この雑誌用に追記したような感じ。
p2809 二重にくくれた顎(the cleft chin)◆この訳だと意味不明だが、ケツ顎のこと。「割れ顎」が正しい日本語のようだ。
p2906 二十五ドル◆上記の換算で41550円。妻の全財産。
p3018 三二口径のピストルの弾丸の、封を切ったばかりの箱がひとつ――十発足りなくなっている(a new box of .32 cartridges—ten of which were missing)◆2発発射されてて、ブローニングM1910拳銃にフルロードなら7発マガジンに、1発薬室に、で一応数は合う。でも多分そーゆー意図ではなく、犯人が使う時、手掴みで大体の分を持ってったらそれが10発分だった、ということだろう。(正確に10発使う場合、まずマガジンに7発入れて2発撃つ。そーするとマガジンに4発、薬室に1発入った状態になるので残りの3発をマガジンに込める、という段取り。あまりやる意味が無い…)
p3025 係長(the captain)◆「デカ長」と訳したいなあ。
p3048 通話ごとに料金を入れる式の電話(It’s a slot phone)◆1911年からニッケル、ダイム、クォーターの3スロット式の公衆電話50AがWestern Electric & Gray Telephone Pay Station Co.によって製造販売されている。ダイヤルは無く、まずいずれかの硬貨(普通は一番安いニッケル=5¢)を入れると交換手に繋がり、そこで番号を言って必要な料金のコインを入れるとコインによってベルが違う音を出す。正しい料金の音を確認したら交換手が相手に繋いでくれる、という仕組みだったらしい。(人間の聴力をあてにした機械…)
p3048 ニッケル◆当時の5セント貨幣(Nickel)はBuffalo or Indian Head(1913–1938)、25% nickel & 75% copper、直径21.21mm、重さ5.00g、83円。貨幣面の表示はFIVE CENTS。
(2020-4-19記載; 電話の説明がわかりにくかったので2020-4-24修正)
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⑸ The Whosis Kid (初出The Black Mask 1925-3)「フウジス小僧」K34 #16: 評価8点
カヴァー・ストーリー。表紙の男は小太りではないがオプなのか?(小説にはこーゆー場面はないと思うがオプのつもりで描いてるのだろう) まぎれもない傑作。どんどん物語に引き込まれる。キャラも良い。ハメットの良い仕事です。原文取り寄せ中。(2022-2-11原文入手。追加分は❤︎で示した)
p3180 [1917年の]立ち話から一、二週間たったころ、ぼくは、コンティネンタル探偵社のボストン支社を去って、軍隊生活にはいった。戦争がすむと、シカゴ支社に舞いもどり、そこに、二年ばかりぐずぐずしたあげく、サンフランシスコへ転任した(❤︎A week or two after this conversation I left the Boston branch of the Continental Detective Agency to try army life. When the war was over I returned to the agency payroll in Chocago, stayed there for a couple of years, and got transferred to San Francisco)♣️オプが語る自身の略歴。『デイン家』時点(作中年代1928)でSF歴五年くらいと言っていた。1917-1918軍隊、1919-1921シカゴ、1922-1928サンフランシスコ、といったところか。
p3236 安タバコのファティマ(❤︎Fatimas)♣️1910年代Camelは一箱20本10セント、Fatimaは一箱20本15セントだったようだ。1910年代の広告で見るとMurad 15¢、Duke of York 15¢、Helmar 10¢(それぞれ一箱の値段。何本入りかは書いてないが20本がスタンダードっぽい)。米国物価指数基準1925/2020(14.75倍)で$1=1620円。Wikiによるとファティマは当時のベストセラー(the best-sellingなので一番売れていた、か)。「安」ではなさそう。(2020-4-24追記: Muradの1917年の広告を見ると“Judge yourself—compare Murad with any 25 cents cigarette”と書いてあった。25¢のタバコも数種あったようだ)(❤︎2022-2-11追記: 「安」は翻訳の余計な付け加えだった…)
p3261 十四才♣️こーゆー小僧が苦労してのし上がり大金持ちに、といった話が米国富豪物語に良くある。当時、若年労働者は沢山いた。
p3315 六インチ砲♣️6-inch gun M1897(及びその後継)のことか。米国沿岸警備で使用された大砲。50口径152mm砲(これは銃身の長さが口径の何倍かを示す砲世界の表現。152mm口径の50倍=7.6m銃身。ちなみに戦艦大和の主砲は45口径460mm砲で銃身長20.7m。しかも3連砲。凄すぎる…)。
p3438 筒のずんぐりと短い自動ピストル(❤︎a snub-nosed automatic)♣️原文が気になる。snub-nosed automaticか。(❤︎でした)
p3520 中背というよりは、いくぶん低めの、肌の浅黒い女(dark-skinned woman)… 髪のいろも、インディアンのように黒く、… 浅黒い胸もと(dark chest)には… / …茶いろの肌をした女…(p3606)(原文❤︎)♣️浅黒警察としては正訳だと思う。原文が楽しみ。(❤︎翻訳に誤りなし)
p3606 ジェリー・ヤング♣️今回のオプの偽名。思いついたのだが、使った偽名からオプの本名を探る試みはどうだろう? 偽名は本名から(多分確実に)除外出来るし、イニシャルを無意識に合わせている可能性もある。『赤い収穫』で使ったのはヘンリー・F・ネイル。とりあえずオプの本名はジェリーでもヘンリーでもヤングでもネイルでもない。(イニシャルは合わせていないようだ…)
p3630 四十前後というどっちつかずのとしごろ♣️執筆当時ハメットは31才。
p3653 通話管(speaking-tube)… 玄関のドアの錠をはずすボタン(the button that unlocks the street door, p3660) (原文❤︎) ♣️マンションのインターホンらしい。この時代くらいから普及し始めたものか。当時の映画でこういう場面を見てみたい。通話管は各部屋に別々のチューブを引いていたのだろうか?(一つのマイクを切り替えて使うのか。電話の交換台を応用すれば簡単に作れそう) 正面玄関のドアを開錠出来るボタンが各部屋にあるくらいだから、結構大仕掛け。かなり高級で最新式のマンションなのだろう。(2022-2-10追記: 色々調べると、大きなアパートのintercomはKellogg Switchboard & Supply Companyが1894年に開発したらしい。結構古い技術で、既にドアマンなどの人減らしは始まっていたわけだ。ならばここは電話風の仕組みで、最新型というわけでも無いということか。なおこの技術をオフィスのインターコムに応用したのはAdams Laboratories社の開発で1930年代後半のことだという。こちらは意外と新しい。)
p3712 色の白い女… 色の黒い女(one yellow and white lady…. dark woman)♣️翻訳はyellow抜け。yellow and whiteの意味がよく分からない。(❤︎2022-2-11追記)
p3728 洗濯に使う青味づけ(ブリューインク)(❤︎in blueing)♣️これも原文が楽しみ。
p3738「赤」のバーンズ(“Red” Burns)♣️カリフォルニアのボクサーで1923年と1926年に試合をした。(❤︎2022-2-11追記)
p3938 撃鉄をおこした回転胴式ピストルは、撃鉄のない自動式よりも(❤︎a cocked revolver a lot quicker than …. a hammerless automatic)♣️自動式でも撃鉄はある。cockedとuncockedの対比か。cockは撃鉄が起きている状態でちょっと引き金を引くと発射される。cockしてないと引き金を引ききって撃鉄を起こしてから発射、となるため、正確性と秒単位の時間が犠牲になる。(2022-2-11追記: シングル・アクションとダブル・アクションの違いだね、というとガンマニアっぽいかな)
(2020-4-23記載; 2022-2-11追記)
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⑴ Dead Yellow Women (初出The Black Mask 1925-11)「シナ人の死」K39 #19: 評価7点
Black Maskではカヴァー・ストーリー。初出誌表紙のがっしりとした男はオプなのか?
たくさんの中国人が出てくるが、バランスの良い描写。SFのチャイナタウンの雰囲気が良く出ている。ラスボスのキャラがとても素敵。リアルなホラ話という感じの語り口が楽しい。
p587 ぼくのピストルは三八口径のスペシャルなのだが、その店には、スペシャル用のがなかったので、それよりも射程の短い、威力の弱い弾丸で間にあわせた(My gun is a .38 Special, but I had to take the shorter, weaker cartridges, because the storekeeper didn’t keep the specials in stock)♠️ここのshorterは弾丸の「長さが短い」ということ。38スペシャルの弾丸全長は39.0mmだが、その前身(互換性あり)の38ロング・コルト弾は34.5mmだ。威力(初活力)は前者367ジュールに対して、後者276ジュール。(床井雅美『ピストル弾薬事典』より)
(2022-2-10記載)
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⑵ The Main Death (初出Black Mask 1927-6)「メインの死」K46 #24
これはハヤカワ文庫『コンチネンタル・オプの事件簿』の書評参照。

No.8 6点 スペイドという男 ハメット短編全集2- ダシール・ハメット 2020/04/11 17:29
冒頭にエラリー・クイーン(ダネイ)の「サム・スペイド ご紹介」(Meet Sam Spade)という前書きあり。EQMM誌のコメントのような感じの文章。ソフトカバーの単行本”The Adventures of Sam Spade & Other Stories” ed. Ellery Queen (Mercury Bestseller Mystery No. B50, 1944)に収録のもの。この本は7篇収録(Too Many Have Lived K67, They Can Only Hang You Once K68, A Man Called Spade K66, The Assistant Murderer K42, Nightshade K71, The Judge Laughed Last K22, & His Brother's Keeper K73)だが、翻訳の底本であるペイパーバック“A Man Called Spade”(Dell #90 Mapback, 1945)では収録は5篇のみ(K66, K68, K67, K42, K73とEQの序文。なおこのMapbackは#411(1950)と#452(1954)の全部で三つの異版がある。#90の表紙絵はGerald Greggだが#411と#452はRobert Stanleyに変更、裏表紙のMapはいずれもRuth Belewが描いたMax Blissのアパート図面、収録短篇は全て同じ)。これにK7, K17, K20, K26, K71を追加したのが本書、という成り立ちのようだ。結局K71はいったん削除されたが翻訳で戻ったわけである。
なおDon HerronのWebサイトを見ると、2000年以前のハメット短篇集のテキストはダネイ本に基づくもので、初出に手が加えられてることがあるようだ。
以下は初出順に並べ直し。カッコ付き数字はこの本の収録順。初出データは小鷹編『チューリップ』(2015)の短篇リストをFictionMags Indexで補正。K番号はその短篇リストでの連番。#はオプものの連番。★はEQ編1944以外からの収録作品。ついでに今回は米国EQMM再録号も表示。
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⑷ Holiday (初出The New Pearson’s 1923-7; EQMM掲載なし) K7 ★「休日」
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⑽ Bodies Piled Up (初出The Black Mask 1923-12-1; EQMM1947-4 as “House Dick”) K17 #5 ★「やとわれ探偵」: 評価7点
オプもの。冒頭のシーンが大好き。派手でヴィジュアル・インパクトが素晴らしい。途中、まともなデカならどうやって調査するか、というミニ講座あり。多分、探偵小説作家の皆さま方に教えてさしあげましょう、という優しい親切心(「皮肉」と書く)。こーゆーやり方でキチンと捜査したら大抵の探偵小説はあっさり解決しちゃうんじゃなかろうか。
ディック・フォーリイの喋りはまだ普通っぽい。(原文では主語を落とした文が多い感じだが、後年の単語を並べる境地には至っていない)
p321『暗黒の男』(the Darkman): 悪者につけられたあだ名だが、浅黒警察としては気になる。黒髪野郎、という意味ではないか。オプも黒髪なのか。
(2020-4-11記載)
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⑹ The Man Who Killed Dan Odams (初出The Black Mask 1924-1-15; EQMM1949-12) K20 ★「ダン・オダムズを殺した男」: 評価5点
テキストはダネイの所々数語カット版なので、Black Mask版を訳している『死刑は一回でたくさん』(講談社文庫1979、グーテンベルク21電子版が入手しやすい)の田中 融二 訳をお勧めする。訳文の調子も田中訳の方がキビキビしている。
(2020-4-12記載)
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⑼ One Hour (初出The Black Mask 1924-4-1; EQMM1944-5) K26 #9 ★「一時間」: 評価6点
オプもの。詳しいことは『死刑は一回でたくさん』参照。こちらの依頼人は関西弁じゃない。なおEQMM再録時のダネイの直しはほとんど無いらしい。
(2020-4-14記載)
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⑺ The Assistant Murderer (初出The Black Mask 1926-2; EQMM掲載なし) K42「殺人助手」: 評価7点
三人称の不細工な私立探偵アレック・ラッシュもの。ハメットが育った街、ボルティモアが舞台。
捜査方法や探偵センスはオプと同様。複雑な筋を見事にまとめている。キャラの描き方も良い。
p195 料金は一日15ドルと、ほかに実費(fifteen a day and expenses)◆米国消費者物価指数基準(15.88倍)で$1=1811円。
p197 色があさぐろくて(He’s very dark)◆「髪が真っ黒で」という意味で良いかなあ。後の方ではdark young manとか書かれている。(翻訳では「あさぐろい」の連発だが)
p198 五十セント◆ボーイへの情報料
p246 同じ問題をあつかった芝居(One of the plays touched the same thing)◆もしかしてアガサ・クリスティのアレかと思ったが初演1953なので違うようだ。ただしその小説の初出は米国パルプ雑誌Flynn's Weekly 1925-1-31。
(2202-2-13記載)
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⑴ A Man Called Spade (初出The American Magazine 1932-7 挿絵Joseph Clement; EQMM掲載なし) K66「スペイドという男」
American Magazineのこの号、広告も含め無料公開あり。イラストのスペイドは普通っぽい男に描かれている。
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⑶ Too Many Have Lived (初出The American Magazine 1932-10 挿絵J. M. Clement; EQMM1941秋[創刊号]) K67「赤い灯」
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⑵ They Can Only Hang You Once (初出Collier’s 1932-11-19; EQMM1943-3) K68「二度は死刑にできない」
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⑸ Nightshade (初出Mystery League 1933-10 [創刊号]; EQMM掲載なし) K71「夜陰」
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⑻ His Brother's Keeper (初出Collier’s 1934-2-17; EQMM掲載なし) K73「ああ、兄貴」

No.7 7点 フェアウェルの殺人 ハメット短編全集1- ダシール・ハメット 2020/04/08 15:01
日本オリジナル短篇集(創元推理文庫1972)。全部オプもので7篇収録。稲葉さんの当初の構想では1、3、4巻がオプもの中心、2巻はサム・スペードものやその他、だったようだ。
ところでEQの序文「偉大なる無名氏」はどの短篇集に収められていたのだろう。EQ編・序文のソフトカバー本は九冊あり、①The Adventures of Sam Spade (1944)、②The Continental Op. (1945)、③The Return Of The Continental Op. (1945)、④Hammett Homicides (1946)、⑤Dead Yellow Women (1947)、⑥Nightmare Town (1948)、⑦The Creeping Siamese (1950)、⑧Woman in the Dark (1951)、⑨A Man Named Thin(1962)だが、候補はやはり②か③。⑦の序文タイトルが“A Dashiell Hammett Detective”らしいのでこれも怪しい。稲葉編の本書は短篇を上記②④⑥⑦⑧⑨からセレクトしている。
ところでハメットの短篇をコツコツ集めて本にしたダネイの功績は認めるが、文章のいじり癖には困ったものだ(Don HerronのWebページHammett: The Dannay Edits参照)。雑誌ならスペースの都合上仕方ない場合があるかもしれないが、単行本収録時に戻してくれれば良いのに… (もしかして文章を「直してやった」つもりか?)
以下は初出順に並べ直し。カッコ付き数字はこの本の収録順。初出データは小鷹編『チューリップ』(2015)の短篇リストをFictionMags Indexで補正。K番号はその短篇リストでの連番。#はオプものの連番。◯囲み数字は上記EQ編・序の短篇集の番号。
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⑸ Arson Plus (初出The Black Mask 1923-10-1, Peter Collinson名義)「放火罪および… 」K9 #1 ⑧: 評価5点
オプが初登場した作品。このあとブラック・マスク誌に1924年4月までほぼ毎号、1926年3月まで二月に一度は掲載されてるレギュラー作家になった。
ダネイは数カ所で数語を削ってる。詳細はDon Herron Hammett: “Arson Plus”で検索。このWebではEQ⑧初版とBlack Maskのオリジナル(以下「BM」)を比較。しかしこの翻訳のテキストは概ねBMに戻っており、一部だけEQ版(p238「1万4500ドル」、本来のBMなら「4500ドル」など) が残っている感じ(全部は未確認)。ただしハメットは本作を元々コンチネンタル・オプものとして書いてないので、「コンチネンタル探偵局(p249)」とあるのはBMでは只のAgencyなのは当然か。小鷹訳(1994)も同じテキストを使っているようだ。(この折衷テキストは何処由来なのだろうか)
(2020-4-12記載)
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⑵ Crooked Souls (初出The Black Mask 1923-10-15)「黒ずくめの女」K12 #3 ⑨: 評価5点
Dashiell Hammett名義でBlack Maskに初登場した作品。誘拐事件は金の受け渡しがキモ、この話での工夫は初歩的な感じ。お馴染みオガー刑事が初登場するが活躍なし。
p81 十二号: 靴のサイズ。米国サイズなら日本サイズ30cm相当。
p81 五万ドル: 米国消費者物価指数基準1923/2020(15.13倍)、$1=1662円で換算して8億3千万円。身代金。米国の有名誘拐事件の相場は、Charlie Ross(1874)2万ドル、Bobby Franks(1924)1万ドル、Marion Parker(1927)1500ドル、Charles Augustus Lindbergh Jr(1932)5万ドル。
p81 百ドル紙幣: 16万円。当時のFederal Reserve Note(1914-1928)はBenjamin Franklinの肖像、Gold Certificate(1922-1927)はThomas H. Bentonの肖像。サイズはいずれも189x79mm。
p92 大型旅行用自動車: Touring Sedanの訳か。1923で検索するとBuick Convertibleが出てくる。原文発注中。
(2020-4-8記載)
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⑹ Night Shots (初出The Black Mask 1924-2-1)「夜の銃声」K21 #7 ④: 評価7点
ダネイが数カ所でかなり長めに語を削ってる。詳細はDon Herron Hammett: “Night Shots”で検索。このWebページで異同をざっとチェックしたが、この翻訳はEQ編④のテキストを使用しているようだ。
この作品自体は、面白い話。捜査がちゃんとしていて、オチも良い。
p272 色があさ黒く、眼のさめるような彫刻的美人(dark, strikingly beautiful in a statuesque way): 「黒髪で」
p273 支那人の料理番… ゴン・リム(Gong Lim): gongは公、工など。limは林か。もちろん他にもあてられる漢字はあるだろう。
(2020-4-12記載)
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⑷ Corkscrew (初出The Black Mask 1925-9)「新任保安官」K37 #18 ⑥: 評価6点
西部の小さな町に出張したオプ。荒馬に乗るやり方が、実に良い。男の子はこーでなくっちゃね。『赤い収穫』の前身みたいなことが言われるが、別物である。DellペイパーバックNightmare Town所載の本作のイラスト(Lester Elliot作)2枚はWeb “Davy Crockett’s Almanack“で見られる。稚拙だけど面白いので是非。
(2021-10-18記載)
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⑶ The Creeping Siamese (初出The Black Mask 1926-3)「うろつくシャム人」K43 #21 ⑦: 評価7点
ズバリ、が決まると格好良い。そんな話。オガー刑事登場。本作を最後にハメットはコディ編集長のBlack Maskから去る。お前には$300ドルの貸しがあるんだぞ、と言って。(当時ハメットの原稿料は1語1セント。同時代の他のパルプ雑誌スター作家は1語2〜3セント稼いでいた。ガードナーがコディに俺のを削ってハメットに上乗せしろ、と提案したのは有名な話)
p110 約900ドル◆p130から1925年の話とすると、米国消費者物価指数基準1925/2022(16.07倍)で$1=1832円。
p111 日本の五十銭銀貨(a Japanese silver coin, 50 sen)◆senがyenと誤っている版があった(日本の金貨は20円が最高額面。為替レート1925年は¥1=¢0.410なので当時の五十銭は376円)。1917年まで鋳造のは旭日五十銭 .800 silver, 直径27.3mm, 10.12gで、英字で“50 sen”との表示あり。1922以降の新発行(鳳凰五十銭 .72 silver, 直径23.5mm, 4.95g)からは英字は無く、全て漢字と漢数字のデザインなので米国人にはすぐわからないだろう。だが老練なオヤジ(the Old Man)なら読めたかもね。
p111 二枚の二セント切手(four two-cent stamps)◆「四枚の」単純な誤り。2セント切手はワシントンの横顔で赤一色。1923年に新版デザインのものが発行されている。当時の手紙の普通料金は2セント。
p111 シアトル… ポートランド(Seattle… Portland)◆ どちらも当時大リーグ球団を持っていない。SF Giantsは1885年頃からのチーム名。遠征試合だったのか? まあここは「どうだね、その後は?」(What’s score?)と聞いたのを野球のスコアに曲解した適当な答えから派生したもの。
p114 サロン(sarong)
p116 似たような家並みの一軒◆Dell Mapback #538 “The Creeping Siamese”にイラストあり。
p124 たしか一九二一年◆話ではそれから1年数か月以上が経過している。
p131 マライ人たちの使う、刃が波型の短剣(クリス)(a kris)◆補い訳、Black Mask原文では表示の通りシンプル。
p130 一九一九年◆話ではそれから六年が経過している。
(2022-2-16記載)
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⑺ This King Business (初出Mystery Stories 1928-1)「王様稼業」K49 #27 ⑦
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⑴ The Farewell Murder (初出Black Mask 1930-2)「フェアウェルの殺人」K59 #35 ②

No.6 6点 スペイドという男(グーテンベルク21)- ダシール・ハメット 2020/04/08 04:39
日本オリジナル短篇集(2008)。オプもの5篇、スペードもの1篇を収録。電子本で読了。
クリスティ再読さまに教えてもらうまで気づかなかったのですが、いままで雑誌掲載のみで単行本未収録だった作品K11、K33、現在絶版中の単行本にしか収録されていないK40の貴重な3作が収められていて、とても良い企画。(ただし単行本タイトルが他社の文庫本とかぶってるのは紛らわしくてよろしくないが…) グーテンベルク21さんには今後もこーゆー素晴らしい企画を期待しています。
以下は初出順に並べ直し。カッコ付き数字はこの本の収録順。初出データは小鷹編『チューリップ』(2015)の短篇リストをFictionMags Indexで補正。K番号はその短篇リストでの連番。#はオプものの連番。{ }内は各篇の元雑誌等(と思われるもの)を前述の短篇リストに基づき記載。
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⑵ Slippery Fingers (初出The Black Mask 1923-10-15, Peter Collinson名義)「つるつるの指」小山内 徹 訳 {別冊宝石93号1959-11} K11 #2: 評価5点
Black Maskの同じ号に「黒づくめの女」K12 #3(創元『フェアウェルの殺人 ハメット短篇全集1』収録)が掲載されてて、名義はハメット。つまり「Dashiell Hammett」のブラック・マスク初登場。コリンスン名義は本作が最後(コリン星に帰ったのだろう)。目次上はK12が同号中2番目、K11が11番目の掲載作品(全部で14作掲載)。なのでK番号のナンバリングを逆にしたいところ。FMIのデータには同号にハメットの手紙(letter)掲載、となってて気になる(他の数号にもハメット(letter)が載っているようだ)。
普通の探偵小説。話としてはあまり面白くない。新訳で読むと印象はちがうかも。これ、実際に使えるネタなのか?
「うちのピカ一のディック・フォーレイ」や「ボッブ・ティール」などのレギュラーキャラ初登場作品なのだが活躍せず。
p757 百ドル札♠️米国消費者物価指数基準1923/2020(15.13倍)、$1=1662円で換算して100ドルは16万円。当時のFederal Reserve Note(1914-1928)はBenjamin Franklinの肖像、Gold Certificate(1922-1927)はThomas H. Bentonの肖像。サイズはいずれも189x79mm。
(2020-4-8記載)
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⑷ The Black Hat That Wasn’t There (初出The Black Mask 1923-11-1 as “It”)「暗闇の黒帽子」井上 一夫 訳 {EQMM日本語版1960-7} K14 #4: 評価6点
『チューリップ』で書評済みだが、改めて読むとキビキビした話の流れが良い。場面場面がいちいちリアル。
一人称は「私」だが、セリフの中では「あたし」(コロンボ風の)。井上先生の翻訳は好き。ところどころ、小鷹訳よりスムーズに感じた。流石です。
p105/246 先月の二十七日月曜日
p110 五セントのチップ(a jit)◆タクシーの運転手に。
p116 三二口径コルト自動拳銃(.32 Colt revolver)◆古い翻訳者はリボリバーを「自動拳銃」と訳してたのか?井上先生でさえも!
p121 黒い自動拳銃(a black automatic pistol)◆こちらは正しい。
p122 必要だと思うとき以外には、拳銃は持って歩かないことにしていた◆オプの考え方。
(2022-2-11追記)
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⑶ Mike, Alec or Rufus (初出The Black Mask 1925-1)「誰でも彼でも」砧 一郎 訳 {別冊宝石73号1958-1} K33 #15: 評価6点
ユーモラスな感じの話。テキストはダネイ版The Creeping Siamese収録(1950)によるもの。オリジナル・テキストにちょっと手を加えており、登場人物の名前もJacob CoplinからFrank Toplinに変えられている。(元の名前はユダヤ人を連想させすぎるのか?) 詳細はDon HerronのWebページHammett: “Mike or Alec or Rufus”参照。
銃は「回転胴式のピストル(リボルバー)」または「自動式(オートマティック)… 三八口径の」が登場。一般人にはリボルバーもオートマチックも区別がつかない、ということでしょうね…
p1063 色は白いほうですか、黒いほうですか?(Light or dark?)♣️髪の色は明るい?暗い?だと思う。
p1123 広告の文句じゃないけど、この鼻がおぼえてます(My nose would know, as the ads say)♣️探してみたけど、このフレーズを使った広告は見つからなかった。気になる…
p1134 電話の交換台と受付けと、両方いっしょにやってる♣️マンションの交換手は受付を兼ねているのが普通なのだろう。
p1181 ニッケル玉でカケを(matching nickels)♣️メキシコでの遊び方がWebにあった。matching nickels - volado (we choose either "aguila" or "sol", each side of a coin in Mexico) やってたのはフィリピン人なのでこれなのかも。
(2020-4-19記載)
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⑴ The Gutting of Couffignal (初出The Black Mask 1925-12)「クッフィニャル島の夜襲」田中 西二郎 訳 {『血の収穫/ビロードの爪』中央公論社1969} K40 #20: 評価7点
一人称の弱点は、探偵が手がかりに気づいていても、そこを書いちゃうとネタバレになっちゃうところだが、ハメットはうまく処理していると思う。作品内容は非常に楽しめるし、ユーモアとペーソスもある。『マルタの鷹』序文でハメットが後悔している本作の結末の「失敗」---- 私も何かコレジャナイ感があった。
p3/246 コンティネンタル探偵局がとりあつかわない離婚関係の仕事(divorce work, which the Continental Detective Agency doesn’t handle)♠️ピンカートン社がそうだった。1900年ごろの広告でNo Divorce Case Undertakenと真っ先に大きな文字で宣言しているのがあった。
p6『海の殿様』(The Lord of the Sea)♠️Hogarthが登場する、というからMatthew Phipps Shiel(1865-1947)著、1901年出版の小説だろう。「デュマの荒々しいロマンス、ヴェルヌの想像力溢れる予言、そしてポオの悪夢の如き冷酷さの混淆」という宣伝文句のようだ。気になるねえ。ハメットはプリンス・ザレスキーを読んだことあるのかな?
p8 小銃のなかでは一番重いやつ(the heaviest of the rifle)♠️ここは「ライフル」のほうがわかりやすいかな?
p9 ごく小さい火器の一斉射撃の音(a volley of small-arms shots)♠️small-armsはピストルやライフルなどの総称。「小火器」が定訳。ここでは「重い」ライフルの音と対比して「軽い」銃の音という趣旨だろう。
p13 四角のオートマティック・ピストル(square automatic pistol)
p52 浅黒い顔に(dark face)
(2022-2-11記載)
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⑸ The Farewell Murder (Black Mask 1930-2)「フェアウェルの殺人」稲葉 由紀 訳 {別冊宝石123号1963-10} K59 #35
創元文庫で読むつもり。
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⑹「スペイドという男」田中 西二郎 訳 {『血の収穫/ビロードの爪』中央公論社1969} K66
創元文庫か講談社文庫『死刑は一回でたくさん』で読むつもり。

No.5 6点 チューリップ : ダシール・ハメット中短篇集- ダシール・ハメット 2020/04/04 08:41
小鷹ファンなら「訳者あとがき」で泣ける。帯に「ハードボイルド精神とは何か?」とあるが、もちろん、そーゆー内容ではない。私にとってハードボイルドとは谷譲二(牧逸馬・林不忘、いずれも長谷川 海太郎の筆名)とかワーナー映画だったりする。軽ハードボイルド(=カーター・ブラウン)という概念のほうがむしろわかりやすい。ハメットはハードボイルド私立探偵小説を書いたわけじゃない。自分の面白い持ちネタが、今まで経験してきた探偵家業だっただけ。(各篇解説p112に似たようなことが書いてあった)
この書評では初出順に再構成。カッコ付き数字は単行本収録順。K番号は、本書収録の作品リストにつけられた短篇小説(長篇分載を含む)の連番(勝手に私が「K番号」と命名)。#番号は『コンチネンタル・オプの事件簿』(ハヤカワ文庫)収録のオプもの短篇リストの連番。初出はFictionMags Indexで加筆。
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(おまけ) The Parthian Shot (初出The Smart Set 1922-10) K1 「最後の一矢」: 評価4点
訳者あとがきの中に収録(目次には出てこない)。短いスケッチ。Smart Setのこの号は広告も含め無料公開されている。
(2020-4-4記載)
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⑵ The Barber and His Wife (初出Brief Stories 1922-12、Peter Collinson名義) K2 「理髪店の主人とその妻」: 評価5点
これはちょっと冗長だが、文章のシンプルなスタイルは最初からのものだったようだ。小耳に挟んだネタを書いたようなリアリティがある。
p98「炉の火を燃やしつづけてくれ(Keep the Home Fires Burning)」: 続く「また逢う日まで(Till We Meet Again)」、「兵士たちになにをしてくれるんだ、ケイティ」、「彼らをどうやって農場に縛りつけておくんだ?(How Ya Gonna Keep 'em Down on the Farm)」はいずれも大戦中(WWI)の曲だというが、「〜ケイティ」だけ調べつかず。(2020-4-12追記: 原文を見たら「〜ケイティ」のところは”Katy,” “What Are You Going to Do to Help the Boys?”の2曲分の題名だった。全てWW1当時の有名曲。いずれもWikiに項目あり。KatyはK-K-K-Katyで立項)
p100 赤いネクタイはつけないという、強いタブー(strength of the taboos of his ilk that he did not wear red neckties): 共産主義者のイメージなのか。調べつかず。
p101 黒人の靴磨き: 理髪店には靴磨きがつきものだったのか。便利なサービスだと思う。
(2020-4-4記載; 2020-4-12追記)
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⑶ The Road Home (初出The Black Mask 1922-12、Peter Collinson名義) K3 「帰路」: 評価5点
ハメットのBlack Mask初登場。あっさりしたスケッチ。男のケジメがテーマなのが、らしいと言えばらしい。
p114 現地人の服を着た浅黒い男(The dark man in the garb of a native): 浅黒警察の判定では「黒髪の男」ここは最初の描写なので髪の色をまず言うはず、と言うのが一応の根拠だが、微妙かも。
(2020-4-5記載)
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⑷ Holiday (初出The New Pearson‘s 1923-7) K7 「休日」: 評価6点
FictionMags Indexでは1923年7月号から雑誌タイトルがPearson’s Magazineに戻ったとなっているが、mikehumbertのWebで表紙絵を見ると、上記が正解。英ピアソンズ・マガジンの米国版(1899-1925)、25セント(=416円)、64ページ。
なおここでは米国消費者物価指数基準1923/2020(15.13倍)、$1=1662円で換算。
うらぶれた休みの日。競馬場、酒場のスケッチ。小実昌さん向きの話。小鷹訳はちょっとカタい。各篇解説で、稲葉訳のポカを「編集部の重大なミス」として苦言を呈する翻訳者寄りの姿勢が微笑ましい。(稲葉訳は、雑誌マンハント1962-9に掲載後、創元『スペイドという男』に収録。小鷹訳よりこなれているが、時代を感じさせる古い表現が多い。私は好きだが現代の読者にはわかりにくいか。詳しく確認してないが語釈が小鷹訳とところどころ違ってるようだ。原文が届いたら見てみよう。←多分、私には判定が困難だろうが…) ほろ酔い気分の主人公に寄り添える「純文学」な内容でヒョウーロン家が持ち上げ易い作品。作者自身は「や・お・い」と評している、ならばハメットは物語にはヤマやオチが必要という考えなのだろう。
p121 十ドル札: 16620円。当時の10ドル紙幣はUnited States Note(1907-1928)はAndrew Jacksonの肖像、Gold Certificate(1922-1928)はMichael Hillegasの肖像。サイズはいずれも189x79mm。
p121 <一度に一歩>(Step at a Time): 日本の競走馬風ならイチドニイッポ。(稲葉訳は『一度にひと足』)
p128 銀貨で85セント: 5セント硬貨を1枚持ってるのは確実(ニッケル製だが…)。残りを半分に割ってるので、半ドル銀貨(Half dollar)は持っていない。とすると、5セント貨、10セント銀貨と25セント銀貨の組み合わせだろう(3通りが可能)。当時の5セント貨幣(Nickel)はBuffalo or Indian Head(1913–1938)、25% nickel & 75% copper、直径21.21mm、重さ5.00g、83円。10セント銀貨(Dime)はWinged Liberty Silver Dime(1916-1945)、.900Silver、直径17.9mm、重さ2.5g、166円。25セント銀貨(Quarter)はStanding Liberty Type2[2aとも](1917–1924)、.900Silver、直径24.3mm、重さ6.25g、416円。
(2020-4-7記載)
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⑸ The Black Hat That Wasn’t There (初出The Black Mask 1923-11-1 as “It”) K14 #4 「暗闇の黒帽子」: 評価5点
オプもの。暗闇のシーンだけが取り柄。32口径コルト・リヴォルヴァーなら色々候補はあるが一番普及してたのはPolice Positiveかなあ。
Don HerronのWebサイトを見ると、EQMM1951-6再録時にダネイが原文をちょっといじってるらしく、小鷹訳はEQMM版によるもののようだ。Black Maskオリジナルを収録してるはずのThe Big Book of the Continental Op(Black Lizard 2017)取り寄せ中なので、届いたら確認してみます… (なお、このハメット・ファンサイト主宰のDon HerronはTadが誰かわからないらしい。英語得意な方、教えてあげて!)
(2020-4-8記載)
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⑹ Afraid of a Gun (初出The Black Mask 1924-3-1) K24 「拳銃が怖い」: 評価4点
同じ号に二篇掲載(もう一つは下のK25。同じくハメット名義)。この作品の狙いがよく分からない。現実に見聞きした事件を解釈しようとしたが、上手く核心に迫れなかった感じ。なお再録時のダネイの修正は無いとのこと。
(2020-4-12記載)
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⑺ Zigzags of Treachery (初出The Black Mask 1924-3-1) K25 #8 「裏切りの迷路」: 評価7点
オプもの。とても良い仕事をするオプ。作品タイトルもピッタリ嵌まっている。ダーティーな世界でケジメを貫くカッコ良さに惚れてしまうやろ〜。
p187 尾行には四つの原則がある: オプの尾行ミニ講座。
p198 小粋すぎる服を着たフィリピン人のガキども:『大いなる眠り』p185のトリビア参照。
p217 弾倉を閉じて(snapped it shut again): リヴォルヴァーなので「シリンダー」と言いたいところ。回転式弾倉が訳語だが、単に「弾倉」というとマガジンのイメージが強い。「輪胴」という訳語もあるが、あまりポピュラーではない。試訳「シリンダーを元に戻して」
(2020-4-12記載)
「撃針(firing pin)」について一言。当時のリヴォルヴァーだと、もれなく撃鉄にセットされている。普通は銃内部に隠れていて見えないが、発射準備(撃鉄が起きている)状態なら撃針は外部に露出している。撃鉄の前側の尖った部品が撃針。これで弾丸のケツにある発火薬を叩いて発射する仕組み。
(2020-4-17記載)
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⑻ The Scorched Face (初出The Black Mask 1925-5) K36 #17 「焦げた顔」: 評価6点
オプもの。掲載号のカヴァー・ストーリー(シャツがボロボロで、ドアの前で半ば手を上げてる男の絵)。オプの捜査手法が良い。登場する刑事のエピソードが面白い。大ネタは探偵局で見聞きしたものなのかも。
p245 ロコモービル♦️Locomobile Model 48(95HP 1919-1929)か。1922年以降はDurant Motors傘下で1929年までブランド名は存続した。
p261 八百ドル♦️米国消費者物価指数基準1925/2021(15.67倍)で$1=1792円。143万円。
p264 五十セント玉♦️当時はWalking Liberty half dollar(1916-1947)、90%silver、直径30.63mm、重さ12.5g。貨幣面の表示は「FIFTY CENTS」ではなく「HALF-DOLLAR」この大きさは訳注を入れて欲しいところ。
(2021-10-18記載)
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⑼ Ruffian’s Wife (初出Sunset:The Pacific Monthly 1925-10) K38 「ならず者の妻」: 評価5点
うーん。こーゆータフサイドの逆から見る感じが上手いのがハメットの資質だと思うが、話としては、そんなに面白くない。
p322 一万二千ドル♠️(8)の換算レートで2150万円。
p323 <バング・アウェイ、マイ・ルールー>を口笛で♠️Bang Away, My Lulu。英WikiにBang Bang Luluとして項目がある米国民謡だろう。
p330 五十万ルピー♠️1925年の換算レートだと、1インド・ルピー=$0.3626=650円。3億2500万円。
(2021-10-19記載)
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⑽ Albert Pastor at Home (初出Esquire 1933秋) K70 「アルバート・パスターの帰郷」: 評価5点
掲載号はエスクワイヤの創刊号(この号も全て無料公開あり)。愉快なスケッチ。人口25万人(a quarter million people)クラスの街は1920年の統計でToledo city, OH(243,164、全米26位)、Providence city, RI(237,595)、Columbus city, OH(237,031)、Louisville city, KY(234,891)、St. Paul city, MN(234,698)、「ちっぽけな町」というのはNew York city, NY(5,620,048、全米1位)、Chicago city, IL(2,701,705、2位)、Philadelphia city, PA(1,823,779、3位)と比較してのことか。デューセンバーグとロールス・ロイスの件は『悪夢の街』小泉 太郎 訳の方が意味を捉えている感じ。なおDell版のイラスト全体(kidも描かれている)はWebサイトDavy Crockett’s Almanackで見ることが出来る。
(2020-5-2記載)
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(11) Night Shade (初出Mystery League 1933-10) K71 「闇にまぎれて」
掲載号はミステリ・リーグの創刊号。K70の代わりに書かれたもの。
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⑴ Tulip (生前未発表; 短篇集The Big Knockover 1966) K76 「チューリップ」

No.4 5点 デイン家の呪い- ダシール・ハメット 2020/04/04 05:45
1929年7月出版。(『赤い収穫』の5カ月後、立て続けの出版だったのか) 初出Black Mask 1928-11〜1929-2 (4回連載)。小鷹信光訳で読了。
改訂内容の概要は訳者あとがきにあるが、詳しいことはBlack Mask掲載分を集めた作品集The Big Book of the Continental Op(Black Lizzard 2017)などを読んでみるしかないのか。ハヤカワ文庫(小鷹 信光 訳)で読了。
第1部、第2部までは普通の堅実なオプもの…と思ったら第3部で何だか大掛かりになって無茶苦茶に。第3部後半はまた雰囲気がかわる。まーここがこの小説のハイライト。オプが普段になく心情をわかりやすく吐露、結構女に弱いんだよね。ラストは付け足しのような長い説明。きっと当初はあっさりした解決篇だったのだろうが、クノッフ奥様がこの解決、どーなってるの?さっぱりわからん、と文句をつけ、ハメットがそんなにどーでも良いことが知りたきゃこれでも食らえ! って不貞腐れて書いたのだろう。(そんな投げやり感に満ちている)
バラバラの事件を繋ぎ、長篇としての体裁を整えるのが「呪い」というキーワード。なのでマクガフィン以上の意味はない。失敗作だがハメット・ファン必見作。特にp298辺り以降。汗まみれで奮闘するオプの姿にハメットの素顔を見た。最終幕の明るさも良い。
以下トリビア。
作中年代は『赤い収穫』の後(p311)なので1928年、2月6日(p61)から数日後(感じとしては一カ月以内)が冒頭か。
現在価値は米国消費者物価指数基準1928/2020(15.13倍)、$1=1662円で換算。
献辞はTO ALBERT S. SAMUELS。ハメットが広告マンとして勤めた宝石店主。詳細は注釈盛りだくさんの訳者あとがき参照。
p11 背筋がまっすぐのび、浅黒い肌(dark-skinned erect man): 例の「浅黒」だがここは正しい訳。浅黒警察にとって紛らわしい文章である。
p25 千二、三百ドル: $1300=216万円。ダイヤモンドの売値。安物。原価は$750。利益率42%か…
p32 電話交換台の若い男(boy at the switchboard): ここではアパートの受付も兼務している。
p33 サンフランシスコ暮らしが5年近く(I had been there [San Francisco] nearly five years): オプのセリフ。最初のオプものはBlack Mask 1923-10-1号。約5年前である。
p33 西部をインディアンに返還する運動(movement to give the West back to the Indians): そういう運動が1920年代に盛り上がっていたのか? 調べつかず。
p34 物書きで人をだます収入り(みいり)(literary grift): ハメットの自虐ネタ。
p37 シュヴァリエ・バヤール(Chevalier Bayard): フランスの騎士Pierre Terrail, seigneur de Bayard (1473–1524)のこと。le chevalier sans peur et sans reproche(恐れ知らず、非の打ちどころなし)と言われた。Chevalier de Bayardという表記が一般的のようだ。
p38 デューマ(Dumas): ここでは大(アレクサンドル)の方だろう。謎めいた男(モンテクリスト伯みたいな)というイメージか。
p38 O・ヘンリーの見かけ倒しの三文小説(gimcrackery out of O. Henry): 小鷹さんなので詐欺師ジェフ・ピーターズを念頭に置いてるはず。
p46 全部で1170ドル: 194万円。一枚ずつ置いて金額を確認してゆくのは欧米人がよくやる行為。(ジェームズ・サーバーの登場人物がお釣りを暗算で出すのは「軽はずみ」と評していたはず) ここの記述から100ドル札7枚、50ドル札5枚、20ドル札7枚、10ドル札6枚、5ドル札4枚を持ってるようだ。米国の紙幣は額面に関わらず統一サイズだが、1928年〜1929年以降は一回り小さくなっている。(189x79mmから156x66mmに)
p63 黄色ちゃん(high yellow): 黒人と白人の混血の薄い肌の色を指す語、とwikiにあり。単にyellowとも。The Yellow Rose of Texasもムラートのことだという。
p67 “踊る宗教”や<ダビデの家>(Holy Roller or House of David): Holy RollerはFree MethodistsやWesleyan Methodistsのような宗教団体。ダビデの家は正式にはThe Israelite House of Davidという1903年ミシガン生まれの新興宗教。1920年代に教祖と13人の信者(若い女性)とのスキャンダルが発覚した。いずれも英wikiに項目あり。
p69 村の鍛冶屋さん(village-blacksmith): しばしも休まず槌うつ響き、で始まる文部省唱歌「村の鍛冶屋」(1912)の日本語wikiではLongfellowの詩(1840)のことが出てこないが、無関係なのだろうか?
p199 百五十四ドル八十二セント: 26万円。男のポケットにあった現金の総額。
p245 スタッド・ポーカー… 12時半には16ドル勝っていた: 26592円。新聞記者4人・カメラマン1人とのオプの対戦成果。
p275 ニック・カーター調の冒険談のほうがましだ(I like the Nick Carter school better): 1886年初登場の探偵。人気が出たらしく1915年までNick Carter Weeklyという雑誌があった。1924-1927にはDetective Story Magazineに連載があったが、あまり成功せず、1933年にザ・シャドウやドグ・サヴェージの人気にあやかろうと冠雑誌が復活、Nick Carter Detective Magazineが創刊された。以上、英wikiより。1928年当時のイメージは「冒険談」なのだろうか。
p317 十ドル: 16620円。ガロン入りの最高級ジンの値段。大瓶2本分なので一瓶あたり8310円。禁酒法時代なので高いのか。(値段は2〜6倍になったという)
p293 わかりました、コンティネンタル殿(Aye, aye, Mr. Continental): ラインハンがオプにふざけて言う。「ミスター・コンティネンタル」はミスター・タイガース(藤村富美男、自他ともに認めるチームの代表者)のような意味あいか。

No.3 6点 赤い収穫- ダシール・ハメット 2020/03/28 14:10
1929年2月出版。初出Black Mask 1927-11〜1928-2 (4回連載)、出版時の改訂により連載より表現が和らげられているらしい。その辺りの詳細を探したがWebでは見つからず。ハヤカワ文庫(1989年、小鷹 信光 訳)で読了。
変な話。文章は上等。乾いたユーモア感のある文体。でもオプが前のめりにこの町に関わってゆく動機が全くわからない。(都会モンが舐めた態度の田舎モンをカタに嵌める話?) クノッフの奥様はどんなつもりでこの長篇を出版する気になったんだろう。珍獣を眺めてるような気分だったのか。
筋ははちゃめちゃだが一応の理は通っている。小ネタも良い。記憶に残るのはダイナとオプの酔っぱらい場面。下戸の小鷹訳より小実昌訳(講談社文庫)がふさわしかったか。(呑めない噺家の方が酔っ払い上手、という説もあるが…) ハメットは割りの良いアルバイト気分で文章を綴っている。自分の作品のことはジョークだと思っていただろう。あとがきは小鷹ファンじゃないといささか意味不明だが情感溢れるエッセイ。(ゴアス直伝の語釈が知りたい!) 次作『デイン家』が非常に楽しみ。
以下トリビア。
作中年代は1927年のヒット曲が出てくるので素直に1927年で良いだろう。季節は、冬ではないことは多分確実(p206はあまり寒そうじゃない)。夏という感じでもない。イメージだと秋。(2020-4-5追記: 「去年の夏(summer a year ago)」の事件が8月最終週末(p129)に起きて、それは今から「一年半前(p149 a year and a half ago)」のことだという。ちょっと矛盾してるが last summerとは言ってないので、一年(ちょっと)前の夏、と理解すれば話は通る。ならば「今」は2月末の前後数カ月。p81のヒット曲はおそらく1927年3月か4月が流行の初め。毛皮のコート(fur coat)を着てる(p112)ので、この物語は1927年3月の話なのだろう。夏の事件は1925年8月29日土曜日あたりか)
現在価値は米国消費者物価指数基準1927/2020(14.87倍)、$1=1633円で換算。
銃は色々出てくるがgunmanは.32口径なんか使わない(p62)というネタが興味深い。銃世界の通説ではgunmanとは銃を持った悪党のこと。じゃあどんな奴が.32口径を使うのか、という答えはp89参照。
献辞はTO JOSEPH THOMPSON SHAW。
p14 赤い幅広の絹のネクタイ(a red Windsor tie): 組合関係者なので「赤」か? 赤一色のネクタイはCommunist Red necktieと呼ばれることもあるらしい…
p21 色の浅黒い、小柄な若い男(It was young, dark and small):「黒髪の」小鷹さんも浅黒党とは意外。
p23 あさぐろい横顔がうつくしい(His dark profile was pretty.): 小実昌訳より。この文、小鷹訳では抜け。He was Max Thaler, alias Whisper.と続く場面。(2020-4-5追記)
p25 イーストを食べるようになってから、耳の具合がぐんとよくなりました(My deafness is a lot better since I've been eating yeast): 1910年代から家庭でパンを焼く習慣が廃れ売上が減ったので、Fleischmann’s Yeast社がイースト菌は健康に良いキャンペーンを張った。広告ではconstipation, bad breath, acne, boils, and sluggishnessなどに効き目があると主張、パンに塗って食べたり溶かして飲んだりすると良い、として売上1000%の効果があったという。
p33 五千ドル: 817万円。
p49 五十セント玉ほどの(size of a half-dollar): 当時の半ドル銀貨はWalking Liberty half dollar(1916-1947)、直径30.63mm、重さ12.5g、ギザあり。貨幣面の表示は「FIFTY CENTS」ではなく「HALF-DOLLAR」(2020-4-5追記)
p53 五ドルもだして買ったのよ(paid five bucks): 8165円。靴下(socks)の値段。小実昌訳では「ストッキング」伝線してるのだからストッキングのほうがふさわしい。何組買ったのかはわからない。1920年代の高級品は1組$4.5という情報あり。(2020-4-5追記)
p81 <ローズィ・チークス>を口ずさんでいる(humming Rosy Cheeks): 同タイトルは数曲あるが、ここでは1927年のヒット曲のことだろう。作詞Seymour Simons、作曲Richard A. Whiting。初録音はNick Lucas 1927-3-29(Brunswick)か。(2020-4-5追記: 1927年4月には見つけただけでも9つのレコーディングがある。ミュージカルのヒット・ナンバーではないようだ。ダンス・ホールでの評判が良かったので各バンドが争うように吹き込んだものか)
p84 五十ドル札、二十ドル札、十ドル札: 当時の紙幣サイズは額面にかかわらず、現在より大きめの189x79mm。50ドル紙幣はUnited States Note(1914-1928) 、Gold Certificate(1913-1927)のいずれもUlysses Grantの肖像、81670円。20ドル紙幣はUnited States Note(1914-1928)はGlover Clevelandの肖像、Gold Certificate(1922-1927)はGeorge Washingtonの肖像、32668円。10ドル紙幣はUnited States Note(1907-1928)はAndrew Jacksonの肖像、Gold Certificate(1922-1928)はMichael Hillegasの肖像、16335円。
p89 銃器の専門家に… 弾丸の精密検査をさせる(have a gun expert put his microscopes and micrometers on the bullets): 1925年Calvin Goddard創始の技術が一般的になってきてるようだ。(有名になったのは1929聖バレンタインデーの虐殺の鑑定からだという)
p101 ピノクル(pinochle): トリックテイキングの米国トランプ・ゲーム。2〜8を除いたダブル・デック(48枚)を使用。原型は4プレイヤーだが、この場面のように2人でも出来るバリエーション(べジークとほとんど同じ)がある。詳細はWiki「ピノクル」及びWebページ「ベジーク(Bezique)と、ピノクル(Pinocle)の2人ゲーム」
p107 全財産の三十五ドル(my last thirty-five bucks): 57172円。
p112 マルセル式にウェーブが(marcelled): ボブと組み合わせて1920年代人気の髪型。ウェーブというよりカール。
p121 チャウメン(chow mein): 炒麺。焼きそば。
p127 科学探偵(scientific detectives): 前のセリフにexperimentが出てくるからscientificと言ったのか。
p129 ほつれた糸で脚を痛めたくないと(so the loose threads wouldn't hurt his feet): 婆さんみたいに靴下を裏返しにはくおかしな男… 小実昌訳では「縫い目で足が痛くならないように」こっちのが正解だろう。こーゆー、いかにもな女の話をちゃんと覚えてて書くところがハメットのリアリティだと思う。(2020-4-5追記)
p136 四十にもなると(At forty): オプの歳。
p179 機関銃の覆いがとられ(Machine-guns were unwrapped)… ライフル(rifles)… 暴徒鎮圧銃(riot-guns)…: 機関銃は当時ならThompson submachine gun。riot-gunはshotgunのこと。
p181 バイバイ(Ta-ta): 小実昌訳では「タ、タ」訳注「バイバイといった類の幼児語」Webページ「イギリス英語“Ta-Ta”って何て意味?」によるとニュージーランドでは使わないらしい。発音は「タター」Weblioによると[英口語]子供が用いたり、子供に向かって用いる言葉。他の辞書でも「英」英国人と付き合ってた設定だからこの語か。ここはお母さん(mama)のつもり(p195参照)で言ってるのだろう。試訳「バイバイでちゅ」(←貴家さんの声で) (2020-4-5追記)
p209 そば粉ケーキ(buckwheat cakes): 蕎麦粉配合のパンケーキ。東ヨーロッパ、ロシア、フランスのが有名。(wiki)
p241 一ドル銀貨大(the size of a silver dollar): ここに訳注を入れると台無しか。当時はPeace Dollar(1921-1928) 90% silver, 直径38.1mm、重さ26.73g、縁にギザあり。デザインは表がLibertyの横顔、裏が白頭鷲。デカくて重かったので西部以外ではあまり流通しなかった。(サルーンやカジノでよく使われたらしい)
p264 ディック・フォーリーは原文ではもっと言葉を節約してる。小実昌訳でも節約不足。(2020-4-5追記)
p272「やつは犯罪専門の弁護士なのかい?」「そうとも、犯罪専門のね」: ジョークとしてキレが悪いが仕方ないかなあ。小実昌訳も上手く処理出来てない。原文は'Is he a criminal lawyer?' 'Yes, very.' 試訳「そうだよ、前科は数え切れずさ」(2020-4-5追記)
p273 十セントのチップ(For a dime): 163円。ホテルのボーイへの。(2020-4-5追記: 10セント銀貨は当時Mercury dime(1916-1945) Winged Liberty Headが正確な通称。 .900Silver、直径17.91mm、重さ2.50g。貨幣面の表示は「TEN CENTS」ではなく「ONE DIME」)
p274 おれのところにきたものは、みんなまわしてほしい(Take anything that comes for me and pass it on): なんとかして誤魔化す、の意味だと思うし、この要望に応じて、実際そうしている。(2020-4-5追記: 私は小鷹訳の「もの」を者と誤解してトンチンカンなことを書いていた。小実昌訳では「おれのところにきたしらせは、みんなとりついでくれ」これなら明瞭)
p275 上記(p264)同様ディック・フォーリーは原文ではもっと言葉を節約してる。小実昌訳でも節約不足。(2020-4-5追記)
p293 やつのくそったれの叔母(and his blind aunt): 罵りに出てきた文句。ファイロ・ヴァンスもoh, my auntと良く言うが… (2020-4-5追記: 小実昌訳では「メクラの叔母さん」外人名みたいで上手)
p309 十六インチ砲(16-inch rifle): 16インチ(406.4mm)銃身のライフルという意味か。通常より短めで鹿用に最適らしい。口径40ミリなら「砲」という翻訳だろうが、16"/45 caliber gun(1921から戦艦用)や16"/50 caliber Mark 2 gun(1924から沿岸警備用)をrifleとは言わないはず。(砲の意味ならこの場面では非常に大袈裟で意図不明) (2020-4-5追記: 小実昌訳では「16インチのライフル」)
p309 コルトの軍用拳銃(A Colt's service automatic): M1911(コルト・ガバメント)のこと。
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(2020-4-5追記)
小実昌訳(講談社文庫1988)であらためて読んだら、結構、色々な気づきがあったので、トリビアにかなり追記した。この物語はおそらく1927年3月のことだろう、というのが最大の発見。やはり小実昌訳はセリフ(特に女性の)が素晴らしい。地の文もシンプルで、漫画みたいな表現(p180のすり抜け等)も上手い。小鷹訳は楷書ぶりがちょっと堅苦しい。多分、全体の正確さは小鷹訳が上のはず。でも印象は小実昌訳が非常に良い。
現実の事件を思い起こすと、本書は絵空事とは正反対で、実際にあり得る世界だということに今更気づいた。(ギャングの抗争によるシカゴの大量殺人「聖バレンタインデーの虐殺」は、本書刊行と同月の事件。トリビアp89で触れているのに全く気づいていない…)
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(2020-4-12追記)
ついでに創元新訳(田口 俊樹2019)も読んでみた。語釈は小鷹訳に準拠している感じで、多分ほぼ完璧になってると思う。もっと言葉は省略出来るのになあ、という感想。小鷹訳でも小実昌訳でも気に入らないディック・フォーリーの口調が違和感あるところ(上のp264、p275)は、長いセリフのまま。全体的には、やっぱり小実昌訳サイコー。
なおBlack Mask連載とKnopf初版との全文比較をDon Herron主宰のWebサイト “Up and Down These Mean Streets”でTerry Zobeckがやり始めている。(まだ第1回目で単行本13ページまで… 先は長いが楽しみだ)
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(最後のおまけ)
ネタバレにはならないと思うので書いちゃうと、本書最後の文が素敵だ。
He gave me merry hell.

No.2 6点 死刑は一回でたくさん- ダシール・ハメット 2020/03/23 23:30
各務 三郎 編の傑作集、1979年出版。田中 融二 訳。私は講談社文庫ですが、電子本(Gutenberg21)でも入手可能。
『赤い収穫』の助走として読んでいます。いつものように初出順に並べました。データはFictionMags Indexで補正。K番号は小鷹編『チューリップ』(2015)のハメット短篇リストの連番。オプものの#は『コンチネンタル・オプの事件簿』(ハヤカワ文庫)所載リストの連番。
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⑵ The Tenth Clue (初出The Black Mask 1924-1-1 as “The Tenth Clew”) 「十番目の手がかり」: 評価6点
K19、コンチネンタル・オプもの#6。探偵小説してるのが面白い。沢山の手がかりを用意するのも結構大変だと思う。犯人はミステリ・マニアなのか?
p35 百ドル: 米国消費者物価指数基準1924/2020(15.13倍)、$1=1662円で換算して約17万円。
p36 S・Wの四五口径拳銃用(S. W. 45-caliber): .45 Smith & Wesson(別名.45 Schofield)はリボルバー用弾丸のブランド名。スコフィールド拳銃は.45S&W弾なら発射出来るが.45Colt弾だと薬莢が長く、シリンダーに収まらないため発射出来ない。コルトSAAは.45Colt弾も.45S&W弾も発射出来る。威力も.45Colt弾に比べて低いので.45S&W弾は1920年代には廃れていたものと思われる。弾丸の底に「45 S&W」と刻まれていたのでオプ達にもすぐに種類がわかったのだろう。
p37 十ドル紙幣(ten-dollar bills): 当時の10ドル紙幣は二種類あり、United States Noteが1907年からAndrew Jacksonの肖像、Gold Certificatesが1922年からMichael Hillegasの肖像、サイズはいずれも189x79mm。
p58 銃身のずんぐりした自動拳銃(a snub-nosed automatic): スナブノーズってリボルバーのイメージしか無かったが… 25口径ならそれっぽいかなあ。
(2020-3-23記載)
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⑴ The Man Who Killed Dan Odams (初出The Black Mask 1924-1-15) 「ダン・オダムスを殺した男」: 評価5点
K20。緊張感のある文章が素敵だが、この文庫は目次がネタバレ、阿呆か。
最後のセリフは “Good girl”、翻訳が難しいですね。
(2020-3-23記載)
創元文庫の稲葉訳は表現がまだるっこしい。田中訳の方がシャープ。Don HerronのWebサイトによると、ダネイはテキストの所々で語を削っている。まったく… (詳細はDon Herron Hammett: “Dan Odams”で検索) 比較すると稲葉訳はダネイ版によるものだが、田中訳はBlack Mask版のテキストのようだ。
ところで当時の電話の普及率が気になったので調べると米国(U.S. Householdとあるので家庭用)では1920年で35%くらい。意外にも5割越えは1950年あたりで、1960年で8割。多分、家と家が離れてる田舎の方が普及率は高かったのでは? なお英国では家庭用電話(households UK)の普及率を示すデータが1970年からのしか見当たらず、これが35%という超低率(その統計で5割越えは1975年、8割は1985年)。色々調べるとCharles Higham “Advertising: Its Use and Abuse”(1925)のデータだが「電話機の普及率は英国では47人に1台、米国では7人に1台、オセアニアでは12人に1台」というのがあり、どうやら英国人にとって電話という暴力的なプライヴァシー侵略装置はお気に召さなかったようだ。
(2020-4-12記載)
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⑶ One Hour (初出The Black Mask 1924-4-1) 「一時間」: 評価6点
K26、コンチネンタル・オプもの#9。気球男の関西弁には違和感あり。(原文では訛っていない、と思う) 急展開のアクション・シーンが良い。
p76 オランダの金… 百フロリン札: 金基準1924で100ギルダー(フローリン)は38.36ドル「38ドル相当」(p82)に合致。約6万4千円。当時の100ギルダー紙幣(1922-1929)は 'Grietje Seel' 座ってる女性のデザイン、薄い青、サイズ215x122mm。
(2020-3-23記載)
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⑷ Death on Pine Street (初出The Black Mask 1924-9 as “Women, Politics & Murder”) 「パイン街の殺人」: 評価7点
K29、コンチネンタル・オプもの#12。翻訳は女性の喋りの調子が上手くない。話自体は面白い。流れがリアルっぽい感じ(脳で考えただけだとこういう展開にはならない気がする)。オチの付け方も良い。
銃マニア的には薬莢が重要証拠となってるのが興味深い。ライフルマークは銃の指紋、ということが確立したのは1925年ゴダード創始。なので、この時代は薬莢に残った撃針の痕(Firing pin impression)が銃を特定するものとしてある程度利用されていたのかも。(探偵小説で撃針痕をネタにしてるのあったかな?)
p101 六百ドル: 約100万円。政治家の所持金。
p109 [略]… 話を読んで… 30分つぶした(spent the next half-hour reading about a sweet young she—chump and a big strong he—chump): アホそうな恋愛?小説を読んで時間を潰すオプ… 結構小説好きなのかも。
p132 拳銃を二つに折り(breaking the gun): ぶっ壊した訳ではなく、トップ・ブレイクの拳銃から弾や薬莢を出すために行った動作。38口径のTop Break revolverならIver Johnson, Harrington & Richardson, Smith & Wessonなどだが、有力候補はIver Johnsonか(ざっとみたところ他社のはモデルが古そう)。
(2020-4-15記載)
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⑸ Fly Paper (初出Black Mask 1929-8) 「蠅とり紙」
K56、コンチネンタル・オプもの#34。
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⑹ Too Many Have Lived (初出The American Magazine 1932-10 挿絵J. M. Clement) 「赤い光」
K67、サム・スペードもの。
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⑺ They Can Only Hang You Once (初出Collier’s 1932-11-19) 「死刑は一回でたくさん」
K68、サム・スペードもの。
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⑻ Two Sharp Knives (初出Collier’s 1934-1-13) 「両雄ならび立たず」
K72

No.1 8点 コンチネンタル・オプの事件簿- ダシール・ハメット 2019/06/09 08:51
日本オリジナル編集(1994)。ハメットはボツボツと読んでいましたが、まとめて読むのは初めて。長編は今まで一作も読んでません。もちろん『マルタの鷹』や『影なき男』の映画は見ています。
Fatimaタバコ(当時20本で15セント?)をくゆらすチビで小太り(80キロ)の中年(1924年当時35歳?)、格闘は意外と得意、というコンチネンタル オプの設定が良いですね。
職業上、レポートを書く必要があった男の紡ぐ(かなり盛った)実話系の物語、という感じ。(ここで気になるのは、当時のTrue Story雑誌群。ハードボイルドの作品群よりはるかに売れていたはず) センスが良く、ほど良いユーモアが隠し味です。派手な銃撃戦やピンチの連続など、随分カラフルで「本格ミステリは絵空事、ハードボイルドはリアリティ重視」ってのは雑なくくり方ですね。こちらも充分フィクショナルです。(今どき、そんなこと言う奴はいないですかね)
以下、一作ずつの短評&トリヴィア。書誌は小鷹さんなので完璧。初出は全てBlack Mask。

⑴Arson Plus 1923-10-1 オプ第1作: 評価6点
この作品はレポートに近い感じ。あまり盛っていません。マックが四人などのくすぐりを入れています。
1軒家(2階建て、ガレージ、物置小屋、1エーカーの芝生に畑付き)で14500ドル。消費者物価指数基準1923/2019で14.89倍、現在価値2377万円。(2020-4-12追記: ブラック・マスク掲載時には4500ドルだった!ならば736万円が正解。直しの入った1951年の基準なら9.95倍なので$14500=1585万円。1951年の$4500なら492万円なので流石に安すぎる、という判断で数字をいじったのだろう)
銃は年代もののくたびれたリヴォルヴァー(ancient and battered revolver)が登場。無理矢理候補をあげるとコルトならNew Service(1898)、S&Wならミリタリー&ポリス(1899)あたり。

⑵The House in Turk Street 1924-4-15 オプ第10作: 評価7点
展開は結構盛っている感じ。でも登場するキャラが強烈。p53「色は関係ない」の前振りが無く意味不明になってるのは、多分ルビ漏れ。(びくつくことない、の原文には「色」が出てくる) ある「習慣(p68)」が話題になってますが本当かなあ。

⑶The Girl with the Silver Eyes 1924-6 オプ第11作: 評価7点
ブラックマスク誌は5月から月刊誌に。(値段は据え置き20セント。以前は月2回発行) この作品もかなり盛っています。ポーキーが素晴らしい。出てくる「モンスターな外車」はイスパノスイザあたりか。情報料5ドルは消費者物価指数基準1924/2019で14.55倍、現在価値8008円。

⑷The Big Knockover 1927-2 オプ第22作: 評価7点
⑸$106000 Blood Money 1927-5 オプ第23作: 評価6点
前後篇だと思ったら、3号離れての掲載。確かに⑷は単独でも楽しめます。⑷の冒頭からの流れはアメコミの世界。(キャラもディック トレーシー風味) 緊張感溢れる酒場のシーンは最高。沢山の歌が出てきますが1曲を除き調べつかず。
p148 ≪なにをしたいか教えてくれたら、なにをあげられるか教えてあげる≫ Tell Me What You Want and I’ll Tell You What You Get: 不明
p149 ≪浮浪者になりたい≫ I Want to Be a Bum: 不明
p153 ≪恋に破れたスー≫(Broken-hearted Sue): Breen、De Rose、Paskman作。1926年10月The Whispering Pianist (Art Gillham)の録音あり。
p165 ≪浮気しないで≫ Don’t You Cheat:不明
銃関係ではマシンガン(当時の短機関銃ならトンプソン一択か)、30-30ライフル(a .30-30 rifle、30-30ウィンチェスター弾を使うライフルはレバーアクションが多く、リコイルも軽めなので、こーゆー使い方はピッタリ)、44口径の弾丸(まだマグナム弾は開発されてません)が登場。通常は38スペシャル弾で充分なんですが、一発必殺の威力重視派は44口径(銃はS&Wリヴォルヴァ)を使う、という感じ。
10ドルのネタ、75ドルのコート、パジャマの洗濯代だけで26セントは消費者物価指数基準1927/2019の14.22倍。現在価値はそれぞれ15653円、11万7千円、407円。
登場する1ドル銀貨(p152 a silver dollar)は1921年から流通しているPeace dollarだと思われます。
なお「ホームズさん」(p307, my dear Sherlock)は原文どおり「シャーロック」が良いのでは?

⑹The Main Death 1927-6 オプ第24作: 評価6点
短い作品ですがキャラが印象的。
p321 デジール デュクール(Désir du Coeur): Ybryの香水。1925年発売。ボトルデザインはBaccarat。
p339 夫人はそこで『陽はまた昇る』を読んでいた: 1926年10月出版。ヘミングウェイへの直接的な言及があったのですね。残念ながら本の感想は書かれていません。センスの良い女、という描写なのか。

⑺Death and Company 1930-11 評価6点
ひねくれたユーモアセンスが良い。
p360 百ドル紙幣: 1914年以来、ベンジャミン フランクリンの肖像でお馴染み。消費者物価指数基準1930/2019で14.63倍、現在価値16万1千円。
p362 チャーリー ロス事件: Charles Brewster "Charley" Ross (1870年5月4日 - 1874年7月1日失踪)は、アメリカ合衆国史上、最初の身代金誘拐事件。(wiki)

一冊読んだだけですが、キャラ重視の作家だと思いました。いろんな人に会う職業だと、結構面白いキャラネタを持ってるはず。プロットにはあまり興味がなさそう。文章はわかりやすさを心がけてる感じ。次はThe Red Harvest(もちろん小鷹訳で)を読んでみるつもりです。

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弾十六さん
ひとこと
気になるトリヴィア中心です。ネタバレ大嫌いなので粗筋すらなるべく書かないようにしています。
採点基準は「趣好が似てる人に薦めるとしたら」で
10 殿堂入り(好きすぎて採点不能)
9 読まずに死ぬ...
好きな作家
ディクスン カー(カーター ディクスン)、E.S. ガードナー、アンソニー バーク...
採点傾向
平均点: 6.13点   採点数: 459件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(95)
A・A・フェア(29)
ジョン・ディクスン・カー(27)
雑誌、年間ベスト、定期刊行物(19)
アガサ・クリスティー(18)
カーター・ディクスン(18)
アントニイ・バークリー(13)
G・K・チェスタトン(12)
ダシール・ハメット(11)
F・W・クロフツ(11)