皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
弾十六さん |
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平均点: 6.13点 | 書評数: 524件 |
No.244 | 7点 | 死の舞踏- ヘレン・マクロイ | 2020/02/01 15:01 |
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1938年出版。例によってDellのMapbackがあります。翻訳は読みやすいですが、皆さん仰る通り、重要ポイントをスルーしてるのが難点。(解決篇で、えっ何処にそんなこと書いてあった?となりますよね。) あそこは、あからさまになっても強行突破しか方法は無いと思います。
ウィリング第1作。なのでその生い立ちが結構詳しく記載されています。 母親がロシア人(p9) 戦後、パリやウィーンで留学生活… 米国参戦前にジョンズ・ホプキンズ大学で医学を学ぶ(p16) パリ、ロンドン、ウィーンに8年近く滞在(p17) いま40歳から50歳の間(p27) WWI米国参戦前に英国で既に医師として患者を診ている(p77、資格取得を考慮すると1917年に最低でも22歳以上か) フランス語とイタリア語を解し(p108) ロシア語ペラペラで祖父がロシアの有名作曲家ヴァジリィ・クラスノイ(p264、もちろん架空。ベイジルの名は祖父の名を英米っぽくしたものp199) ラフな推測ですが、生まれは1895年以前、出版時点で最低でも44歳以上。後年の作よりやや高年齢設定。(『ささやく真実』(1941)では「43歳」) 本作は、冒頭のシチュエーションが強烈なので、一体どーなる?とハラハラしてたら、中盤は、探偵と刑事が聞き込みをして、証言を集める地道な捜査。でも結構小ネタが充実していて、ヴァラエティに富んだ展開。作中で心理学の初歩を丁寧に説明してるということは、そーゆー考え方が世間に浸透してなかったのか。登場人物がわの独白が抑えられてるので納得のラスト。最後に滲み出る情感も良い。 以下トリビア。原文はOrion ebook “The Murder Room”叢書(2013)を入手。でも、このテキスト(以下「MR版」)、翻訳と比べると、Abridge版と言って良いくらい枝葉がことごとくカットされてて、残念な物件。(2024-07-17追記: Dell のマップバックをeBayで入手した!だけど、残念、ここですでに省略版になっていた… という事は初版ハードカバーのみ完全版なのか…) 作中時間は火曜日(p7)と12月(p19)を基にして、p76, p149及びp296(各トリビア参照)を根拠に、冒頭は1936年12月8日(火曜日)で確定。 現在価値は米国消費者物価指数基準1936/2020で18.49倍、1ドル=2017円で換算。 各章の副題は「絵画・美術」関係の言葉で統一されてるのに翻訳上は全く配慮なし。参考までに原文を掲げておきます。 1 Frontispiece, 2 Grotesque, 3 Nude, 4 Illustration for Advertisement, 5 Study for Family Group, 6 Mask, 7 Detail, 8 Study in False Light, 9 Genre Picture, 10 Still Life With Bottle, 11 Triptych, 12 Caricature, 13 Abstraction, 14 Development of a Bottle in Space, 15 Portrait of a Lady, 16 Composition in Yellow, 17 View in Oriental Perspective, 18 Drypoints, 19 Drawing for Valentine, 20 Vignettes, 21 Rough Sketch, 22 Family Portraits, 23 Illuminated MS. Circa 1930-40, 24 Montage, 25 End-Paper 献辞は「母へ」To my mother。いかにも作家の初長篇らしい。 p8 ジョンズ・ホプキンズ大学時代からずっとベイジル・ウィリングに仕えてきたジュニパー… 穏やかな話し方をするボルティモア出身の黒人(Juniper, a soft-spoken Baltimore negro, who had been with Basil Willing since Johns Hopkins days): 学生時代から従者がついてるとは、ウィリングってかなり裕福な生まれ。Johns Hopkins Universityはボルティモアにある1876年創設の大学。 p10 熱い美女(レッド・ホット・マンマ)(Red Hot Momma): Wells, Cooper, Rose作のRed Hot Mamma(Picara Nena)という1924年のヒット曲を見つけました。(某tubeに数バージョンあり。) サブタイトルがスペイン語で「やんちゃ娘」なので、元は中南米音楽か? p12 心理的な指紋(psychic fingerprints): ウィリングの常套句。ここが初出。 p15 バザール・ド・ロテル・ド・ヴィル(Bazar de l'Hôtel de Ville): 創業1852年のパリ4区にあるデパート。BHVと略される。(英Wiki) p17 毒物マニア(ヘムロック・ジョーンズ): ここら辺の煙草の吸殻とマッチ棒のくだりはMR版では全面カット。Hemlock JonesはBret Harteの古典的シャーロック・パロディ(1902)の主人公。 p17 この国じゃ、フロイト学派は医学関係者によって完全に否定されてる(the Freudian theory is absolutely repudiated by the medical profession in this country!): 当時の現実?それとも軽口? まー今も医者は精神科を軽視してますよね。詳しく調べてません。 p22 普通サイズなら10ドル、ポケット・サイズなら7.5ドル(Boudoir Size:—$10.00. Pocket Size:—$7.50): 20174円と15130円。痩せ薬の値段。痩せ薬(Diet Pills)の歴史はlivestrong.com/article/74336-history-diet-pills/参照。 p26 ユスーポフ公爵、カイヨー夫人、ボカルメ伯爵、フェラーズ卿、ブランヴィリエ侯爵夫人… ハーヴァードのウェブスター教授… ハリー・ソー… エドワード・S・ストークス(Prince Youssoupoff, Madame Caillaux, Count Bocarmé, Lord Ferrers... the Marquise de Brinvilliers... Professor Webster of Harvard... Harry Thaw... Edward S. Stokes): 有名な殺人者たち。訳注はあったりなかったり。ここではブランヴィリエ侯爵夫人だけパスして、その他を簡潔に。(主としてwikiより) Prince Felix Felixovich Yusupov, Count Sumarokov-Elston(1887-1967)はロシアの貴族。1916年12月29日のGrigori Rasputin暗殺に関与。 Henriette Caillaux(1874-1943)は1914年3月16日にフランス首相の夫を批判したフィガロ紙のGaston Calmetteを射殺。 Hippolyte Visart de Bocarmé(1818-1851)はベルギーの貴族。1850年11月20日に義兄Gustave Fougniesをディナーに招き、ニコチンで毒殺。 Laurence Shirley, 4th Earl Ferrers(1720-1760)は英国貴族で絞首刑になった最後の人。1760年1月18日に家産の管理者(steward)John Johnsonを射殺。 John White WebsterはHarvard Medical Collegeの化学と地質学の教授。1849年11月30日に発見された死体の歯からボストンの裕福な医師George Parkmanとわかり、Websterが逮捕され絞首刑となった。 Harry Kendall Thaw(1871-1947)はピッツバーグの富豪William Thaw Sr.の息子。 建築家Stanford Whiteを憎み1906年6月25日に衆人環視のMadison Square Garden屋上で射殺。 Edward Stiles Stokes(1841-1901)はニューヨークの石油精製所社長。1872年1月6日に出資者で恋敵のJames Fiskを射殺、正当防衛を主張し判決は第三級殺人だった。 p27『がっちりガード』… 売り出し中の女性用品のように聞こえる(Carefully guarded... sounds like a well-advertised commodity): 色々探したら以下の広告がヒット。原文は「女性用品」に限定してません。Palmolive Company’s Palmolive Soap – Guarded so carefully...the Dionne Quins use only Palmolive the soap made with Olive Oil (1937) (2020-2-8追記) p29 1936年製のビュイック(a 1936 Buick sedan): 翻訳では「セダン」が抜けてます。 p33 ペキニーズ(Pekinese)… カイ・ラン(Kai Lung): 開龍はErnest Bramahの中国人主人公、1896年頃の雑誌デビュー、単行本はThe Wallet of Kai Lung(1900)ほか全5冊。ここではペキニーズ犬の名前。中国犬だから付けた名前か。(セイヤーズにもKai Lungシリーズからの引用あり) p35 第5章 家族関係(Study for Family Group): studyは美術用語で「スケッチ,習作,試作」A Study in Scarletもこちらの意味だ、という説あり。 p35 隣の部屋にいる速記者(stenographer): まだ速記がメインの時代。ポータブル録音機は1953年頃から。(ペリー・メイスン調べ) p39 二つのオーケストラの指揮者とそのメンバーたち(two orchestra leaders and their men):「二人のバンド・リーダーと楽団員」の方が適切か。タンゴやブルースを演奏するフランキー・シルバーと騒がしいジャズのピート・ウェルウィ。二人とも架空の名前。ここら辺のBGMはArtie Shaw & Benny Goodmanあたりで如何でしょう。 p41 カンヌは楽しむため、ニースは退屈するため、モンテカルロは破産するため、そしてマントンは埋葬されるため(Cannes…Nice… Monte Carlo… Menton): フランス人がよく言う文句らしい。調べつかず。MR版ではカット。 p41 ムリリョが描いたぞっとするほど真っ白なマドンナの絵(the most ghastly marshmallow Madonna there by Murillo): 死人のように白い、という意味か。Bartolomé Esteban Perez Murillo(1617-1682)の具体的な聖マリア像を指してるのではなさそう。 p43 母の古い『ピーターキン・ペーパーズ』: The Peterkin Papers、賢いが常識の無いピーターキン一家のトラブルだらけの日常を描いたユーモア短篇集(1880)、作者はボストン生まれのLucretia Peabody Hale(1820-1900)。こーゆー本を残す母ってきっとお茶目な性格だと思う。(マクロイさんの母親の愛読書か?) MR版では、本の固有名詞をカット。 p46 『悲しみの杯』というタンゴ(tango called The Cup of Sorrow): 英語の曲名からAlberto Vacarezza作詞、Enrique Pedro Delfino作曲、La copa del olvido(1921)というブエノスアイレスのタンゴと思われる。同年Carlos Gardelの録音あり。(スペインWikiより) p49 第6章 仮面舞踏会(Mask): 単純に「マスク、仮面」で良い気がします。 p60 自分を救ってくれるのは、その犬だ(he saved my reason): 試訳「この犬のおかげで正気を保てました」 p65 十セント硬貨(a thin dime): 当時はWinged Liberty Silver Dime(1916-1945)、90%Silver+10%Copper、直径17.9mm、重さ2.5g、厚さは調べつかず。 p66 一回… 五百ドルから千ドル($500 to a $1000 a throw): 101万円から201万円。広告の出演料。 p74 それは楽しみ(I’d like nothing better)… 高度なチェス・ゲームのように私を惹きつけます: ゲームとしての探偵小説。MR版では「高度なチェス・ゲーム」以降をカット。 p76 第8章 偽りの証言(Study in False Light): false lightは「人工的な光(artificial light)」(p72)のことか。試訳「偽光の習作」 p76 ジョセリン邸はすでに崩れ落ち、いまではその場所に天を突くような高層マンションが建っている。しかし、当時は… : 事件は本書出版時(1938)より少し前に起こったんだよ… という設定のようだ。事件後、高層マンションが完成するくらいの時間が経過しているが、事件当時1936年製ビュイック(p29)が数多く走ってる。とすると1936年の事件か。MR版ではこの文章をカット。 p77 アメリカの参戦前、ネトリィにいたとき… [君は]不眠症と無言症を併発した戦争神経症だった…: 19世紀末「ネトリー軍病院(Netley)で軍医になるために必要な研修を受けた」のはJ.H. Watson(A Study in Scarletより)。ウィリングも研修医だったのでしょう。マクロイさんのシャーロッキアンぶりを知るうえでも重要な場面だが、MR版ではこのあたりカット。 p86 電気椅子: ニューヨークでは1890年が初執行で1963年が最後。ニューヨーク州の執行官は1回の処刑あたり150ドル(同日に追加処刑があれば処刑人数を問わず50ドル追加)の手当で、これは最初から最後まで同額だった。(WikiのNew York State Electricianによる) とすると1890年$150=46万円から1963年14万円まで目減りしていることになります。MR版ではこのあたりカット。 p91 五万ドル: 1億円。パーティの費用 p100 第10章 出てきたボトル(Still Life With Bottle):「ボトルのある静物画」 p116 第11章 三方からの光(Triptych):「三連祭壇画」 p119 自分の家には、ごく普通の働き手が一人と月曜ごとの洗濯女しかいない: フォイルの家庭。「ごく普通の働き手」は妻のこと? でも洗濯女が週一で来るんだ… MR版ではカット。 p124「偶像を作る者は神を信じない」: 訳注 旧約聖書に関連する言葉と思われる。調べつかず。MR版ではカット。 p136 ジョージ・グロースの詳細な人体図: George Grosz(1893-1959)のヌード画集か。MR版ではカット。 p141 探偵小説の刑事: たいていリッツのようなホテルで食事をして、シャンパンが冷えていないとソムリエに文句を言う… 小説の刑事(detective)でそんな裕福なのを思い出せません。ここはウィムジイやヴァンスみたいな「探偵(detective)」をイメージした軽口。MR版ではこのあたりカット。 p142 ビリーブ・ミー・イフ・オール・ゾーズ・エンディーリング・ヤング・チャームズ: "Believe Me, if All Those Endearing Young Charms"(1808)はアイルランドの古い曲にアイルランドの詩人Thomas Mooreが歌詞をつけたもの。(Wiki) MR版ではラジオ番組のくだりを全てカット。 p143 ザ・ギミー・ ギャルズ・アー・ゲッティング・オール・ザ・ダフ: カタカナから復元するとThe Gimme Gals Are Getting All the Duffか? 調べつかず。 p144 第13章 うっかりミス(Abstraction): 「抽象主義、抽象」抽象画としても良いか。 p144 フロイトとその仲間たちの理論(Freud and his followers have a theory): 言い間違いの漫才はナイツ(塙と土屋)の得意技。 p145 子どもがよく言う『わざとだけど偶然』(accidentally-on-purpose): そーゆーものですか。 p146 リンドバーク事件… ドクター・ダドリー・ショーンフェルト: 犯罪者をヘマから分析した例。マクロイさんの発想のタネはDudley D. Shoenfeldの著作The Crime and the Criminal: A Psychiatric Study of the Lindbergh Case(1936)か。Shoenfeldのことはp287にも登場。MR版ではこのあたりカット。 p148 シルバー・スレッズ・アマング・ザ・ゴールド: "Silver Threads Among the Gold"(1873) 作詞Eben E. Rexford、作曲Hart Pease Danks。 p149 ティタートン事件で殺人犯が忘れたロープの切れ端(Like the piece of rope the murderer forgot in the Titterton case): 訳注なし。1936年4月のNancy Titterton強姦殺人事件は、手を縛っていたa foot-long piece of cordとベッドカバーに残されたa single horsehairが手がかりとなり解決した。 p152 第14章 ボトルについての新事実(Development of a Bottle in Space): 未来派Umberto Boccioni作のブロンズ像(1913)。試訳「空間におけるボトルの発展」 p170 恐怖物語(The Tales of Terror): 新聞社の入口にいた警備員が読んでいた。パルプ雑誌ならTerror Talesは1934年9月創刊、Horror Storiesは1935年1月創刊。 p176 ハーパーズとアトランティック(Harper’s and the Atlantic): 上品な雑誌の例。 p190 年収六千ドル: 1210万円。Assistant Chief Inspectorフォイルの年収。 p199 イートンとオックスフォードの紋章が入った装飾品(a product of Eton and Oxford): この原文だと、紋章とは限らず大学柄のネクタイなどの可能性もありそう。本人自身がa productの可能性もあり? p202 “中国では人間は雑草”(‘In China man is a weed.’): 何かの引用か。調べつかず。 p208 オクシデンタル・ニュース・サービス(Occidental News Service): 『小鬼の市』の架空のニュース社がここに出ていた。 p211 フォイル君(Foyle, mavourneen): アイルランド語でmy darlingのことらしい。ニューヨークの警官でPatrickという名なのでフォイルはアイルランド系か。Kathleen Mavourneenという映画が1919, 1930, 1937と三回も映画化されている。 p218 メレディスの『エゴイスト』: Egoist(1879)の場面、日本なら「間接キス」と言う簡潔な表現がある。(最近では日本のアニメ経由でindirect kissと言うらしい…) p218 ロシアや日本には、同じグラスの酒を分け合うという結婚の儀式(sharing the same cup of wine is part of both the Russian and Japanese marriage ritual): 同じ盃から飲むのは珍しいのか。 p219 パーティントン夫人... 気のきかない人間の象徴(‘Mrs. Partington,’—a symbol of gaucherie in those days—): Mrs Partingtonがモップで波に立ち向かうエピソード(Reverend Sydney SmithがSidmouthの1824年の洪水の時に書いた)があるらしい。(Mrs Partington mop tideでかなりのイラストあり) 訳注のBenjamin Penhallow Shillaber(1814-1890)作の小説Life and Sayings of Mrs. Partington(1854)などは、この夫人のイメージからか? gaucherieは、モップで波を防ごうとするような、粗野な愚かさの意味でしょう。 p230 週50ドル: 10万円、月給44万円。割と腕の良いゴシップ・ライターの給与。 p231 ベストセラー作家になれなくても、マコイのような作品を書いたり、ドストエフスキーのようにとか…(Not a best seller. The real McCoy. Dostoievsky and all that...): マコイにとても変テコな訳注が付いてます。(間違うならせめてHorace McCoyじゃないの?) the real McCoyで「正真正銘の本物」と言う意味。この慣用句はスコットランド1856年の用例があるThe real MacKayが起源らしい。(wiki) p233 “嫌々働くのは人間どものかすのため。荒れた筆が陳腐な文句をお紡ぎ出す…”: 訳注なし。なんかの引用か。調べつかず。MR版ではカットしてるので次のフォイルのセリフ(タイプライター使ってるよね?)が繋がらない。 p238 アドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler): ジョークのネタになるほど英米で有名になったのは少なくとも1936年3月のラインラント進駐や同年9月のロイド・ジョージとのベルヒテスガーデン会談以降か。 p251 ジョシュア・レイノルズ: Sir Joshua Reynolds(1723-1792) ロイヤル・アカデミーの初代会長。 p254 超現実主義(a sur-réaliste)の大御所であるブレイク: ここら辺、William BlakeがJoshua Reynoldsを“This Man was Hired to Depress Art.”と評したことを指してる?MR版ではカット。 p260 バルザックにそんな話… 情事で商取引を隠した女…(Balzac’s ‘femme-écran’ used to screen a business deal instead of another love affair): 膨大なバルザックの小説群を全然読んでないので、どの作品か分からず。femme-écranはscreen-womanの意味。この言葉はHistoire des Treize(1835)の第3話La Fille aux yeux d'orに出てくるようだが… p267 作曲家のヴァジリィ・クラスノイ(Vassily Krasnoy, the composer): グラズノフ(Aleksandr Konstantinovich Glazunov, 1865-1936)を思わせるような名前。(『暗い鏡の中に』には祖父の曲も登場します。) p280 第23章 浮上してきた人物(Illuminated MS. Circa 1930-40): 試訳「解き明かされた手稿 1930-40年ごろ」原語の意味はふつうなら「(中世の)彩飾写本」それっぽい年代表記を模している。 p281 嘘発見器(lie detectors): ウィリングは否定的。 p293 知的好奇心… 考え、苦悩する人間(intellectual curiosity… human beings like himself who could feel and hope, think and suffer…): 問題を解いた時の感覚。表現がセイヤーズさんと似ている気がしました。 p296 十二月四日… 十二月十二日: この間に事件が発生との記述。1936年の火曜日を調べると該当は12月8日。 p299『バイオメトリカ』、『J・A・M・A』、『ランセット』: Biometrikaはオックスフォード出版局1901年創刊の科学論文査読誌。The Journal of the American Medical Associationは米国医師会1883創刊の医学査読誌。Lancetは1823年創刊の医学査読誌。 p316 ストラヴィンスキーの『火の鳥』(Stravinsky’s ‘Fire-Bird’): L'Oiseau de feu(1910)。気の利いたラスト。 (2020-2-3追記) Mike GrostのWebページで類似性が言及されてる映画My Man Godfrey(1936)ウィリアム・パウエル、キャロル・ロンバード主演を見てみました。p50で言及されてる「品ぞろえゲーム(scavenger hunt)」のシーンが冒頭に出てきます。お金持ちのパーティ・シーンが豊富で、この作品のパーティ場面を思わせます。英語版なのでセリフが聞き取れず30%くらいの理解ですが、プレストン・スタージェス調の軽薄なコメディ。当時のイメージ形成にはとても役立ちます。(カラー変換版を見たのですが、技術は進歩してますね… 全然違和感のない色付けでした。) 今更ですが、この本のテーマ(悲劇は現実にもあったようです)を考えると、法律違反ではなかったので正攻法のアピールが難しく、そのため作者は探偵小説の形式を借りて、その危険性(結局1938年に禁止されたようです)と被害のやるせなさを訴えたかったのかも、と思うようになりました。(アレの実在をちょっと強調してアピールしてるのも、そーゆー意図を感じるのです。) |
No.243 | 5点 | おめかけはやめられない- A・A・フェア | 2020/01/31 00:20 |
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クール&ラム第20話。1960年9月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
セラーズ部長刑事にトラブル発生ですが、私立探偵の介入を断ります。ラム君は依頼人のために事件に首を突っ込み、エルシーとハネムーン。警察から虐められながらも、カンと推理と素早い行動で事件を解決。探偵趣味の簿記係が活躍します。カメラ店支配人は日本人タカハシ・キサラズ。クール&ラム事務所の事務員の名前がもう一人判明、受付係ドリス・フィッシャー。 (2017年7月15日記載) |
No.242 | 5点 | 影をみせた女- E・S・ガードナー | 2020/01/31 00:14 |
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ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第63話。1960年10月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。) スーツケースを持ったわざと身を飾らない女。秘書論が披露されます。60年代メイスンは、依頼人に対して、警察に嘘をつくな、という指示が多いようですが、弁護士の同席なしにしゃべるな、も健在。トラッグはしゃがれたがらがら声、とありますがTVのイメージの逆輸入か? オーランドという刑事が初登場、ホルコム出番なし。男の服にはポケットが多すぎる、という妻の苦情。「電話用の信用カード」というのは何だろう。テレフォン・カードみたいなのがあったのか? 法廷は検屍審、バーガーが終盤に現れ、メイスンを窮地に追い込もうとしますが、結局逆転されて爪を噛みます。シリーズ初、メイスンの最終弁論が披露されます。本作も冗長なところがありますが、解決があまり複雑じゃないので、前作よりスッキリ感ありです。銃は38口径の拳銃が登場、詳細不明です。 (2017年5月13日記載) |
No.241 | 4点 | 瓜二つの娘- E・S・ガードナー | 2020/01/31 00:05 |
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ペリーファン評価★★☆☆☆
ペリー メイスン第62話。1960年6月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。) Saturday Evening Post連載(1960-6-4〜7-23)ポスト誌集中連載時代(10年間に14作)の11作目。ガードナー爺71歳の作品、メイスンも60年代に突入です。 再婚家庭の朝食の風景、父の失踪、メイスン登場は第2章から。嘘発見器、クレジットカードが初登場。勝手にドアを開けて入ってくるトラッグ、でもペリーと呼び親愛の情を示します。(メイスンはアーサーとは呼ばないのですが…) 昔と違い、メイスンは逮捕された被告に検察側の抵抗なく会えます。法廷シーンは予備審問、終盤にバーガーが登場し判事が驚くルーティン、バーガーは赤くなって怒り、ドレイクを脅しつけ、メイスンを証人席に呼びます。解決は複雑でスッキリ感もありません。全体的にスピード感が欠けており、冗長なやりとりが多い印象です。何かピントがぼけた感じ。 (2017年5月13日記載) |
No.240 | 5点 | 待ち伏せていた狼- E・S・ガードナー | 2020/01/30 23:59 |
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ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第61話。1960年1月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。) Saturday Evening Post連載(1959-9-5〜10-24)ポスト誌集中連載時代(10年間に14作)の10作目。ガードナー長篇100冊目を記念する本書の裏表紙には面白い図が載っていて、ガードナーの本(1億1千万部)を積み上げた1397200メートルを、エベレスト、エンパイヤステートビル、エッフェル塔の高さと比較しています。(原作本のカバー裏がそうなっているようです) 車の故障、送り狼、メイスン登場は第3章から。すぐに殺人が発覚し、メイスンは危ない偽装工作をたくらみます。トラッグ相手に秒単位の作戦、ホルコムは出番なし。白髪混じりのトラッグ、老けたせいかいつもの鋭さに欠けます。電話ではメイスンと穏やかに会話するバーガー、予備審問では打って変わって牙を剥きメイスンを懲らしめようとしますが、攻撃をかわしたメイスンは何とか真相を突き止めます。解決は鮮やかさに欠ける感じ。 (2017年5月7日記載) |
No.239 | 6点 | うまい汁- A・A・フェア | 2020/01/29 00:22 |
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クール&ラム第19話。1959年2月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
依頼人は15歳の娘、ラム君は無料でエルクス所属の叔父さんの捜索を引き受けます。バーサが受けたお金になる依頼は行方不明の夫の捜索。偶然を信じないラム君 。二つの捜査が絡まりあい一本の筋になるのは作者の得意技です。警察と新聞記者を相手に危ない橋を渡るラム君、こんがらがった筋書きを見事な推理で解決、なのですが、犯人側から再構成すると、計画の意図がよくわかりません… (2017年7月15日記載) |
No.238 | 5点 | 歌うスカート- E・S・ガードナー | 2020/01/29 00:14 |
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ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第60話。1959年9月出版。ハヤカワ文庫で読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。) 黒いストッキングと悪巧みの相談、メイスン登場は第2章から。判例をスラスラと暗唱し、相手を打ちのめしますが、策略はブーメランとなり結局メイスン自身を破滅に追い込みます。メイスンは若い女好きを自白。法廷は予審、バーガーがメイスンを磔にしようと頑張りあと一歩のところまで行きますが、土俵際で返され幕。事務所のドアにある「弁護士」のペンキ文字は今回も安泰です。 銃は.38口径スミス&ウェッソン リボルバー、シリアルC48809が登場。このシリアルはKフレームfixed sight1948-52年製Military&Policeですね。(同一番号の銃は今回でシリーズ3回目) メイスンの金庫には依頼人からとりあげた(surrendered)ピストルが相当数あり「警官用に準じた(one of a police models)」2.5インチ銃身の.38S&Wスペシャル、シリアル133347が登場。頭文字無しの数字だけのシリアルは1942年以前、この番号なら.38 Special Military & Police M1905 1st or 2nd changeで1908-1909年製くらいか。 文庫巻末にはお馴染み「があどなあ・ほうだん/3」今回のテーマは「異議あり」 (2017年5月6日記載) |
No.237 | 6点 | 死のスカーフ- E・S・ガードナー | 2020/01/28 23:53 |
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ペリーファン評価★★★★☆
ペリー メイスン第59話。1959年6月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評を手直しした再録です。) Saturday Evening Post連載(1959-5-2〜6-20)ポスト誌集中連載時代(10年間に14作)の9作目。原題Mythical Monkeysは日本の三猿(みざる、きかざる、いわざる; see no evil, hear no evil, speak no evil) 謎の女性作家と美人秘書、メイスン登場は第4章から。メイスンが死体を発見する確率は50%とのトラッグ予想。レストランの席を予約したら事が起こって何度も食事おあずけの三人。法廷シーンは予審、異例の展開に判事も困惑、メイスンは上手く立ち回り、バーガーの告発をかわし、事件を解決します。今回はホルコムの出番なし、トラッグが優秀さを見せつけ、判事にも賞賛されます。本作が第4シーズンの最高傑作のような気がします。 銃は「22口径のライフル銃」が登場。ただし「22口径長距離ライフル」「22口径の長ライフル銃」と銃の種類のように翻訳されているのは弾丸の名称(.22Long Rifle)です。一般的には22LR、22ロングライフルと表記。この弾丸を発射出来る拳銃(コルト ウッズマンなど多数)もライフル銃もありますが、ここに出てくる銃は翻訳通り「ライフル銃」です。 宇野訳「22口径の、高性能を持つ銃でした。ふつうに、22口径長距離ライフルといわれているものです。(A twenty-two-calibre, high-velocity bullet of the type known as a long-rifle.) [試訳: 22口径で、ロング・ライフルという種類の高速弾でした。] 22ロング・ライフル弾には装薬量によりSubsonic, Standard-velocity, High-velocity, Hyper-velocityという4種類がある。 自動車は4輪駆動のジープ ステーション・ワゴン、エンジン6気筒の最初のモデル(だとすると1949年製Willys Jeep Station Wagon 4x663?) タイプライターはレミングトンとスミス コロナが登場。専門家はタイプされた文字を見ただけでメーカーや型式を判別出来るらしいです。 (2017年5月6日記載) |
No.236 | 5点 | 恐ろしい玩具- E・S・ガードナー | 2020/01/28 23:18 |
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ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第58話。1959年1月出版。ハヤカワ文庫で読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。) Saturday Evening Post連載(1958-10-25〜12-13)ポスト誌集中連載時代(10年間に14作)の8作目。連載中のタイトルはThe Case of the Greedy Grandpa。 子供を殴る父、子供を取り戻したい母、メイスン登場は第3章から。子供が沢山登場します。(読んだのは偶然5月5日こどもの日) 学校が全焼したと聞いた7つの子供のような喜び方ってESGもそっちの仲間だと思います。シリーズ初、デラのファンが登場、デラに会って感激します。メイスンとデラは赤ちゃんを借りて小芝居、二人は上等なミント・ジュレップを楽しみますが、まんまと尾行されちゃいます。裁判は予備審問、バーガーは他人がメイスンにしてやられ憤慨するのを見て思わずニヤリ、メイスンへの告発を手助けします。最後はネチネチ尋問と閃きで解決、結末はちょっと心配です。 銃は22口径オートマチック・コルト・ウッズマン、シリアル21323Sが登場。シリアルから2nd series 1948年製です。もう一丁、38口径ライトウェイト・コルト・リボルバーも登場。こちらは情報なし。コルト コブラでしょうか。 (2017年5月5日記載) |
No.235 | 5点 | カウント9- A・A・フェア | 2020/01/27 21:40 |
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クール&ラム第18話。1958年6月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
C&R探偵事務所の女性職員はエルシー以外名無しでしたが、今回一人名前が判明、文書係エヴァ・エニス。でもバーサって、こーゆーセクシー系を雇うタイプとは思えないのですが... ラム君は写真屋から女性と仲良くなるコツを聞きます。密室っぽい設定と盗まれた東洋の秘宝探し。不自然な行動(襲われる直前のやつ)もありますが、起伏に富んだスピーディな展開で飽きさせません。解説では「本格物」要素が多いとありますが、いつものガードナー風味でした。 (2017年7月10日記載) |
No.234 | 6点 | カレンダー・ガール- E・S・ガードナー | 2020/01/27 21:30 |
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ペリーファン評価★★★★☆
ペリー メイスン第57話。1958年10月出版。ハヤカワ文庫で読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。) 政治ボスと小さな事故、メイスン登場は第2章から。デラと食事中に邪魔されます。トラッグもメイスンと会食、地味な警察捜査のやり方で久しぶりに活躍、今回はホルコムの出番無し。メイスンはモデルの写真が大好き。法廷シーンはいつもの予審ですが、2回開かれるという贅沢仕様、いずれもバーガーがやり込められます。 銃は三年前に盗まれた.38口径コルト連発銃(revolver)シリアル613096が登場。トラッグ証言では「警察式として知られている型(the type known as a police model)」シリアルで調べるとOfficial Policeなら1937年製、Officer's Model Specialなら1950年製、Police Positive Specialなら1952年製が該当。(いずれも38スペシャル弾) Wiki情報ではOfficial Policeが最も多く警察機関に納入され、コルト社カタログ(1933年)によるとL.A.市警も正式採用だそうです。自動車はスマートなキャディラック最新型が登場。 (2017年5月5日記載) |
No.233 | 5点 | 気ままな女- E・S・ガードナー | 2020/01/27 21:21 |
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ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第56話。1958年5月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。) Saturday Evening Post連載(1958-2-1〜3-22)ポスト誌集中連載時代(10年間に14作)の7作目。ヴァガボンドの衝撃的告白に打ちのめされる娘、運命に翻弄されます。メイスン登場は第2章から。むかしは帽子ピンが女の武器、今はアイスピックをハンドバッグに忍ばせるのが良い、という行動的な娘。恐喝者には平手打ちです。デラはミス・アメリカみたいな美人秘書だ、とホーカム(ホルコム)はお世辞、メイスンはミス・ユニヴァースと訂正。法廷は予備審問、メイスンはネチネチ尋問、バーガーは途中から参戦、目標は相変わらずメイスンの破滅。最後はメイスンの閃きで真相が判明します。判事は被告鑑別手続き(先入観を持たせた証人に被告が一人でいるところを見せ識別させる)が不適切だ、と検察側に反省を求めます。(似たような鑑別法がメイスン物では今迄何度も繰り返し描かれていますが、当時の実態がこの通りだとすると恐ろしいことですね…) (2017年5月5日記載) |
No.232 | 5点 | 長い脚のモデル- E・S・ガードナー | 2020/01/27 21:12 |
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ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第55話。1958年1月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。) Saturday Evening Post連載(1957-8-10〜9-28)ポスト誌集中連載時代(10年間に14作)の6作目。連載時のタイトルはThe Case of the Dead Man's Daughter。結婚祝いの定番は、電気コーヒー沸かし、ワッフル焼き器、電気シチュー鍋。メイスンとデラはルーレットごっこをするが目が出ず、トラッグと追いかけっこ。メイスンが拳銃を弄んでると、ホルコムがズカズカ侵入、トラッグはバーガーに毒づきます。陪審裁判では冒頭からバーガーがメイスンを陥れようとしますが、ガーティのおかげで閃くメイスン、事件を解決します。 銃は.38口径コルト「銃身のずんぐりした2インチ径の弾巣の探偵用」(snub-nosed, two-inch barrel, detective guns「銃身2インチ、スナブノーズ型のデカ用拳銃」)、Colt Detective Specialのこと? Colt Official Police等も候補ですね。 (2017年5月8日記載) |
No.231 | 6点 | 盗まれた手紙- エドガー・アラン・ポー | 2020/01/25 22:56 |
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初出は年刊誌The Gift for 1845(1844年9月発行)。創元文庫の『ポオ小説全集4』(丸谷 才一 訳)と青空文庫(佐々木直次郎訳)で読了。丸谷訳は相変わらずセリフが一部だけ丁寧になったりして気になります。(丸谷さんはそーゆー語り口だったのか。)
以前『クイーンの定員I』に感想を書きましたが、あらためて読んでみると、結構、上手くいく隠し方かも?と思い直しました。ほのぼのとした可笑しさが味ですね。Purloinといえば、この小説、というくらいの古風な珍しい語。直次郎訳のかつての表記『偸まれた手紙』なら良い感じかも。 (でも何故ポオはこの単語を使ったのだろう。フランス語っぽいから?) 原文はサイトThe Edgar Allan Poe Society of BaltimoreのTales(1845)バージョンを参照しました。 作中時間は「18**年、秋(p237, autumn of 18—)」でマリー・ロジェの「数年」(p238, several years)後、ということは1841年か1842年くらいか。 現在価値は、手持ちのが仏消費者物価指数は1902以降有効だったので、金基準1841/1902(1.00797倍)&仏消費者物価指数基準1902/2019(2630倍)で合計2651倍、1フラン=4.042ユーロ=489円で換算。 p237 セネカのエピグラム(Nil sapientiae odiosius acumine nimio): セネカではなく、ペトラルカのもの。De remediis utriusque fortunaeの第7の対話De ingenioより。(最初の語がNihilだが意味は同じらしい) p237 フォーブール・サン・ジェルマン、デュノ街33、4階(au troisiême, No. 33, Rue Dunôt, Faubourg St. Germain): デュパンの「書庫兼書斎」(his little back library, or book-closet)の住所。残念ながらRue Dunôtは実在しないようだ。 p237 海泡石のパイプ(meerschaum): 何か響きが良いですよね。厳密に言うと「私」がミアシャムを楽しんでたのは確実だが、ここではデュパンは「いっしょ」だったと書かれてるだけ。後段p244でデュパンもミアシャムを使ってるのがハッキリします。 p242 ナポリ者(Neapolitans): 召使いは大抵ナポリ者だと言う。南フランスは貧しい印象があるが… p242 ぼくの持ってる鍵: 警視総監のすごい武器。現実に似たようなネタがあったのか? p242 三ヵ月間(three months): やっぱり本作の隠し方は無理。だって三ヵ月間ずーっと、手紙はそーゆー状態だったのでしょ? 探索が数回ならあり得るかもですが… (2020-1-26追記) p244 一ラインの50分の1(The fiftieth part of a line): line=ligneは1/12インチ。英米式だと2.12mm、フランス式(メートル法以前の単位)なら2.25mm。直次郎訳註「1インチの1/12」は正確。丸谷訳註「約1ミリ」は、ボタンの直径を図る1/40インチ(約0.6mm)のline/ligneと混同した? p248 五千フラン(fifty thousand francs): 丸谷訳のケアレスミス。50000フランは2445万円。 p248 アバニシー(Abernethy): John Abernethy(1764-1831) 英国の外科医。丸谷訳は注なしだが、直次郎訳註は丁寧「とくに、その奇矯な人格をもって知られていた。」 p250 丁半あそび(game of ‘even and odd’): 英wikiのOdds and evens (hand game)で解説されてるゲームとは違うようだ。作中の説明だと、おはじき(marbles)を握るのは聞く側一人だけで、答える側は握らない。 p259 緑いろの眼鏡(pair of green spectacles): 視線を相手に悟られないためか。 p261 手ずれがしている(chafed): 原語は「すり減ってる、擦り切れている」の意味。直次郎訳では「こすれている」 p262 マスケット銃(a musket): 先込め銃。当時ならパーカッション・ロックが主流。 p263 カタラーニ(Catalani): Angelica Catalani(1780-1849) 有名なイタリア人オペラ歌手。3オクターブ近くの声域。 p264 クレビヨンの『アトレ』(Crébillon’s ‘Atrée.’): Prosper Jolyot de Crébillon(1674-1762)は詩人、劇作家。引用されてる悲劇Atrée et Thyeste(1707)のAtréeとThyesteは兄弟で、Atréeが妻を奪ったThyesteに復讐する話。(直次郎訳の注が詳しくて良い。丸谷訳は註なし) 英Wikiによるとフランスの言語学者Milnerが1985年にD—とデュパンは兄弟という説を唱えてるらしい… 根拠はこの引用。ちょっと意表を突かれました。(確かにp254でD—は「二人兄弟(There are two brothers)」とありますが、奇説の類ですな。) (2020-1-26追記) 本作は映画化されてませんが、TVシリーズSuspenseが1952-4-29に30分番組として映像化していて某tubeで見られます。残念ながらデュパンは登場しませんが、筋は結構忠実。隠し方を変更しててガッカリ。間のコマーシャルがカットされず残っているのがあって、当時のCMが一番面白かった… 主演Mary Sinclair, Arnold Moss, Edgar Stehli。 |
No.230 | 6点 | スリップに気をつけて- A・A・フェア | 2020/01/25 12:47 |
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クール&ラム第17話。1957年10月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
指関節を叩くイライラさせる依頼人。今回は変な人たちが沢山登場。サンフランシスコが主な舞台(SFが美人の街という噂って本当かなあ)なのでセラーズ部長刑事は出てきません。登場人物たちのめまぐるしい行動で混乱しますが、最後はすっきりとパズルのピースが嵌ります。 (2017年7月15日記載) |
No.229 | 6点 | 笑ってくたばる奴もいる- A・A・フェア | 2020/01/25 12:40 |
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クール&ラム第16話。1957年3月出版。HPBで読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。)
テキサス男が依頼人、めまぐるしい展開で休む間も無く進行するストーリー、相手をギャフンと言わせて終了。気持ちの良い幕切れです。ラム君はドイツ語が少しわかるらしい。セラーズ部長刑事が久しぶりに活躍。銃はほんのちょっとだけ38口径のピストルが出てきます。 (2017年7月8日記載) |
No.228 | 6点 | 大胆なおとり- E・S・ガードナー | 2020/01/25 08:50 |
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ペリーファン評価★★★★☆
ペリー メイスン第54話。1957年11月出版。ハヤカワ文庫で読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。) Chicago Tribune-New York News Syndicate 1957-9-8〜10-19連載(日曜版?、The Proxy Murderの題で掲載) 委任状戦争、甘い女の声、メイスン登場は第2章から。『日光浴者の日記』での宣言通り、交通法規を守るメイスン、きっかけは交通係記者が公表したメイスンの無謀運転の記事だという。水着女の写真に興味を持ち過ぎたメイスンは腕を捩じ上げられて悲鳴をあげ、無理やり強いウィスキーを飲まされます。メイスンの乾杯は久しぶりのHere's to crime。エレベーター・ガールが読んでいたエロい(spicy)ペイパーバックは「明日はスモッグなし」(No Smog Tommorow)。スモッグはWikiによるとLAでは1944年から発生。ホルコムは出しゃ張りトラッグは控えめ。デラは事務所の新兵器、大きな電気パーコレーターでたっぷりコーヒーを入れ、ポールは油断のならない荷物を抱え込み、徹夜仕事で胃を壊します。法廷は陪審裁判、バーガーはいつもの空回り、一方メイスンはハッタリが見事当たり事件は解決。50年代後半の本シリーズは真相の複雑さが減り、スッキリとなった印象です。 銃は38口径スミス&ウェッソン製レヴォルヴァ、シリアルC48809、三年前の9月購入。このシリアルはKフレームfixed sightで1948-1952年製、該当銃はMilitary&Police。もう一丁の銃、38口径コルト製レヴォルヴァ、シリアル740818、1年半前に盗まれたもの。このシリアルはOfficial Police 1948年製かOfficer's Model Special 1950年製です。(同一番号の銃が『メッキした百合』にも登場) なお14-15章「顔に栄養をあたえる」(feed one's face)は米俗語で「食べる」の意味ですね。(faceが口の意) (2017年5月4日記載) |
No.227 | 5点 | 叫ぶ女- E・S・ガードナー | 2020/01/25 08:37 |
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ペリーファン評価★★★☆☆
ペリー メイスン第53話。1957年5月出版。ハヤカワ文庫で読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。) 嘘が嘘を呼ぶのですが、お互いはどう思ってたのでしょう? 全体的に何かモヤモヤした感じの話です。ホルコムもトラッグも出てきません。バーガーの異常な復讐心だけが際立っています。(私怨たっぷりの行動を露わにし始めたのは「消えた看護婦」あたりからかなぁ) 一生懸命にデラを讃えるところが微笑ましい。 (2017年5月4日記載) |
No.226 | 6点 | 運のいい敗北者- E・S・ガードナー | 2020/01/25 08:28 |
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ペリーファン評価★★★★☆
ペリー メイスン第52話。1957年1月出版。ハヤカワ文庫で読了。(なお、以下はAmazon書評をちょっと手直しした再録です。) Saturday Evening Post連載(1956-9-1〜10-20)ポスト誌集中連載時代(10年間に14作)の5作目。メイスンは匿名の依頼人から裁判を傍聴する役目で雇われます。轢き逃げ裁判で他の弁護士の反対尋問を見物。妥協せず戦うことの価値を説く、被告の叔父。人身保護に関する審理でメイスンは重要な争点を指摘し、陪審裁判では偽装を破れず追い詰められますが、閃きの一撃で鮮やかに解決します。遂にメイスンに勝てると見込んでわざわざ法廷に駆けつけたバーガー、真実が明らかになってもグズグズとメイスンの非行を非難する姿が哀れです。銃は.22口径の自動拳銃が登場、メーカー等詳細不明。なおThe Perry Mason Bookによると第12章に出てくる判例中の「クルーパ」はジャズドラマーのジーン クルーパだそうです。 (2017年5月3日記載) |
No.225 | 5点 | マリー・ロジェの謎- エドガー・アラン・ポー | 2020/01/24 03:41 |
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初出Ladies’ Companion 1842-11, 12, 1843-2(三回分載)。創元文庫の『ポオ小説全集3』(丸谷 才一 訳)と青空文庫(佐々木直次郎訳)で読了。丸谷訳は相変わらずデュパンのセリフが急に丁寧になったりして変テコ。文章もこなれてない感じで流れが悪く読みにくい。直次郎訳の方が『モルグ街』同様、安定していて読みやすいです。
金欠のポオが当時話題のMary Cecilia Rogers殺人事件(Wiki「メアリー・ロジャース」参照)をネタにして稼ごう、という趣旨で『ポオ書簡集』を読むと雑誌発表前1842-6-4の手紙で、編集者たちに売り込んでいます。(100ドルの価値があるけど…と吹っかけておいて、グレアムズ誌に50ドル=17万円、ボルチモアの編集者に40ドル=14万円を提示。米国消費者物価指数基準1842/2020で31.34倍により換算) その手紙の中では「デュパンが謎を解く」unravelled the mysteryとあります。原型ではちゃんと解決までいってた? 作品の発表時と単行本版には作者の原注にあるように異同があり、私の興味は、①この作品と実在の事件の違いはどの程度?と②ポオはどのくらい書き直したのか?というものでした。ネットに雑誌発表版と単行本版(Tales 1845)を収めた便利なサイトThe Edgar Allan Poe Society of Baltimore(www.eapoe.org/works/info/pt040.htm)があったので、斜め読みしたところ、注釈以外は大きな変動はない様子。どうやら現実の事件で1842年11月ごろ重大告白(Mrs. Loss)の発表があり、連載中に原稿をいじったらしく、そのため連載三回目が一か月延期になったようです。(オリジナル原稿は残っていないらしい。) 多分連載三回目の分に多くの修正が入っているはず。2回目の始まりは(以下、創元文庫のページ数)p170「そこで、すぐ判るだろうけれど…」(YOU will see at once that...)、3回目の始まりはp193「話をさきに進める前に…」(BEFORE proceeding farther...)です。 小説では、途中までデュパンがある人物に疑いを振っているのですが、最後は腰砕け。ラストは、パリの事件とニューヨークの事件との類似はあくまで超偶然なので、デュパンの方法を現実に当てはめちゃダメよ、という情けない終わり方。(これは訴訟対策なのか?) ジャーナリズムと探偵小説の深い関係が印象に残りますが、デュパンの推理が驚きに満ちたものでもないので、特別面白いとは言えません。 以下、トリビア。翻訳及びページ数は創元文庫。原文は上記サイトの単行本版テキスト。 作中時間は『モルグ街』の「約二年後」(p149)、「18**年6月22日、日曜日」(p153)が手がかり。日付と曜日が一致するのは、作品発表時1842年の直近は1834年。閏年の飛びを無視して曜日が1年に1日ずつずれるとして遡及計算すれば『マリー・ロジェ』1839年、『モルグ街』1837年となり『モルグ街』の設定にも一致して良い感じ。(ポオは閏年の曜日の飛びを充分理解してなかったのでしょう。) 現在価値は、手持ちのが仏消費者物価指数は1902以降有効だったので、金基準1839/1902(0.98倍)&仏消費者物価指数基準1902/2019(2630倍)で合計2577倍、1フラン=3.93ユーロ=475円で換算。 p146 注釈: バツの悪い感じの書き方。ポオは「失敗」を自覚しています。 p147 二人の人物の告白(confessions of two persons): 一人はFrederica Lossだが、二人目は誰のこと?Andersonの秘密は1891年まで公になっていなかったはずだが… p150 五か月(about five months): 最初の失踪から次の失踪までの期間。現実の事件では1838-10と1841-7で約2年9月。 p151 一千フラン: 47万5000円。当初の懸賞金。確かに安い。 p151 二万フラン: 950万円。 p152 二人の全精神を集中せねばならぬほどの、ある研究に従事(Engaged in researches which had absorbed our whole attention): 『モルグ街』と同様、二人は謎の研究にかかりきり。 p153 率直でかつ気前のよいある申し出(a direct, and certainly a liberal proposition): この表現だと大金を積んだ、ということか。 p153 緑色のレンズの底(beneath their green glasses): サングラスか。 p156 女結び(レデイズ・ノット)ではなく、引き結び(スリップ)すなわち水夫結び(セイラーズ・ノット)(a lady’s, but a slip or sailor’s knot): 『モルグ街』と似たような手がかり。slip knotは見つかったが、lady’s knotがWeb検索や辞書で見当たらない。イメージとしては蝶結びだが… (ここではボンネットの紐の結び目) p158 死体に向けて大砲を射った(a cannon is fired over a corpse): ここは丸谷訳の明白な誤り。直次郎訳では「死骸の上で大砲を発射」川の付近で大砲を撃つと、衝撃で引っかかりが外れ、底に沈んでいた死体が浮き上がることがある、という意味だと思います。 p166 センセイショナリズム: いまも変わらぬマスコミの本質ですね。 p167 文学の場合でも推理の場合でも、最も直接に、そして最も広く理解されるのは警句(エピグラム)(In ratiocination, not less than in literature, it is the epigram which is the most immediately and the most universally appreciated): ratiocinationは1843年John Stuart Millの用例あり。当時の流行語だったのか。 p174 足跡(trace): 丸谷訳は限定し過ぎでは? 直次郎訳では「形跡」 p176 発見されたガーターの止め金は小さくするために逆に動かしてあった(the clasp on the garter found, had been set back to take it in): どうして知人(男)がガーターの設定を知ってたのか?ガーターって見せびらかすものなのか。実際の事件では母親がそのことに気づいたようだ。(詳しく確認してません。) 直次郎訳では「靴下留めを縮めるためにその釦金(とめがね)がずらしてあった」 p183 最近ハンカチは、悪党にとって必要不可欠なもの(absolutely indispensable, of late years, to the thorough blackguard, has become the pocket-handkerchief): そーゆーものですか。 p188『ディリジャンス』6月26日(原注ニューヨーク・スタンダード): この記事(第六の切り抜き)だけ実在せず、ポオの創作か?と疑われたが、注釈の書き間違いでNew York Times and Evening Star紙に該当記事があった。 p190 他人には知らせない或る目的(for certain other purposes known only to myself): ここは単行本での追加。ここら辺、雑誌発表時には「駆落」限定のように書かれており、他にもニュアンスを変える追加があります。(p191「少なくとも数週間は--あるいは隠れ家がみつかるまでは帰らないつもりなのだから」) p212 オール六(sixes): 欧米ではクラップスのような二つのサイコロを使うゲームが一般的なような気がする。オール六だとチンチロリンみたいな感じ。直次郎訳では「六の目」、試訳「六が揃う」 ついでにマリア・モンテス主演の映画(MYSTERY OF MARIE ROGET 1942)[英語版、字幕なし]を見ました。作中年代は1889年でモンテスはミュージカルスター。デュパンは警察の研究所に勤める医師?という設定。モルグ街に死体安置所があったりします。原作とはほとんど関係ない筋。大砲を撃って死体を浮かばせようとするシーンが面白かった。まーお気楽・安易な探偵ものなので評価4点程度です。 |