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レッドキングさん
平均点: 5.26点 書評数: 827件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.487 4点 象は忘れない- アガサ・クリスティー 2021/08/21 12:30
十二年後に掘り返される元軍人夫婦の心中事件。「あれ一体何だった」Whatダニット。双子とカツラときたら「あれ」で、当然そのまんまのはずなく驚きのツイスト予想するが・・・まんま「あれ」で逆に驚かされた。象は忘れない、でなく、犬は忘れなかった、のオチであった。クリスティー長編最後の採点で1点オマケ。
 
  てことで、アガサ・クリスティーの全長編ミステリ66作(メアリなんたらロマンス除く)の採点修了したので
  大変に僭越ながら、私的アガサ・クリスティー長編ベスト15
     
     第一位:「ポワロのクリスマス」
     第二位:「シタフォードの秘密」
     第三位:「ゼロ時間へ」
     第四位:「ゴルフ場殺人事件」
     第五位:「メソポタミヤの殺人」
     第六位:「書斎の死体」
     第七位:「忘れられぬ死」
     第八位:「予告殺人」
     第九位:「葬儀を終えて」
     第十位:「 アクロイド殺し」
     第十一位:「ホロー荘の殺人」
     第十二位:「そして誰もいなくなった」
     第十三位:「死との約束」
     第十四位:「終わりなき夜に生れつく」
     第十五位:「五匹の子豚」

No.486 7点 薔薇密室- 皆川博子 2021/08/16 20:36
第一次~第二次欧州大戦期ポーランドを舞台に、人体と薔薇の合成(!)がテーマのSF風怪奇手記と、ポーランド人少女の戦時手記の二視点叙述で語られる歴史奇譚ミステリ。薔薇と梅毒とナチズム、耽美と異形とホワットダニット、熱情と狂気とフーダニットの華麗なるモザイク。おぞましくも素晴らしい「孤島の鬼」「ドグラ・マグラ」・・1点オマケ。
※「死の泉」のゲーリングに続き、今回はヒムラーのみならずヒトラーまで登場の出血大サービス付き。

No.485 5点 ローズガーデン- 桐野夏生 2021/08/11 11:54
女探偵ミロシリーズ短編集
 *「ローズガーデン」・・タイトル作だがミステリではないので採点対象外。
 *「漂う魂」・・水商売女とオカマだらけのマンションに現れる自殺した女の幽霊の正体は?・・3点
 *「独りにしないで」・・超美人中国人ホステスに入れ込み殺された冴えない青年の事件のツイスト&ホワイ・・7点
 *「愛のトンネル」・・SM女王バイトでひと財産築いた「天使の様な」女学生の事故死を巡るフー・ホワイ・・4点 
で、全体で、5点。 ※探偵含めて汚れた世界を這いずりまわる鼠達の話って心地よい。

No.484 6点 水の眠り 灰の夢- 桐野夏生 2021/08/10 20:33
女探偵ミロシリーズの外伝で、ミロの義父(と実父)の若き時代が舞台。私立探偵ではなく「トップ屋」(=週刊誌特ダネハンター)達が主役のハードボイルド。若き義父が偶々遭遇した連続爆破事件と、やはり偶々遭遇した女高生殺人事件。事件の真相を追ううちに、二つの事件が一本の糸に紡がれて、いかにもハードボイルドなフー・ホワイ・ホワット顛末が鮮やかに決着。
※ミロって、ジョアン・ミロとは無関係と思ってたが、祖父は画家でママもイラスト屋だから、意外と関係あるかも。

No.483 7点 アルモニカ・ディアボリカ- 皆川博子 2021/08/06 07:40
1775年ジョージ三世下の英国。天使の飛翔と見まがう空中浮遊死体の胸には「アルモニカ・ディアボリカ(=悪魔のハーモニー)」の文字が。さかのぼること14年前、洞窟内で催された伝説の楽器を使った御前演奏会。そこで起きたという謎の事件。その場にいた誰もが口を噤む事件とは何だったのか。「開かせていただき光栄です」の5年後が舞台の続編で、前作からの主要人物の過去と現在、洞窟演奏会と精神病院患者達、歴史浪漫とWHAT「WHO」ダニットミステリの複雑な連結の糸が紡がれる。この続編には1点オマケつけて7点。

No.482 7点 開かせていただき光栄です- 皆川博子 2021/08/01 14:23
時は1770年、場所はロンドン。外科医と弟子達が解剖中の娘の死体が、四肢切断された少年死体に入代り、さらに顔無し男の死体まで現れて・・・。同じ歴史ミステリでも「死の泉」はミステリアスな歴史奇譚だが、こちらは歴史浪漫を纏った本格ミステリ・・・消失トリックや多重ツイスト、盲目の名探偵まで出て来て、オマケなしでも7点。

No.481 3点 ファイロ・ヴァンスの犯罪事件簿- S・S・ヴァン・ダイン 2021/07/26 16:55
※ヴァン・ダインは「探偵小説」を「ミステリー小説」から分けて定義する。「探偵小説は文学作品には属さない・・それは、なぞなぞやパズルの領域に属するものだ・・」 作者は読者に全ての手掛かりを前もって「公正に」明示し、結末まで読み終えた読者が、頁をめくり返して、全てのパズル断片が隠されることなく提示されていたことに納得できるものでなくてはならない。それこそが「探偵小説」で、「ミステリー小説」(=サスペンス・ファンタジー・ホラー・冒険小説・アクション・ハードボイルド etc)とは席を同じゅうせず、の所以となり・・。まあ、さして異論ないが、彼言うところの「探偵小説」、自分なら、「本格ミステリ」と呼びたいかな。
※叙述トリックミステリについて。ヴァン・ダインは「作者は読者を故意に騙してはならない」とお堅い戒律を掲げる。でーも「探偵・ヒロインが犯人であってはならない」なんて不文律は昔々に破られ・・だって元々、猿や蛇が犯人でもいいんだもん・・「叙述者が犯人であってはならない」「叙述中に書かれない断片があってはならない」「読者が誤解するような叙述があってはならない」とかも破戒の憂き目に遭っている今、叙述・・第一人称であれ第三人称であれ・・で明確に虚偽(=反事実)が書かれてさえいなければ、「anything goes」だなあ。

No.480 5点 ニューゲイトの花嫁- ジョン・ディクスン・カー 2021/07/25 06:10
舞台は今から二世紀昔の英国。西洋はナポレオン時代の終焉。謎の馬車に拉致された若き貴族が連れ込まれた部屋には刺殺死体が。殴打され失神から目覚めた場所からは件の部屋は「消失」していた。冤罪で死刑判決を受け、執行直前に、死刑囚との偽装結婚を模索していた富豪令嬢との婚姻を受け容れる。が、思わぬ運命の変転から、爵位を相続し自由の身となるのみならず、令嬢の婿として莫大な遺産も手にすることに・・・。
ミステリとしては、「消失した部屋」のトリック・・ホームズ短編のあのネタ・・の解明とフー・ホワイの骨格だが、「三銃士」か「モンテクリスト伯」かと思うくらい面白く、かつ、カーのドタバタ活劇も全開で、1点オマケ。

No.479 4点 騎士の盃- カーター・ディクスン 2021/07/22 22:09
ヘンリー・メリヴェール卿最後の事件。完全な密室内にあった莫大な宝飾的価値の盃。侵入者は何故にそれを「盗まなかったのか」のWhyダニット。密室トリックは、清張や東野が使ったら茶化したくなるレベルのシロモノだが、趣旨はあくまでもWhy。この作も明らかに短編向けのネタで、メリヴェール卿ドタバタ引延し劇は・・ちと息切れかな。

 で、カーター・ディクスン全長編(カー除く)25作の採点修了したので、私的カーター・ディクスンベスト7(9)
    第一位:「貴婦人として死す」
    第二位:「孔雀の羽根」
    同二位:「青銅ランプの呪」
    第四位:「九人と死で十人だ」
    第五位:「第三の銃弾」
    第六位:「一角獣殺人事件」
    第七位:「プレーグコートの殺人」
    同七位:「弓弦城殺人事件」
    同七位:「ユダの窓」

No.478 7点 死の泉- 皆川博子 2021/07/20 20:11
ナチズム・・能天気な伊ファシズムや粗暴な日本軍国主義とは違い、また、アウシュビッツ殺戮に「薄められた」ナチでもない・・「原液」のナチズム。「優越民族の繁栄と劣性種族の絶滅」超えて、近代ヒューマニズムの善悪の概念を超越し、神と悪魔の領域に至り、永遠なる瞬間の「存在」と「時間」を夢想する、ニーチェ・ハイデガーの理想にまで至ったの真のナチズム。小説の主人公は、そんなナチズム信仰を声楽の「声」に見出したサイコな生化学者で、ナチズムに絡み取られ残酷な運命を生きた男女の、大戦末期から戦後十数年に至る、おぞましくも見事な「ピカレスク浪漫」が展開する。ミステリとしては・・・うーん、エピローグ数頁の大どんでん返しに2、3点オマケして・・・

No.477 3点 恐怖は同じ- カーター・ディクスン 2021/07/14 16:36
冤罪殺人事件に巻き込まれ、二世紀昔にタイムスリップした男女。18世紀においても20世紀と全く同じ状況の殺人犯人として逃亡する羽目に・・・。世紀を跨いだ過去は、既にして別の世界だから、カー十八番のホラーとドタバタの融合が「熔合」にまで至っている「グロドタ」異世界描写はなかなか効果的。たーだ、密室トリック、ちとチンプすぎ。

No.476 4点 第三の女- アガサ・クリスティー 2021/07/10 21:47
「誰かを殺してしまったかもしれない・・」病的な娘の奇妙な訴え。大富豪の父、継母、老親類とその秘書、若きハンサム、ルームメイトの二人の娘・・・殺された(る)の誰?フームダニットが、手品の様な人物入代りトリックで決着。60年代後半カウンターカルチャーに動じないポワロ・オリヴァコンビの老道化ぶりがなかなか。

 てことで、アガサ・クリスティー60年代の長編ミステリ全7作の採点修了したので
 私的「60年代アガサ・クリスティー」ベスト3
    第一位:「終わりなき夜に生れつく」
    第二位:「親指のうずき」
    第三位:「カリブ海の秘密」

No.475 4点 バートラム・ホテルにて- アガサ・クリスティー 2021/07/08 19:37
風格と利便性を兼ね備えた由緒ある「本物」のホテル。支配人から給仕・受付・メイド・ドアマンに至るスタッフも、建物・内装から午後ティ・マフィンに至るサービスも、全てが「本物」で、客も「ビューティフルピープル」オンリーの「本物」だらけ・・・が、「永遠に不変のもの」とは「既にして別のもの」であり、「いかにもそれらしいもの」に過ぎず、その美しきホテルの実相は・・・

No.474 2点 フランクフルトへの乗客- アガサ・クリスティー 2021/07/05 22:04
60年代末~70年代初頭の世界的な若者反乱。その極左情熱に、かつてナチズムへ熱狂した若者達の浪漫を重ね合わせ、英雄:ヒトラー=ジークフリートの元で極左と極右を包括した世界革命を夢想する国際陰謀集団。て、クリスティー、齢八十にして、まーだ若き頃の「ビッグ4」の血が滾っていたのかと思いきや、話は、SFチックな脳内革命ネタ(チョビっと「ガニメデの優しき巨人」を連想)へスライドして、いきなりのドタバタサスペンス劇へ畳まれる。クリスティーの中に「左右の全体主義」への何らかの拘りがあることは、前から気付いていたけれども。
※にしても彼女の作品に、ビートルズやゲバラともかく、マルクーゼやレヴィ・ストロースの名が出て来るとは・・・

No.473 6点 赤い鎧戸のかげで- カーター・ディクスン 2021/07/01 20:55
鉄の箱を抱えて衆視の中で姿を消す怪盗。属性「a」に規定される人物「A」、その「a」が消失する時「A」もまた消え去る・・・あっと驚く人間消失トリック(ロジック)・・・そこと拳闘シーン位しか見るべきところがないが、そこだけでこの点を献上しちゃう。

No.472 2点 プレイバック- レイモンド・チャンドラー 2021/06/26 22:17
フィリップ・マーロウ第七弾(にして最終弾)。理由を明かされず女を追跡する仕事の依頼を受けたマーロウ。恐喝屋ジゴロの死体消失事件に出くわして・・。「ハードでなければ生き残れなかったよ。でも、時に優しくなければ生きるに値しないさ」て言ってもさあ、いくら映画シナリオ元ネタと言え、マーロウが女二人とできちゃう展開てのは・・チト大衆(ヘテロ)迎合しすぎではないかと。

 てことで、村上春樹訳レイモンド・チャンドラー7長編の採点修了したので
 (ミステリとしての)春樹チャンドラーベスト3
   第一位:「水底の女」
   第二位:「ロング・グッドバイ」
   第三位:「さよなら、愛しい人」

No.471 2点 かわいい女- レイモンド・チャンドラー 2021/06/18 19:51
フィリップ・マーロウ第五弾。行方不明の兄の捜索を妹から依頼されたマーロウ、訪れる先で次々とアイスピック刺殺死体に出くわし・・・
※「あなたしゃべりすぎるわ」・・そのとーりだぜ、マーロウ。ハードボイルドなガイは、もっと寡黙な男であるべきだぜ・・「情報に間違いがある。私は傷つきやすい人間だ」 
※「(あんたが)マーロウ?」「だれアロウ」・・うーん、それ、イマイチだ、春樹。
※そういえば、英語には「姉」「妹」のガイネンを表現する一単語ってないのね。

No.470 5点 湖中の女- レイモンド・チャンドラー 2021/06/17 20:26
実業家から行方不明の妻の捜索依頼を受けたマーロウ、湖底で見つけた女の死体は別人だった・・。「ああいう状況」の死体にお約束の本格コードもプロットに綺麗に納まり(二つの流れが偶然に合流すると小説では「ご都合」言われるが、現実にはよくある事)、ハードボイルドお約束キャラの狡猾にして凶暴なワルでタフな警官、やはりハードボイルドお約束の絵に描いた様な悪女美女達、怪しげな医者にジゴロも総動員で、ハードボイルドミステリのまさに定番。
※いい女は全て性悪で、男はどんなにタフぶっても弱く儚く悲しくて・・・フィリップ・マーロウでなくレイモンド・チャンドラーの「眠りホモ」が、男の読者の「女性嫌悪」と「無自覚の同性愛」を刺激してやまぬ・・・

No.469 6点 魔女が笑う夜- カーター・ディクスン 2021/06/13 20:25
「あざける後家」と呼ばれる12mの奇岩のある寒村。住民達に郵送される数々の醜聞手紙が、自殺・密室幽霊事件・殺人を引き起こし・・クリスティー「動く指」と同じネタだが、「完璧な密室」も付いてて、こういうトリック大好き。

No.468 2点 高い窓- レイモンド・チャンドラー 2021/06/10 20:31
フィリップ・マーロウ第三弾。人好きのしない未亡人から、紛失した奇貨コインの探索依頼を受けたマーロウ。関連先を訪ねては次々殺人死体に出くわして・・・。第一作同様、依頼本筋が横ズレして終わるホワットダニット展開だが、面白い場面は、脇役キャラ・・ニンジン男、用心棒電柱男、エレベーター爺さん・・達のユニークな描写。
第一作の「ソルジャー」に始まり「ブラザー」「ジャック」「ビッグ・ボーイ」と続く、半敵半味方キャラのマーロウの呼び方がよい。そのままカナにした春樹訳・・他者訳いざ知らず・・あの辺のセンス、グッドね。
※ところで、第二作の「Farewell, My Lovely」ってタイトル、この作の方にこそふさわしくね?

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レッドキングさん
ひとこと
ミステリは戦前の乱歩の様に 子供が親に隠れてコッソリ読むような、恥ずかしい存在でありたい。 ミステリ書きという驚異的な作業に神経を減らし 結果報われることの無いミステリ作家たちに心から崇敬を捧げます。 ...
好きな作家
ジョン・ディクスン・カー  PD・ジェイムズ  トマスH・クック  沼田まほかる
採点傾向
平均点: 5.26点   採点数: 827件
採点の多い作家(TOP10)
アガサ・クリスティー(88)
ジョン・ディクスン・カー(55)
エラリイ・クイーン(51)
F・W・クロフツ(33)
二階堂黎人(27)
カーター・ディクスン(25)
アーサー・コナン・ドイル(23)
トマス・H・クック(23)
麻耶雄嵩(21)
ジェフリー・ディーヴァー(19)