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弾十六さん
平均点: 6.14点 書評数: 471件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.11 5点 法螺吹き友の会- G・K・チェスタトン 2018/10/28 16:33
連作短編集「法螺吹き友の会」(Tales of the Long Bow 連載Storyteller 1924.6-1925.3、単行本Cassell 1925): 推理・探偵ものではありません。英語の言い回しが鍵なので、翻訳が難しい作品だと思いました。静かに狂い突発的に実行する登場人物(奇妙な行動には深い訳がある)は作者の十八番ですが、この作品ではその発想に共感出来ず、変てこな寓話になっています。風刺の元ネタが実はあって、それを知れば理解出来るのかも… でも訳者も何も書いていないのでよく判りません。(3点)
併録の三短編:
単行本未収額のブラウン神父もの「ミダスの仮面」(1936)神父の現代に対する愚痴が聴けます。(4点)
他二編は、単発もの。見かけに騙される事なかれ、というテーマは共通で、夕方の情景が印象深い「キツネを撃った男」(1921)も良い(5点)のですが、探偵小説を完全否定する探偵小説「白柱荘の殺人」(1925)がとても面白かったです。(8点)

No.10 5点 殺人は広告する- ドロシー・L・セイヤーズ 2018/10/28 00:39
1933年出版 翻訳1997年
探偵小説というより超人ヒーローものですね。麻薬の売人と渡り合ったり、クリケットの試合では大活躍をしたり… (クリケットって日本の会社の野球みたいな位置なのでしょうか) セイヤーズさん自身が身を置いていた広告業界の内情が生き生きと(楽しげに)描かれているのが良い。探偵ものとしてはネタが小さくて展開も控えめです。
男目線で見るとピーター卿のヒーローぶりはちょっとやり過ぎという感じですね。
ところでパブリック・スクールとは、イートンとハロウに限られるらしい…(あくまでピーター卿の意見です)

No.9 7点 赤い拇指紋- R・オースティン・フリーマン 2018/10/27 23:57
1907年出版 翻訳1982年
実はソーンダイクものは初めて。どー見ても怪しいやつを作中では誰も怪しいと思わないのが変ですが、無邪気な語り手の恋愛模様が面白く、法廷でのソーンダイクの実験が素晴らしい作品。そして(ある意味)意外な物語の終わらせ方。凝った暗殺道具は無茶で、そこのところの筋は荒っぽいのですが、それ以外は順当な出来でとても楽しめました。当て推量(guess)論は明らかに偉大な先達を意識しています。(指紋関係では「ノーウッドの建築士」が1903年の発表)
騒がしい監獄、汚い法廷の描写にとてもリアリティがあります。全般的な印象として、女性の役割が当時はこの程度か、という感じ。とても息苦しかったでしょうね。
ところでBlickensderferを知らなかったのですが、なかなか面白いタイプライターですね。Model 5がリテラリイ型でModel 7がコマーシャル型かな? (ストーントン型Stauntonのチェスの駒というのもこの作品で覚えました)

No.8 6点 ローマ帽子の秘密- エラリイ・クイーン 2018/10/27 23:12
1929年出版 今回は創元文庫(2011年)で読みました。
親子で仲良く口笛を吹いています。父は「ニューヨークの歩道」、息子はシューベルトのアリア。四十年前に創元文庫の旧訳で読んだのですが例によって全く覚えておらず、犯人の動機だけが朧げに記憶の片隅にありました。う〜ん、本格ですね。とても真っ当な推理ですが「素晴らしい!」という程ではありません。こちらはシルクハットが無いことが謎ですが、JDCの帽子収集狂(1933)はシルクハットが有ることが謎でした。(きっと意識してますね)
あと国名シリーズと言われているが、ローマは国名ではない!(ローマ帝国なら国名か?) ローマ帽子というのも後の国名シリーズの名付け方からすると変です。
ヴァンダインからの影響ですが、第1作を読み比べてみたら、言われてるほど似てるかな?という印象。もっと類似点が多いと誤解してました。(鼻眼鏡・片眼鏡、稀覯本・絵画を買い逃すとか確かに似てますけど…)
ところで当時の劇場にトイレはなかったのでしょうか?ヴェリーが下水を調べてる場面は想像したくもありませんが…
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(2020-4-18追記)
The Saturday Review of Literature October 12, 1929に掲載された本作の評は、ハメットの手によるものらしい。(Don Herron主宰のWebサイト “Up and Down These Mean Streets”のHammett: Book Reviewer参照)
「この「推論の問題」は二人の新探偵クイーンたち(父と子)のお披露目である。愛想良い嗅ぎタバコ好きとファイロヴァンス風の本の虫。感じは良いが、ちょっとウブ過ぎで会話がchorus-likeに過ぎる感じ。[評の中盤はストーリーの要約なので省略] 小さな欠点(劇場支配人が座席表を知らなかったり、動機がちょっと前の劇場ミステリに使われていた)を除けば、本作は本格(straight)探偵小説好きの要望にかなう作品だ。ただし鋭い愛好家なら、全ての証拠は提示された、という告知のところで、真相にたどり着いているかもしれない。」
似た動機が使われてたというanother theatrical mysteryが気になりますね… (ストーリー要約以外は全文を翻訳しました。chorusのニュアンスが掴めず手抜き)
ところで、この評、EQ『最後の一撃』(1958) 第二部の冒頭に(一部略で)引用されています。EQは匿名の評者がハメットだったことを知っていたのか?(知ってたならハメットの名を大いばりで書き込んだに違いない、と思う)
なお、私は『最後の一撃』青田訳を確認してから試訳を公表するつもりだったのですが、文庫本がどこかに埋れてて… 重大な誤りがあったらこっそり修正します…

No.7 6点 ベンスン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2018/10/27 22:36
1926年出版 今回読んだのは2013年の新訳
実はヴァンダインを読むのは初めてです。日付と曜日と序文とエルウェル事件(1920年)から判断すると1918年6月の事件ですが、内容的に戦後(1918年11月以降)を思わせます。そしてブラックマンデー前のイケイケなUSAの雰囲気です。ファイロのネチネチした皮肉っぽい物言い(美術関係の発言さえも薄っぺらい)にイライラしますが、探偵小説としては王道の内容で楽しめる作品でした。(警察が間抜け過ぎなのがご愛嬌) 次作以降のシリーズがとても楽しみ。この人の探偵小説論を読みましたが、結構真面目な人ではないか、と感じています。
銃は表紙にカッコ良く描かれているコルトM1911(原文U. S. Government Colt—and not the ordinary Colt automatic)が登場。(通常のコルト自動拳銃じゃないよ、というのはM1911が当時市販されてなかったため) グリップが真珠細工(原文pearl handle)のS&W38口径リボルバーも出てました。
でもp354のM1911分解描写はめちゃくちゃ、原文からわけがわかりません。(翻訳が悪いわけではない) He opened the plates of the stock, and drawing back the sear, took out the firing-pin. He removed the slide, unscrewed the link, and extracted the recoil spring. どこがストック?何でシアが出てくる?ファイアリングピンを外す必要ある?著者が知らない用語(シア・ファイアリングピン)を振り回したのでしょう。正しい分解手順(M1911 field stripでWeb検索すると映像が沢山あります)に基づき用語を訂正すると(ストック云々はグリップからマガジンを抜くこと?)「スライドオープンにして、撃鉄を後退させてから(この状態でファイアリングピンは安全な位置にある)、スライドストップを引き抜いた。スライドを外し、バレルブッシングを回して外し、リコイルスプリングを取り出した。」これで銃身がスライドから抜き出せますので、じっくりとライフリングを観察できます。
ところで弾丸の線状痕から発射した銃が特定出来る、というは1925年4月にゴダードらが比較顕微鏡を開発してからのようです。

No.6 7点 屠所の羊- A・A・フェア 2018/10/27 21:46
1939年1月出版 クール&ラム第1話。
ボスの妻とかフレッドの造形が愉快です。どちらもペリー メイスン世界には絶対出てこないキャラ。でも大ネタの法律的トリックはちょっと微妙な感じ。バーサは肝心なところで結構活躍。役割分担がしっかりしてるところが良い。
銃は32口径でレバー式セイフティとグリップセイフティがあり、マガジンに7発入る自動拳銃が登場(FN M1910ですね)

No.5 6点 シシリーは消えた- アントニイ・バークリー 2018/10/27 21:35
1927年出版 翻訳2005年
一捻りした執事もの。有閑主人公が金に詰まり従僕として勤める羽目に陥り、勤めた屋敷の夕食会には大学時代の友人や知り合いが来て、召使の立場で接しなければならない、という面白い設定で始まります。
その後の小ネタも上手く効いていて、まあ大ネタは地味目なのですが、明るさに溢れたバークリー世界が展開します。初出は新聞の連載(デイリーミラー1926年3月〜4月) 軽くて楽しい物語を読みたい人に最適です。

No.4 8点 - F・W・クロフツ 2018/10/27 21:14
1920年出版 今回読んだのは2013年の新訳
実はクロフツを読むのは初めて。職業人出身らしい、丁寧な文体が地道な捜査を印象づけます。フランス側の描写もなんとなくそれっぽい雰囲気。(作者はフォリー ベルジェールが好きらしい) 全体の構成も面白く効果的。落ち着いた時間が流れる読書でした。ところで自動拳銃に関して「ジョン コッカリルあたりをもってゆく」(I should bring your John Cockerill)という表現が出てきます。当時の拳銃の代名詞?でも拳銃では全然Web検索で引っかからない(コッカリル鋼鉄製バレルのショットガンがヒットしたくらい)ので、大袈裟な表現かも。(クルップ砲をもってゆく、みたいな感じ?)
私が参照した原文には作者の前書き(1946年Pocket Classics収録に際して)がついていて、なかなか興味深い内容なので以下抄訳。
『病気療養中だったので暇過ぎて死にそうなので、一番アホくさい思いつきを書いてたら小説になった。妻は結構喜んでくれたが、病気が治って仕事に戻り、それっきりに。後日ふと読み返してみたら結構イケるのでは、と思い、書き直しつつ隣人に読んでもらい、ここ馬鹿げてるから変えた方が良い、といわれたところを直して完成。(なので献呈はその隣人に) 有名代理人A.P.Wattに原稿を送付。Collins社は1-2章は気に入ってくれたが3章は直しが必要とのこと。たしかに第3章(元は法廷シーン)は有り得ないものだった。書き直したものが採用され、出版されると聞いた時は天にも登る心地だった。自分でつけていた題はA Mystery of Two Cities(ディケンズ風) 後悔してるのは約120000語を費やしたが、80000語でも同じ稿料だと後で知ったこと。40000語は無駄だった…』
素人の日曜大工的な作品だったのですね。

<以下、ほんのちょっとだけネタバレ>


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ところで鮎川説(樽のキズ)に異議あり。新訳p159を読めば明快に「送り先や日時(先週というのは確実)は覚えとらん」という証言です。そして刑事から樽を発送した日時を聞いてから、運転手が帳簿で送り先を確認した(p161)のです。クロフツさんも日本の推理作家を手玉にとったのだから素晴らしいですね。
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No.3 8点 プレーグ・コートの殺人- カーター・ディクスン 2018/10/27 20:06
JDC/CDファン評価★★★★★
H.M.卿第1作目 1934年出版 今回読んだのは2012年の新訳
40年前ハヤカワ文庫(仁賀訳)で読んでいるのですが、H.M.が被害者の部屋を調べるシーンを朧げに記憶していた以外、ほぼ全部忘却の彼方。印象的な殺人方法も犯人もすっかり忘れていました。
注釈が読みずらい(是非同じページ内で処理して欲しい)のを除くと新訳は非常に良質。そして肝心の内容も抜群です。不可能犯罪はこのくらい設定に凝らないとリアルにならないよ、とJDC/CDがニヤついています。ただしいつもの通り2回目の犯行が雑。そして生きている時の被害者が描かれていないのが残念。マリオンや偏屈婆さんの描き方も物足りないです。小説的に良いネタをぶん投げてしまうJDC/CDの悪い癖ですね。
本作のマスターズの設定を読んでJDC/CDの怪奇趣味の正体がわかりました。オカルト・バスターズなんですね。ユリ ゲラーに対するランディの立場です。もし本物の不可能犯罪が存在したら超自然現象を肯定せざるを得ないのです。そこら辺も本作では明快に描かれていてJDC/CD入門に最適かつ最高傑作ではないか、と思いました。

No.2 7点 ビロードの爪- E・S・ガードナー 2018/10/27 11:22
ペリーファン評価★★★★☆
1933年3月出版。ペリー メイスン第1話。
弁護士が行動派探偵という設定は先行例があったのでしょうか?開始早々にパンチを繰り出す荒ぶる弁護士、それが初期ペリーです。デラはapproximately twenty sevenで、シリーズ唯一ちょっとだけ生い立ちが語られます。デラのセリフでI've known you [Mason] for five years (...) Some of your clients got hung. ということはメイスンは無敗ではなかった?今作ではメイスンの無茶な行動は控えめですが、依頼人に翻弄されながらも上手く切り抜ける姿が見もの。法廷場面はありません。ところで私が見た原文では、デラの人物紹介がDella Street – who was a faithful Girl Friday (also Sunday and Monday, if not quite always).となっていました。(正しい意味がよく判りません…)
銃は32口径コルト・オートマチック、シリアル127337が登場。シリアルから判断すると1912年製のM1903 Pocket Hammerless, Type IIIだと思われます。
ところで原文にはロサンジェルスもカリフォルニアも出てきません。(いつ明示されたかは、その作品の評に書くことにします)

No.1 4点 黒い塔の恐怖- ジョン・ディクスン・カー 2018/10/27 09:37
JDC/CDファン評価★★★☆☆
ダグラス グリーン編の埋もれたカー作品集(1980)の翻訳後半(前半はカー短編全集4)
本書の目玉は「史上最高のゲーム」(1946) 探偵小説の理想を述べたエッセイ(幻のアンソロジーの序文)で、これを読むとJDC/CDは「小説なんてどーでも良い」と考えていたことが判ります。あくまでも作者と読者の対決が主眼なんですね。でも「お前が言うな」と言いたくなることも平気で書いてます。まぁ理想論ですから… この中で触れられているキャロライン ウェルズのThe Technique of the Mystery Stories(1913)はGutenbergに無料版あり。JDCのラジオドラマも無料公開のものがあるので、英語が得意ならさぞ面白いんだろうなぁと思います。収録作品には傑作はありません。でも1935年の筆力旺盛な時期に何故パルプマガジン?ある程度売れてきたので昔好きだった雑誌に売り込むか!ということだったのでしょうか。買った当時(1983)は巻末のカー書誌が便利でしたが、今は随分新しい翻訳が出ているので改訂が必要ですね。
なおp43の詩はBartholomew Dowling作The Revel(East India)、使われた銃は1917年の事件なのでM1911でしょうか。

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弾十六さん
ひとこと
気になるトリヴィア中心です。ネタバレ大嫌いなので粗筋すらなるべく書かないようにしています。
採点基準は「趣好が似てる人に薦めるとしたら」で
10 殿堂入り(好きすぎて採点不能)
9 読まずに死ぬ...
好きな作家
ディクスン カー(カーター ディクスン)、E.S. ガードナー、アンソニー バーク...
採点傾向
平均点: 6.14点   採点数: 471件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(95)
A・A・フェア(29)
ジョン・ディクスン・カー(27)
雑誌、年間ベスト、定期刊行物(19)
カーター・ディクスン(18)
アガサ・クリスティー(18)
アントニイ・バークリー(13)
G・K・チェスタトン(12)
F・W・クロフツ(11)
事典・ガイド(11)